マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編14
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編14
戦艦購入ですっからかんになったアリア。
だが携帯武器のところでまた新しい発見が。
こうしてなけなしの金を使い本当にお金を使い切ってしまった。
しかしアリアはこの旅行でお金のかからない、かけがえのない場所を見つける。
***
「明日からどうしよう」
「スッカラカンだもんね」
「あはは……笑えません」
アリアは苦笑いしながら溜息をついた。もしかしたら自分は浪費家なのではないだろうか、と、ちょっと自らを省みて自責の念を覚えずにはいられない。
色々あった7月18日は後2時間ほどで日付が変わるだろう。
ステサルート・ホテルの自分たちの部屋に帰ってきたアリアとナディアは、今日手に入れた戦利品を手に持ち遊ばせていた。
二人が買ったのは、艶めいた絹のドレスでもなければ煌びやかな宝石類でもなく、高級な化粧品でもない。が、或いはそういったものより遙かに高価なモノだ。
ナディアは刃渡り65センチの短剣を二本。アリアは刃渡り50センチの短剣が二本。装飾も必要最低限しかない質素な短剣だ。だがただの剣ではない。この4本の剣は、最上品質のフェスト合金で作られた業物だ。
フェスト合金は、20年ほど前に開発された刀剣用の特殊合金で、これまで主流であったチタン合金や鋼鉄、カーボン合金より遙かに切れ味が凄く鉄を紙のように切る。それでいて軽い。そこらへんの包丁クラスの鉄の剣であれば一撃で切断してしまうほどの切断力を持っている。
というのも、フェスト合金で作られた剣はただ硬いだけではない。エルマ粒子を纏う特性があり、その刃を保護するだけでなく物質を破断するときエネルギーも発する。アーマーが装備しているビームソードに似た能力があるのだ。鞘がエルマ粒子を溜め込む合成強化プラスチックで出来ていて、纏わせるエルマ粒子の量を増やせば破壊力も増す。最上級品と神業のような剣術の腕があればアーマーの手足も切断できるという。これは後に一次大戦で何人もの武芸者が実戦でアーマーの手足を叩き切ったりコクピットを破壊したりして実証した。
「使い手次第で鉄の柱すら切る」という謳い文句にアリアもナディアも驚いた。午後に行った携帯武器のフロアーでの事である。むろんフェスト合金製の剣というのも初めて知った。
アーマーや戦艦と違って、短剣なら店頭で手にとって現物を見ることができた。
最初はその軽さに驚き、次にその切れ味に驚いた。試し斬りをした時、アリアは直径5センチの鉄棒を切断したし、ナディアにいたっては店頭で一番分厚い直径8センチの鉄棒を木の枝を斬るかのように乱切りにした。こんなに硬いものを斬っているのに手の中に感じる抵抗は少なく腕への抵抗力も少ない。重さはチタン合金製の6割から8割で、個体差はあるが政府制式のものは7割くらいにされているらしい。軽すぎても斬りにくい。
武人であるナディアはすぐにこの剣の凄さと魅力に気付いた。
この剣であれば乱戦でも疲労は少なく、威力は大きい。替えの剣を用意する必要もなく、相手が鋼鉄の細身の剣や歩兵用のクリト・エで使用されている一般的な槍であれば両断することもできる。
が……フェスト合金製の剣は値が高い。最初の店で手に取った汎用の短剣が1本1万ギルスだった。普通、軍に納品されているチタン合金製の剣が1500ギルスであることを考えれば6倍以上だ。
しかし二人共この程度なら買える。生活費用のカードにはまだ10万ギルス入っている。
最初アリアは数を買おうかと思ったが、二人合わせて20万ギルスしかない。軍の装備を一新するほどの数は入手できない。それなら二度とない機会だから特上の物を……という事で、上質の品を求めることにした。使うのはナディアだから、ナディアが納得するものを買おう。
こうして品質も最上級で重さも手頃な同型の短剣を二本購入した。1本7万5000ギルス、二本で15万だ。その店がサービスしてくれるというのでアリアも上質の短剣を二本4万ギルスで買った。合計19万ギルス。こうして二人の財布には5000ギルスしか残っていない。
「一本はミタスさんに。後一本は……誰かにあげます」
「アリア様が使いなよ? 軽いし楽だよ?」
部屋に戻ったということで、ナディアは早速両手で短剣を曲芸師のように振り回している。フェスト合金の剣の特製であるエルマ粒子の発光により、剣筋が光り、淡い光の軌跡が残照となる。慣れれば紙剣より使い心地がいい。
「これ、暗殺には向かないね。光でバレちゃう」
「ナディア! 貴方は元帥ですよ? 元帥閣下自ら暗殺だなんて……もう以前とは違うんです」
元帥が暗殺者になるなど、軍事活動としては逆さまも甚だしい。
「血で滑らないのはいいよ。すごい発明! やっぱ大陸連邦ってすごいんだね」
フェスト合金製の剣は刀身に宿るエルマ粒子が水気を弾くから、血で切れ味が鈍るということがないのだ。先の革命戦で剣を6本担いで戦ったことを考えれば、いかに有能か分かる。
