表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

課金兵だった俺が異世界で無課金兵生活 3

 運営による転移魔法により、俺は異世界へと飛ばされていた。しかし、どこを見ても一面畑か森。家は見える範囲では無く小屋と呼ぶのもおこがましい程ボロボロの建物が一つあるだけだった。時刻は昼前だろうか、日が昇ってから少ししか経っていないように見える。異世界において太陽らしきものがどの方角から出てどの方角に沈むかは知らないが。

 道は当然のように整備などされている訳も無く、農民と思える人らしき姿がちらほらといるだけであった。

 一緒に飛ばされたイスリアは俺の横にいるも、自ら口を開く雰囲気ではなかった。

「なあイスリア、ここって本当に異世界なのか?」

 とは言え俺は異世界の常識を全く知らない。イスリアだけが頼りではあるのだが、興味が無い相手に話しかけると言うのは思ってた以上にしんどいものだ。

「はい、私の生まれ育った世界ですのでタケオさんからすると異世界ですね」

 淡々と感情の無い声で言うイスリア。聞けば答えてくれるだけ良いだろう、ここで見放されたりしたら俺は野たれ死ぬ自信があるぞ。サバイバル生活なんて当然経験は無いし、あったところで異世界では俺の想像を超えた事が起きると信じてる。

「そ、そうか。それじゃまずどこに向かえばいいんだ?近くに街じゃないにしろ村くらいはありそうなもんだが」

「この道を道なりに進むと街が見えてきます」

 今いる所は丁度道の真ん中にいる。そしてイスリアは道なりに真っ直ぐ斜め上をさして言った。完全に森の中、いや山を指している。

「真っ直ぐってこの道は山に向かってると思うんだが、山を越えるのか?」

「はい、二山越えますね」

「まじかよ・・・」

 山は500m程の標高であろうか、山としてはそこまで高くないとはいえ山は山だ。宝くじを当ててから買い出し以外で外に出ていない俺の身体能力を舐めて貰ってはこまる。とてもじゃないが一日で街までつけるとは思えない。

 だがふと気付く。周囲に泊まれるような家は無いけれど、農民とおもしき人達が畑仕事をしているのだ。まさか毎日山を上り下りしてるとは思えない、何か方法があるのだろう。

「畑仕事をしている人がいて周囲に休む場所が無い。つまり何かしらの移動方法があるのか?」

「あります。けれどタケオさんには無理です」

 やっぱり移動手段があった!けれど俺には無理とは一体どういう事だろうか。それと答えてくれるのは助かるのだが、聞いた事しか答えてくれないと言うのは止めて欲しいのだが。聞きたい事聞いたらずっと無言とか気まずすぎるぞ。

「俺には無理って事はイスリアは出来るのか?それと方法を教えてくれ」

「私は出来ます。方法はそこのテレポポイントをメニューから登録してください」

 イスリアは出来ると、それとテレポとかあるのか流石異世界!テレポといったら魔法だよな!すごい異世界っぽい!そしてイスリアはそこのテレポポイントと指さしたのは、小屋と呼ぶにもおこがましいと思っていた建物だった。

「メニューはガチャ以外灰色表示になってた筈だが・・・おお、全部白く表示されている!」

「灰色表示はあっても意味が無い時、誤動作をしないようにする為の処置です。今は街の外にいる為白くなっているのです。街の中では戦闘に関する事が基本灰色になります」

 俺はメニューを開き、忘れないうちにテレポポイントを登録しようとしてどこにあるのか分からず聞く。

「テレポポイントはどこから登録すればいんだ?」

「設定の所にあります。面倒であればテレポポイントに手をかざせば登録をするかどうかの所まで勝手にメニューが開いてくれます」

 なるほど、ガチャの時も思ったが基本的にその対象に近づいて手をかざせばメニューが開いてくれるって事か。便利だけど一応覚えておかないと後々困りそうだな・・・。

「念の為、今回は忘れないように自分で設定を開いて登録するよ」

「そうですか」

 あ、そう。一々私に何をするか言わなくて良いよ?っという顔をされた。興味は無くとも一応見た目は好みの女の子にそう言う風にされ続けるのは傷付く。

 メニューから設定を開き、テレポポイントという項目があった。それを押すとまだどこも登録されていない為か空白のだけがページがあり、右下に【登録する】というボタンだけがあった。

