対談
翌日の夜。妻には内緒で私は家に帰ることなく、蓬莱堂に向かった。
蓬莱堂は喫茶店である。だがただの喫茶店ではない。喫茶店では珍しい、全席個室の喫茶店である。モダン風をよそおう店内は、懐かしい気持ちを味合わせる。
「いらっしゃいませ」
執事のような格好をした男店員がゆっくりと落ち着きのある声を出した。その横にはメイドの格好をした女店員が男店員と息ピッタリにお辞儀をした。
すると女性店員が口を開いた。
「一名様でしょうか。」
「いえ。」
「お連れ様ですか?」
「はい。」
「かしこまりました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「神直也宗政です。」
「かしこまりました。席までご案内いたします。」
すると、メイドはすたすたと歩いていった。
ここのメイドはメイド喫茶と違って落ち着いてしゃべるな。モダンなのにメイドで愛想がない。色々と入り交じった喫茶店なのにどうにも気に入ってしまう。まるで、演奏のようだ。楽器一つ一つが音調を崩すことなく美しいハーモニーをかもし出している。
そんなことを考えているうちにどうやら到着したらしい。目の前にいるメイドが立ち止まった。木製の方開きのドアの前に二人のメイドがいた。もう片方のメイドはどうやら巧に私が来ることを伝えにいっていたようだ。こんな接客をする喫茶店は今までにあっただろうか。
「こちらでございます。では、ごゆっくりどうぞ。」
すると二人のメイドはあとを去っていった。
金色の塗装がかけられたドアノブを右手でひねって開ける。
そこには私の息子、巧がいた。巧は機何学模様の約総ページ500以上ありそうな分厚い小説を読んでいた。
「待っていたよお父さん。」
巧は本を閉じ、家でみるより真剣な顔をして私にそういった。
「お待たせ。それにしても珍しいな、巧から誘ってくるなんて。」
しばらくの沈黙が続く。これから話すことは軽い気持ちでするものではないという巧の気持ちが伝わってきた。
そして、巧はこう話を切り出したのだった。
「化色をもう今後一切かけないでくれ。」
それは、思いがけない発言だった。
「そうか。理由を聞いてもいいか?」
「理由は、お父さんの今みている光景はずれがあるからだよ。」
「ずれ?」
「そう。ずれてる。もっと詳しく言えば、お父さんがないものを化色を使って創造しているせいで、この世界にずれが生じているんだよ。」
いったい、何をいっているんだ。理解ができない。私が創造している?
「私の今みている景色は紛い物だとそう巧は言うのか。」
私は感情的になってしまっていた。
「落ち着いてよ父さん。別にすべてが偽物だとはいっていない。父さんの見えている景色は実際にあるものはあるよ。ただその中にお父さんが創造した景色があるんだ。」
「それじゃあ、いったい私は何を創造したんだ。」
「お母さんだよ。」