お酒は大人になってから
嵐のようにやってきたアースが帰った後、ムルトパーティーの集会場はお祭り状態であった
「アースパーティーがバックにつくなら安心だよね
僕らの負担も減るかな?」
「何よ!あんなやつの力借りなくったってあたしらだけで十分じゃない!」
良くも悪くも___。
「あの二色目野郎が上から目線で来るって考えるだけで嫌だわ...ヒック」
「もームレミアさんってば
飲み過ぎだよ?」
給仕の少年、メシロがいつもよりも愚痴っぽい仲間に声をかける
「んだって!...あいつのせいでミーアがぁ~」
「...仕上がってるな~」
ハハハと乾いた笑顔で水を飲むようメンバーがすすめていると後ろからもドンッ!と大きな音が響く
「そうっすよ!ミーアさんはあのスカシ野郎の独自ルールとやらのせいで出てく羽目になったんっすよ!
あんなルールなくても俺たち出来てたのに~」
「...こっちもだね」
来週にはアースパーティーと共闘する予定なのだが、はたしてうまくいくのだろうか
赤らんだ顔で水を飲むがふくれた顔はしぼむ様子がない
「絶対あいつ、アミを見て手を組むことを考えたでしょ
ミーアの時と一緒よ
目を覗き込んで惚れたの腫れたの言ってたわ」
「まーねー...でも優秀な男だしお嫁に行っても」
「...。」
「...ごめん、悪い冗談だった」
ムレミアは貴族を嫌っていた。
それこそ親の敵のように
元々貴族のことを嫌っている傭兵は少なくない
生まれた時点で死の危険がない
生まれだけで自分たちを下に見る
彼女の恩人であるミーアを追い出したのは貴族に近い男と貴族そのもの
姉御気質な彼女が孤立しているアミに助けの手を差し出さなかったのは
「アミ~だめよ...あいつから何言われても絶対に無視するのよ」
「大丈夫です
私はムルトパーティーの隊長
決して逃げません」
「んん~...ちょっと意味違うけど、いいや~」
そんな彼女が今、アミを守ろうとしているのは
「...ムレミアさんって本当にミーアさんのことが好きですよね」
「んぁ~だってミーアさんは本当にすごいんだもん~
俺の時もさ、闇の魔術に取り込まれそうになってたらさ」
「あ~はいはいすごいですね、アルトさん
お水いります?」
いります?とききながら口の中に水を突っ込む
さっきからうるさいのだから仕方ない
がばごぼと溺れているようにもがいでいるが、気管支に入りさえしなければ大丈夫だろう
知らないけど
「うぅ~やだ~あいつに薬作るんだったら毒盛りたい~」
「そんな物騒なこと言わないでくださいよ、ムレミアさん!」
「やだやだ~アミ~」
「私はここにいますから、ね?」
「んん~...。」
「それに今度の戦はメシロ君が初めて行くんですから」
ね?とアミが宥める
ミーアやブハが抜けた分の埋め合わせとして行くことが決まっていた
「アースパーティーは戦の中盤から合流してくるんですからずっと一緒じゃないですし、ね?」
「むー...」
ムレミアは渋々頷く
「はは、酒が入ったら随分と駄々っ子になるんだな」
「うるさいわね~...あんらにも飲ませるわよ、これ」
「...姉御、これ飲んで大丈夫なやつですか?」
「んぁ~?大丈夫大丈夫
ただの焼酎よ、芋焼酎」
「メシロ、これ水で割ってくんね」
「こんくらいストレートで飲めよぉ!男ならよぉ!」
「いやいや!なんか匂いキツいですよ、姉御!?」
メシロは犠牲者の悲鳴を聞きながら合掌する
酒の瓶にアルコール濃度が記載されたラベルがあった
40超えていた
メシロは追悼した
「アミさ~ん、あいつはマジで最低野郎なんで聞く耳持っちゃダメッすよ~」
「アルトさん、絡む相手は選ぼうか」
おっさんの一人や二人がダウンするのは構わないが、アミさんを潰すのはちょっといただけない
丁度暇そうなおっさんを指さす
「ほら、あそこに総長いるから
あっちいっておいで」
「そうちょ~う~!」
これでよし。
残す問題は後一つ
「アミさん、調子どう?」
「はい...大丈夫です」
このお祭り状態に溶け込めきれてないアミさんだ
「...メシロ君は怖くないですか?
