残された者
今回は長いです
「ムルト総長、指示の通り今朝がた見かけた子供二人含めた三人組は見逃しました」
「それ以外に異常はないな?」
「はい」
「ならいい」
「…では、失礼します。」
ここはムルト率いるパーティーの集会所
今朝の依頼報告を終えたメンバーの一人であるアミは頭を下げ部屋から出ていく
しかし心の中では言葉にしていない感情が渦巻いていた
「職権乱用にもほどがあります!」
「ハハハ…。
まぁまぁ、このパーティーはミーアさんに恩があるし」
朝の仕事を終えた現隊長になだめる
「もし私以外の目撃者がいたらどうするんです?
他のパーティーの方から弱みとして握られかねませんよ…。」
怒りの感情に任せ固めのパンをふんぬっ!と言って引きちぎる
「この街の警備は国から任されている貴重なお仕事なのに…」
街の門は決められた時間しか開かない
時間外に街へ出入りできないようにされている
「そうしてまで助ける恩があるってことさ
このパーティーの設立者はムルト総長とミーアさんみたいなもんだし
捨てられた身だった俺らを拾ってくれたのもあの二人だし
正直言って国のお上様とミーアさん、どっちの頼みを優先するかってなったらミーアさんだよ」
「そ、そういうことはあんまり言わないほうが」
謀反と思われかねない
「大丈夫よ、アミちゃん
ここの人たちは皆同じだし
パーティーの人だけじゃなくって街の人も、ね」
豊満な体を強調しているわけではないが色気が出ている女性がアミの隣に腰掛ける
「ムレミアさん、でも…」
「裏切者がいるかも、でしょ
そんなのジョークでも言ってたとでも言い訳できるし、なんならその告発者が嘘ついてるって言えばいいわ
この街は私達なしではやってけないんだから告発者以外の街の人は皆味方よ」
ライバルパーティーの方々はそうじゃないかもしれないけどさとなんでもなさそうに言う
彼女がのんきにかまえているのはそれだけではない
この街で国に忠誠を誓っている人はごく少数なのだ
ほとんどが二種類の竜がいる時代を経験しており、それに何の解決策もなく途方に暮れていたところを偶然発見した特殊生命体を使うやり口でなんとか今まで紡いできたのだ
その場しのぎな国よりも自分たちを守ってくれるミーアの味方だと言いたいのだろう
「でも、今の隊長に味方はいるでしょうか」
「あら
藪から棒になにがいいたいのかしら、このミーア好き好き野郎」
「いたたっ!ちょっと耳引っ張らないで!
ちぎ、ちぎれる!」
悲鳴をあげているのは
『じゃあじゃあ!
もしも病気が完治したら隊長、俺と手合わせしてくれませんか!?』
ミーアとの手合わせを乞いていた青年だ
「こちとら身内を売るような奴の有無の話なんてしたくないのよ
ましてミーアをなんて」
「だ、だってミーアさん決闘で負けたんでしょ?
あででで!!」
「それ、本気で言ってるのかしら?」
「ミーアさんの実力がどうこうって話じゃないです!
卑怯だのなんだのって、そういう話じゃないんですよ…
事実としてあるのは決闘でアミさんに負けたってことです!」
その言葉で青年の耳は拘束を解かれる
「あの人が弱いはずがないって俺が一番知ってますから
でも、負けたというのが今の街の人たちのミーアさんのイメージ像です…」
「…。」
そこにアミがいるにも関わらず彼は言い切った
彼からしたら未だに隊長はミーアさんなのだろう
実際ミーア脱退の話が出たときに反対側の主勢力は彼だった
まだ、自分は…。
(勝ってない)
目が覚めた時には決闘試合は終わっていた
あの時、魔術に精通しているわけでもない彼女が魔力で私をスタンさせた
彼女からしたらあの勝負の勝敗はどうでも良かったのだ
彼女はムルト隊長率いるこのパーティーの優秀さを証明させたかっただけだ
元隊長の自分が現隊長のアミに敗北することで今の方が優秀なんだと
私と同じ目的なのに
私は夜に目覚め、妙な落ち着きを取り戻した脳が導き出した彼女の行動理由と自身のどうしようもない出来の悪さにむせび泣いた
(私はミーアさんを傷つけたかったわけじゃない)
でも、現隊長としての意地が出たのは確かで
「…別に勝たなくてもいいじゃない
一つの勝ちに価値があるかなんて個人によるし」
ハッと口を紡ぐ
勝ってないとつい口に出していたようだ
少女の慌てた様子にクスリと笑いながら果物をほおばる
「勝ちと価値…面白いっすね!」
「ちょっと恥ずかしいから解説するのやめてよね」
「えーだってムレミアさんが言った渾身のギャグじゃないっすか」
「それ以上なんか言うなら調合手伝ってもらうわよ」
「そ、それだけはご勘弁を」
「というか、今日ブハがなかなか起きてこないから誰かほかに手伝ってほしいんだけど…」
「お、俺は今からここの守りの時間だ
昨日ガキの侵入許しちまったし、今日はしっかりせんとな」
「あー…俺は…そうです!そうです!トイレ掃除です!はい!今から行ってきまーす!」
彼女の視線のスポットライトに照らされた人たちは皆朝食をかきこみ、蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出す
「もう、こんなに美人なお姉さんとできるだけありがたいと思わないのかしら?」
「あの~…私でよければ」