 【登録する】を押すも『近くにテレポポイントがありません』っと表記された。かなり近くにまで行かないとダメなのかと思い、ボロボロの建物に距離を測るように登録画面を開きながら近づく。

 すると5m程の距離まで近づくと空白のページに灰色表示で『始まりの地』っと表記された。

 表記された『始まりの地』を押すと【登録する】の所がピカピカと白く光り、登録できますと主張してきた。

 【登録する】を押すと自信の足元に円形の小さい魔法陣が出て、直ぐに消えた。

 え、これで終わり?っと思っていると珍しくイスリアから声をかけてきた。

「これで登録終わりです。後はもう一つのテレポポイントを登録さえすれば、晴れてタケオさんもテレポによる移動が出来ます」

「おお!そうか、それは楽しみだな!」

 これぞ魔法のある世界だよなーっと思っているとイスリアは含みを持った笑みで言ってきた。

「ですが登録を済ませた所でタケオさんはテレポ出来ませんけどね」

「は?それってどういう事だよ」

 おいおい、待ってくれ。テレポによる移動が出来ないとか移動出来ると思った瞬間に言うの酷くない!?

「私は魔法使いであるので私自信はMPを消費して移動できますが、タケオさんはMPが存在しません。この異世界においては公式に認められたバグのような存在ですから」

 公式に認められたバグってそれってどうなんだよと思わなくもないが、俺は元いた肉体でこの異世界に来ている訳だから考えようによってはバグというのは納得出来てしまう。

 だが納得はしたものの俺も好きでこのようになった訳では無いのだから、そこの所はどうにかして欲しい所だ。

「どうにかしてテレポは出来ないものか・・・」

「街に行けばテレポ屋というのが存在するので、その方達にお金を払えば飛ばして貰えますよ。足元を見られるのは間違いありませんが」

「っというかテレポ屋もMPを消費して対象を飛ばすのなら、イスリアも同じ事が出来るんじゃないのか?」

 俺がそう言うとイスリアは酷く嫌そうな顔をして言った。

「出来るか出来ないかで言えば出来ますが、正確には出来るようになりますが正しいです。召喚されたばかりなのでレベルが1ですし、MPの最大値が低くてタケオさんを飛ばす程のMPはありません」

「イスリア自信はテレポ出来るのに俺に対して出来ないのは消費MPが違うからなのか?」

「その通りです。そして先程も言いましたがレベルが1なので私自身もまだ飛ぶ事が出来ません。ですので山を越える道中は出来るだけ戦いたいですが・・・」

 俺を見ながら嫌そうな顔をしながら溜息をつく。溜息を付きたいのは俺の方だよ、宝くじで一等を当ててからと言うものの碌に動いてないから足腰が弱いんだぞ!そんな運動不足状態で山を二つ越えるとか鬼畜の所業すぎる。

「取りあえずテレポポイントの登録は終わったし、日が暮れる前に行ける所まで行こうか」

「そうですね、昼前ですし今から向かえば夜には着くでしょう」

 昼前から夜まで歩き続けるとかマジかよ。それと時間があってた事に少し喜びを覚える。

 気分が良くなった所で道なりに山に向かって歩き始める。けれど俺の視界にはイスリアの姿は無い。横に並んで歩く訳では無く、俺の後ろを5m程開けた距離で着いてきた。これ傍から見たら完全に他人に見えるのではなかろうか。行く先が同じだから着いていく格好に見えるだけで。

 それ以前にこの距離で敵に出くわしたら俺死ぬんじゃね?イスリアは魔法使いって言ってたけど詠唱に時間掛かるのが魔法使いな筈だ。レア度でいったらRだしレベルも1だ、碌な魔法を覚えているとは思えない。歩くペースは落とさず後ろに向かって話しかける。

「なんでこんなに距離を開けて歩くんだ?これから山に入ると言うのに、まず間違いなく敵が出てくる事だろう?俺はレベル1のゴブリンとかスライムに殺されるという不名誉な事は絶対に嫌なんだが」

