番外プロローグ
いつも歩きなれた筈の街並み、
しかし、見慣れぬ夕焼け、
いつもなら一杯飲み終わり二件目に向かう酔客、それを恨めしげに見ながら横を抜ける残業後のサラリーマンが街灯やネオンに照らし出されている筈なのに、
今日は急ぎ足で会社に戻るサラリーマンや夕飯の買い物に出かけるお母さん時々お父さん、塾に出かける学生達。
今、唐突に街灯が点いたが明るさを全く感じない。
高卒で今の会社に入って早17年35歳この歳になって自分は
『定時退社』を申し渡された。
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「部長!自分は適当な仕事をして無理に時間を引き延ばして残業代を稼ごうとかそんな事は考えてないんですよ!」
「ええ、そんな事は分っています。あなたのこれまでの会社への貢献は十分に理解した上での決定です」
「そんな、よく考えてください!社員みんなそれぞれに大切な物を抱えて働いているんですよ?配偶者や子供、両親、愛犬、愛猫。
いや家族に限らず、バンドや創作活動!漫画やアニメの続きを楽しみにしている人!推しの配信を見たい人だっている筈ですよ!
その為のプライベートな時間は本当に貴重なものですよ!でもそれは会社で働いて安定した収入の基盤があるからこそ、安心して出来る事じゃないですか!
自分がみんなの生活を背負うなんて大げさなことは言いませんよ!だけど自分が少しでも沢山働いて皆に安心して生活してもらいたいじゃないですか、自分は何も無いんですよ。自分がやらなきゃ!」
「それなら、あなたも大切な物を見つけてください」
「そんな・・・」
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いつもならまだまだ働いている時間。何をしろと言うのだ。
率先して朝早く会社に行き一番最後に帰る。先輩や上司達に見せられてきた姿。
自分もそれなりの年月あの会社で勤めているのだ。率先して働かねば、別に周りに同じことなんて求めていない。
寧ろ皆大事な用事があるんだから、もっと早く帰って欲しいのに。
ふと一軒のゲーム店のポスターに目が行く。
取引先の老舗おもちゃメーカーのポスターだ。
『さあ、冒険の旅へ』
いつもなら気になることなんて無いだろう。取引先だし、よしんば目に入っても、今時このキャッチフレーズで大丈夫だろうか?と心配になるくらいか。
でも、今日の自分には何故か響いてくるものがあった。
学校という世界が終わってすぐに今の会社という安住の場所に属し、
面白くて頼りになる同僚達、
真面目で自分とは到底比べ物にならないほど優秀な後輩達、
背中やその姿で仕事も社会人として必要な事も教えてくれて、更に自分が出来るようになるまでいつも見守ってくれた上司達。
自分は甘えてきたのかもしれない。仕事だけ真面目にやっていれば良いと新たな世界を覗く様な事をしてこなかった。
見慣れぬ赤い世界赤い夕焼けに自分の高まる感情を吐き出さずにはいられなかった。
「自分は!冒険を!するぞ!!」