シスコン故のもの
暗い牢の中、二人の少年少女が柵越しに手を繋ぎ合っていた
まるで恋人のように指を絡め合って
これは一体なんだろう
おでは何を見ているんだろう
『...ごめんなさい』
『ねぇさんのせいじゃないさ
謝るのはむしろこっちだよ
ドジな弟でごめんなさい』
彼らが何か悪いことをしたのだろうか
『ねぇさん、あの歌を聴かせてよ
おでが戦に行く前に』
おで...戦...
ここではっきりする
ここにいるのは自分と姉で
これは戦場に連れて行かれる前のことだと
『いくらでも歌ってあげるわ、可愛いティヲ』
そして思い出してしまった
自分たちはずっと牢に閉じ込められて
体を商品として売り
親孝行という名のただ働きをしていたことを
自身が今まで思い描いていた家族は偽物であることを
母は自身が戦に行くことを泣いていたのではなく、多額の金に感激して泣いていたのだ
そして父が滅多に飲まない酒を飲んでいたのは金の心配をする必要がなくなったからだ
優しいとどこかで思い違いをしていた
心臓がバクバク鳴りだす
聞こえるはずもない心音が歌のリズムをとる
『あなたたちは私の本当の家族よ
ティヲ、テレィチェレー、フォウアール、フィヴェ』
音が大きくなる
『...ねぇさん、おではいつか帰ってくる
その時に必ず皆助けだすよ』
『えぇ...待ってるわ
でも...ただ、今この時はこの手を握らせて』
戦死を覚悟した少年の気休めにしかならない希望と全てを悟った少女の諦念が薄暗い牢屋の中で静かに身を寄せ合う
鼓動音が聴覚を奪っていく
『...なら、...し...』
何を言っているのか分からなくなる
待って、ねぇさん!
咄嗟に手を伸ばす
聴覚が視覚までをも奪いにくる
姉の微笑みがかき消される
掴もうとしても虚空へ消えていく
「ねぇさん!」
目の前に広がるのは宙を彷徨う自分の手だけだった
荒れた息が静かな部屋に妙に響く
ここでさっきの出来事が夢であることに気づく
ネネに紹介された酒場で働くことになり、今は休眠時間で四人に与えられた部屋で寝ていたことを思い出す
他の三人の寝具にはもぬけの殻だった
慌てて服を着替える
リブが用意してくれた服は子供用の小さなローブに膝丈の短パンである
着替えようと手に取ると間に挟まっていた黒い布がフワリと床に落ちる
拾い上げ薄暗い中、目をこらして見るとそれは厚意で貰ったマントだった
よくよく見るとティヲの背丈に合わせて短くされている
後で雪の彼女に感謝しなければと思い、服に袖を通す
そういえば
はたと気づく
夢の中で姉が言っていた自分以外の他の家族とは一体何なのか
確かテレィチェレー、フォウアール、フィヴェの三人だったはずだ
それに何故自分は両親のことをすっかり忘れていたのだろうか
夢を見るまでずっと優しい両親に育てられていたと勘違いしていた
思い出そうとすると激しい頭痛が妨げる
おでは何か大事なことを忘れたんじゃないのだろうか
これ以上忘れないようにと、ボルマーから貰った知識日記にメモをする
「おはようさん、ティヲ」
「あひいぇー」
「何言ってんだ、お前は」
「おはよーを一文字ずつずらしたんですよ
えっへん」
「いや威張るところ何一つないからな
しかもヤ行のせいで微妙に分かりづらいし」
平常運転の漫才に少しほっとする
「うん、おはよう」
「あひいぇー!」
「流行らそうとしても無駄だからな」
「ふっふん
流行りを自分で作ることにより最先端に生きるこのりんごちゃんに嫉妬とはお可愛いこと」
「流行ってんのはお前の中だけだから」
「ちょっと少年クン
この二人止めて欲しいのネ♡
さっきから夫婦漫才がうるさくて仕方ないのネ♡」
「こんなやつと結婚したことにしないで」
「ほら、こんな感じでネ♡」
「...あれ?」
そういえば彼ら二人の緩和剤であり、マントを繕ってくれた少女の姿がない
「リブはどうしたの?」
「あーんー洗顔中」
「...ま、そんなとこネ♡」
「そうなんだ
外で洗っているの?危険じゃない?」
「そんなあなたのために!このりんごちゃんレーダー!」
じゃじゃーんと自分で効果音を言って取り出したのは大きな一輪の花
中心に近づくにつれて薄桃色に色づく可憐なバラだった
...とはいっても造花だが
「ふふん、名付けてフレグラントアップルコットです!
