3.敵をとむらう…そして
「多磨三郎丸殿、敵ながらお見事にござる。」
騎馬武者の一人が亡き主君の胴体を抱え、こちらに向かって言う。
「それがしは、亡き大橘次郎が娘婿、橘田五郎と申す。」
なるほど、確かに先ほどの大橘次郎に比べれば、若い。
「我らは、これより次郎様のご遺体を生国に持ち帰り弔う所存。」
つまりこれ以上、自分たちは追撃しません…てことかな。
それは好都合。
「恥を承知でお頼み申したいのだが…次郎様が首、返していただけないだろうか?」
そう言って、俺が持っている首へ視線を向ける。確かに今の俺の状況は明らかに逃走中。
首は不要だろう。
「誠なれば、仇討として、お主の首を狙いたいところでござるが…」
おっと…風向き悪くなってきたな…。
「今は無事、亡き次郎様を弔うのが最善と思う故。」
この時代の武士というのはこんなものなのかと思ってしまう。
親族を目の前で殺されたのにさっぱりしている感じ。
「よかろう。もとより生国へ帰る身。首はいらぬ。」
そう言って、俺も首を差し出す。
何か仕掛けてくるかと思い、いつでも脇差を抜くようにしていたが、何もなく首を渡し終えた。
「感謝いたす。」
そう言って、手早く配下の者が首を何かに詰め、胴体もなんかで縛っていた。
「では、我らはこれにて。御免!」
踵を返し、橘田五郎とその配下たちは去っていった。
…他にも追手が来ているかもしれない。
そう思い、周りを見渡す。
…ひとまず目に見える範囲では敵はいないようだ。
馬の疲労ももどってきたようだ。
今は、動けない…。
仕方ない…重いが鎧を脱ぎたくても分からないし、ゆっくり歩いていこう…。
「行くぞ。」
返事をするわけでもないのに、ひと声かけて一歩ずつ進むのだった。
…なんでナレーション風なんだ…?それに結局、この世界は一体…
そう思いながら進んでいくと、急に目の前の景色が霧がかってきた。
そして意識がもうろうとしてきて…。
…今度は一体なんだ?
「…それでは、将門は討死。将門の一族郎党も討死、もしくは自害したと…。」
…ここはどこだ?それに目の前の光景は…。
「御意。」
…どこかの小屋か…少なくとも貴族の屋敷ではないな…
「これで、東国の有力な平氏の生き残りは我らが主のみにござるな…。」
「左様、この常平太、平貞盛こそが平氏の棟梁。再び中央に躍り出るのは我らよ!」
…ここは敵方の拠点ってわけか。
「…とはいえ、この数年で父をはじめ平氏の一族の血が多く流れた。将門の一門もな。」
「そうですな。亡き国香様をはじめ叔父の良兼様、敵方の将門をはじめその弟たち…。」
「それに噂では叔父の平良文が将門側についており討死したともいわれている。」
…。
「今しばらくは、坂東に根を張り、力を蓄えよう。此度の件でまた恩賞を賜れるであろうしな。」
…また意識が…今度は何なんだ?
…………………。
ここはどこだ、なぜ真っ暗なんだ?
ドォン、ドォン、ドォン。
太鼓が鳴る音が聞こえる。
…久しぶりに聞いた音だ。
『ゲームクリア!』