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課金兵だった俺が異世界で無課金兵生活 4

「そろそろ下山しないと間に合わなくなるわね。十分休めたし、先を急ぎましょう?」

 隣に腰掛けていたイスリアがスッと立ちあがり、十分に体を休めれたようだった。これに続き俺はヨイショっと気持ち反動を付けながら立ちあがる。伊達に家に引きこもってはいない。イスリア程では無いにしろ休めた感はあった。休憩した際靴を脱いでいたのだが、下山する為靴を履くと急に足が重く感じるから人の体は不思議なものである。運動不足といえばそれまでだが不思議と言う事にして欲しい。

「そうだな、色々と助かるよ」

「さっきも言ったけどこれも私の役割よ、気にしないで」

「ああ、でもありがとう」

「・・・・・・」

 役割であろうと感謝を述べるのに理由はいらない筈だ。そう俺が感じそう思って口にしたのだから。

 それに右も左も分からない世界でイスリアに見放されたら数日の内に死ぬ自信がある。それと話せば普通に返してくれる辺り、ソロ狩りの件でもそうだったか優しい子なのかもしれない。出会って直ぐのガチャの時に不快な思いをして興味が無いとか思ったりもしたが、なかなかどうして話せば冒険するパートナーとしては最良であったのではなかろうか。

 またレア度がRとはいえ、まだ若いからとかだからだろう。BBAは全員SSRだったしな、年齢でレア度がもし決まるなら俺はRのみでいいわ。

 少し顔を赤くしているイスリアに気付かないフリをして一歩先に歩きだす。「あっ・・・」っと後ろから聞こえた気がするがあまり見てはいけないような気がして、振り返らず登ってきた道とは反対方向の道から下山を始める。タタタッと小走りが聞こえ、俺の直ぐ横に並ぶとイスリアの顔はもう赤くなってはいなかった。

「下山も変わらず話しながらいくわよ、下を噛まないように注意してね」

「運動不足だから、下を噛むより転ぶ方が怖いな」

「それはこれから頑張りましょう?この世界にいれば嫌でも体力がつくわ」

「お手柔らかに頼むよ」

 話しながら道なりに下山していく。登る時より早いペースで下山出来ているものの、足腰の負担がやはり大きい。

 木々に捕まりながら下山している為今の所転んではいないが、素手で直接木を握っている関係上擦り傷がたえない。軍手とか入れておいて欲しかったぞクソ運営、魔法使いがいるからって仕事をさぼりやがって本当にクソだな!途中木の皮や枝が手に刺さる事もあったが、その都度抜いた後イスリアが回復魔法で傷を塞いでくれた。

 下り始めて暫く経ち、丁度山の半分くらいだろうか。二つ目の山は並んでいて一つ目の山程大きくない。その為、半分程下りた辺りで一山目と二山目の繋ぎ目が見え始めた。半分までもうすぐだと体に力が入り、気力が出てくる。イスリアと話をしているとはいえ、永遠と変わらぬ風景と言うのは気が狂いそうになる事を初めて知った。一人でこの世界に来ていたら早々に道から外れて死んでいた事だろう。

「ちょっと止まって」

 不意に横に並んで下山していたイスリアが手を横にして俺にこれ以上前に進むなと止める。下山中絶え間なく話ながらだった筈だったんだが、ソロ狩りがまたでたのだろうか?

 しかしあの時とは違い、鳥や虫の声は聞こえたままだ。それにイスリアは口元が少し釣り上がり喜んでいるように見える。

「またソロ狩りか?なら逃げないと」

 違うだろうとは思いつつ当たりなら即逃げ、外れなら安堵出来る。何時でも走って逃げれるように構える。けれどイスリアはそんな俺を見て笑っていた。良い顔もできるじゃないか。

「フフフッ、大丈夫。ソロ狩りじゃなくてスライムよ。やっとレベル上げが出来るわ!」

 杖を横に構えるのではなく槍を構えるように縦に、そして地面と水平に構えるイスリア。おい待て、魔法使いは魔法を使ってこその魔法使いだろ。近接が魔法使いを護って魔法使いがダメージを与える、それが俺の中では常識なんだが・・・。

