課金兵だった俺が異世界で無課金兵生活 1
某県某所、駅から徒歩20分という立地のワンルームマンションで一人の男、鈴木武雄が連日仕事もせずにソシャゲに勤しんでいた。
「おっしゃ!出たぞ出たぞ!確率1%とか余裕すぎなんだけど!ハッハー!」
手にした俺のスマホの画面に映るのは好みど真ん中の可愛い女性、一般的にロリキャラと呼ばれるキャラでそれがガチャで出た所だった。このキャラを手に入れる為にいれた金額は8万円、普通ならたかがゲームに何やってるの?っと引かれる所だが、ゲームだから良いんじゃないか。
俺は一度も働いた事が無い、けれどお金には余裕がある。決して親のすねをかじって良わけでは無く宝くじで一等を当てたのだ。そこで俺の人生は変わった。
適当な会社に入り適当な生活をするだろうと思っていたが、大金を手に入れた為そんな事をやってられるか!っと安いマンションの一室を仮りて、趣味であったソシャゲを大いに満喫する事にした。
それまでは親から貰っていたお小遣いでガチャを引いていたが、今はそれをする必要は無いし気にする必要も無い。
現実だと犯罪なロリもゲームならば無問題。YESロリータ、NOタッチ。この言葉を考えたやつは天才である。
キャラを目的としてガチャを引いていただけにプレイしたソシャゲの数はゆうに100を超える。だが、キャラを引いて終わりだった為ゲームの内容とか全く知らない。ストーリー?そんなものスキップに決まっている。チュートリアルとかめんどくさ過ぎる、なくせよこんなもの。俺はただガチャを引いて好みのロリキャラを引いて愛でたいだけだ。
そんな事ばかりしているものだから当然近隣住民からは何やっている人なのかしらと思われるばかりである。家を出るのは生活用品や食料の買いだし以外では出ない。ひたすらこもり続けてガチャを引いて愛でるを繰り返す。
今日も今日とてガチャを引いては愛でていた。しかし、この日はいつもと違う事が起きた。
今日は買いだしをする日、雨がパラつく中傘もささずに手ぶらで塩と水を買えば良いかと近くのスーパーに向かう。
近くのスーパーに向かう際必ず信号の無い交差点を通る。そこには用水路が流れており、いつもは蓋がしてあった。
しかし、その日は何故か蓋が無くなっており空いたままだった。片時もスマホを離さない俺は画面を注視していてガチャをしながら歩いていた為それに気付かなかった。
結果いつも歩いていた用水路の蓋の上に足を置くつもりが、空をきり用水路に落ちる事になった。
「はぁ!?何だよこれ!って俺のスマホが!」
俺が落ちた事よりも咄嗟の事でスマホを手放してしまい用水路に落としてしまった。防水加工にしているとはいえ生活防水だ。長時間水に浸かる事など想定していない。
「どこだ!どこなんだよ!俺の可愛い女の子達!」
言葉だけ聞いたら通報ものだろう、だが今の俺にそんなことを気にしている余裕なぞ無い。俺の全てがつまったスマホ、バックアップも全部別にあるにも関わらず目の前の事で頭は一杯だった。
「あった!けど届かない・・・!」
スマホのあった場所は蓋がない道路と一体型の用水路の奥だった。T時に交差している場所のようでそれの角にぎりぎり引っ掛かっているようだった。雨足が強まりだんだんと用水路の水かさが増していくのが見て分かる。
水かさが増すにつれ流れも早くなりこのままだとスマホが流されてしまう。そう思った俺は意を決して道路と一体型の用水路に潜っていった。本当にギリギリ通れる狭さ、急げば戻れるだろうと思った矢先視界が暗転した。
ハッと俺は気付くとそこは目がチカチカするほど金色で囲われた空間。
「趣味が悪いな・・・」
ボソリと言った俺は場所の事よりもスマホを探す。俺の可愛い女の子達はどこだ!
