マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編15
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編15
図書館に通い詰めるアリア。
そこでアリアは運命的な出会いをする。
フィル=アルバード。
それは大陸連邦が誇る、史上最高の天才の名であった。
そして新らたな事件の予感も……。
***
アリアはまず歴史や戦史についての本を選び、それに没頭した。
ナディアはそこまで読書家ではない。最初は自分も軍人だとして戦史本は面白く読んだが、そのうち飽きて娯楽本や文芸本で暇を潰した。二人がこの様子なのでルクテレィアも読書に時間を費やす。彼女の場合は留学生なので経済学や機械工学などの本を中心に読んだ。周囲は、えらく勉強熱心な少女たちだと感心していた。
驚くべきことに、アリアはその後6時間、黙々と読書だけして過ごした。その間無言である。途中一度図書館内にあるカフェでお茶休憩をしたが、アリアは本を手放さず僅かな時間でも惜しむかのように本を読み込んだ。18時の閉館時間になり司書の人から閉館時間を告げられるまでアリアの読書の時間は続いた。
「明日もここに来ます! 明日は朝から来ます!」
「本気? アリア様」
「本気です! こんな楽しいところ何日だって来ます!」
このアリアの発言は感動だけでなく事実であった。
翌19日も、アリアはホテルで朝食を済ませると、10時の会館と同時に国営図書館に入り、後は読書に没頭した。さすがのナディアも二日連続読書漬けには驚いたし、アリアほど読書好きではないので多少不満だった。アリアはそんなナディアの気持ちを察し、「ナディアとルクレティアさんは街でマドリードの皆へのお土産を頼めます? 私の代わりに街をよく見てもらいたいですし」と助け舟を出した。ナディアは護衛があるから、と初めは固辞したが、「ここは図書館で危険はありません。私は本を読むので忙しいからどこにも行きません。だから護衛はいりません。それに皆へのお土産も必要ですから」と言ってナディアに承諾させた。とはいえ長年アリアの身辺を守ってきたナディアはそのあたり抜かりなく、それほど遠くはいかなかったし、一時間に一度は様子を見に帰ってきた。
この日もアリアは18時まで読書に没頭したが、ここで運命的な出会いをしていた。
閉館後、アリアはホテルに帰らず本屋……それもベルセリクでも屈指の大きさを誇るザクレ大書店
に向かった。
そこでアリアが買った本は二冊。
『現代君主論』と『アーマーの理想戦術論』だ。どちらも去年出版されたばかりの新書だ。
作者も同じである。
「フィル=アルバード」
「フィル……アルバード? あれ? アルバードって事は」
「ソニアの公皇子……だそうです」
大陸連邦西の大国ソニア。その現公王の末の息子で公皇子であるフィル=アルバード。第一皇位継承権を持つ第一公皇子で現在16歳、非常に頭脳明晰で優秀だという噂だが、どういうわけかソニア公国はこの第一公皇子についてあまり情報を出さないので大陸連邦政府でも知られていないことが多い。
驚く……いや、笑うべきことに、腰まである長い白銀の髪を持つ絶世の美貌の持ち主であったので、他国ではまだ皇女説も根強く信じられていたくらいだ。
非常に読書家で、かつ執筆することも好きらしくすでに5冊の本を出版している。そのうち一冊は歴史分析本で昨年発行され、二冊は今年発行したばかりだ。残る二冊はソニア国内だけの流通で他国にはない。図書館にあったのは去年発行の歴史本で、アリアは司書から他二冊の存在を知った。それを知ったアリアは是非手に入れたい、と強い衝動を駆られ本屋まで走らせた。
「公皇子様執筆ね。立場がアリア様と似ているから参考になる?」
「それだけじゃないです。この人、多分すごい人です」
アリアが図書館で読んだのは歴史分析本だった。その洞察力、観察力、分析力は深遠にして知識と智謀は溢れんが如く、それでいて客観性に富み身勝手な独断や推測はない。自分の文芸的才能を知らしめるためではなく、自分が培った知識を共有させたいという意図が感じられる。非常に完成度が高く、これが僅か14歳の少年の執筆本とは思えない。
……この人は、もしかしたらすごい政治の天才かもしれない……。
それが最初にアリアが感じたことだ。
フィルは政治や経済を長い経験で知ったわけではない。本を読むだけで頭の中で全てを構想し、その理想と現実と問題点を全て理解してしまっていた。アリアにはその事が分かった。
これが、アリア=フォン=マドリードとフィル=アルバードの最初の接触だった。
