マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編10
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編10
買い物を続けるヴァーム。
なんとヴァームの狙いは別にあった!
そして豪快かつ強引な手法にアリアは目を丸くする。
ヴァームの秘めた狙いも……。
***
「他は分割でいいのよね? 何割くらいサービスしてくれる?」
「最大4割引きくらいは考えてもよろしいです」
「そう。じゃあ……」
そういうとヴァームは横に座るアリアをちらりと見て一笑し、オウルを見つめる。
「コアを買うのやめて、<スカーレッション>を買うわ。4割引だと、17億でいいかしら? 端数はオマケしておくわ♪」
「なっ!?」
「!?」
突然のヴァームの提案に、オウルは唖然となりアリアは思わず立ち上がってヴァームを見た。
<スカーレッション>……さっきまでアリアが悩んでいた<デュアル級>ではないか。
「ちょっと待ってください。コアじゃないんですか!?」
「んー……気が変わっちゃった。コアだなんて明言しなかったでしょ? 分割で17億ならいいんじゃない? あれも在庫残りみたいだし」
「古い初期型とはいえ<デュアル級>ですよ!?」
「4割引までOKって言ったじゃない。安いコアなんて買うより、こっちのほうが遙かに売り甲斐があるでしょ? 二つ合わせて約21億よ?」
「…………」
さすがにアウルも言葉が出ない。しかしルール違反ではない。
アリアもヴァームの狙いが完全に分かった。ヴァームの狙いは元々<スカーレッション>だったのだ。それを大幅に値下げさせるために、まず値引きに応じやすい<プレーゼン>を上手に値切りオウルを油断させ、ついに本命の<スカーレッション>を持ち出したのだ。
カタログには載っていないしアウルは口に出していないが、恐らくこの<スカーレッション>は中古船だ。一度政府なり貴族なりの手に渡り、軍艦への換装費用が高くつくとわかり返却されたか買い取る事になったかのどっちか……とヴァームは踏んでいる。でなければ<デュアル級>がこんな値段で転がっているはずがない。ヴァームが出した提案額は、買取したであろう額だ。そのあたりの感覚は大陸連邦の裕福な商会よりクリト・エ大陸で二つしかない科学都市国家の代表のほうが優れている。
「頭金入れて即金で11億。残り10億は五年分割でどうかしら? 他の商人なら分割10年以上になると思うケド? カレドニア政府だって中古の船をその値段では買わないはずだしね」
そういうとヴァームはニッコリと微笑み、口を閉ざした。
多弁なヴァームの沈黙は不気味で迫力がある。アウルは完全にヴァームに飲まれたようで、即答せず眼がチラリチラリとカタログの上を上下する。ヴァームは言葉での攻めはしないが、出されたお茶をせわしく飲むことで「嫌なら他所あたるけどいい?」と急かしている。
……これはヴァームさんの勝ちだ。ヴァームさんが場の空気を支配した……。
横に座って一部始終を見ていたアリアは即座にその事が分かった。ナディアも、ヴァームのほうに余裕があることを察した。
ヴァームがお茶を飲み終え、店員からのおかわりを断ったとき、駆け引きの勝負は決した。場の雰囲気通り、オウルが手を打った。
「ヴァーム氏には参りましたね。これまでの付き合いもありますし、今後も当商会をご贔屓にしてもらえるということであれば、友情の証としてその値段でお売りしましょう」
「アリガト♪ なら詳細を話し合いましょうか」
そう答えると、ヴァームはオウルの後ろに控える店員にお茶のおかわりを要求し、ソファーに深く座りなおした。
が、ここで終わるヴァームではなかった。
「他も4割引になるわよね? まだ手をつけてないのでいいから安いのがあるかしら?」
まだ買う気か!? と、アリアもナディアも驚いた。しかし滅多に来られない大陸連邦なのだから、買う時は一気にだ。