しかし、体中を探しても一向に見つからない。俺は記憶を辿る。
「えーっと確か、用水路に落としたスマホを拾う為に中に入っていってそれから・・・?」
用水路に入った所までは覚えているが、それ以降の記憶が全く無い。
「まぁそんな事はどうでも良い、スマホはどこに行ったんだ?今日しか引けない限定の子がいるんだ、早く引かないと」
俺が周りをキョロキョロと目が痛くなりそうな金色で出来た空間を探していると、突如俺の目の前に黒い羽根を生やしたイケメン、天使では無く堕天使が現れた。
「やれやれ、鈴木武雄。貴様は何よりもガチャが好きなのだな」
目の前の堕天使が当然の事を言ってくる。
「は?当たり前だろ。可愛いキャラは全部手にしていないと気にいらん。男キャラとかBBAキャラとか俺は一切使わない。それよりお前は誰だよ、いきなり現れて人の趣味にケチつけてくるとか」
全てが全てガチャを引いて終わっていただけという訳ではない。お小遣いでやっていたソシャゲだけは今でもスキップをせずに全てやっている。だが今では金に物を言わせた装備になり、ネットで晒される程の装備になってしまったが。
それはそうと本当になんなんだコイツは?今時正統派堕天使とかコスプレするにしてももっと他にあるだろうに。
「ん?俺の事か、そうだな分かりやすく運営と名乗っておこうか」
運営と言いましたよ目の前のコスプレ堕天使さんは。頭おかしいんじゃないの?
「そんな顔をするな、お前の言いたい事は分かる。名前は別にあるがこれもまた事実だ」
どうやら顔に出ていたようである。というか自分の事を運営っていうからには何かしらの運営をしているのだろう。服装が残念なだけに碌な運営では無いように思える。
「その運営が俺に何の用だ?っといっても男には興味がないからやっぱり言わなくて良いわ」
男の話とか一位二位を争う程興味が無い。買い出しのレジがどれだけ混んでいようと若い女性のいる所に並ぶ。空いたからどうぞと呼ばれても無視だ。
そうした行動を続けていたからか、店員は俺が並んでいてレジが空いたとしても呼ぶ事は無くなった。男の野太い声で呼ばれる事の無いなんて素晴らしい事か。
「ふむ、お前は見た目で選ぶクソ野郎だったな。これではまともに話も出来ん。ならばチェンジ!」
チェンジと言いましたよ。俺がチェンジしたいわ!っと思っていると目の前のコスプレ堕天使が消え、天使な幼女が現れた。先程の運営と比べるのがおこがましい程に白い服が似合っている。目の保養に実に良い。
「武雄さん、話を聞いてはもらえませんか?」
幼女天使は腕を組み、上目づかいで不安そうに言ってきた。こんなもの答えは決まっている。
「聞く聞く!さぁおじさんに話を言ってごらん!」
「チッ」
ん?何か今舌うちが聞こえた気がするが気のせいだろう。こんな可愛らしい天使が舌うちとかありえない。きっと先程の堕天使がどっかからか見ているのだろう、空気の読めない奴だ。
「それでは話、と言うより御説明しますね」
幼女天使は精一杯大人びた態度をとろうとするが、それが背伸びをしている感じで素晴らしく良い。
「まず武雄さん、あなたは落としたスマホを拾おうとして用水路に入りました。結果雨が降っていた事もあり、水かさが増しあなたは死にそうになりますが幸か不幸か私達によって助けられました」
ふむ?なんとなく思いだしてきたが、助けられたとしてもここは一体どこなのだろうか。幼女天使の話し中に口を出しまいと大人しく聞いていたが、顔に出ていたのか察しが良いのかそのことも話してくれた。
「ここは私達運営が経営する異世界ファンタジーのいうなればDLサイトです。武雄さんは私達に命を救われた代償にテストプレイヤーとして異世界で生活して頂きます。せめてもと言う事で好きな異世界を選ぶ事が許されています」
「命を救ったからその恩をテストプレイヤープレイして返せと、つまりデバッカーをしろと言う事か」
行き成り異世界だの言われてもイマイチピンとこない。っとは言え幼女天使の言葉を否定など出来るものか。
「デバッカーでは無いですね、あくまでテストプレイヤー。バグを探すと言うのではなく思う存分楽しんで頂けたらと思います。但し注意点があります。先程の男性の運営がいたと思うのですがあれでも一応社長ですので、その社長が酷く気分を害されたとの事でいくつかデメリットがある状態でプレイして頂きます」