可愛いでしょう~♪」
「なぁなぁ、花って食用としても使えるらしいぜ」
「勝手に食べようとしないで下さいよ!?」
「誰も食べるとか言ってないだろ?ただの豆知識に過剰反応すんなよ」
「そ、そうですよね~」
「ちなみにバラのゼリーっていうのがあるんだけど見た目むっちゃ良さげなんだよなぁ」
「みぃーあぁ!?」
「まぁまぁ...でも確かに綺麗だね」
グラデーションがかった花びら一枚だけでも十分な存在感があり、それらが調和しあって一つの芸術品を作り上げている様はなかなか目を見張るものがある
「でしょう!?」
「...綺麗なのは分かったけどどんな機能があるのか早く教えるのネ♡」
しびれを切らしたネネが切り込むとよくぞ訊いてくれましたとばかり身を乗り出す
「これはですね!
仲良い相手の状態が何でも分かるんですよ
文字通り何でも」
「アバウトすぎネ♡
もっと詳しく」
「例えば~年齢、居場所、収縮期血圧と拡張期血圧、今日履いてる下着の色と柄まで分かる優れもので...」
「買った」
「売り物じゃないですよ!!」
「...とにかく今は安全と言うことでいいのネ♡」
ここでティヲが何かに勘づく
「ん?...ねぇりんごちゃん」
「はい、なんでしょ?」
「それだと何でも分かるんだよね、特にさっき言ったやつは」
「?はい!そうですが」
「じゃあおでの年齢も分かるんじゃないの?」
「...あっ」
ティヲとフレグラントアップルコットを交互に見比べるりんごちゃん
...うん、なんというか
「りんごちゃんってもしかして...」
「わー!!止めてー!!」
「もしかしてじゃなくて間抜けだよ」
「やーー!!止めて下さい!!」
「よく分からないけど、なんか初めてこの子がガチで焦ってる気がするネ♡」
涙ぐむ彼女の肩にそっと手を置く
「大丈夫
おでも間抜けって言われたから」
「うぅ...嘘つかなくていいんですよぅ!」
りんごちゃんが癇癪をおこしたように腕をぶんぶん振る
「いや、本当だから」
「嘘に決まって...!
まじ?」
表情から察したのかりんごちゃんの目に光が差し込む
「リブから...ね」
「...共よ」
ばっちりのタイミングで固い握手を交わす
「なんか少年クンがりんごちゃんのノリが分かるようになってるけどいいのネ♡」
「大丈夫大丈夫、りんごへのヘイトは昨日ので稼げたし」
「ちょっと~そこ~聞こえてますよ~」
「聞こえるように言ってるからな」
「ミーアの意地悪!
あ、もしかして本当に夫婦みたいな感じになりたいんですかぁ~
ティヲ君に近づいたから嫌だなぁみたいな~?」
「...この塵埃が」
「じんあい?」
「仁愛っていうのは思いやりの心のことネ♡」
「なるほど」
「いやいや、ミーアは絶対違う方言ってますよね?」
「ん?何が?」
「あ、いやなんでもないです...というかなんか寒くないですか?」
もしやと全員が出入り口を見るとリブが立っていた
「ねえさんが...夫婦...思いやり...?」
と不吉なつぶやきをして
「ええと...リブさーん?」
リブが黙って手を合わせる
そして手を開くとそこには氷で作られた剣があった...言わずもがな持ち手以外で触れれば危険なのは幼児でも理解できるだろう
「あのとりあえずノリで私をいじめるのって良くないと思うんですよ
ね!ネネちゃん」
「意外とリブってシスコンだったのネ♡
もうちょっとまともなタイプだと思ってた」
「どうでもいい考察しないで下さい!」
「私の子の考えをどうでもいいだなんて...言ってくれるネ」
「なんで今まで会話に参加してないママさんが乱入してくるんですか!!
て、えあ...」
りんごちゃんの断末魔が響いたのは言うまでもない
電子機器酔いに体が耐性ついてきました




