マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編12
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編12
ガンゼルフの話に聞き入るアリア。
話が段々大きくなっていく。
その予算の大きさにナディアたちは引いていくが、アリアは別だった。
アリアはその話に熱中していく……。
***
<ドルバール級>は中型と大型の中間サイズのコアだが出力は大型並みだ。通常コアを中心に配置するところを、ガルゼンフの設定では両脇に配置し、その分前方並びに外殻装甲を厚く重くすることで安定させる。逆にエンジン出力で艦を制御する必要があるから不安定要素となる飛行安定用の飛行石は載せない。その分装甲費用はかかる。構造的には<デュアル級>の設計に近い。
「操縦は難しいが、動けば安定するし速度も出る……そういう船なんだが」
「これは売れないですね」
とアリアは言う。これは民間用にはならない。間違いなく設計者のエゴの塊で作る自己満足用だ。安定と耐久性を求める大陸連邦軍もこんなピーキーな戦艦は欲しがらないだろう。だがある種大艦巨砲主義の有用性を知るアリアのマドリードだけはこういう化物のような戦艦を欲しがる。
「でも本当に性能が出るなら、私が発注しましょう」
「ほ、本気!? アリア様」
「本当かお嬢ちゃん。そりゃあ俺にとっちゃあ願ってもない事だが……<ドルバール級>のコアは一つしかないんだ。もう一つ入手しなきゃならねぇーぜ? それも最高品質のものだ」
<ドルバール級>は今試験開発で盛り上がっている。この『ムサイカ商会』でも他の商店などで12基ほど売りに出されている。だが値も安くて300万ギルス、高いものと1200万ギルスだ。そしてガルゼンフは今信用がなく売ってもらえるとは限らない。
「必要なゾルベル装甲……これだけで1000万ギルスだ」
いくら貴族とはいえ1000万ギルスは高額だ。これはあくまで船体だけの話で、操縦室などの設備に500万ギルス、生活備品を入れればさらに200万ギルスはかかる。ここに作業工場の確保や人件費が加わる。
さらにアリアは高い要求を入れた。他の武装はつけなかったが、全面フォース・フィールドとビーム粒子砲の主砲だ。これは民間用としては無用のものだ。これにはガルゼンフも黙った。普通の貴族の持ち船としてはあり得ない装備だし、護身用にしては物騒すぎる。何よりビーム粒子砲はパンフレットにはない。
だがアリアの見解は別だ。
ビーム粒子砲のエネルギー源はエンジンと同じコアから出力する。基本セットで造るものだ。<ドルバール級>は民間船用ではなく戦艦用コアだし、ガルゼンフの経歴に<軍用サルベルク級>の開発に携わった事があると書かれてあった。ビーム粒子砲の知識はあるとアリアは見ている。
その事を言うと、ガルゼンフは黙った。出来ない事はないが、独立してやるのは初めてだ。それでも色々頭の中で計算をしてみる。
それで弾き出した額がこれだった。
「ここまでで3800万ギルス。コアは別で、だ」
アリアたちは顔を見合わせた。さすがに高い。これにもう一基最上級のコアを買うとなれば5000万ギルス近い額だ。しかもこれだけ払って艦が無事成功する保証はない。
「さすがにそんなには持っていません」とアリアも腕を組んだ。だが声は拒絶しているのではなく悩んでいる。
「もう少し……値段はなんとかなりませんか?」
「本気なの? アリア様。そりゃあ完成戦艦を買うより安いけど5000万だよ?」
いや、造船の工賃や人件費など入れれば、結局8000万……いや、1億ギルス近いだろう。さすがにそんな大金は今持っていない。
ただ、アリアの場合今ないだけで用意できないわけではない。
「でも、完成後払いは可能なんでしょう?」
「いや、まぁ……そりゃ可能だが……ウチの工場、火の車でなぁ。後払いがメインだと職人がキープできねぇんだ、情けない話だが。これまでもそれで失敗してきている。だけど今はいい職人がいてくれるから金さえあれば問題ない!」
「そうすると……ざっと計算して……やはり7割は前払いの現金払いが必要ですね」
アリアは溜息をついた。どうしてガルゼンフに閑古鳥が鳴いていた理由はドドーリアが流した評判だけではないようだ。こんな大きな……しかも賭けの要素が大きいプロジェクトに前金で半額以上払う事が条件となれば、そう簡単に依頼など来るはずがない。
……ここで決裂、退席のタイミングだね……。
ナディアとルクレティアが黙って確認しあい、そっとアリアの服を引っ張った。
だがアリアは立ち上がらなかった。
「話を続けてください」
「おい、お嬢ちゃん。本気かい?」
むしろ話をしたガルゼンフのほうが動揺している。こんな大きな取引はガルゼンフの商会にとっても初めてのことだ。
それに、ついここまで話をしてしまったが、一つ乗り越えなければならない問題がある。