「あぁ、今日のは力いるからあなたは無理よ」
「っ…。」
最近力をつけてきている自分とまだ幼いブハのことを考えると彼女の判断材料は力じゃない
信頼だ。
ここでいくら力があることを証明しても意味のないことだろう
「そ、それじゃあ私も依頼に」
「そのことなら大丈夫だ、ムレミア
こいつは最近筋力が増えている
並みのことならできるはずだ」
いつの間にやら後ろに立っていたのは
「そ、総長」
「パーティー制度を導入したのは他の職に対する知識を増やすためだ
アミ、ムレミアは優秀な調合士だ
しっかりと学ぶんだぞ」
「!…はいっ!」
「総長、私一人で結構です
依頼があるようですからそちらに回してください」
「パーティー制度は結束力を高めるためにも入れられている
郷に入っては郷に従ってもらうぞ、ムレミア」
「…。」
「ミーアの脱退を無駄にするなよ」
「…はい。」
しぶしぶと少女にこっちよと背を向ける女性を見送りハーと大きなため息をつく
パーティー内で亀裂が生じることは避けたいのだが、どちらの言い分も努力も信頼関係も理解しているためなかなか仲裁しづらい
昔はミーアと自分とボルマーの三人で行動していたが、何かと感情的な自分たちにはできなかったので仲裁役はもっぱらボルマーの仕事だった
(ま、もう三人バラバラだけどな)
単独行動のミーアのために久しぶりにボルマーの方へ出向いたが、すっかり姿は変わっていた
とはいっても雰囲気は全く変わっておらず相変わらずだななんて言うと君もねと返された
彼にもミーアのことは言うべきだろうか
ここで彼が全くの部外者となっていることに気づく
だが、彼は研究で忙しい身
この間もなんたらのうんたらキカイがどうのこうのやいのやいのとはしゃいでいたところだ
「邪魔しちゃわりぃよなぁ~…」
大きな肉をかじる
「あ、それうまそうじゃん
ちょっとちょうだい」
「あぁ、いいけどだいぶ硬いぞ?」
「するめとか好きだし全然いける…あ、ごめんやっぱかてぇっす」
「俺は好きなんだが、周りの奴らは皆硬くて食べれないって言うし」
「そりゃそうだよ
これほぼ石だよ、ムルト」
「そうか?
…?
!」
自然と会話している中で普段呼ばれなれない言葉
自分のことをムルトと呼び捨てするのはミーアと
「ボルマーいつからそこにいたんだ!?」
「ムルトも反応遅いっすよ!?
え、拙者そんなに薄い?キャラ薄い?
濃いほうだと自覚してたつもりなのに!?」
ぬごおお!!と絶叫をあげるもさもさ頭が
「もってことは他にも同じような人がいたんだな…よかった」
「よくなーい!
全然!
まったくもって!
非常に!
完璧に!
よくなーいっ!」
こいつがいたら悩みを抱えているのが馬鹿らしくなるなと緊張をとく
「それで、魔法馬鹿なお前がここにいるからにはなにかあったのか?」
「あぁ、それなんだけどね
今日の朝、ミーアはこの国を発った」
「…は?」
「彼女の妹ともう一人、少年のためにいっ」
「ふっざけんな!あいつ!
だって…なんで!?」
言葉が支離滅裂な男の圧に負けず言葉をつなげる
「…それで彼女からの最後のメッセージなんだけど」
「最後ってなんだよ!?」
胸ぐらをつかむムルトに負けずにただ淡々と報告する
「この石に込められている
彼女は出ていく寸前で君のためにメッセージを残したんだ」
この石と言いながら玄関先に埋まっていた石を渡す
「…これね、僕にはとけないんだ
いいや、ちょっと語弊があるね
僕に魔力があったとしても解けない
簡単に言えば君専用のものさ」
ボルマーは研究所から送った時と違って淡い光を放つ石を横目で見る
「やけちゃうなぁ、そんなに思われるなんてさ
やっぱり二人は特別だね」
「な!?
お前まで恋だの色だのいうのかよ」
「いいや?ただ、二人は随分と仲いいなってね」
「?何言ってんだよお前もだろ」
「…いいや、それも違うね」
「…何が言いたいんだ」
「僕は君たちと違う」
「…お前まで線引きするのか」
「お前まで…ね
それってまたミーアのことでしょ?」
「たりめーだ
でもこれはてめーよりもミーアの方が好きだからじゃない
同じくらい好きだからだ
俺は仲良くねぇやつに呼び捨てにされて普通にしてるやつじゃねぇ」
「好きねぇ…君の表現は時々困らせてくれるね」
困ったと口にはするが嬉しそうだ
「そんな君だからかな」
「?お前さっきから様子おかしいぞ」
「…なんでもない」
「!そういうところが」
「ちょっとお話し中失礼」
するりと細身の人がやってきた
「!?…見かけない顔だがお前、誰だ」
「あぁ…そんなに怖い顔なさらないでください
ただちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「…なんだ?」
「ここにミーアという女性はいますか?」
「…。」
「…彼女ならこの前にパーティーを脱退しましたよ」
答えないムルトの代わりにボルマーが答える
「あらら、そうでしたか
ありがとうございます」
それではと去っていく人
「…奇妙な女だったな」
「え?男じゃない?」
「えぇ?いや、声の高さ的に女だろ」
「でも身長高かったし、肩幅も広いし…」
突然の訪問者の性別に語り合う二人だった
「…アダム
やっと見つけた♡」