「お、おい・・・」

 俺のイメージを壊さないでくれと言おうとした時、山道に本当にスライムが出てきた。けれど俺の知っているスライムと形こそ似ているものの所々違い、なにより色がなんか汚い。そう、例えるならどぶ川の色と言うべきか、不純物が混じっている上に色が色なだけに予めスライムと言われてなかったら気付けなかっただろう。倒したら倒したで汚い液体で服が汚れそうであまり戦いたくないんだが。

「ついているわ!底さらいのスライムよ、しかもそれが3匹も!」

「なんだよ底さらいのスライムって!ドブさらいの間違いだろ!」

 底さらいのスライムは真っ直ぐイスリアと俺のほうに向かってくる。ピョンピョン飛んでくる姿は、本来可愛いイメージだった筈。しかし現実はズリズリと地を這うように近づいてくる上に、時折体をプルプルと揺らして汚い体液が周りに飛ぶ始末。とてもじゃないが可愛いとは言えない。早々に退場して頂けなければ夢に出てきそうだ。

「タケオさんは危ないからここで待っててね、サックリ倒してレベルアップと金策よ!」

 おいスライムで金策とか聞いたことがないぞ。詳しく話をっと言う前にイスリアは底さらいのスライムに単身突っ込んで行った。

 単身突っ込んでいったイスリアは魔法使いとは一体何なのかというのを考えさせられるほどの動きをしていた。

 スライムはズリズリと縦にバラバラになって近づいてくる中、イスリアは先頭の底さらいのスライムに杖の先端部分を槍のように刺し、引き抜き、そして刺す。それをひたすら続け、何度も何度も刺しては引き抜き、そしてまた刺す。スライムは終始近づいてきてはいるものの、徐々に歩みは遅くなりやがて動かなくなりその場でただの泥水となった。イスリアの杖の先端は底さらいのスライムの体液がベトベトについており、よくまあ自分の杖をそんな風に扱えると思う。初期装備だろうから直ぐに使わなくなるだろうけど、それでもどこか不に落ちない。

 ソーシャルゲームが出るまでは普通に家庭用ゲーム気で遊び、RPGも沢山やっていた。その際初期装備を始め、武器や魔法、防具等をコレクションして集めていた身としては、もしその杖を捨てるなら余り好ましくないと思う事だろう。汚いけど。

 そんな事を思いながら戦闘を見ていると、当のイスリアは2体目のスライムと戦っていた。いや、一方的に攻撃していた。

 底さらいのスライムに杖を刺す所までは同じだったが、今度は刺したまま魔法を唱えていた。

「ファイア!ファイア!ファイア!」

 魔法を唱えるのは別に良い、魔法使いだから魔法を使うのは当たり前だ。むしをそれこそ魔法使いだろう。しかし何故に近付いて刺して魔法を唱えるのだろうか、遠距離から魔法を使って攻撃するのが俺の中での魔法使いのイメージだったのだが、この世界では近づいて使用するのが普通なのだろうか。

 刺された底さらいのスライムと言えば、刺された揚句体内からファイアをされるというあまり考えたくない攻撃をくらい、一瞬で動きが止まり更には沸々と泡立ち始め遂には死んだのかべちゃっと泥水になった。

 底さらいのスライムと俺の間には10m程の距離があるのにちょっと異臭がするあたり目の前で戦っているイスリアは相当な臭いを感じているだろう。しかしイスリアは異臭に顔を歪めるどころか生き生きしている。異臭フェチとかなのだろうか、勘弁願いたい。十中八九レベル上げが出来て嬉しいからなのだろうが、聞くまでは絶対に無いという事は無いので聞くか迷う所だ。もしそうだったりしたら完全に仕事だけの人の関係にしかならない自信がある。

 失礼な事を想像している間もイスリアは戦闘中である。1匹目を刺し倒し、2匹目を体内から焼き倒し、3匹目はどうすのかと思っているとイスリアは杖を大きく振り被っていた。