「あいつ社長だったのかよ!全然社長に見えんかったわ!っていうか社長服のセンス無さ過ぎだろう、そして気分を害したからってデメリット付けるとか無いわー、やっぱり男はマジクソだわー」
「チッ」
またも舌うちが聞こえた気がする。心なしか目の前の幼女天使が怒っているように見えるも、俺には話をちゃんと聞いてくれと怒っているようにしか見えない。
「まず私達が運営している異世界ですが、異世界つまり異なる世界ですので現実に存在しています。なのでリセマラは出来ません。初めに出たキャラクターで厳選する事は出来ません」
「リセマラ出来ない仕様のゲームは長続きしないぞ?」
「勘違いしているようですがこれはゲームではありません。テストプレイというは武雄さんに分かりやすく伝える為の言葉として受け取ってください。ですので選んだ異世界で死ねばゲームのように復活出来るわけでは無く当然死にます」
異世界で死んだら、そのまま本当に死ぬのか。うん、死ぬなら可愛い娘に囲まれて死にたいものだな。
「それと異世界は数が有限です。ですので有限な異世界で一番初めに引いたキャラで、異世界を選ぶと良いでしょう。それが武雄さんの命を救う鍵になるのですから」
「つまりリセマラは出来ないけど異世界の数だけガチャを引けて、その上で異世界を選べと言う事だな?」
「えぇそれであっています。それとここからがデメリットの話になります。まず生前というと可笑しいことになりますが前の世界で武雄さんはガチャを引きまくっていましたね?」
「廃課金とまではいかないでもガチャを普通の人よりは引いていた事は認めよう」
俺は基本的に課金をしまくって好みのキャラが手に入ったらそこで終わっていた。廃課金のように最強を求めてガチャをしていた訳ではないから廃課金では無い筈だ。
「そこで武雄さんは私の様な女の子を沢山集めていたそうですね」
好みの女の子にじっと見つめて言われると非常に気まずい。コミュ力は決して高い方では無い事は自覚している。だから開き直って強がるしかないのだ。
「現実でやってた訳ではないからいいだろう?犯罪では無いんだ。ゲームのキャラなのだから!YESロリータNOタッチ!」
「それは何よりです。そんな変態な武雄さんには一生解けない呪いをデメリットとして受けて頂きます」
変態とは失礼な。表に出しているか出していないかだけでそうそう差は無いと俺は思っているんだが。
「死ぬような呪いは止めてくれよ?テストプレイどころの話しじゃないし」
「大丈夫です、いっそ殺してくれと思うような呪いですから安心してください」
良い笑顔でいう幼女天使。一枚撮っていいですかね。
「武雄さんにかける呪いはこれです。ガチャで男とBBAキャラが出る確率99.99999%の呪いです!」
「クソゲーじゃねーか!そんなもんやってられるか!そんな異世界でテストプレイとか開始と同時に放棄するわ!」
「だからゲームでは無いんですってば。それとクソゲー呼ばわりするのは止めてください。他のプレイヤーはこんなデメリット無いんですから」
「何で俺だけそんなデメリット必要なの!?良いじゃん普通で!」
幼女天使相手に詰め寄る様は事案発生5秒前である。
「それは先程も説明した通り社長の気分を害した武雄さんの言動と行動ですので、私に言われましても・・・」
おっとこれはいかん。あまりのクソっぷりに取り乱してしまったが目の前の幼女天使には罪はないんだった。
「悪かった、取りあえずセンスの悪い社長運営には一回死んでくれって言っといてくれ」
「忘れなかったら考えときますね。それで話を戻しますが武雄さんは居た世界で宝くじの一等を当てているのですから、これくらい絞っても当たるだろうHAHAHA!っとの事です」
笑う所だけ妙にリアルだったんだが、内心この幼女天使も思っているんじゃ無かろうな。男にどれだけ酷い扱いをされようと気にもしないが好みのタイプに同じようにやられるとガラスのハートが簡単に割れてしまう。
「さっき言っといてくれって言ったが言わなくて良いわ。クソ社長をここに連れて来てくれ、殴らないと気が済まん」
だから取りあえずあの糞堕天使を殴ろう。さあ早くこいや!