来週に初戦ですし」
「ん~?別に大丈夫だよ
僕はアーチャーだし後方支援すればいいだけだし
僕の弓の実力は悪くないし、味方に当たる心配も一切ないね」
「あはは、心強いです」
「現役隊長に言われたらやる気でちゃうね
何かあったらガンガン頼ってよ」
お酒が入った酌に水をチョボチョボと注いでいく
「はい、お願いします」
注ぎ終わった杯にありがとうございますと言いつつ飲み干す
どんちゃん騒ぎをぼんやりと見つめる彼女
どこか浮世離れした妖精めいたものを思わせる
手を離したらそのままどこかへ飛んでいきそうな危うさがあった
「アミさん」
「はい?」
「歴史って人の入れ替わりで成り立ってるんですよ」
「?」
「昔偉業を成し遂げた人がいたとしてもいつか代わりの人が来る
その代わりのひとが偉業を成し遂げてまた新しい人がやってくる」
自分の分のお酒を話で割って入れる
「ミーアさんが抜けたのって歴史の一つなんですよ
アミさんは自分のせいとか考えているかもしれないですけど
いつかは終わるものだったんですよ
それがちょっと早まっただけです」
一杯分なみなみ注ぐと瓶の中のお酒が尽きる
「メシロ君?お水で割らないと...」
「新しくパーティーに入ってきた人にまとめあげる人が必要です
出来るだけ自分たちと同じ目線の人が」
そのまま飲む
あっ!と叫び声が上がる
喉が痛い
鼻にツンと来る
でも飲み干さなきゃ
「メシロ君!」
「どうかしたか?
!おい、メシロ!」
総長が様子のおかしい僕らに近づいてくる
ふらつきながらもしかし制止の手を確かに上げる
味は分からないし、今どのくらい飲めているのかも分からない
どれくらい経ったのだろう口に液体が注がれなくなったことで飲み干したことに気づく
「アミさん...ヒック
何があったとしてもあなたはパーティーの隊長です
もっと自信を持ってくだ...さ...」
いと言えたか言えなかったか
判断する頭はとっくに吹っ飛んでいた
「ヒュー♪初めてにしちゃやるわね」
「は、初めてなんですか!?」
揺さぶるがぐったりとして目を開ける様子もない
「大丈夫ですか!?...どうしてこんなことに」
「ん~安心させたかったんじゃない?」
「え?」
「メシロ君、決闘の後でつきっきりで看病して心配してたのよぉ?
あーでもトイレで席を外して戻ったら、目を覚ましてて大丈夫だって思って何も言わなかったらしいからアミは知らないか」
うんうんと頷くムレミア
もしも彼が目覚めた私を見たのだとしたら
あの時、泣いていた私を知っているのだとしたら
「多分、自分だってこれくらい出来るんだって言いたかったんじゃない?
結果潰れちゃってるけど」
よいしょとムレミアはメシロを背負い、廊下に出る
「あの、ムレミアさん」
「ん?」
お祭り騒ぎはまだ続いているらしく、笑い声が扉の隙間から漏れている
「...私が看病していいですか」
「...ん」
メシロの体をムレミアから譲ってもらう
重い
暖かい
「アミ」
「はい」
「酒の勢いで言うなんて、最低なやり口だけど...
八つ当たりしてごめん」
「!」
「そんだけ!それじゃ」
「あの!ムレミアさん!」
扉を少し開けたムレミアはいたずらがバレた子供のように居心地悪そうに振り返る
「...私もありがとうございます
ムレミアさんがいなければ、私は多分このパーティーを壊していたと思います」
「...感謝されるいわれはないわ
寧ろ私がもっとうまくしてたら...」
「それでも助言くれたじゃないですか
私は助かりましたから...とにかくありがとうございます!」
頭を大きく下げて逃げ出す
はやく看病をするためだと言い訳を考えながら
「...変な子」
罪悪感で作られた笑顔を浮かべた女性を一人残して