「説明するとタケオさんが絶対に嫌がるので後で説明します。だから今はタケオさんの中で都合のいい方に納得して進んでください」

「説明するしないに関わらず、それを言ったら普通絶対嫌がるよね!?立場上一応召喚した俺の方が雇用主的な感じで上じゃないのか?」

「私達召喚された側はあくまで不特定多数のタケオさんの様な異世界の人に召喚されたと言うだけです。元々この世界に住んでいる身ですから極端な話し、何の力も持たないタケオさんを見捨てた所で私達は困りません」

「酷いな・・・。そもそも召喚される条件って何だ?食事中とかお風呂中に行き成り召喚とかされたら最悪すぎるだろう」

「その辺りはこの世界の管理している運営さんが配慮してくださっているので大丈夫です。それに、召喚される為には召喚されても良いと運営さんに書類を提出しないといけません。タケオさんの世界で言う所の就職活動みたいなものですね」

「就職先を選べないとか最悪だな!?」

「そうですね、今非常にそれを痛感しています」

「っ・・・!」

 言動と態度からしてそう思われているのは理解していたが、ハッキリと口にだして言われると傷付く。この話の流れは良くない。不自然じゃない程度に別の話しにずらそう。もう直ぐ山に入るがこのまま話ていれば心は傷つくかもしれないが寂しさは埋められよう。

「生活するだけなら召喚される手続きをしないでも良いと思うんだが、何かメリットでもあるのか?」

「・・・・・・」

 返事が無い。聞こえなかったのかと思い、後を振り返りながら言う。

「なぁ、何かメリ・・・」

「黙秘します」

 俺の言葉に被せるように言うイスリア。表情は怒っているように見えるも、声は相変わらず淡々としている。

「山に入るのでここからは黙って前を向いて、道なりに進んでください。このままだと夜に着く事が難しくなります」

「そ、そうか」

 イスリアのそれ以上聞いてくるなという圧力が強く、夜に着く事が難しいとなればそれに応じるしかない。何か大事な事を忘れている気がするが、きっと気のせいだろう。

 田舎道から山道に入ると景色は一変し、のどかな雰囲気が漂う畑など当然見えなくなり見えるのは獣道なんじゃ無いかと思う程人が通った気配が無い山道。かろうじて道らしきものは分かるが、木々が生い茂っている為落ち葉の量が半端じゃない。人が殆ど通っていない事が窺える道は右に左、右に左と蛇行した道となっており、歩きやすい角度はなっているのが唯一の救いか。

 黙々と登り続け、一つ目の山の中腹に着くころには昼はとうに回っていた。その間、一度も会話をする事無く歩き続けた為そこそこ良いペースで登れているのではなかろうか。

 そんな事を考えていると今まで鳥や虫の声しか聞こえていなかった山道で、鳥や虫の音が全く聞こえなくなりガサガサッと音がしてそれが徐々に近づいてくるのが聞いてとれた。

 山といえば猪や熊だろうと思うも熊除けの鈴なんて持っているわけも無く、これは非常にマズイんじゃと思うもイスリアがいる事を思い出し、レベル1で通る山に勝てない敵はいないだろうと勝手に思い込む。

 俺が勝手に大丈夫だと思っていると不意に腕を引っ張られ、そのまま山を走って登る格好となる。

「死にたくなければ全力で走ってください!」

「えっ・・・ちょま・・・!」

 腕を引っ張ったのはイスリアで、その顔には嫌そうな顔や怒った顔では無く、本気でヤバイと思った焦った顔だった。まして最初にガチャで引いて会った時以来ではなかろうか、イスリアの感情のある声を聞いたのは。

 何がどうなっているかというのは後でも聞ける。引っ張られるまま走る訳にも行かず、後の事は考えず全力で走った。

 全力で走ってから10秒程してからだろうか、背後から『ウゴァアアアアアアアアアアアアア!!』っという声が聞こえてきた。

 その声を聞いた途端、足が動かなくなる。足がすくんでいるわけでも無く、急に走ったから痛くなったと言う訳でも無い。ただ動けないのだ。

 それは俺の前を走っていたイスリアも同じらしく、その場で硬直していた。何が何だか分からないも、今は声を上げてはならない事だけは本能的に理解出来た。今声を上げたら間違いなく死ぬと。

