逃亡劇はすぐそこに
キィィ…
小さく何かが軋む音がする
そちらのほうを見ると布の擦れる音と一緒に特徴的な頭の少女が外に出ようとしているのが見える
「........りぶ?」
ぼやけた頭とぼけた視界が数秒経ってから通常に戻る
どこに行くのか追いかけようとすると制止の声があがる
「追いかけるのはやめとけ
女の子には一人の時間も必要なんだぞぉ?」
「で、でも」
「大丈夫
俺ならいざ知らずリブに危害を加えようとするやつはそういないさ
それに何かあったらこの【疾風】のミーア様がいるからな」
しっぷうのミーア?
「しっぷう?」
「あぁ、俺たち特殊生命体はそれぞれ固有の【スキル】を持っている
人外じみた力とでも言ったほうがはやいかな
俺は【疾風】
動きがとんでもなく速かったり、時には風を読んでその場に竜巻を起こすこともある」
「…たつまき?」
「すんごい力で吹いてくる風のことだ」
「……かぜ?」
「…。」
風の説明をせがまれるとは思いもしなかった
「ん~…そーだな」
考えクルリと部屋を見渡すと昨日リブが顔を出していた窓が
押すと簡単に開き朝のひんやりとした空気が入ってくる
まだ日も明けておらず外は真っ暗だった
「この自分にやってくる感じ
これが風
風っていうのは頭で見るもんじゃない、全身で感じるものなんだ」
なんなら手でもつくれるんだぞと言ってパタパタ仰いでやる
髪をなびかせながらすごいすごいと喜ぶティヲ
ティヲにもできることだと伝えるとさっそくやってみてまたすごいすごいと喜ぶ
喜ぶティヲを横目に朝ご飯の準備に取り掛かる
昨日凍らせておいた晩ご飯を取り出すと手伝う!と元気に駆け寄ってくる
「あ、ミーア
このマント使ったらもっと大きな風作れる」
駆け寄る時にマントの動きから発見したことをこれまたすごいすごいと無邪気に喜ぶ
「そういえば、風って何か役に立つことってない?」
「そうだな~料理する時に火を強くしようとする時に必要だし、暑いと思っている時に涼めるし…俺限定になっちゃうけどうまいことやれば空も飛べるぞ」
スープがことこと煮立ち始める
早いところここを出たいので、昨日怪我の治療で減ってしまった魔力を更に使う
体内に貯められた魔力は人により量が違う
そもそも体内に魔力を貯めこめれる原理は人間の血液の中に含まれる金属イオンに魔力特有の付与効果が働き、体内に貯めこまれるのだ
俗に言われる強力な魔法使いというのはイオンの量が著しく高い、あるいは魔力が付与しやすい血液が体内に巡っている人たちのことを指す
一般人でも魔法は使えなくはないが、その付与効果を持つ魔力の力を体外に取り出し自分のイメージ通りに動かす…この動作の道中、次のうちのどれかが欠落しているとまともに扱えない
一つ目は水のように零れる魔力を体外に出せるか否か…水を落とさない器があることが条件だ
二つ目は付与効果を無効化できるか…付与効果を無効化するのはある特定のホルモンの働きであり、それが出ないのであれば薬に頼る他ない
最後に三つ目はイメージ通りに動かせるかどうかだ…ここがもっとも難しいとされる部分であり、この力を有するものは天性の才を有するともいわれる
これら三つを持った力を持ったものにだけ与えられる称号が治療士、魔法使いだ
この二つを分けるのは付与される魔力が治癒効果が高いか、否かだ
なお一般人が無理にでも魔力を使用すると零れている魔力に気づかず、無理にでも魔力を引き出そうとして自身の生命力(血液)を引き出し体を壊すことも少なくない
また生命力は心臓を中心としているためか胸を痛める者が多い
ミーアは治療士でも魔術師でもないので、例にもれず胸を痛めていた
思っているよりも強くなった火力からかそれとも胸痛からくる生理的なものか額から流れてくる汗を手の甲で拭う
と、髪がフワリと舞いひんやりとした冷気が湯気の熱さをかき消す
隣を見ずともわかるが可愛らしいお手伝いをする少年を見ずにはいられなかった
「んっ!んっ!ふっやぁ!」
「ありがとう、もう十分だよ」
スープの方も自分の中の需要も
いや、欲を出せばもっと見たいという所はあるが
「…何してるの?」
いつのまにやら顔を洗い終えたと思われるリブがこちらの様子を見ていた
「まぁなんでもいいわ
早くここを出たほうがいいし…そろそろ明け方よ
姉さんがいるから変に見つかる可能性はないだろうけど
早めに行っておいて損はないし」
カチャカチャと皿をだしていき用意したスープを注いでいく
「あぁ、今日の守りはムルトのとこが受け持ってる
何かあったらなんとか誤魔化しとく」
いただきますといいながら口にスプーンを運ぶ
「…姉さん、それわかった上で昨日ここに来たわけね」
「まぁな、後最後の別れの機会を設けようとも思ってたしな」
その必要はなくなったけどと苦笑いしながらスープを流し込む
少し腫れた頬が痛みを訴えてくるがなんてことはない
「…おでが行かなかったら」
「ん?」
「おでが行かなかったらもっとお話しできたのに…ごめんなさい」
「気にすんな、元々俺たちにしみったれた別れ話なんざ必要ねぇ
生きてまた会えたら嬉しいけど、死んじまったらそこでおしまいだ
傭兵ってそんなもんだ」
ガーっと食事を喉に押し込め、ごちそうさまと言うとさっさと出発の用意をする
「でも、ミーアは違うでしょ?」
この子は時々核を突いてくる
傭兵の成り立ちも扱われ方も何もかも知らないからだろうが
「…俺には十分すぎるくらいあいつらとの思い出があるからそれで満足だ
さっ話はおしまい
さっさと支度しろよ~」
急かすとティヲは慌てて慣れきれてない手つきでスプーンを動かす
リブもなと少女の方を見ると何か呆れたようなため息をつかれる
朝は始まったばかり
逃亡者のリストに三人が載るまでそう遠くはないお話




