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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
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マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編11

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編11


フードコードで昼ご飯を食べるアリアたち。

実はちょっとした騒動を起こした後だった。

そして同席しているのはガルゼンフという名の造船技師。

彼はとんでもない戦艦のネタを持っていた。


***



 『ムサイカ』五階の一角にある大きなフードコート。10店舗ほどの飲食店が入っていて、軽食やカフェもあるし、ちゃんとした料理屋も入っている。ここは休憩場であり商談の場でもある。


 今は昼時真っ只中だ。多くの客が昼食を摂っていて賑やかだ。


 その一角に、アリアたちの姿はあった。



 ただし、彼女たちの前に座り大盛りのランチ・セットを貪る男はヴァームではなかった。

歳は30代半ばだろうか……背が高くやや痩せ型で無精ひげを生やし、服は雑ではないが所々脂汚れ擦りきれていて清潔感はない。だがけして粗野なだけの男でもないようだ。



 男……ガルゼンフ=アドーは残った肉炒めを千切ったパンで掻き集めると、まとめて口の奥に押し込んでいく。


 豪快といえば豪快だし、必死だといえば必死だ。


「いやぁ~! 旨い! さすがは『ムサイヤ商会』の飯は格別だ! はははっ、驚かせちまったな、お嬢ちゃんたち。すまねぇ、設計を見直したり計算したりで原稿作成に今朝までかかって、この三日間というもの、ちゃんとした飯は食べてなくてな。一心地ついぜ、アリガトよ」


「いえ……どういたしまして」


 ガルゼンフの気持ちいい食べっぷりに、さすがのアリアもナディアも、やや飲まれた。ちなみにアリアとナディアはこの地方の名物である小麦のヌードルと煮込み野菜、ルクレティアは肉団子を挟んだサンドイッチ・セットを食べている。


 いい忘れていたが、ヴァームは「ちょっと他の馴染みのところに顔を出すから」ということで、再び一人での行動になりルクレティアを案内役に残した。これから顔を出すところはあまりアリアにいてほしくない、という事だと分かったので素直にそれに従った。



 三人で色々見てまわっていたときだ。このガルゼンフが引き起こしたちょっとした騒動に出くわしたのは。




***




 騒ぎというほどのものではない。


 彼……ガルゼンフ=アドーも、この『ムサイカ商会』の参加者だ。そしてたった一基のコアと一枚の<新型ドルバール級>の設計図を展開し、小さなテーブル一つで店を張っていた。しかしどういうわけか彼の店の前には客が寄り付かず、閑古鳥が淋しそうに鳴いていた。諸所の悪い噂に加え、仏頂面で無口で、どこか訳ありそうなガルゼンフの人相が余計に人々の足を遠ざけていた。むろん、こうなるには十分な理由が彼にはあるのだが、一先ずそれはここでは語らないでおこう。


 これだけなら騒ぎにならない。


 出店するということは、この場にいるということである。ガルゼンフがここにいると知り駆けつけた者がいる。ドドーリア=クレンという商人だ。この男は以前ガルゼンフと取引をして揉め事を起こしていた。簡単に説明すると、ドドーリアは格安で飛行船製造を請け負うガルゼンフの<バルゲン商会>に発注したのだが、飛行船は完成しドドーリアに引き渡されたが、その飛行船は一週間ともたず墜落した。死者は出なかったが、ドドーリアは手抜き製造だと決め付け抗議し、代金の返金と損害賠償を求めた。ガルゼンフは契約書どおりで落ち度はないと突っぱねたが双方譲らず、事は裁判所案件となり、結果裁判所は損害賠償は認めなかったが、半額の作業代金返済を命じた。 この決定は双方納得しなかったが、裁判所の決定だから従わざるを得ない。


 元々ガルゼンフの<バルゲン商会>は長年自転車操業が続き半額でも料金の返金は厳しく、結局まだ50万ギルスほど返済額を残していた。しかし大損をしたのは大金を用意しコアまで入手して肝心の船が鉄屑になったドドーリア側である。そもそもこの状況に腹を立てていたドドーリアの取り立ては厳しく、ガルゼンフとしては逃げ回るしかなかった。その点に関して誠意がガルゼンフになかったのも事実だ。