 最後の1匹は魔法だけで倒すのかと安心したが結果は酷いものだった。

「ウィンドウ!アース!ウィンドウ!アース!」

 ウィンドウっと魔法を詠唱する度に底さらいのスライムは中に浮かび上がる。距離にして5m程だろうか、そして中に浮いた底さらいのスライムに対してアースっと魔法を詠唱するとイスリアの周囲の土や小石が中に浮いている底さらいのスライムの上に集まって行き、イスリアが杖を上から下に振り下ろすと勢いよく叩きつける。結果、底さらいのスライムは5m分の重力とアースによって叩きつけられベチャッ!っという音を出す事になった。それを2度3度と繰り返し、4度目のベチャッ!っという音をたてると泥水になっていた。

 イスリアが3匹目の底さらいのスライムを倒すと同時、イスリアの頭の上に【レベルUP!】っという字が現れた。

 俺はおお!っと感動している中、イスリアは「やったー!」っと言いつつ手は倒したばかりの底さらいのスライムだった泥水のようなものに手を突っ込んでぐちゃぐちゃとかき回していた。

「いくら嬉しいからって死体蹴りのような事は止めろよ・・・。それにそういう趣味はちょっと・・・」

 俺は普通のことを言ったつもりだったが、イスリアにとっては何いってる?っと感じるも納得したらしく説明しながら言ってきた。

「別に好きでこんな事をしているわけじゃないわ。これはね、底さらいのスライムが稀にレアなアイテムを持っている事があるからやっている事なだけよ。勘違いしないで欲しいわ」

「なんでレベル1でも倒せる敵がレアな物を落とすんだよ、そもそもレアといっても今のレベルではって程度だろ?」

 ちょっと強い敵と戦えるようになれば、いくらでも手に入るものだろうと思い適当に言う。そもそもレアなアイテムが落ちるんだったらそこらじゅう冒険者で一杯だろうに。オンラインRPGにおいてレアなアイテムは取り合いは当然な事だ。それが原因でそういうのを目的とした集まりが解散し、悪評が立ち離れていったプレイヤーも多い。

「本当にレアなアイテムよ?ソロ狩りにやられた人や森の奥の魔物に倒された人とかの装備がね、運営さんは回収せずに川とか湖に捨てちゃってるのよ。それでこの底さらいのスライムはその名の通り、底をさらっているからそういう人達が持っているレアな物を体内に入れちゃうと気があるらしいの」

「クソ運営は本当に何やってんの!?ゴミを捨てるなっていうのは常識だろ!」

「?ゴミじゃなくて装備品よ?ゴミはちゃんと処分するわよ、当然でしょ」

 違うそうじゃない。あっているけど違う!捨てる=ゴミにはならないのか?この世界では。

「装備品を川や湖とかに捨てるのはおかしいとは思わないのか?」

「いらない装備品を川や湖に捨てるのは同然でしょう?それは巡り巡って私達を助ける事になるのだから」

「言っている意味は分かるが意味が分からない」

「そうねえ、タケオさんの世界ではそれは悪い事とされていたのかもしれないけれど。私達の世界ではいらない装備品は売るのではなく捨てるのよ。そうすれば底さらいのスライムが困っている人の所に届けてくれるかもしれない。現にそれで助かった人は多いのよ」

「聞こえはいいけれどそれってそこらじゅうに底さらいのスライムだらけになるんじゃないか?装備品を捨てる人の方が圧倒的に多いだろう」

「ならないわよ、装備品は部位ごとに一人一つよ。だから今確認しているけど装備品が出て、今のより良いものだったら直ぐに今持っている装備を捨てるもの」

「え、結局溢れかえる事には変わらなくない?」

「私が今着ている服やこの杖もだけど元々は誰かの装備だったものよ?装備は運営さんが作るもので私達が作ってはいけないものなの。もし作ったりしたらその場で死ぬわ」

「怖!何それ!装備が増えていかない理由は分かったけど、装備を集めていた俺としてはちょっとなー」

 おもむろにメニューを開く。そしてガチャページを開いて話を聞いた限り装備ガチャなんてないよなーっと思い見てみると普通に『装備品ガチャ』っというのがあった。おいぃいいいい!さっきまでの話しはなんだったんだよ!クソ運営が武器作るっていうか、俺みたいな冒険者がガチャを引いていらなくなったのをポイ捨てしまくっていたのを美談に聞こえるように調整しただけじゃね?これ。