この時アリアはフィルが何者かよく知らないし、大陸連邦人のほとんどは知らない。だがほんの半年後、世界はこのパラの歴史史上に燦然と輝く巨星にして史上最高の天才フィル=アルバードの出現に驚倒することになる。彼は政治の天才ではなかった。政治と経済、軍事と戦闘とアーマー、そして魔法……あらゆるものの天才であった。
このフィルの才能に、第一次大戦前から気付いた人間は多くない。前情報もなしにその著書を一冊だけ読んで才能の偉大さに気付いたのはアリアくらいかもしれない。現段階では、彼はあくまで公皇子という身分はあるが無名に近い存在だ。
***
翌20日もアリアは午前中を図書館の読書に時間を割いた。
が、午後は用事が入っている。
先日購入したオリジナル・アーマー、ベレッサ級<ベレッサ>3機の試乗の日だ。
場所はベルセリク郊外の公営アーマー試乗場で、2平方キロといった広大な土地に様々な障害物が設置されている。販売側の『ザムール商会』側は、昼前には来て三機のセットアップを行っていた。
試乗したのは勿論アリアとナディアだ。
最初20分ほど操縦法のレクチャーを受け、それから慣らし運転に入った。
そこは二人とも戦場を経験した歴戦のパイロットだ。すぐに<ベレッサ>に慣れ、すぐに二機は模擬戦闘(火器はないが)や高速移動、格闘戦まで演じるまでになった。『ザムール商会』側も、まさか年若い美貌の少女二人がここまでアーマーを動かせるとは思わず、その見事な操縦に面食らった。
アリアとナディアの<ベレッサ>の評価も上々だ。
「いいよこれ! 足回りが軽いし加速も速いし、すごく動かしやすい!」
マドリード一のパイロットであり機動軍司令官であるナディアは<ベレッサ>の性能に太鼓判を押した。普段の愛機が大型に属するヒュゼインだから、一回り小さい<ベレッサ>の振り回しのし易さと加速性能のバランスの良さが気に入ったようだ。パワーやエンジン出力、フルパワーの機動力はさすがに国宝機のヒュゼインには及ばないが、用途によってはヒュゼインより面白いかもしれない。珍しい機体だが量産機だから弄る楽しみもある。
「市街戦や城内突入ならかなり力を発揮するよ、アリア様」
「そうですね。それに三機一隊の集団戦にも有用そうです」
幸いというか、すでにある<スレイベス>が接近格闘戦に強いのに対し、この<ベレッサ>は中距離・近距離に強い。武装次第ではスペック以上の働きが期待できそうだ。
「誰を乗せるか、だね。三機しかないし。エース級の人に与える事になると思うけどそれでいいかな?」
「勿論。ナディアが選抜してください。貴方が機動軍司令官なんだから」
やはりシンボル的な隊長機より、選別された上級戦術部隊とするほうが戦術的にも面白味がありそうだ。隊長機は<アージェンス改>で十分だ。特殊作戦用の<スレイベス>とこの<ベレッサ>。親衛隊用に<ナイアザン>、隊長機用に<アージェンス改>、一般兵用に<ガノン>……というのがマドリード軍の機動部隊の運用法である。
こうして性能も問題なしということで、本契約を済まし残金を支払った。そして帰りの便での輸送を手続きも済ませ、一つ仕事を終えた。
そしてその後はまた図書館で読書に勤しんだのだが……夕食後ホテルに戻ると思いもかけない相手が二人を待っていた。
***
夜……ヴァームとの会食を終え自室に戻ったアリアたちは、ホテルマンの訪問を受けた。
ホテルマンがいうには、大陸連邦軍広報の人間が尋ねてきたという。一通の置手紙を軍人は置いていった。
最初は身分がバレたのかと蒼白になったアリアたちだが、中を開きその中の一文を読むと、そういう重い用件ではなかった。
中に入っていたのは、大陸連邦軍決起祭の案内であった。アリア、ルクレティアの分も入れた三人分だ。どうやらヴァームが手配したのではなさそうだ。
明日都合がつけば大陸連邦軍基地を尋ねられたし、とあり、地図と軍事務所の受付時間も記載されていた。
「広報部ウリエ=パドム大尉」
アリアは差出人の名を読み上げた。むろん、心当たりはない。
その後ろの隠れた大物の存在には、さすがのアリアもまだ気付かない。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編15でした。
アリア様、本の虫ですw
そしてこれがアリア様とフィルさんとの出会いです。本人とではないですが。
これが運命……というか、アリア様、そしてマドリードの命運を変えます。
まぁそれは女王動乱編で。
実際のフィルさんとアリア様は「マドリード戦記」の作中では会うことはありません。
二人が出会うのは姉妹作「蒼の伝説」内でです。
ありえない話ですが、本当にこの時二人が出会っていたら世界の歴史は変わっていたと思います。
さて、今度は軍からの招待状をもらったアリア様。
何が起きるのか!? 本当に祭りの招待だけなのか?
ということでまだ続きます。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