 ドドーリアは立腹のあまり、腹いせに業界に悪評をバラまいた。この街ではドドーリアのほうが顔は広く関係者も多い。これでガルゼンフへの依頼は激減した。


 というのも……悪い評判の一つに、ガルゼンフが最新の<ドルバール級>のコアを持っている事がある。これは捨て値でも500万ギルスで売れるものだ。だがガルゼンフはそれを売る事はしなかった。その事実が業界内でガルゼンフの印象を決定的に悪くした。


 という事で、八方塞のガルゼンフの<バルゲン商会>が今回の『ムサイカ商店』でこっそり出店していたところ、ドドーリアが聞きつけ、公衆の面前でお互い激しく罵り合っていたところ、たまたま偶然アリアたちが居合わせた。そして争いの事情の大半を聞いた。


 周囲にいた同業者や客たちは迷惑そうに騒動を眺めていただけだが、話を聞くうち、アリアにはガルゼンフの言い分に非がない事が分かった。


 両者が殴りあいに発展しそうな罵りあいをしている中、アリアはじっと両者の言い分を黙って聞いていた。そして聞きながら、ガルゼンフが展示している新型<ドルバール級>の設計図を見ていた。


 権力はドドーリアのほうがあるし、強面の手下を連れている。ガルゼンフが正に叩きだされようとした時、アリアが仲裁に入った。


 むろんこの場のアリアは女王ではない。今はただのアリアだ。15歳の少女に過ぎない。


 だがアリアは毅然とし、理路整然としていた。


 まずここが多くの商人が集まっている公共の場であり、騒動は当事者だけでなく周りの客にとって迷惑である事。開催者である『ムサイカ商会』にとって迷惑である事をドドーリアに言い立て、そして最後に「私はガルゼンフ氏と商談中です。本当に集金が目的でしたら邪魔はしないで下さい。それとも嫌がらせが目的ですか? それであれば当家が相手になります」と言い放った。アリアの威勢に飲まれたドドーリアが立ち尽くした隙に、ナディアが駆け寄り「お嬢様、男勝りな事はお止め下さい。旦那様がお待ちです、行きましょう」と声をかけ、そのままガルゼンフを連れ、その場から離れた。


 むろん演技だ。こういう場から自然に立ち去る演技や知恵はアリアもナディアもお手の物だ。




 こうしてフードコートエリアに逃げてきた……というわけである。そして丁度昼時ということもあり、一緒に食事をという流れになった。ガルゼンフは食事代すら持っていなかった。さすがにこの男も昼飯まで助けてもらうのは気が進まなかったが、ろくに食べずにいた腹の虫が食堂の旨そうな飯の匂いの耐え切れず鳴りだし、緊張が解けたのも重なって一気に空腹が襲い掛かり彼の気力を奪った。様子を見ていたアリアが、「では、どこか美味しい店を紹介してください。ランチはそのお礼です。私たちだけ食べても美味しくないですから」と言ったので、ようやくガルゼンフも食事にありつくこととなった。


 そして食事の間、まずアリアたちは自己紹介をした。さすがに女王とは言わなかったが、クリト・エ大陸のアルアフトロスの有力者で、商売で来たことを素直に伝えた。ガルゼンフは多少知識がありアルファトロスの人間と聞いても驚かなかった。もっともアリアの度胸と凄然と態度を見たとき、連邦百四家の上級の貴族の令嬢ではないか……と勘繰った。



 余談だが、大陸連邦には大きく分けて三種の貴族が存在する。まず最上位であり事実上王であり国である9公国。大陸連邦政府の直轄地を治める連邦貴族である連邦貴族百四家。そして各公国内の各貴族だ。全てを入れれば2000家以上あるだろう。しかし貴族としての特権を有していてそれ相当に力を持っているのは連邦貴族百四家になる。簡単に色分けすれば、大陸連邦という国は巨大な9カ国の公国と、無数の政府直轄地で形成されているのだ。もっとも権限は雲泥の差はあるが。公国は大陸連邦憲章内であれば完全自治権があり法律も政治形態も自由だが、連邦貴族百四家は大陸連邦法に収まる限定的な領主に過ぎず、領地も精々小さな町くらいが最大だ。