俺が息巻いている中、目の前の幼女天使はそれを無視して業務を続ける。
「私から言わなくて良いのはなによりです。注意事項というか特典というかガチャを引いた時、武雄さんが今までやっていたようにデジタルになるわけでは無く、触れられるようになります。つまりカード化やデジタル化というのが無く衣食住を全て一緒に行って貰います」
なん・・・だと?衣食住一緒って事はあんな事やこんな事がある可能性が!
「想像を膨らまし、気持ち悪い顔をして気持ち悪い事を考えているようですが概ねあっています。後は武雄さんの努力次第という事になりますので頑張ってください」
引き気味で言う幼女天使。マジかよ、異世界とは言え遂に俺にも春がきちゃうのか?しかし呪いのせいでかなり遠そうな春だが・・・。
「それではガチャルームに案内しますね、是非堪能していってください」
そう言う幼女天使は悪い顔をしていたが、俺は遂に春がくるのかと想いを馳せていてその表情を気に留める余裕は無かった。
幼女天使から見て右側、俺からすると左側に鉄製であろうか重厚な扉が現れそこに幼女天使は入るよう言ってきた。
「どうぞお入りください。私は入る事は出来ませんが衣食住全て問題無いのでごゆっくりとガチャを楽しんでください」
俺は幼女天使に促されるまま扉に手をかけ、見た目の割に普通の扉と重さが変わらない扉を開けて入った。
すると俺が入ると同時にバタンッ!っと勢いよく閉まり、咄嗟に扉を開けようとするも先程とは違いとても開けられるような重さ、感じでは無くなっていた。
「クソッ!まあ良い。衣食住問題無いなら精々ここでゆっくり堪能するさ」
俺はこの言葉を直ぐに後悔する事になる。
30分程見た感じ何も無いだだっ広い空間にベッドが一つ、そしてその横に食堂で良くあるカウンターがあり、そこで注文用の電子パットを使えば目の前に出ると書いてあった。
そして何よりだだっ広い空間の丁度真ん中に、アニメや漫画で出てくるような魔法陣が書いてあった。そこに近づくと目の前にブンッとFSである未来の世界でイメージされる感じで空中にメニューが出てきた。
そこには異世界1~異世界9999までが選択出来、異世界を選択するとガチャを選択出来るようになっていた。
ガチャの種類は前衛、後衛、男性、女性の4つあり、排出率を見て思わず絶句。排出率はジャンル分けされており男、女性(BBA)率が共に49.99995%だったからだ。合わせて99.9999%と頭の悪い確率が表記されていた。
「本当にこの確率でやれってことかよ、クソガチャにも程があるな」
っとはいえここに居ても衣食住に不自由が無いが可愛い女の子達を拝む事は出来ない。扉に入って以降幼女天使の姿も見えない。ここにいたら頭がどうにかなりそうだ。
世界が違うからかガチャでは当然の様にあるキャラの紹介ページが一切無く、キャラ名すらも書いて無い。どうなってるんだこの世界のガチャは・・・。
これでは名前からどういうキャラが今後出るという予想も付けられないではないか。予想した所で好みのキャラで無かったら引く事は無いけれど。
「あれこれ考えていても仕方が無いな、取りあえず引いてみるか」
確率がいかにクソとはいえ、宝くじで一等を当てた事が俺にはあるんだ。余裕余裕、一発で可愛い女の子引いちゃうんじゃないの?