レーザー粒子砲搭載となれば、個人には販売出来ない。政府関係に限られている。その事を告げると、アリアもさすがに黙った。だが目は本気になっている。
数秒アリアは考え……そして「問題ありません」と呟く。
「私はクリト・エ大陸の東にある小国マドリードの女王アリア=フォン=マドリードです。マドリード政府として発注すれば問題ありませんよね?」
「なっ!?」
ナディアとルクレティアが発言の重大さに気付いたがもう遅い。アリアは名乗ってしまった。
しかし覚悟を決めてしまったアリアは、毅然とした態度で確認をする。
「ヴァーム代表にお願いしてカレドニア政府の許可を取ってもらいましょう。できますか? ルクレティアさん」
「できなくはない……と思いますが、アリアさん……いえ、アリア様。本気なのですか?」
ルクレティアも突然の展開についてこられていない。アリアが法外なものを買うため隠している本来の身分を明かしてしまったことだけは分かった。だがアリアは拙い事をしている風はなく、態度はこれまでと変わらない。
ヴァームに……というが、ルクレティアは所詮留学生だ。アリアが本来の身分を名乗った以上ルクレティア程度の身分の者が間に入れるはずがない。ルクレティアは少し戸惑い迷ったが、結局ヴァームを呼びに席を立った。
「しかし、本当にお嬢ちゃんが女王様なのか?」
周囲を見渡し、そっとガルゼンフは尋ねる。疑っているわけではないが、それでも相手が王族というのは俄かには信じられないという気分だ。
「本当です。小国ですが私は女王です。決裁権も持っていますし、必要とあれば1億ギルスでも用意することが出来ます」
アリアは動じない。ナディアも今は黙って経過を見守っている。正直なところ諫止したいところだが、アリアは自分の身分を明かし政治家として交渉を始めた以上、軍官であるナディアが差し出た真似は控えねばならない。
とはいえアリアもまさか1億ギルスで発注するわけではないし、安易に決断も出来ない。ヴァームが来るまでの間、ガルゼンフに細かい費用の再計算を求めた。「できるだけ安くなるようお願いできれば」と付け加えて。
ガルゼンフにとってもこの契約は人生最大の契約になる。そして契約が成らなければ現実問題として破産が待っている。是が非でも漕ぎ付けたいのはガルゼンフのほうだ。
二人が経費や納期について相談する事15分後……ルクレティアに伴われ、ヴァームがやってきた。
すでにルクレティアから話を聞いたヴァームの機嫌はよくない。そして相手がガルゼンフの<バルゲン商会>だと知って露骨に嫌な顔をした。ヴァームはこのベルセリクでのガルゼンフの評判を知っている上に、無茶な設計屋でこれまでいくつも造船に失敗している事も知っている。
だがアリアはそんな事は知らないし、評判を気にする人間でもない。アリアは事の一部始終と主砲発注の許可をヴァームに求めた。それを聞き、ますますヴァームの表情は不機嫌になる。
仏頂面で話を聞いていたヴァームの最初の一言は、まずは苦情だった。
「今回ベルセリクに連れてきたのはマドリード女王じゃなくてアリア様個人よ。女王だと名乗るのだって迷惑なのに、カレドニア政府と勝手に話をするなんて何考えているの?」
「申し訳ありません。その点は謝ります。ですが戦艦を買うなとは約束していませんよね?」
「普通のならね。ジャンクを買うなんて聞いて賛同すると思う?」
「ジャンクじゃねぇ! これは間違いなく動く船だ!」
「黙っていなさいガルゼンフ。口を出さないでくれる? これは国家の代表同士の会話よ。庶民がしゃしゃり出ないで。アリア様、ちょっとこっちに来て」
ヴァームはアリアだけを手招きし、近くのテーブルに移った。
だがこのやりとりで、ガルゼンフはアリアが本物の女王であると知った。思わぬ大物の登場にガルゼンフのほうが緊張しはじめた。
ヴァームは、このベルセリクの造船業界には詳しい。当然ガルゼンフの悪い評判を知っている。無茶な仕事を請け負い、いくつも船を駄目にしているし、ピーキーな船ばかり作りたがる。小型艦ではいくつか成功例があるが大型船での成功はない。
だがアリアも負けない。ヴァームが挙げたガルゼンフの失敗の事例を、まるで見てきたかのように弁護する。アリアはヴァームの話を聞いて逆に確信した。ガルゼンフは運と資金に余裕がないため失敗したのだ。能力のせいではない。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編12でした。
アリア様、動く!
そこはやはり一国の女王様。買い物は大胆です。
高額とはいえ、一応アリア様は元首でお金はもっています。
そして、やはり根は政治家であり軍人。どうしても政治力や軍事力を考えてしまいます。こんな機会二度とないのも事実ですし、それだけクリト・エは危険な戦争状態ですし。
しかしお金が足りない。
融通してくれそうなヴァームは不機嫌。
どうするアリア様!
という事で次回です。
次回はアリア節?発揮です。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




