8.新装備
困った・・・困った。手にナイフを持ったまま、街をうろつく。
心なしか世間の目も冷たい気がする。
そりゃあそうだ。手にナイフを持った男が街をうろついていたら誰でも警戒する。
でも仕方ないのだ。ナイフを鞄にしまってしまえば、速やかな戦闘も採取も出来ないのだから。
しかし、鞭は捨てがたい。自分の冒険のイメージは鞭なのだ。
鞭を持って古代の遺跡を探索してこそ冒険の筈。
「困った、困った」と言いながら街を歩いていると
「何を困ったんですか?」
と裁縫の少年が目の前にいた。
「いや、実はナイフを仕舞っておけなくて困ってるんだ」
「ふむ・・・」
そう言って何かを考えこむ少年。
「一個僕に腹案がありますよ」
「え?」
まさか、少年に自分の悩みを解決できるとは、昨今の若い人たちのポテンシャルはパソコンのOSが違うくらい、段違いだと思っていたが、まさか一瞬とは。
「実はおかげ様で兎の毛皮をなめしてスキルレベルが上がりまして、兎のなめし皮で色々と作れるようになりまして」
「え?そうなの?」
流石若いだけあって長足の進歩である。皮でいろいろ作れる様になったらしい。
「ええ、これが〔兎皮のリストバンド〕、こっちが〔兎皮のホルダー〕」
と言って、皮の輪っかと箱を見せてくる。
「コレを組み合わせれば、腕にナイフを装備出来ませんか?」
「つまり、手首の内側から隠しナイフを抜くって事?」
「そうです。相手から気が付かれない隠し剣ですよ」
「それは・・・かっこいい」
普段は鞭で戦い、間合いを詰めてきたら、手首から引き抜くナイフで奇襲とか、そんなかっこいいことやっていいのか?
「ですよね!じゃあ、すぐ作るのでちょっと待って下さいね!」
そう言い残してどこかに言ってしまう少年。
少年がどこかへ行ってしまったので、少し手持ち無沙汰になってしまったが、冒険事務所で貰ったパンと水を摂取しながら待つことにする。
そう、時間も経たぬ内に少年が帰ってくる。
そして帰ってくるなり、渡される。ナイフホルダー付きリストバンド。
なめされ、綺麗な飴色になった兎の皮が艶めいている。
左手に装着し、ナイフを差してみれば、ぴったりだ。
別に腕に違和感も無い。
試しにナイフを引き抜いてみれば、スッと抜ける感触に、心地良さすら覚える。
「どうです?いい物でしょう?」
「うん、これはいい物だ。絶対に欲しいんだけどいくらになる?」
「そうですね。正直な所スキル上げように作っただけなので、いくらでも良いんですが。100ゴールドでどうです?」
「そんなに安くて良いの?!この鞭ですら500ゴールドはしたって言うのに・・・ありがたい」
「ただ、それ、まだお譲りする訳にはいかないんです」
「何故?」
「それ、そんなにカッコイイのですが、まだ名前が決まっていないんです」
「名前?」
「ええ、プレイヤーメイドの生産物には名前をつけても良いのですが、まだそのリストバンドの名前が決まっていなくて」
「ううん、名前か~」
確かにコレだけ格好のいい物なら名前があったほうが良いだろう。
「角の生えた兎にちなんで『角隠し』とかどうかな?と」
「それはお嫁さんが頭にかぶるやつだな~」
「ああ、そういう物が存在するんですね~、じゃあやっぱり『白き獣』は入れたいですよね~」
今時の子って角隠し知らないのか~、そしてそりゃあ兎の毛皮が材料ならな~。
「じゃあ、兎は跳ねるし『天に焦がれる者』とか」
「あ~それカッコイイですね~」
そうして、少年とあれやこれやと話し合い、決まった名前は、
『天に焦がれる白き獣は角を隠す』になった。
カッコイイ、何か意味ありげだ!
そして、100ゴールド支払い『天に焦がれる白き獣は角を隠す』を左手に装備し、いつでもナイフを引き抜けるようにする。
更に兎皮のポーションホルダーも作ってもらい、腰に付け。毒薬を差し込む。
これで、毒薬を持って、魔物を刺せる!
何から何まで、完璧だ。流石少年。自分の思いをここまで形にしてくれるとは。
もう、何も憂うことは無いと無敵の気持ちで、ログアウトする。