挨拶
今日はそんな夢を見た次の日。
そして俺、黒羽駿介の中学卒業の日でもある。今日でめでたく義務教育が終わる日。春からは高校生。
高校生活といえば〜?部活に友達との遊びに体育祭に文化祭、そして何より恋!あとやりたくはない、やりたくはないけど勉強も入れて楽しい高校生活が待っている!受験の時に結構勉強頑張ったおかげか地元でも結構有名な高校に入れたと思う。そこの学校は学校行事もしっかりしていて本当に楽しみだ。
そんなことを考えてボーっとしていると
「おいおいしゅん。浮かれているのは分かるけどその気持ち悪い笑みした面はどうにかならねえのか?」
そう話しかけてきたのは俺の父である黒羽一成。
………。
「っておい!息子に向かって気持ち悪いはないんじゃないか?可愛い息子に向かって失礼だぞ!」
「自分で可愛いとか言うあたり可愛くねえんだよ」
……いやまあ否定はできないので黙っておこう。
ちなみに今は卒業式からの帰り道。車の中である。
「おいしゅん、家帰ったら話してえことあるんだけどこの後予定とか入れてねえよな?」
「入れてないよ。ってか父さんがいれるなって言ったんだろ?」
別に俺は友達がいないわけではない。ただ多くないだけだ。そんな感じだからもちろん彼女もいたことがない。……急に何自己弁護してるかって?そっちの方が怪しいって?なんか文句でもあらなら聞こうじゃねえか
「そういやそうだったな!まあちゃんと大事な話なんだ。悪く思うなよ?」
ガッハッハと笑いながらそう言った。
そんな感じで話しているうちに家に着いた。
「ただいま〜。…ん?なんで鍵開いてんだ?しかも家の中に靴あるんだけど」
玄関のドアを開けながらただいまを言って家に入ろうとすると鍵が開いていてしかも靴があった。そしてさらにビックリしたことはその靴は女物2つであった。
男2人の家なのにだ|。
「あ、なんだもうきてたのか。まあ別に入って待ってろって言ったのは俺だし当然なんだけどな」
「なんだ父さん。この靴誰のか知ってるのか?」
「ああ、知ってる。大事な話ってのはこれが関係してるぜ?」
俺はこの時何故か唐突に昨日見た夢を思い出していた。…いやそんなまさかね。あんな夢はただの夢だろう。
そんなことを考えているとリビングの方から2人出てきて、1人は30代くらいの綺麗な人とても優しいオーラ全開に出ていて、長くて綺麗な茶色の髪で、もう1人は俺とそんなに変わらないだろうけどちょっと歳上くらいの綺麗なお姉さんで、こっちも長い髪なのは変わらないんだけどすごい真っ黒な色だった。
「……あ」
俺の顔を見て何故か「あ」と言われたんだけど…。グスン。
「ん?どうしたの?真生?」
「ううん。別になんでもない」
「そう?あ、おかえりなさい〜。カズちゃん、駿介くん。そして中学校卒業おめでとう」
……………なんで知らない人が俺の名前知ってるんだ?
「おう。ただいま。陽菜ちゃん。おいしゅん、お前も帰ったらただいまだろ?」
俺が固まっていると父さんが普通に返事をして、そんな当たり前のことを言い出した。
「いやいやいやいや、おかしいだろ?!俺こんな綺麗な人知らないんだけど?!でもよくわかんないけどとりあえずただいま!!」
頭の中が混乱したままそんなヤケクソな返事を返した。
「あら〜いきなり綺麗なんて上手いこと言うのね〜、駿介くん。でもちゃんと自己紹介はしないとわからないわよね〜?私は黒羽陽菜。旧姓は葉月っていいます〜。私はカズちゃんと再婚した、君の新しいお母さんです〜」
そんな世間話をするかのようになんでもないようなことを……?ん?今なんて言った?俺の新しいお母さんって言ったように聞こえたんだが?なんて余計頭が混乱していると、
「それでこっちが…」
「いいわよ。お母さん。私が自分で挨拶するのが筋だと思うから。初めまして。今日から黒羽になりました、黒羽陽菜の娘の真生です。私のことは『お姉ちゃん』って呼んでね?」
……うん。やっぱりなに言ってるかわからないですね。陽菜さん(とりあえずこの呼び方でちなみに茶髪の方)が優しいオーラ全開で自己紹介してくれた後、その娘を名乗る真生さん(こちらもとりあえずこの呼び方でちなみに黒髪の方)が小悪魔的な笑顔で悪戯っぽく自己紹介してくれた。……ってやっぱりいきなりお姉ちゃんやらなんやらとか納得できるか!!!!
———ちなみに余談になるが俺は真生さんが「初めまして」を強調されたことに気づかなかった。
「おい父さん。もちろん説明あるんだろうな?」
「その前にてめえも自己紹介しろや」
「あ、わり。黒羽一成の息子の黒羽駿介です。よろしくお願いします。って違うだろぉぉおお?!?!いやあってるよ!!やらんなんっていうのはあってるけども!!なんか違うだろ!!なぁ!!おい父さんよぉ!!わかんだろぉぉお?!あ?!?!?!」
「駿介くんっておもしいのねぇ〜」
「うっせえなおい」
2人合わせてマイペースな返事をしてくる。馬鹿なのか?漫才なんてしてねえんだよ!真生さんは何故か懐かしいものを見るかのようにクスクス見ていた?多分気のせいだろう。そんなことより本当になにがなんだか。
「まあしょうがねえな。俺今日前から付き合ってた陽菜ちゃんと再婚することにしたわ」
……そういや考えてみると最近の父さんなんだかおしゃれしたり帰りが遅かったり休日に出かけてったり色々してたしな。まあ父さんが家にいなくて勉強集中できたし別に気にしてはいなかったが。
「短っ!!まあいいや。とりあえずはなんとなくわかったよ。俺のことは別に事後報告でいいけどさ、ちゃんと『母さん』には報告しているだよな?」
「…ああ。そこは陽菜ちゃんと真生ちゃんと一緒にしてきた。だから大丈夫だろう」
「それならいいか。いや俺も呼べよってつっこみたいんだけどまあそれはいい。じゃあ改めまして陽菜さん、真生さん。今日からずっとお世話になります。よろしくお願いします。」
俺は陽菜さんと真生さんに体を向けて挨拶した。
「いえいえ〜。こちらこそよろしくね?」
「…やっぱり気づかないよね。あ、こちらこそよろしく!」
とそれぞれ返してくれたけど真生さんは最初の方になに言ってるかよく聞こえなかった。しかもなんか慌ててるし。
「…文句はないんだが、お前そこら辺は俺に似て軽すぎねえか?まあいいけどよ。とりあえずこんなことを玄関で話しててもしょうがねえから家に入ろうぜ」
そんな空気読むことなく父さんがこう言ったので家に入り、夜ご飯は俺の卒業記念と父さんと陽菜さんの結婚記念(こっちの方が本命に見えたのは気のせいではない)を兼ねて寿司やらなんやら豪勢に食べた。そこで陽菜さんとも真生さんともお話してある程度話せるようになった…と思いたい。まあなんだかんだこうして夢に見た通り俺は新しい『お母さん』と『お姉ちゃん』が出来てしまったのだった。