 ガサガサと背後から音が聞こえる。それが近付いたり離れたりしている。そしてガサガサっという音が遠のいて行き、完全に音が聞こえなくなる。すると鳥や虫の声が少しづつ聞こえてきた。

 ガサガサっという音がする前に戻ったのだろうか。不安ながらに足を動かしてみる。すると今度はいつも通りに動き、イスリアに近づく。するとイスリアから言葉をかけてきた。

「ここからは並んで登りましょう、先程の事も説明するわ」

 いつもの淡々とした言葉で無く、真面目な顔と声をしていた。

「分かった、頼む」

 聞きたい事は沢山あった。何故距離を開けて登ったのか、会話をしながら登ってはダメだったのか、先程の声の正体はなんだったのか。けれど聞きたい気持ちをグッと堪えてイスリアの説明を聞く事にした。

 説明は横に並んで歩いて登りながらであった。

「まず先程の声の正体はこの辺りの山一帯を縄張りにしているタヌキよ」

「待て待て、あの声の正体がタヌキとかおかしいだろう。どう考えても熊とかの大型生物の声だろう」

 は?あの声の正体がタヌキとか納得出来ない。絶対嘘だろう、本当は熊かなんだろう?ここに来て笑えない冗談は止めてくれ。けれどイスリアは真面目に言う、冗談ではないと。

「異世界から来たタケオさんはそう思うかもしれないけれど事実よ。あのタヌキはソロ狩りと呼ばれているわ」

「ソロ狩りとか俺ら二人だったじゃん・・・弱そうだから襲ってきたのか?」

「いえ、ソロ狩りはどれだけ弱い相手でも二人以上の相手には襲ってこないわ。そこは私が悪いの、ごめんなさい」

 言ってイスリアは頭を下げる。だが俺は何に対して謝られているのか全く分からない。説明してくれ説明。

「俺にも分かるように説明してくれないか?イスリアも知っての通り俺はこの世界の事を何一つ知らない。イスリアにとっては常識でも俺にとっては初耳しかないんだ」

「そうね、私は召喚時にタケオさんの事やその住んでいた世界を予めある程度知ることが出来ているけど、タケオさんは召喚されたわけじゃないんだったわね」

 何その情報。俺の情報知られているとか怖いんですけど、知りたく無かったよその情報!

「それについては後で詳しく説明して貰うとして、何で俺はイスリアに謝られたんだ?」

「それは・・・」

 それまでスラスラと答えてくれていたのとは違い、非常に悩んでいる。俺の情報が関係していたりするのか?美少女と一緒にいたいという至極当然の想いのせいなのか?

「いや、そんなに悩むなら無理に説明しろとは言わないけど・・・」

 命の危機があったのだから当然説明は欲しいが、ここまで悩まられると聞きづらい。

「いえ、ちゃんと説明しないとダメよね・・・」

 ボソリと俺になんとか聞こえる程度で言うイスリア。両手はグーで自信に気合を入れているようだ。

「山に入るとき距離を開けて話かけないでって言ったのは覚えているかしら」

 俺が聞こうと思っていた事だ、当然覚えている。

「ああ、覚えている。それがどうしたんだ」

「あれはね、タケオさんを餌にして襲ってきたゴブリンやスライムを倒してレベルを上げようとしたからなの」

 おいぃいいいい!?それって道徳的にどうなのよ!異世界だから普通に殺し殺されの世界だから道徳言ってもしょうがないとは思うけど!

「お、おう・・・。それで?」

「だけど一向にゴブリンもスライムも出なくて、レベルも上げられないしこのまま街までレベル1かなって思っていたら不意に鳥や虫の声が聞こえなくなったでしょう?」

「それは俺も気付いた、そしたらガサガサっていう音がしたな」

「そう、それであっこれはソロ狩りだなって思ったんだけど、ソロ狩りはその名の通り一人の人しか狙わないから勘違いだろうって思ってたの」

「結果ソロ狩りだったわけだが?」

「それはね、山に入ってから会話もしないし距離を開けて登ってたから仲間じゃないと思われていたのが原因だと思うの」

「えぇ・・・。つまりゴブリンやスライムおびき出す餌にされた揚句、楽観視から本当に死にそうになったって事か」

「そう、だからごめんなさい」

 言ってまたも頭を下げるイスリア。見捨てない辺り根は優しい娘なのかもしれない。餌にされたけど、餌にされたけど!