 他にもガチャを見ていると通常のガチャに加え、男ガチャやBBAガチャ、美少女ガチャなんてものがあった。

 是非ともこの美少女ガチャを引きたいものだが、美少女ガチャだけ他の男ガチャやBBAガチャに比べて100倍の値段であった。さすがクソ運営舐めてやがる。

 俺がガチャページを見ている間に泥あさりもとい底さらいのスライムあさりが終わったようだった。

「一つレアっぽい武器があったけれど近接の武器だったのよね、取りあえずもっていく?」

「一つしかなかったのか?随分と所持品に入れてた気がするが」

「良く見てるわね、大丈夫よ別に全部私の物!なんて言わないから。ちゃんと半分こしましょう」

「いや別に俺何もしてないからいいんだが」

 事実俺は何もしていない。ただイスリアに対して失礼な事を考えて見ていただけである。だがイスリアはそれは違うと言ってきた。

「何もしていないように思うかもしれないけど、タケオさんがいなかったら私は今ここで戦えてないわ。だから気にしないで受け取って」

 そう言って俺の手の上にイスリアの所持品から出されたのであろういくつかのアイテムが渡される。そしてそれはどうしようかと迷う暇なく消えていった。

「え、これってどういう事?」

「所持品に入っているから確認して見て、あるでしょう?」

 言われてメニューを開き、所持品を開くとそこには【スライムの体液×3】【???の双剣×1】【ポーション×2】っと表示された。

 底さらいのスライムの体液ではなく纏めて【スライムの体液】にするあたり運営のサボりが窺える。【???の双剣】っというのが近接の武器なのだろうか、【ポーション】も二つ貰ったがこれってあの底さらいのスライムが落とした奴なのか?飲んだら状態異常毒とかになったりしないよな?

「あったけどこの【???の双剣】って何だ?運営の手抜きか?」

「さんを付けなさい、さんを。でないとバチが当たるわよ。それは装備できる職種の人が装備して初めて名前が表記されるの。大体があまり良いものではないけれど、稀に凄く強力な武器だったりするわ」

「ふむ、でも装備って一人一つなんだろう?捨てるのが普通なんじゃ」

「普通はそうするんだけれど、タケオさんにはガチャがあるでしょう?双剣を使える人を引いたらそれをあげるといいわ」

「なるほど、でも当分は引けない気がするけどな・・・」

「どうして?ガチャは高いとは聞くけれど引けない程ではないと思うのだけれど」

「ほら見て見てくれよ、この値段でガンガン引ける奴がいたら課金者以外いないだろう」

 俺はそう言ってメニューを開き、ガチャページを開くとそれをイスリアに見せる。問題の100倍の値段を見せる。

「何でこんなに高いのかは知らないけれど他のガチャを引けばいいだけじゃないの?通常ガチャでいいじゃない、これなら今すぐでも引けるし」

 首をかしげるイスリア。ダメだよ、それはダメだ。イスリア、君は何も分かっていない。ガチャでイスリアを引いた時俺が気を失っていた際周りから話を聞いていた筈だ。それと引きの異常さも見たのだから気付いている筈だ。それなのにそれはダメだよ。

「提供割合を見せようか」

 言って提供を割合を見せると男が49.99995%、BBAが49.99995%、美少女が0.0001%となっている。

「凄いじゃない!2分の1でSSRがひけるのよ!男の方も合わせたら6割くらいの高確率じゃない。今すぐ引きましょう?」

「馬鹿言っているんじゃねえ!BBAなんていらん!男なんてもっといらん!俺は美少女に囲まれてキャッキャウフフしたいんだ!」

「それを私の前で堂々と言えるタケオさんは凄い事だと思う、けれど効率が上がるし安全にも繋がるのよ?良い事だらけじゃない」

「何と言おうと俺は絶対に美少女ガチャ以外引かないからな、効率?安全?そんな事より美少女に決まっているだろう。俺は知っているんだぞ、どれだけ仲の良い男女混合グループでもグループ内で恋愛を誰かがした瞬間全てが壊れる事を」