意気揚々とガチャを引く為にだだっ広い広間の中央にある魔法陣まで歩く。別にこの部屋内であれば何処でも引けるようだが、可愛い女の子が出たのに近くで見れないとか考えれられない。
男やBBAが眼の前に現れたらショックが大きいが、確率がどれだけ低くても出る時は出る筈なんだ。俺なら引ける!
右手を前に出し人差し指を上から下に下ろす。するとメニュー画面が出てくる。魔法陣の近くに説明書が無造作に置いてあり、随分と使い古されている。使い回しなのが目に見えているが予算が無いのだろうか、折角だし新品が良いと思ってしまうのが普通と思いたい。ペラペラと捲ると召喚の所だけドッグイヤーされていた為、取りあえず今はこれを見ながら召喚する。
メニュー画面は縦に並んで出ており、上から強化(灰色)、売却(灰色)、ガチャ、設定とあった。
灰色の所は指でタッチしても全く反応が無く、灰色になっていないガチャの部分を押してみるとチュートリアルガチャの画面になった。チュートリアルガチャにも排出率がきちんとあり、最高レアが出無いクソ仕様とか特定のキャラしか出ないとかのクソ仕様ではないようだった。確立は男、女性(BBA)率共に49.99995%で変わらずであった。
ガチャに関しては魔法陣に近づけばメニューがオートで開かれるか、メニューから開けばガチャを引ける事が説明書に書いてあった。
「頼むぞー!可愛い女の子、カモーン!」
チュートアリアルガチャのガチャを押し、確認の【はい】と【いいえ】で迷わず【はい】を押す。すると目の前の魔法陣がブンッと音を立てて虹色に光る。
虹色といえば最高レアだろ!これは勝った!そう思いテンションは爆上がり。
虹色以外にも魔法陣の外枠に雷が落ちるエフェクトが出てバチバチと無駄に派手な演出、最後に魔法陣の中央に一際大きな雷が落ち煙が舞い上がる。煙の中にうっすらと人影が見え、期待に胸がドキドキと舞い踊る。
徐々に煙がはけていき、姿を現したのはBBA。まごう事無きBBAであった。
見た目は若づくりをした60前後だろうか、頭から紺色のフードを被っており赤髪で髪が腰まで届く程長く胸が異様にでかい。好きな人は好きなのであろうが俺は絶対に欲しくない部類である。
頭の上にSSRとデカデカと書いてあるのが非常に腹立たしい、SSRであろうと俺にとってはBBAである以上UC以下である。
「おやおや、これはこれh・・・」
「チェンジ!」
「・・・ハァ?」
相手の声に被せるようにハッキリと大きく言う。耳が遠くて聞こえない可能性もある上にフードを被っているのだ。万が一にも聞こえて無いと言う事が無いようにしなければ。
目の前のBBAは自己紹介をしようとしたのだろうが俺が被せるように失礼な事を言った事で非常に腹を立てたようだった。当然と言えば当然だろうが、これから一緒に旅をする相手になるつもりは無い以上知ったこっちゃない。
俺はBBAに向かいながら部屋の隅を指して一言。
「喋らずあっちに行っててください」
人生経験が多いから理不尽な事にも耐えているのかもしくは呆れてものも言えないのか、大人しく俺の指示に従い召喚されたSSRのBBAは四隅の内の何も無い所に向かっていった。着くとその場に座るもこちらの方は一切見ないよう壁の方を向いていた。
