化色(ばけしき)
ひひらいです。未熟で未完成で未知な者達の物語を書きたくて小説を書いてみました。毎日連載しようと思うので是非見てください。
「人間が見ている景色と動物が見ている景色は全く違うのです。
スクリーンをご覧ください。馬や牛はモノクロに見えます。彼らには色というものがわかりません。
続いてタカはどうでしょう。タカの目は人間のように色を識別できるだけでなく、遥かとおい先まで見えることができ、紫外線も見ることができます。人間の目にある細胞は約20万個に対してタカの目にある細胞は約150万個になります。視力は人間の8倍にも及ぶ驚異の16.0以上であると研究結果にでております。そんなタカのような目を持つ人間がいるとどうでしょう。この世界に新たなる扉が開くのではないでしょうか。
我々REALはその新たなる扉を開くためのカギを開発しました。それがこちらです。こちらのメガネはただのメガネではありません。その名を化色。対象の生き物の見えている景色をそっくりそのまま見ることができます。鷹でも、すぐ隣にいる人間でも、対象のDNAさえ持ち合わせていれば見ることができます。
DNAなので、髪の毛でも、羽毛でも何でも構いません。化色のふちについているセンサーに読み取らせるだけで簡単に見ることができます。今私のかけているメガネも実は化色です。私は盲目でした。光がさすことのない世界でこれまで生活しました。皆でテレビを見て笑ったり、美術館に行き絵を見ることもできませんでした。ですが、REALを立ち上げ、化色を作ったことで、こうして大勢の人間の顔の表情をうかがいながら話すことができました。
REALは今後この化色とともに新たなるステージへと向かいたいと思います。皆さんには是非この手に化色を持っていただき、私たちと一緒に新たなる扉を開けましょう。ご清聴ありがとうございました。」
神直也宗政の発表後場は歓喜に包まれた。
その後神直也宗政には大勢のメディアがよってたかってやって来てそれに対して彼は一つ一つ丁寧に受け答えしていた。
発表が無事に終わり神直也宗政は我が家に帰宅した。
「ただいま。」
ドアを開け玄関にある水槽の中の金魚たちにあいさつをする。パクパクと泡をたてあいさつしているみたいだ。とてもいとおしい。
しばらく金魚を見ていると後ろから透き通った声がする。
「金魚本当に好きですねあなた。いつリビングにただいまをいいに来るかずーっと待っていたんだから。」
私より2つ年下の妻凜花が私に駆け寄ってきた。
「ただいま。すまないなぁ。金魚語がうまく解読できなくてずっと頭のなかで研究をしていたのだよ。」
「お帰り。そう。ほんと。。。よかったわね。」
凜花は少し嬉しそうに話していた。
そう。本当によかった。化色のお陰で金魚の色鮮やかな姿を見ることができたし、べっぴんさんの妻の顔を見ることができたのだ。
「あぁ、そうだとも。本当によかった。」
「ああ、そうだ!」
なにかを思い出したのか両手をパンっと合わせた。
「今晩のご飯は力をいれたのよ、あなたの大好きなハンバーグ!」
にっこりと妻が笑う。初めて妻の顔を見たときは泣きながら1時間ぐらい眺めていたものだ。
「そういえば巧と水火は?」
ふと気づいた我が子の名前を私は口にした。
「あの子達なら2階でお勉強をしてますよ。巧は受験生だし、水火は来年高校受験が控えてるので。」
「そうか。それじゃ、邪魔しちゃあ悪いな。先にご飯をいただこう。」
私は妻と一緒にリビングに行き、ご飯を食べることにした。
美味しい妻の手作りハンバーグを食べていると、階段から水火が降りてきた。
「と~ちゃんおっかぁえりぃ!!」
ハイテンションの水火がハンバーグを頬張っている私の背中に抱きついてきた。
ビックリしてハンバーグが鼻から出そうになった。
神直也水火。水のように柔軟でなんにでも対応でき火のように熱く周りを導く光となる女の子に育つように願いつけた名前である。だが、水と火という相性の悪さが生かされたのか、ヒステリックで見た目とはネジ曲がった性格の女の子に成長してしまった。
「水火、やめなさい。ご飯が食べられないだろ。」
「そうよ。水火。お父さん今日発表してきて疲れているのだから、ゆっくりさせてあげなさい。」
すると水火の心のなかの火が点火したようだ。
「ふんだっ!ふんだっ!ふんだぁ!せっかく私のぼんきゅっぱをとーちゃんにご奉仕させてあげたのに!」
「まぁ。」
水火の言葉に唖然とする凜花。
実の娘の身体にそんないやらしい考えをを私は持っていない。
「もー知らない。私は寝る!」
そー言うとリビングにあるソファーに飛び付いた。相変わらず後先が気になる中学二年生である。
するともう一人リビングに降りてきた。
巧である。神直也巧高校三年生の受験生。最近は反抗期なのか口すらまともに聞いちゃあくれないが。素直でたくましく、ボランティア活動までする自慢の息子だ。
「よう。巧。ただいま。」
そういっても巧は知らん顔して冷蔵庫に向かう。
すると凜花が、
「ちょっと、巧。お父さんがただいまっていってるでしょ!お母さんあいさつできない子はぷんぷんだぞ。」
相変わらずの幼稚じみた説教ぷりである。
神直也巧は私の背中に回り込み肩をぽんと叩くと、メモ用紙のようなものを私に手渡してきた。
凜花に見られないようにするためだろう。私はそのメモ用紙をズボンのポケットにいれた。
凜花はその動作に眉間にしわを寄せていたが、話すことはなかった。
メモを渡し終えると巧はまた2階に上がっていった。
「あの子。本当に無口よね。この頃。」
「あ、ぁあ。」
私はご飯を少し早く食べて、トイレへと向かった。
ズボンのなかのメモは以下の内容であった。
『父さんへ
化色について話したいことがある。明日の22時に蓬莱堂まで一人で来てほしい。 巧より』