もっとも、フェスト合金製の剣は現時点……第一次大戦ではそれほど広まっていない。発明国がソニアで帝軍や東側にはそれほど採用されなかった。が、第一次大戦でフィル=アルバードやアーガス=パプテシロスがフェスト合金製の剣で異常な活躍を見せ、戦後に大陸連邦軍の制式となる。
こんなすごいものがあるのならもっと買ってもよかったが、ガルゼンフとの戦艦発注がいくらかかるか分からないから、見込みで使う事はできない。戦艦やアーマーと違いフェスト・ソードはいつでも誰でも購入できるようだから、焦って買う必要はない。ここで計算して自制できるアリアは浪費家の部類には入らないだろう。
だが買い物はさすがにこれで終わりになる。
まさか3000万ギルスも持っていて、大陸連邦に来て二日目でほぼ全額消えるとは思ってもいなかったから、その点アリアは驚いていたし多少反省もないわけでもない。
「明日からは本当にただの観光ですね。できれば皆に安いものでもお土産を買ってあげたいですから」
せめてマドリード政府にいる重臣や上級軍人たちには何か大陸連邦らしいものを買って持って帰りたい。皆喜ぶだろう。元々お忍びの旅の予定だったが、ここまで大きな買い物をした以上帰国したら本当のことを話さないわけにはいかない。嘘をつかれた臣下たちも溜飲を下げてくれるだろう。こういう気配りを忘れないあたり、やはりアリアは天性の人蕩かしだった。
「明日からは観光しながら皆へのお土産探しです」
アリアは楽しそうに宣言した。ナディアもそれには同意する。まだ小さい政府とはいえ主要幹部みんなに手配するには5000ギルスでは足るまい。結局食費を除いたほとんどを使う事になるだろう。
しかしこういう庶民的に買い物をする事自体アリアにとってはタノシミであった。これまでの人生でそんな平和な時代は知らず、女王となった今はそういう軽率な行動は出来ない。
***
7月19日となった。この日も快晴で、乾いた夏日が心地いい。
この日、アリアたち三人は普通に街を観察することにした。ヴァームは今日も『ムサイカ商店』に出向くので別行動だ。ヴァームは今回一回で一年分近い商談を一気にまとめるから忙しい。
最初はアリアも同行してもいいか、と聞いたがヴァームは「これ以上浪費されたら本当にボク、ガレットちゃんに絞め殺されるから」とやんわりと断られた。多少まだ昨日のことを根に持っているようだが、別れ際「ディナーに付き合ってくれるならボクも少しは機嫌よくコア探しできるんだけどねぇ~」と言っていたから、本当にアリアの事を不快に感じているわけではなさそうだ。むろんアリアは了承した。
こうしてアリアたちはルクレティアの案内で午前中は街を散策し、色々な店を覗いて過ごした。アリアもナディアも他国の街を身分を気にせず物見悠山することなどなかったからこれだけでも楽しい。何度か朝食も昼食も採らず街中で買い食いをしたり色んな店に入り軽食を楽しんだが、それも国の経済や文化を考える上で十分勉強になった。
そして午後……ついにアリアは、一番楽しい場所を見つけた。
カレドニア政府直営の国営図書館だ。その蔵書数は100万を誇り、歴史書から文学書、各専門書、そして月刊で出ている娯楽本まで揃っている。
「すごい!」
これにはアリアも感激が隠せず目を輝かせた。これほど楽しい場所は他にはないではないか。
という事で午後、アリアはほとんど休むことなく本を読み漁った。国営図書館だから、カレドニアだけでなく西方のことや古い歴史の本もあるし、戦史本もある。
北の大陸の歴史は、マドリードにとって指標であり教科書だ。どれもアリアにとって新鮮で、そしてどれもためになった。文化や娯楽本も新しい政治や経済を構築する上での肥やしになる。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編14でした。
アリア様、すっからかんです。
とはいえほとんど自分のためには使っていません。そこはやはり女王様ですね。
フェスト合金は「マドリード戦記」の舞台であるクリト・エ大陸にはあまり存在しない兵器で、重荷大陸連邦だけの兵装です。尚、このすごい剣があるおかげで大陸連邦には「鎧」の概念がほとんどありません。鎧を着ていたら重いしこの剣の前ではほぼ無力。こうして大陸連邦軍には鎧がありません。また、その代わりに剣術が隆盛を極めます。「蒼伝」がアーマーや戦艦があるのに異常な強さの剣術使いがいるのは、すべてこの剣の戦闘力に由縁しています。
そして図書館で大喜びするアリア様。まさに留学の本領ですね。
この勉強期間が重要で、ここで得た知識が後の「女王動乱編」でアリア様の知識の元となり大活躍につながります。
ということでこれからは「アリア様勉強編」です。
多分このあたりがちょっと「蒼伝」とクロスオーバーするところです。
ということでアリア様の留学も後半に差し掛かりました。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