最初の異世界ガチャではBBAを引いたが、まだ俺には9998回も残っているんだ。まだまだ余裕余裕!好みの可愛い女の子を何キャラも引いてどこの異世界にいくか迷うぐらいが理想だな。
次は折角だからとメニューを開かず魔法陣に近づいてガチャを引く事にした。今後どちらを多く使うかは分からないにしてもやり方が分からないのは困る。
魔法陣に近づくと【ガチャを引きますか?】という注意書きが出て【はい】と【いいえ】が出てきた。先程と同じように【はい】を押す。すると魔法陣がブンッと音を立て先程の虹色とは違う金色に光った。
この時点で先程と演出が違うので同じキャラという事はあるまいと期待する。
金色ならSRあたりだろうと思うも、問題はレア度では無い。男か女か、好みか好みじゃないかが俺にとって一番の重要だからだ。
演出は虹の時とは違い雷が落ちてくるような派手な演出は無いものの、最後の演出だけは同じで魔法陣の中央に雷が落ちると煙が立ちそれが晴れてきて姿が見えた。
「向こうにいってろ!」
「俺を呼んd・・・」
召喚された男が名乗るよりも先に最初に引いたBBAが居る方を指さし命令する。
召喚された瞬間煙越しでも分かる程筋肉の着いたムキムキの長身な男。みれば鋭い眼光と黒髪で女性受けしそうなざっくばらんな髪型。顔はガチャの男性キャラでは当然と言うべきかイケメンである。死ねばいいのに。
「やれやれ・・・」
両手を肩の高さまで持って来て身振りをして大げさにいう男。頭の上にSRと出ていることから先程のBBAよりレア度が低い事が分かる。
カツカツカツっと小気味よい足音をたてながらBBAの所に向かうSR男。BBAがいる隅に着くと男の方からBBAに声をかけていた。
BBAは始め俺が話しかけてきたのかと思っていたのか全く顔も見ようとしなかったが、覗きこむようにして男が見た事で相手の容姿を知り、嬉々として男と話していた。
BBAはBBAで容姿が良ければ誰でも良いんじゃないかと思いつつも、俺に被害さえ被らなければ取りあえずは無視でいいだろう。
3回目の異世界ガチャを引くべく魔法陣に一歩近づく。メニューを開いてからより現状早いのが良い。確率が確率なだけに好みの可愛い女の子が出るまで俺は無心で引く事にした。
-1時間後-
「どうなってるんだよこれ!?」
1000回程異世界ガチャを引いた辺りからこれはマズイなと思った。
何がマズイって好みの可愛い娘が出ない事もそうだが、ガチャで召喚されたキャラが重複でもされない限り部屋にどんどん増えていくのだ。
BBAと男が出るのはこの際はしょうが無いとしよう、確率が確率だからだ。
初めは隅に追いやっていたが100回を超えたあたりから隅では当然収まらなくなり、絨緞の隅に溢した水の様に徐々に中央に浸食してきたからだ。
それに人数が人数なので話声で五月蝿い上に密集度が高すぎて、部屋がどんどん暖かかくなっていっているのが汗をかいている事から感じ取れる。決して焦りからでは無いはずだ、まだ8999回も残っているのだから!
途中で10連ガチャや100連ガチャが無いかなと説明書を見るも書いておらず、異世界事なので単発しか引けないと言う事だと解釈しひたすら単発を連打してきた。腕が少し疲れてきたよ。
と、取りあえずまだ大丈夫だからと再び無心で引く事を決意。目の保養的にも早く来てくれ、まだ見ぬ好みの女の子!