 さて、アリアたちが語ったから、次はガルゼンフの番だ。とはいえ話す事はそうあるわけではない。



 ガルゼンフ=アドー……この科学都市ベルセリクを拠点にしている小さな造船会社<バルゲン商会>の社長かつ設計士で、墜落事件と訴訟騒動を起こしている厄介者だ。



「アリア様、何で助けたの?」


 話を聞くかぎりアリアがどこに興味を示したのか、ナディアには分からない。いくらアリアが正義感に満ちた少女でも、そこは忍び旅の女王だ。騒動に巻き込まれるリスクは避けるべき……という常識は当然持っているし、軽率な人間でもない。仮にも7年もの間流浪していた王女だ。


「一つはガルゼンフさんに非はないからです。墜落事故はどうやら先方の無理解と無茶から生じたもののようで、設計や造船に責任はない。それは裁判所もそう命じています」


 そう、事故そのものや船の設計に関しての非はガンゼルフ側になかった。アリアが気付いたのは戦艦の運用法を詳しく知っているからで普通の商人には気付きにくいだろう。 その点全ての非を押し付けてきたドドーリアのほうが悪人なのだ。


 だがその後が悪い。結局裁判所からいい渡されていた50万ギルスの返金に応じることができず、それがドドーリアの増長と責任の押し付けへと繋がった。アリアはその責任転換のカラクリに気付いたのだ。


「返せばいいじゃん」と当たり前のことを言うナディア。

「俺に甲斐性がなくてね」と情けなさそうに呟くガルゼンフ。



 造船作業代金の100万ギルスのうち返金命令が出たのは半分の50万ギルス。だが自転車操業で息もつけなかったガンゼルフの会社にとっては会社維持のため必要なお金で、とても50万ギルスなんて額を出すことは出来ない。この事も騒動の罵声で知った。


 むろんアリアも慈善事業で助けたわけではない。




「これを見ていなければ、助けていません」


 そういうとアリアは一枚のチラシを広げて見せた。




『新型機動戦艦受注します。業界初の<ドルバール級>二基並列により<デュアル級>を超える性能を実現します。しかも破格の予算で。設計者ガルゼルフ=アドー』




 これはガルゼンフの商会が今回の出店にあわせて急ごしらえで刷ったパンフレットだ。


 この謳い文句に惹かれたのは事実だ。通常一基で作る飛行船だが、機動戦艦のエンジンを二基同列にすることで性能を1.5倍にする……というのは分かってしまえば当たり前の事だが、素人考えすぎて信じる人間はこのベルセリクにはいない。


 だがアリアはこの理論が正しいことを知っている。


「全く同じ同出力、同速度、そして同じ連携を取れば加速は確かに通常の設定より上がります」


 アリアは断言する。実はその事をアリアは科学の経験ではなくアーマーの実践で知っているのだ。


 ヒュゼイン白機と紅機……訓練でアリアとナディアは最高速実験と連携の訓練を行った時、両機が手を繋いで、同時に同出力で加速した時、予想値を超えるスピードが出たことがある。高い速度も出るよう設計されたヒュゼインの特性、空気抵抗の現象やエンジンの出力が偶然一致した時出た結果であり、操縦者の力量が高く、そして全ての能力がほぼ同じだから出来た産物だ。だがその事はアリアの記憶の片隅にあった。


 その経験を語るわけにはいかない。が、アリアの言葉の中にある強い自信にガルゼンフのほうが圧倒された。そして意外な理解者の出現に、なんともいえない感情が込み上げる。技師や芸術家たちにとって一番の報酬は理解されることだろう。


「だから、お仕事の話というのは嘘じゃないです。話を具体的に聞きたいし具体的な予算案も聞きたいです」

「お、おう」


 ガルゼンフは口元をナプキンで拭うと、さっそくパンフレットを開き説明を始めた。




マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編11でした。


ということで今回の騒動からアリア様の買い物編です。


今回がきっかけ編ですね。


ついでに今回、大陸連邦の貴族制度の説明や戦艦の説明など載っています。

貴族といっても大陸連邦の貴族は王家の係累というよりは上級民というのに近いですね。貴族院があってそこで政治に関われます。政治に興味のない家は別に貴族院に出なくてもいいことにもなっています。公国貴族は普通の貴族で大公家の係累です。こっちのほうがごく普通の貴族の感覚です。


ということでなんだか変な男に捕まったアリア様。

そして聞いたこともない新型戦艦設計図。

どうするアリア様!


ということで次回です。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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