魔術師ってまるでピアニストだな
「ムルトさん!ねぇさんは!?」
「あっちだ
肩に乗せてやるからじっとしてな」
よっとりんごのように軽々と二人を持ち上げる
視界を遮っていた人ごみは足元にまで下がっていく
そして一つ大きな円状に開けた場所が
「あ、いた!」
そこには二人の女性が戦っていた
「ムルトさん、これはどういうことなの?
なんでねぇさんが戦っているの?」
「それはな...」
時は数刻遡る
「あなたが...あの【疾風】のミーア...」
「ほーこの子がな~」
お互いがお互いをまじまじと見つめる
口を先に開いたのはミーアだった
「...でかいな、Dはあるとみた」
ミーアの視線の先にあるのは
胸
「なぁ!?」
「E...いやDか?うーん」
「ちょっちょっと!あなた初対面になんてこと!」
咄嗟に女性は胸元を隠す
「いや~調べてくださいといわんばかりのブツがあったんで」
わきわきと手を動かす
「なんっ!?
...噂通りの方ですね」
「噂ぁ?」
ミーアはこてんと頭を傾ける
「えぇ、足の速さは国一番
動きは常人を凌駕するものだと」
「うおっほ~褒めてくれんね~」
「その威厳を台無しにするかのようないきすぎた女好きの言動
そしてちゃらけた態度...噂通りです」
「うおっほ~褒めてくれんね~」
「褒めていませんっ!」
「はーっはっは
アミ!そいつに何言っても喜ぶだけだぜ」
「そーそー
Dなお嬢さんに罵倒されても褒められてもどっちにしろ嬉しいしな」
「昔からこういうやつなんだよ」
はははとムルトが大声で笑いとうとうお腹を抱えることとなった
二人の様子にアミは歯をくいしばるのだが二人ともそれに気づくことはない
「...そうですか」
「わりぃなアミちゃん」
「では、悪いと思うなら一つ付き合ってくれませんか」
ミーアが久しぶりに街に来たということで続々と人が集まってきた
「ん?付き合う?
あっらま悪いが最近婚約者できちゃったんだわ、浮気はいけないしな~」
「そちらじゃありません」
ミーアの方に何かが素早く投げられる
体を少しそらしそれを回避する
「おいおい、嬢ちゃん」
周りにどよめきが広がる
「剣なんて物騒なもん投げちゃダメでしょうが
人に当たったら怪我しちゃうでしょ~」
「あなたなら大丈夫だと思ったので」
そう言う彼女の手にも剣が握り締められていた
「俺じゃなくて周りが!」
「...もしそうなりそうだったら怪我してでも剣を受け止めていたでしょう?」
アミはスタリと門から飛び降り華麗に着地する
...着地する瞬間に砂埃がたったため魔術を使用したのだろう
「...あたり」
「そういう人だと...ムルト総長からお聞きしてましたので」
「そっかそっか
んで、こんな物騒なプレゼントで二人で決闘という名のおデートするつもり?」
突き刺さっている剣を抜き取りペン回しするかのようにくるくると回す
「理解が早くて助かります」
「する理由は?」
試しに振ってみるが手になじまない
速さ重視のミーアが基本的に使う剣はトレンチナイフやクリスといった短剣だ
「言う必要がありますか?」
だが、重いわけではない
「随分とせっかちじゃないかい」
アーミングソード...俗に言うロングソードってやつだな、これ
「そんな女はお嫌いですか」
近づいた対戦相手は手を差し出していた
「...べっつに」
こちらも礼にのっとり手を差し出し握手する
「これからよろしく...Dちゃん」
「...私はEです」
「ははっこれは失礼した
では、魔術の準備が必要そうなお嬢さんのために俺がカウントダウンを刻もう」
「いらぬお節介です
ハンデはいりません、判定に任せましょう」
「ははっそのお節介はお前さんとこの総長様譲りさ」
アミは動揺したかのように瞳が揺らぐ
「っ...では、始めましょうか
決闘は両者が背を合わせ10数えた所から開始となります
使う武器は配布された剣のみ、魔術と魔法の使用は構いません
判定は剣を相手の急所に寸止めしたところで終了、ただし魔術や魔法でつくったものでは認められません
これで構いませんか?」
「あぁ、異常なーし
判定はムルトな」
「あ、あぁ分かった」
二人は背中合わせになる