-更に1時間後-
「出ないし熱いし出ないし五月蝿いし出ない!」
更に1000回程ガチャを回し、俺が出無さと熱さと五月蝿さで叫ぶも五月蝿いのでかき消され言ってて虚しくなる。誰一人として俺の声に傾ける事は無く、召喚そうそう俺が直ぐに召喚すると『あ、私(俺)いらないんですね』っと悟り早々に空いているスペースに行く。
隅ではなく何故スペースかというと、四隅が召喚されたキャラで一杯になってしまい部屋の中心にある魔法陣を囲むように円陣を組むように囲んでいるからだ。
俺が指示をするまでもなく隅にいたキャラは快適な広さを求めて散っていった結果がこれである。おかげで360度全方位が五月蝿い。
ガチャってもっと楽しいもんだと思っていたよ。
-更に3時間後-
「よし!被った!」
3時間たった辺りから男とBBAキャラが出尽くしてきたのか被りまくっていた。被ったキャラが出るとそのキャラは魔法陣に移動される形となり、連続で引いたり短いスパンで立て続けに引くとイラッとするのか「チッ・・・」っと舌打ちだけして先程までいたであろうスペースに向かっていく。
そんな舌打ちをして来たキャラをまた引きようものなら魔法陣から退くもののそこから動かず、ほらまた引くんだろ?っという顔を一々してくる。
おかげで魔法陣の周囲にまで男とBBAで埋め尽くされる羽目になり、更に熱いし五月蝿い。っとは言え俺への好感度は0を超えてマイナスにまで言っているらしく、俺の周囲だけはスペースが空いていても誰も寄ってこない。嬉しい限りだ。
新キャラの男かBBAが全然出なくなってきた為、幸いな事に異世界で生活する前に圧縮死なんて悲しい事にならなくて済みそうだ。
そのせいか好みの可愛い女の子を引く事が頭から抜け落ち、ただただキャラが被って部屋を圧迫しない事ばかり考えていた。物欲センサーがあろうとなかろうと出ない時は出ないという事を後に俺は思いだし気付く。
ガチャページの隅に書いてあるガチャの累計数は5000を超えていた。
-更に5時間後-
「・・・・・・」
休憩を一度もする事も無く俺は何かを悟ったかのようにただただガチャページをでガチャを引く事に五感全てを捧げていた。
ガチャの累計数は9990と書いてあり、異世界で共に過ごすであろうまだ見ぬ残り好みの可愛い女の子を引くチャンスは9回である。
これが動画で見ている分や他人がそういう境遇であったら間違いなく飯ウマであろう。
当事者になって初めて分かる飯ウマという言葉が異常な程に殺意を覚えるという事。
今の俺は間違いなく死んだ魚の様な目をしているだろう。もしこの残りの9回も男かBBAを引けば好感度0どころかマイナスで、異世界に着いた瞬間後ろから刺されるだろう未来が待ち受けている。それだけは阻止しなければならない。
同じ1回であるのに残り9回しか引けないと分かった時、『はい』を押すのに緊張が走る。既に9990回も引いたと言うのになんとも可笑しな話である。
9991回目、BBA。
9992回目、BBA。
9993回目、男。
9994回目、BBA。
9995回目、男。
9996回目、男。
9997回目、BBA。
残り2回となり、俺は神がいるなら今こそ俺を助けてくれと涙を流しながら天を仰いだ。
「お願いだ・・・出てくれ!出てくれ!お願いだからぁああああ!」
ブンッと魔法陣が茶色に光る。何度となくみてきたRキャラの演出。Rキャラに今の所BBAはいない。BBAはSSRにしかおらず、本来なら喜ぶべきなのだろうが俺は絶望してきた。
逆に男はSSRに3割程度しか引いておらず、SRとR共に10割。
Rの演出ということもありワンチャンSRになってもBBAは無いもどっちにしても男の可能性しかない。神はいないのか!っと最後のガチャを引こうとした時だった。
「あ、あの初めまして。私、イスリアって言います」
ガチャページで最後のガチャの確認『はい』『いいえ』で『はい』を押す直前に指が止まった。
「・・・え?」
初めて聞く若いと感じられる声を聞いた時、俺は我ながら情けない声と顔をしていたと思う。ガチャページでの確認で初めて『いいえ』を押し、顔を上げる。
そこには黒髪ショートでまだ幼さが残る、ボロボロのローブを着てフードは下ろしてる状態の魔法使いの童顔な俺好みの女の子がいた。
見た瞬間、俺は余りの嬉しさに彼女に抱きつこうとして抱き付けなかった。