「・・・それは実体験から?」

「いや、そういう事が良くあると本で知っているだけだ。絶対に同性を二人以上にしてはいけないと」

 実際俺の通っていた中学高校とそういう事があってか、ワイワイと集まって喋っていた男女混合のグループがいつの間にか散り散りになっているのを見かけている。そしてそういう事があれば同然噂となって耳に届くものである。それが真実であれ嘘であれ重要なのは散り散りになってしまう事だ。まして取る側ならまだしも取られる側になったらと思うと、とてもじゃないが男が引けるガチャなんて引く気が起きない。そして異世界ガチャ9999回を引いた俺は知っている。誰一人として例外なくイケメンだったり渋い感じだったりと女性受けする見た目であると。なら答えは一つ、引かないという選択ただ一つ。

「そう言う事にしておくわね」

「いや、本当なんだが・・・」

 俺が本当なんだと言ってもイスリアは可哀そうな子を見るような目で「もういいから」っと言ってきた。事実俺の事じゃないのに本当に俺がそうなった気分になってくるじゃないか、どうしてくれる。ウキウキな気分で街に入りたかったのに、こんな気分で街に入る事になるのか・・・。

「それはそうと先を急ぎましょ。レベルも上がって装備も手に入って良い感じに進んでいるけど、街に着くまでは安心できないわ」

 言って直ぐさま下山を再開するイスリア。メニューを閉じて俺もイスリアの後ろを追いかけるように下山を再開する。

 その後魔物が出る事も無く舌を噛むからと怪我を治してもらう時以外は喋らずもくもくと下山するとあっという間に一山目が終わった。引き続き二山目に入って今度は登り始める。一日で二山登るのはやはりきついものがある。魔法使いはこういう時足手まといなイメージが強かっただけに、文句の一つも言わずに並んで登っていると偏見だったと意識を改める。もしかしたらイスリアが特別なだけかもしれないが、今の所魔法使いで知っているのはイスリアだけだ、BBA?あれは俺には関係ないからしらん。

 ガチャで引いていた限りでは杖に体重をかけていたBBAは一人としていなかったと思うが、男の方はチラホラとごく少数だがいたのは覚えている。需要の問題なのだろうか。

 二山目を登り始めると同時、イスリアから話してきた。

「さっきは下山中だったから説明しながら歩けなかったけど、登っているから説明するわね」

 はて何のことだろうと首をかしげる。そんな俺を見ても溜息一つつかず説明を開始するイスリア。

「底さらいのスライムはスライムの中では数は少ないけれど、他の魔物からすればとてもとても多いの」

 ああ、何故レアアイテムが落ちるのに狩る人が全然いないかっという事の説明だと理解する。たしかに聞いたけど、聞いた本人が忘れていた事良く覚えているものだ。

「ほほう、それで?」

「レアなアイテムを落とすのは別に底さらいのスライムだけではないって事よ。むしろ捨てた装備ということはそれより良い装備があるって事になるから、強くなりたい人は見かけたら倒そうか、くらいにしか考えていないのよ」

「たしかにそうなるな、俺も時間をかけてまで出るかも分からないスライムを探してまで倒そうとは考えないな」

「でしょう?それにドラゴンが良い例なんだけど、光物を集める習性があるからその中にレアなアイテムがあったりする事も多いのよ。ドラゴンじゃなくても魔物でも収集が好きなのもいるし、個体によって好みの物が違ったりとそっちのほうが余程人気が高いわ」

 確率が低い上に数が多いとは言え探してまで倒そうとは思えない底さらいのスライムより、確率が高いドラゴンや収集する魔物が人気なのは納得出来た。

「ドラゴンやそういう魔物って倒して奪うんだよな?レベル上げとか大変だな」

 何気なく言った俺に、イスリアは何いっているの?っという顔をした。今日何回目だよその顔。

「倒しちゃったらもう集めて貰えないじゃないの、こっそり取りにいくのよ。もし見つかったら逃げるのが無難だけど倒したら非難轟々よ。それと見つかって逃げるとドラゴンや収集好きな魔物は住む場所を移動しちゃうから見つかったら死ね、って言う人もいるくらいよ」

 なんという世界だろうか、俺の思っていた異世界と大分違う。もっと夢溢れる世界だと思ったのに、随分と現実的と言うか効率的と言うか。倒したら非難されるというのが事のほかショックだ。ドラゴンとか倒したらドラゴンバスターとか、ドラゴンキラーとかの称号が付いたりして英雄扱いなイメージがあるのに、この世界だと倒したらドラゴン殺しの戦犯とか、ドラゴンを殺しの賞金首とかっていう称号が付きそうだ。