早速何人か野次馬として見物するものがあらわれ、自分達中心に円形に集まっているのがわかる
「...なぁ」
背中の熱に向かって語りかける
「なんですか?」
バクバクと心臓の響く音が耳ではなく背中から聞こえる
「さっきあたりって言ったやつあるだろ」
フゥ...と息を吸い込み目を閉ざす
「はい、剣を投げた時のことですね
...まだ文句が?」
背中から熱が鼓動が、周りから野次の声が
「いんや大当たりじゃなくて惜しかったなと」
「なんですって...?」
ミーアは目を開く
「俺は怪我せずに剣を受け取るぜ
俺を知るなら性格だけじゃなくて実力も知らねぇと」
真正面にいる友が大きく頷いた
「フフ...そうね」
ムルトが10数えだす
「ミーアさんって今まで誰にもご指導されていませんよね」
「あぁ...。」
「ならば、私が最初にご教授いただく人ですね」
「あぁ...。」
「ウフフ光栄です...ならば」
「10!」
「総長に並ぶと言われるその実力、とくと拝見いたしますね!!」
「…と、まぁ俺もよくわかんなくてな
多分アミは稽古つけて欲しくて言ったんだろうけどいつの間にか人集りができちまってさ」
「ミーアは大丈夫なの?」
「んー...ずっと防戦状態だけど大丈夫だと思う」
「な、なんで?」
「ミーアは攻撃する隙がないというよりも攻撃する気がないって感じで余裕あるからな」
「ミーアはなんで反撃しないの!?」
「そりゃ本人にしかわからねぇな」
「そ、そんなぁ...。」
「っく、このぉ!」
鋭い突きが何度も何度もミーアを襲う
「おっとっと危ないなぁEちゃん」
が、ミーアは全てかわしきる
「舐めた...真似を...!」
両刃である剣は持ち主が左右に振るたびに懸命についてくる
「よっと...突きじゃなくてもなかなかやるじゃん」
時折出てくる足や突進では剣を使い、力を受け流す
「でもあんたの本当の持ち味は違うだろ」
埒の明かないアミは空中に舞い自分の体重で押し切ることにする
「うぉおっと...君やっぱコントロールすごいねぇ
それが前線の魔術師様のお力かな?」
魔術師は気体中に浮いている魔力を自分の思い通りに動かすもののことだ
魔術の力を引き出す場所、魔術の力を解き放つ座標、使う魔術の根源を正確に読み取り、その魔術をいかに低燃費に使うかなどが重要視される
前線で戦う魔術師というのは相手から斬られる前にこれらの要素以外の100もの手順を踏むという気が狂いそうな作業を片付けなければならない
右手ですることと左手ですることは別々
さながら左右でリズムも違う協奏曲を奏でるピアニストのようだ
繊細な情報把握技術に、剣で迫り来る敵に冷静な対処を下す豪胆さが求められる
そんな人からの一太刀は受け流そうとしてもすさまじいバランス感覚...いや計算しつくされ緻密に組み立てられたバランス感覚のせいで上にいる優位を離してはくれない
それに力で頭上に押し上げようにも
「魔術つかってこその魔術師じゃないか
本気でかかってきな」
本気でない子には本気の力をだせない
「それともまだ舐めた態度とられていたいの」
少しだけ押し返してみせる
「ぐっ私は!」
アミの左手が震える刃を持つ
「おい!そんなことしたら怪我しち」
「私は!!
剣であなたを倒し、あの方の隣に立ちたいんだ!」
両刃である剣が彼女の手の平を裂き血の雫が垂れてくる
「魔術で勝っては...魔術で勝っちゃダメなんだ!
ムルトさんの隣に立つのに...
あなたを超えるために…
私は...
私は...!」
十字に交わる刃の交差点が紅く染まっていき紅い雫はアミの剣を下で受け止めているミーアの顔にもかかる
「おい、もうよせ!」
「いやだっ!絶対に...絶対に!!
絶対に認めてもらうんだ!!
あなたがいなくったって...私で大丈夫だって!
戦う能無しなのに魔術の力でのし上ったヤツなんて...
もう...もう、言わせないんだからぁ!!!」
「...お前」
アミの体重がミーアの剣ではなく、彼女自身の手を裂こうとする
その手は元は柔らかな手だったのだろう
細く華奢である
しかし最近になって出来たような剣だこが赤く割れていた




