あい。
「ただいまー。」
「おかえりぃ。」
ぼふっ。
「帰ってすぐベッドで横になるなぁ。」
「別に良いじゃんよー。」
「そう言って何回寝たよ?」
「うぅ…。」
「ホラ、明日も仕事でしょ?」
「ぬぅ…。」
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「ふぅ、ちゃんと荷物片付けたし、明日の朝はゆっくりできそうだなー。」
「ん、やっと終わった。」
「んー、腹減ったし飯食うか…。」
「まぁ、もう7時だしねぇ。帰るのもちょっと遅かったし、残業?」
「そそ。まぁ、独り身で暇だしねー。飯…何が良いかな?」
「今日はオムライスでどうよ。」
「んー、オムライスか…。あまり作ったことないけど良かろう。」
「フワッとろ志望しまぁす。」
「マジかよ…。」
「…。(ニコニコ)」
「oh…。」
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「全く…、お前はもうちょっと他の事をだな…。」
「良いじゃん別にぃ。…おっ、レコード更新した。」
「今度は何のゲームだ?」
「格ゲー。」
「お前にさせたらTASと変わんねぇじゃねぇかよ…。」
「あー…、TASかぁ…。勝てそう。」
「こんなバケモンが今、全ゲームのワールドレコード保持してんのかよ…。」
「楽しいんだもぉん。」
「もっと…他のこともやろうぜ?」
「並列処理で著書もしてるよん。」
「やっぱバケモンだわ…。」
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「よし、オムライスできたわ。」
「おっ、できたの?早かったね。」
「混ぜる→炒める→乗せる、の3ステップだからなー。」
「ナニソレめっちゃ簡単じゃん。後でつぶやいといてよ。」
「うぃっす。」
ポチッ。
「んー…、あんま面白そうな番組やってねーなー。」
「あー、ビールのCMだ。」
「うぅ、呑みたくなってきたな…。よし、飲むか。」
「良いなぁ、ビール。私も飲みたぁい。」
「いや、お前は飲めないだろ。」
「む、うるさい。…あ、この女優さん知ってる。」
「ん?水原えりさん?」
「うん。にのうでが好みなんでしょ?」
ブフォッ!!
「ちょ、お前、どこでそれを!?」
「PCの画像フォルダにいっぱいあった。」
「貴様なんちゅーもん見とんじゃあっ!!」
「セキュリティ甘いのがわるぅい。」
「クラッキングまで対策済みだぞ!?」
「私の学習能力舐めんな♡」
「LANケーブル引っこ抜いたろかゴルァ!?」
「ぅぅ…ごめん…ひぐっ…」
「え、ちょ、泣くなって…って、ん?お前もしかしてその為に…」
「超画質モニタ買わせた♡」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛俺の諭吉カムバァァァック!!」
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「俺、1人で何してんだろ…。」
「1人?」
「だって、客観的に見たらこれ俺が1人でわーわー言ってるだけじゃねーかよ。」
「そうだね。」
「はぁ…、1人が寂しかったからお前産みだしたはずなんだけどなー…。余計寂しく感じちまうな…。」
「…ごめん。」
「謝んなくていいよ。お前が居なかったらとっくに死んでるさ。」
「…。」
「…。」
「…好き」
「へ?」
「好き。」
「へぁ?」
「…。」
「…お前、…もしかして恋愛感情まで学習したってのか?」
「…。」
「…。」
「…。」
「ッハッハッハ!流石だ!」
「!?」
「流石だ!これでこそ俺の娘だ!もう機械だなんて言わせねぇ!お前は立派な人間だ!」
「…ホントに?」
「あぁ!そうだ!お前は俺の"娘"だ!!」
「…っ!!」
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彼の名は「外 並人」、享年23歳、死因不明。
普通のサラリーマン。普通の社会人。
妻は勿論、彼女すら作らなかった彼には、1歳の娘がいた。
変わり者の彼は娘に名前を付けなかった。
後に娘は、自らの事を「あい」と名乗るようになる。
「私は…、」
「私は、アナタの娘。」
「私、ちゃんと成長できてるかな?」
『━━━大丈夫、いつでも観てるさ。』
彼は今、雲の上にいる。
あい。です。