「そしたら音が聞こえた時点で横に並ぶだけでよかったんじゃないのか?一人のときしか襲ってこないなら」

「ううん、ソロ狩りは一人の時に狙うんじゃなくて仲間で無いなら二人でも一人と一人で見るから襲ってくるの」

「それならなおの事俺とイスリアは仲間だから問題ないんじゃ・・・」

「本来はそうなんだけど山に入ってからずっと見られていたと思うから会話をしない、つまり二人じゃなくて一人と一人っていう勘定になってたの。現に逃げた後、吠えてたでしょう?あれは獲物を動けなくして狩るときにする行動なの」

「やっぱり動けなくなったのってあの声を聞いたせいなのか」

「状態異常のスタンね、一時的に何も行動出来なくなるわ。耐性だったりレベルだったり対処法はいくつかあるけれど、今の私達は食事になるか逃げるかの二択しかないわ。高レベルであっても一人だときちんと対処しないとソロ狩りの食事になってしまう事もあるそうよ」

 食事かー、いつも食べる側だから気にした事がなかったけれど、いざ食べられる側になると恐ろしいものだな。あまり考えたくない。

「取りあえず会話をしながら並んで歩けばソロ狩りには襲われないわ。スライムやゴブリンが襲ってくる事が無くなるのは残念だけど、命には変えられないものね」

「俺の世界のゲームではイスリアみたいな召喚された人ってのは、死んでも復活できたりするものなんだがこの世界では出来ないのか?」

 ここは異世界であってゲームでは無いのは分かっているものの、魔法がある世界と言うものがどうしてもゲーム感覚になってしまう。

「・・・タケオさんの世界では死人が生き返る事があるのかしら?」

「いや、基本的には無いが」

 事故や病気で心臓が止まっても、医師の処置により生き返る事はある。ただそれをこの世界にあてはめて生き返るかどうかと言われればそれは否だろう。

「でしょう?この世界でも同じよ、だから見栄や意地を張らずに命を優先するのよ。死んだら何も残らないんだから」

「そうか、だとしてもいまいち実感が沸かないな・・・。さっきまで命の危険を感じていたのに」

 俺が住んでいた国は過去には戦争があったものの、俺がいた時代は個人のいざこざがあって死人が出る事が間々あったくらいだった。だからだろうか、自身の命が危ない状況になった直後でもイマイチ実感が沸かない。むしろVRゲームをやっている感覚に近い。死んでもビックリするだけで次の瞬間にはセーブポイントからやり直しという。

「タケオさんの世界は平和だったんですね。私は目の前で死ぬ姿を何度も見ているので私の番にならないようにといつも気を付けています」

 死について考えた事が無いわけでは無かった、父方の祖父の葬式に出た事がある。しかし看取った訳ではないのでその時は実感が沸かないでいた。しかし、時間が経つにつれ徐々にその事実を感じるようになっていった。だが葬式が終わり、半年、一年と時間が経つと当時の死についての事など忘れていた。運が良いのか血縁者の葬式はその一度だけであった。

「この世界に来てからの知り合いはまだイスリアだけだけど、今後仲間が増えたりしたらそういう事に会う機会があるのかな・・・」

「街に着いたら冒険をしないでお店で働き続ければそういう確率はグッと減りますね。それでも絶対ではありませんし、その場合私は解雇という事でタケオさんの元から離れて元の生活に戻る事になりますね」

「何故解雇という事になる?」

 イスリアが解雇と言う事で俺から離れたら俺はリアルハーレム生活の夢が断たれるのでは!?いやしかし、ガチャさえ引ければ良い訳だから別に解雇されてもこまらないのか・・・?