「思っていたのと随分違うな・・・」

「小さい村とかだとドラゴンが近くに住み始めたら毎日お祭り騒ぎものよ?ドラゴンの持っているアイテム狙いで来た冒険者がお金落としてくれるし、村で一番優秀な選ばれた人が金目のものを一つでももってこれれば更に潤うし」

 ドラゴン=天災でなく、ドラゴン=金策なのか。それも倒してと言う訳では無くてだ。ドラゴンとか鱗とか牙とか羽とか素材の宝庫なイメージだったけど、長期的にみたら圧倒的にイスリアの方が良いのは分かる。それに素材を取ったとしても装備作ったらクソ運営に殺されるし、納得である。

「俺はドラゴンと聞くとラスボスとか天災のイメージだったんだけど、それを聞くと良い事だらけだな」

「実際は色々と大変らしいけどそう言う経験は無いから詳しい事はわからないわ。それと国や街が管理する土地にドラゴンとかが住めばいいんだけれど、小さい村とかの圧倒的に人口が足りない土地だと村自体を襲って村を奪う輩も出てくるから、そちらのほうが余程危険かしら」

 人口が少なければその分戦える人も当然少なくなるだろう。まして村と聞くとお年寄りが多いイメージだ。子供も勿論いるだろうがきっと年端もいかない子たちだろう。

 そして成人したら街に自らの夢を見て出て行くのが想像出来る。そうしてどんどん過疎化が進み衰退していった所にドラゴンや収集好きの魔物が周辺に来たら、力のある村人はほんの僅かだろう。そんな中、力をもった集団が村を襲えば結果は目に見えている。

 っということはならず者てきな何かはいると言う事になる。ならず者ジャンルの山賊や海賊がいるとしたらここは山、山賊に出くわしたら勝てるのだろうか?相手は同じ人間だろうし、地の利もある。逃げ切れるとは思えないが。

「なるほど。話を聞くにならず者てきな何かが居るっていうのは分かったんだが、山賊とか海賊とかっているのか?」

「いるにはいるけどそれだけを生業にしている人ってのはいないんじゃいかしら。普段は山賊だったら山でキノコの栽培や畑で仕事をしていたり、海賊だったら海で魚を獲ったり養殖とかやっていると思うわよ」

「どういう事だよ!?聞いている限りじゃ仕事の合間と言うか趣味みたいな感じに聞こえるんだが」

 俺は嫌だぞ、口にする食べ物が人の血肉を肥料やエサとして取ったやつとか、考えたくもない。スーパーとかで私が育てました!とかって書いてある農家の人が実は裏では山賊で人殺しとか、そんな世界あってたまるか。あの元気の出る良い笑顔と無農薬最高じゃないか。

 それと漁師とか危険な仕事だから口調がキツイだけで話せば大体が良い人達ばかりなのを知らないのか?見た訳でないのに海賊しているかもとか偏見絶対はいってるよね?そこの所もっと詳しく。

「それはね、っとちょっと止まって」

 言ってイスリアは片腕を横に広げて俺がこれ以上前に進まないようにする。

 しかし今度は俺の傍から離れず、むしろ近づいて肌と肌が触れ合う距離までになる。底さらいのスライムの時は俺を置いて突撃していったけど、今回は違う魔物なのかと少し期待する。

「痛いけど我慢してね!」

「えっ?」

 不意に腕を引っ張られて地面にうつ伏せに倒される。そしてその上を頭から足に向かって何かが空気を切って通る音がする。何なんだよと起きあがろうとすると腹を思いきり蹴られて横に転がされる。近くの木の所までゴロゴロと転がりドスっと鈍い音を立てて止まった。

「いってぇええ!何すんだよ!」

 転がった事によりうつ伏せから仰向けになり、叫びながら何がどうなっているのかを確認する。すると山道の上側に肌が灰色で鼻と耳が長く伸びており、お世辞にも顔が整っているとは言えない小人のような魔物、色こそイメージと違うもこれぞゴブリン!っというのがイスリアを襲っている所だった。

