血よりも赤く深い愛
「そーいや、ここでは何をすればいいんだ?」
つまみの容器を洗うママに問いかける
「そうね…注文通りに食事を運んでもらったりするのが普通なんだけど…」
ニヤッといたずらっ子のような笑みを浮かべる
「あなたたちにはいきをいれてもらうわ」
「いき?なんだそれ」
「生命の気配で生気よ
ここに来る妖怪は皆死気に満ちてるの
そういう時は無気力になって何もする気がなくてただ酒を煽り独り言に逃げる人形になるのよ」
ほらと彼女が指さす先にはぶつぶつと何かぼやきながら酒を飲んでいる客がいた。
その目は虚ろで光がさすことはない
「昔は酒場といえば隠れながらどんちゃん騒ぐ妖怪の遊び場だったんだけどね
今じゃ病院か施設みたいになってるのさ
未だに死気でやられていないのは基本構造が金属性の私とあの素っ頓狂な子だけだよ
ほら、さっきあんたらをここまで連れてきた子」
「ん?金属製?体が金属でできているってことか?」
「そこも知らないのね」
そこには驚きと同情の意味が含まれていた
「悪い」
「ううん、いいのよ
私達妖怪は人工部分と自然部分でできているのよ
人工部分が新たに付け加えられた力、妖怪が妖怪たる力を持つ部分
自然部分は元の人間部分ね」
「…つまり、妖怪は人間に異分子を付け加えた存在なのか?」
「もともとはね
今では妖怪同士で繁殖した分類の子の方が多いわ」
「そうして国として独立したのが今のこのシュウドンってことか?」
「シュウドン…?神道のことかしら
ま、そういうことね」
「悪い、ちょっと今まで特殊な所にいたから言葉がおかしいかもしれん」
「仕方ないわよ、あの子も出会った時はそんな感じだったもの」
目を伏せどこか楽し気に手を遊ばせる
「あの子ね、私がお客さんにオーダーを確認するときに『大丈夫です、ね?』っていう『ね』の響きを気に入ったらしくて言葉がたどたどしい時によくね、ねって言ってたのよ
ちゃんと話せるようになってもその癖が抜けてなくってね」
「それで語尾がね、なのか」
「ふふ、可愛いでしょう?」
「もしかしてお名前はネネだったり?」
ミーアの暇な手が髪をいじる
「せーかいよ
あの子が自分の名前はネネにしたいって」
「随分となついてるんだな」
「本当の母のように慕ってくれるのよ」
はたと手を止める
「…本当ではないのか」
「うちの前で捨てられているのを拾った子よ
あの子は小さかったからもう覚えていないでしょうけど」
「そっちのほうが幸せだろうな」
「…でも私時々考えるの
もしもあの子に父親について聞かれたらって…自分が本当の母じゃないってばれたらって…。」
「いいじゃねぇか」
「あら、随分と他人事ね」
「違う違う、あの子からしたら多分あんた以外を母親だって考えないって思ってさ
あんたの言葉一つで語尾と名前が決まってるんだぜ
それのどこが母親として劣る部分があるんだ?
んなこと気にすんな
気にするくらいならあの子を目一杯愛して君が本当の母親ってやつになってやれ」
「…そうなのよ
言葉では簡単にそう言えるの
自分の頭が固いのもわかっているけど…私は金属の呪縛から逃げられないの」
涙一つ浮かべない精密な顔は不気味なほど美しい
「金属性でできた妖怪はみんな一様に頭が固いの
あの子を我が子のように愛してる自信はあるけど、本当の母親でないというのが私の頭に引っかかってるの
ごめんなさいね、頭が固い女で」
「いいじゃねぇか
頭が固いなら何回も何回も、いやずーっとあの子を愛し続けていけばいいんだ
いつかその金属の呪縛とやらを君の愛の力で破る日が来るのを願っておくよ」
「ふふ、ありがとう
お悩み聞く側がいつのまにかきいてもらってしまったわね」
「女性のお悩みを聞くのは生きがいだから全然いいぞ
寧ろご褒美さ」
「…ねぇ、これをきいてあなたはこの先どう接するつもり?」
物陰に三つの影が二人を見つめていた
「…くだらないこと気にしすぎネ♡」
「く、くだらないって…きっとあの人はずっと」
「そもそもそんなのとっくに気づいているのにネ♡」
「…え?」
「つまり…あなたは違うと気づいてて黙ってたの?」
「事実かきいて本当に違ったらって考えたらきけなかったのネ…♡」
目を伏せる少女の姿にリブは以前の自分を重ねる
「…あなたは金属製とやらじゃないんでしょ?」
こくっと頷く
「だったらさっきの姉さんの話分かるでしょ
あなたにとって血がつながってることが大事なの?」
今度はぶんっと大きく横に顔を振る
「それならあの人を安心させてあげて
頭が固くても本人が母親だって認めたら、彼女も認めざるをえないでしょ」
リブがそう言い終える前にネネは飛び出していた
「おや、もうあの子は大丈夫な」
「お母さん」
長く伸びた前髪の隙間から一滴の涙が落ちる
「私のお母さんはたった一人、あなただけだもん!」
「…ネネ。」
「だとよ、それじゃあ俺はちょっと向こう行ってくる」
そういって物陰に隠れている二人を奥へと連れていく
「これ以上聞くのは野暮ってもんだ、それに俺も嬉しい報告があるからな」
「嬉しい報告って?」
首だけこちらに向ける妹がひどく愛しく見える
「俺も盲人だ」
「え?それってもしかして…」
「あぁ、リブとは他人と言い切れないってことだ」
「ね…えさ…」
二人の抱擁を邪魔するまいとティヲはこっそりとりんごの拘束をとき、外に出ることにした
さぼりは基本
焦りは微量
内容、微妙
こんなのを続けてみてくださる勇者様、ありがとうございます