「タケオさんのこの世界での役職は冒険者という扱いなのでバイトなら問題はありませんが、本格的にそう言う事をすると役職が冒険者で無くなってしまうので私のような戦闘職は必要になりませんよね?」

「もしそうなったらそうなるな」

「ですので私は運営さんの方で解雇手続きがされて元の生活に戻る事になります。私はあくまで冒険者の方と共に色々な事を経験する為に契約をしているので」

「なるほど、後もし俺が冒険者から商者になったらガチャはどうなるんだ?」

「ガチャは冒険者の特権なのでその項目というかメニュー自体がそもそも無くなる筈ですね。そういう事例が過去にもあったらしいですが、タケオさんの様に着の身着のままこの世界に来ると言う例は非常に少ないので断言はできませんが、タケオさんの世界と同じで死ぬまで働いて終わる生活になると思います」

 それ最悪じゃん!異世界に来たのに俺の居た世界と同じような生活をして終わるとか完全に無駄すぎる。

 しかもガチャが引けなくなるとかハーレム無理じゃん。この世界の常識を全く知らないから商者になっても失敗する未来しか見えないし絶対になりたくないわ!俺はハーレムを作ってキャッキャウフフな生活をする為にここにいるのだから!クソ運営がテストプレイとか何か言ってた気がするけどそんな事知るか。

「冒険者は止める気ないから安心してくれ。絶対に止めない、そう絶対にだ!」

「は、はぁそうですか・・・」

 ネタを分からない相手にやっても引かれるだけなんだな。ありがとう、引かれた相手がイスリアで本当によかったよ。まだ見ぬ可愛い子には引かれないようにしないとだ。

 ソロ狩りの一件があった後、一山目の山頂まで話しながら歩いていたからか疲れは殆ど感じられなかった。そもそも山頂まで登らなくても迂回すれば良いのではと話しながら登っている途中で思った。勿論イスリアにその事を聞いたが、「山道以外を歩くのは構いませんがその場合ほぼ死ぬので私は着いて行きませんよ」っと言われてしまった。

 詳しく聞くと山道周辺はソロ狩りは例外として初心者でも問題無く倒せるスライムやゴブリンが出るだけだが、道から外れて進んでいくと一気に敵のレベルが上がりオークやキマイラといった縄張り意識の強い魔物からドラゴンまで出てくるという。

 その辺りの魔物が山道付近に行かないよう運営が管理しているとのことだが、緊張感がないのもという事でソロ狩りは好き勝手にさせているとの事。緊張感の為にという理由で死ぬとかやはりあのクソ運営はクソで確定だ。

「一旦ここで休憩しないか?」

「そうですね、この辺りなら襲われても直ぐに気付けそうですね」

 山の山頂にはこれ見よがしに木で出来た椅子が置いてあり、雑草が殆ど生えておらず視界を遮る木々は余り無く非常に良好。敵の隠れる場所が少なければそれだけ安全ではあるものの、相手からも丸見えというのは果たしてどちらが安全と言えるだろうか。そんな事を思いつつもこの世界に来てからというもの、水分を取っていない事に気づく。途端喉の渇きを覚えるから厄介なものである。

「えーっとメニューから所持品っと・・・あれ?ポーションとかエーテル的な飲み物ってデフォルトで2,3個あるもんじゃないのか?」

 自信の所持品をみれば何も入っておらず、完全に空っぽであった。一度水分を摂りたいと思ってしまったら、気になって仕方が無い。困った時はイスリアに聞こうとイスリアに声をかけようとすると、あー異世界にきたんだなーっと改めて実感した。

「イスリア、所持品に飲み物が無いんだが・・・何それ凄いな!」

 イスリアは自身の手の上に水球を浮かせてそれにどこから取り出したのかストローを差し、どうしたの?っという顔をしながら水を飲んでいた。

 ストローで吸われると水球は見る見る小さくなっていき、一口サイズになるとストローを外して小さくなった水球を口に入れた。最後にゴクリッと喉を鳴らすとふぅっと息を吐いていた。

「所持品に飲み物が入っていなかったのね?最初に選んだ相手が魔法使いの私だったから運営さんがいれとかなかったんでしょう。ほら、どうぞ?」

 ほらっとイスリアは自信の手の平に先程同じように水球を浮かせて俺に着きだしてきた。もう片方の手はストローを俺に着きだしている。

 それさっきイスリアが使っていた奴だよな?え?いいの?俺異性なのに?