 手にはシミターのような刃が反った武器をもっており、ブンブンと振りまわしている。そしてその背後には弓を持ったゴブリンがこちらに向かって矢をパシュンパシュンっと慣れた手つきで撃ってきていた。

 それをイスリアは一人で俺を庇いながら対峙していた。矢が飛んで来れば杖で受け、シミターが迫ってくればそれを杖で受けるか避ける。けれどイスリアは防戦一方で反撃をしない。2対1(足手まといつき

)だとゴブリン相手でも厳しいのかと焦る。

 底さらいのスライムときは3対1だったとはいえ個別討伐が容易だった。けれど今回は連携の取れた相手だ。

 攻撃を受け始めてからイスリアが攻撃を受ける合間に周囲をキョロキョロと見ている。逃げる場所をさがしているのだろうか。見ているだけとは言え良い加減転がったままでいる訳にもいかず、逃げる為にも遅れまいと起きあがろうとした瞬間イスリアに蹴られた。距離があった為かとび蹴りである。

 瞬間またも俺の上を何かが空気を切って通る音がし、状況から見て背後にいたゴブリンの矢だと認識する。

「いってぇな!もう少し護り方ってもんがあるだろ!」

「ゴブリン相手に立つんじゃないわよ!そのまま寝てないさい!」

 何故立ってはいけないのか、横になっているほうが避けられなくて余程危ないと感じるのは至極当然の事ではないのか。

 イスリアと言えばとび蹴りを俺にかましたくせに、直ぐに立ちゴブリンと対峙していた。そして目の前の二人のゴブリンと先程と同じく防戦一方の立ち回りをしていた。そして合間にキョロキョロと何かを探すのまで同じ、逃げる場所を探すにしても随分と余裕があるように見えるんだが。

 立つなと言われた俺はリビングで横になってTVを見る父親の様なポーズでイスリアとゴブリン達の戦闘を見ていた。当事者なのにもはや映画でも見ている気分である。周囲を見ていたイスリアとチラリと目が合うも特に何かを言われるわけでも無く、イスリアは攻撃を防ぎながら相変わらず周囲をキョロキョロとしていた。

 ゴブリン達の攻撃は主体が矢による攻撃らしく、シミターを振っているゴブリンはただただブンブンと振りまわしているのは素人目でも分かった。ゴブリンによる攻撃は単調な為、永遠と繰り返される動画を見ているようで眠くなってくる。それでも護って貰っている立場上イスリアが戦っているのに寝るわけにもいかず、欠伸をしながらもなんとか太股をつねって耐えていた。

 ゴブリンの矢、結構な数を撃っているのによく無くならないなっとどうでも良い事を思っていると、不意に俺が横になっている最寄りの木の間上から何かが振ってきた。それと同時、イスリアが吠える。

「ウインドウ!」

 今回の戦闘で初めて魔法を唱えたイスリアは「ふぅっ」と息をついていた。イスリアのウィンドウで舞い上げられたのは戦闘していたゴブリン2体に比べ一回り小さいゴブリンだった。腰までにもみたない程大きさのゴブリンは底さらいのスライムの時よりさらに5m程高く舞い上がり、そして重力に従い加速していき地面に叩きつけられた。

 一応2足歩行な魔物な為余り見たく無い状況になると思い目を瞑るも、不思議な物で薄っすら目を開けてしまう。

 だが予想に反して車に轢かれたカエルのようにはなっておらず、ましてまだ生きていた。ヨロヨロと立ち上がる姿は生まれたての小鹿のようである。もっとも、思わず応援したく度合いは比べるまでもないが。

 そんな中イスリアのいる方からグゲェエエ!っという声がしたかと思って見てみれば、シミターを振りまわしていたゴブリンの口に杖の先を入れているイスリアの姿があった。

 その様子から何をするのか用意に想像が出来ただけにゴブリンには同情する。魔物とはいえ即死であることを願う。底さらいのスライムのときと同じようにイスリアはその魔法を唱えた。

「ファイア!」

 瞬間ゴブリンの目は見開かれ、イスリアは杖先を口から引き抜くとゴブリンの口から煙がプスプスと立ち昇っていた。そして肉を焼いたような臭いが風に乗って俺の鼻に届けてくる。今日ほど焼き肉を食べたく無いと思った事は無い。