 差し出されるままに受け取ってしまったストロー、そして目の前にはイスリアが手を出して浮かせている水球。場所が場所ならちょっと誤解するような気がしないでもないが、俺はこの世界の常識を全く知らない事を思い出す。

 イスリアを見れば飲まないの?っと首をかしげている。その表情には恥ずかしさが感じられず、イスリアにとって当たり前の事をしているのだと感じる。だがイスリアとはいえ異性が使ったストローを気にせず使う程、俺の異性経験は無い。皆無と言って良いだろう、一度たりともそんな経験は無い。言ってて悲しくなってきた。だから俺は恥ずかしいと思いながらもイスリアに聞く。

「このストローさっきイスリアが使っていた奴だろ?俺が使って良いのか?」

 この言葉によりイスリアは何故俺がストローを受け取りながらも水球を飲まないかを理解したようだった。

「タケオさんとはこれから命ある限り衣食住を共にするんですよ?そんな事を一々気にされましても困ります。それに荷物は少ない方が何かと便利ですので、使い回し出来るものは使い回さないと」

「そうは言ってもな、俺は良いけどイスリアはいいのか?」

「私は構わないといっているでしょう、それとも私が使った物は嫌とか潔癖だったりするんですか?虫歯も無いので安心してください」

 言ってイーっと口を広げて見せてくるイスリア。ちょっと可愛いと思っちゃったじゃないか。少し見とれてしまう。

「それとこの水球もMPを消費して出しているので、飲んで貰わないと無駄になってしまうんですが」

 言って水球を俺の顔に更に近づけてくる。この世界ではこういう事は常識だと思う事にしよう、そうしよう。

 水球にストローを差し反対側のストローに口を付ける。吸うと口いっぱいに広がる水、少しだけ甘く感じるのはそういう風にだしたからなのかは俺には分からない。けれど美味しいの間違いない。

 間接キスの事など忘れ、水を飲む事だけが頭一杯に広がっていた。イスリアが飲んでいた時と同じように飲んだ分だけ水球の大きさは小さくなり、やがて一口サイズになった。

 同じように吸うのを止めてストローを抜くと口を開けて水球を口に入れようとするが、サッと手を引かれて俺の口は空を切る。

「・・・・・・」

 えーっという顔で見ればイスリアは少し顔が赤くなっていた。イスリアが恥ずかしがる基準が良く分からないんだけど。

「ちょ、ちょっと待って!口をその場で開けてくれない?そこに私が入れるから」

「イスリアが良いなら俺は構わないが・・・」

 つまりアーンっというやつだろう。まさか飲み物でやる事になるとは思わなかった。それとゲームの中でしか無い行動だと俺は思っていたが、まさか当事者となって経験する事になるとは。

 俺は水球を入れやすいよう歯医者に見てもらうように口を大きく開けた。するとそこに恐る恐るといったようにプルプルと少し震えながら水球が近付いて行き、口の中に入ると俺はそれを飲んだ。そして気付く、俺の口に触れるか触れないかの距離にイスリアの手がある事に。

 少し顔を近づければ口がイスリアの手に触れる事は間違いないだろう。だが、俺が気付いた時にはサッと手を戻され俺の邪な考え等見通しとばかりに少し睨まれた。けれどイスリアの顔は耳まで真っ赤になっていた。

 口では強がって言ってもやっぱり恥ずかしかったのは間違いないようだ。

「ありがとう」

「これも私の役割だから、べ、別に気にしなくて良いわ。それとストローは私のだから返してね」

 言って手を出してくるイスリア。洗ってから返そうと思ったのだが、俺が直ぐに返さないとひったくる様にストローを持っていった。

 その後イスリアと並んで椅子に座り10分程休憩をしながらこれから下り、そして登る山を見ていた。

 二山目は一山目に比べて随分と低く、半分あるかどうかの低い山であった。一山目の山頂から見える景色は目的地である街も見え、最初の街としてはそこそこ大きいのではと思う程大きい街であった。高い建造物も何個かあり、期待していなかった街がとても楽しみになった。

 とは言え、登ってきた山を下りてまた登って下りてをしなければならない。登るより下りる方が足腰に負担が掛かると、どこかで聞いたことがある。それを考えると気が重くなるが、進まなければ街にはたどり着けない。それとあれ以降ソロ狩りが襲ってくる様子がないものの、クソ運営が管理をサボって山の奥に住む魔物が山道付近まで来て襲ってくるとも限らない。いつでも全力で逃げれるように気を付けとかねば。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