 そういえば矢を撃っていたゴブリンはどうなったのかと見れば、矢がきれているらしく先程のゴブリンと同じシミターのような武器を構えて突撃してきた。逃げる事も出来たかもしれないのに、潔く散ろうというのだろうか。

 イスリアはそれに対して落ち着いた様子で対処する。

「ウィンドウ!ウォーター!アイス!」

 ウィンドウでゴブリンは高く舞い上がり、ウォーターで着地地点であろう位置に水で出来た円錐が何本も現れ、それをアイスで凍らせた。結果舞い上がったゴブリンは重力に従い氷の円錐の上に落ちて串刺しとなり絶命。

 どうしてこうイスリアは倒し方が一々酷いのだろうか。絶対に敵に回したくない部類の相手である。

「あら?そっちの司令塔は自滅したのね、経験値半減だわ」

 イスリアに言われて思い出す。見ればかろうじて生きていた筈の一回り小さいゴブリンはその場で倒れて動かなくなっていた。

「自滅されると経験値は半減なんだ?」

「えぇ、そうよ。普通はしないんだけれど、このゴブリン見たいに種族の中で頭が良いのがたまにいるんだけれど、そういうのが最後の嫌がらせにとするらしいのよ。知識としては知っていはいたけれど、初めての事だから本当にするなんて思わなかったわ」

 頭が良いならそもそも襲う事をしないと思うんだが、そこはやはりゴブリンという種族の限界なのだろう。そしてイスリアが防戦一方だったのはこのゴブリンを探していた事だと理解した。頭が良いといっても個体差がある分イスリアは用心していたのだろう。今回は勝てたがゴブリンが策を弄していれば結果は逆だったかもしれなかったのだ。

「それにしても良くきづいたな?まだゴブリンがいるって」

 スライムと戦った時もそうだが、ゴブリンと戦った時もイスリアは慌てた様子は殆ど無く、問題無く倒していった。それに矢を杖で受けるとか完全に漫画やアニメの世界の中だけだと思っていた。俺のいた世界に実際に出来る人とかいるのだろうか。

 また、ゴブリンが他にもいると直ぐに見抜く辺りもしかしたら良い所の出なのかもしれない。服装を見るだけだと全然そんな風には思えないけれど。

「知識として知っていただけよ、別に何も凄い事じゃないわよ」

 言いながらイスリアは自滅したゴブリンに近づき杖を構える。

「ファイア!」

「お、おい!」

 死体蹴りはマナー違反だろ!っと思いつつもこれがこの世界のマナーなのか?っと思う。FPSのゲームで何度スクワットされた事か、ムキになって倒しに行けば倒されるだけの悪循環。結果倒しても1キル5デスとかになった時にはコントローラーを放り投げる。何度壊したか分からない。

「何よ?これは本当に死んでいるか確認しているだけよ。頭の良い奴は死んだフリをして襲ってくる奴もいるんだから」

 だが当のゴブリンは苦しむ様子どころかピクリとも動かず本当に死んでいた。

「そうだったのか、それは悪かった。助かるよ」

「タケオさんは簡単に騙されやすそうですね。可愛い女の子を見かけたら見た目だけに騙されて貢がされてポイ捨てされそうです」

 それは正しくあっている。一秒でも長く可愛い子と一緒にいたいと思うのは男なら当然だろう?異論は認める。好みは人それぞれだからな。だが押し付けはしない、だから押し付けないでくれ。

「可愛い子になら騙されても生きていけるよ。だがそれ以外だと無理だな・・・」

「・・・寂しい青春だったんですね」

「言うなよ・・・」

 本当にそれを言うなよ。異性と接触とか教室でちょっと肩とか腕がぶつかった時とか、学園際とかでよく分からないダンスを順番に踊った時くらいしかないんだから。思い出すだけで悲しくなってくる。実際に異性と付き合ってる人って本当に凄いと思うわ。完全に雲の上の存在だわ。

 今回は魔物がゴブリンということもあり、レアアイテムは無いだろうと物色する事もなく山登りを再開した。


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