これにはさすがのアウルも驚く。
「随分いきますね、ヴァーム氏」
「あー……でも、もうこっちも財布は厳しいから掘り出し物があれば、だけど?」
コアの値段はピンキリだ。戦艦にとって一番重要な部分だが、一番高くつくのは武装、そしてついで戦艦を包む外装で、次に内装だ。だからコア自体はそう高くない。掘り出し物もあれば使えるかどうか怪しいものまである。なので、最新型の<ドルバール級>でも500万ギルスからある。
こればかりはカタログにあるスペックを信じるしかない。
ヴァームは比較的程度のいい1200万ギルスの<ドルバール級>のコアを600万まで値切り一基買った。
<プレーゼン>は空港に停留しているとのことで、帰路はこの船に乗って帰れるよう手続きをとった。クルーは『オゴーレ商会』の人間を借りる。<スカーレッション>は郊外の商会の土地にあり、整備と調整に一ヶ月かかる。これも整備が終わり次第『オゴーレ商会』がアルファトロスまで運んでくれることになった。これだけ大口の取引だからそのくらいのサービスは『オゴーレ商会』にとってなんてことのない事のだ。
諸々手続きが全て終わるまで一時間ほどかかった。
「でも、アルファトロスでも高すぎる買い物じゃないんですか? 21億だなんて」
さすがのアリアも心配になった。元々手頃な純エルマ式戦艦を買う予定だったからお金はあるのだろうが、<スカーレッション>は余計な買い物だ。それを聞いたヴァームは「フフッ」と笑った。
「問題ないわ。クソ爺の残した財産があるし」
「ユイーチの?」
「そう。あの老人の在席中の儲けがプールしてあるから」
先代にしてヴァームの師といえるユイーチは、歴代代表の中で一番財を築いた。主に大陸連邦で仕入れた戦艦のコアの転売と造船、煙草産業の独占、金の輸入業が主な収入で、およそ80億ほどの財を溜め込んだ。ユイーチという男は金儲けの嗅覚はヴァームより遙かに優れていて、それでいて金を溜め込む癖があった。財政家というより金集めを娯楽にしているような男なので、使う事にはあまり興味がなかった。代表を辞職した時財産の多くをアルファトロスの代表専用の備蓄として処理したので、今ではヴァームに裁量権がある。
それに、<スカーレッション>に関しては、ヴァームにも思惑がある。
「どうせ売るもの。ザムスジル帝国以外のどこかにね」
「…………」
アリアはそれを聞き複雑な顔をした。
ヴァームの言葉の意味が分かったのだ。
「努力……します」
そう、きっとアリアが買う。軍艦への換装や改造を入れてヴァームの手数料を考えると18億マルズくらいか。それまでヴァームが預かる……そういう事だ。
アリアが国内の経済を活性化させ、いくらか国を成長させられたとき、交渉できるだろう。アリアはその天性である軍事だけでなく王として成長すれば、買う目処がつくかもしれない。むろん分割払いだし、大蔵大臣であるガレットを説得し、彼女と共に強い経済を作り上げなければならない。そのための努力だ。
「ま、デカくて物はよく乗るしね。輸送機として当分は使わせてもらうわ。<デュアル級>を持っているってだけで宣伝にもなるし、護身用にもなるしね」
「努力します」
アリアは苦笑した。
アーマーのときと違い、ヴァームがわざわざ戦艦購入に同行させたのは、この<スカーレッション>の件があったからかもしれない。クリト・エ大陸で唯一<デュアル級>を持つマドリードとしては、その地位を守るためには他国に持たせるわけには行かない。どうせいつかは手に入れるとすれば、原価を知っておくほうがいいだろう、というのがヴァームの計らいである気がした。中古の中古であれば値はもう少し下がるからだ。
全く無謀な買い物でもなかった。今のマドリードには革命成就と即位の祝い金としてヴァームから(実際はユイーチから)の20億マルズがある。国内の環境整備や施設、イニフラの整備と新事業など2億マルズほどの大金をすでにこの三ヶ月で使ったが、それは貴族の資産やガレットからの提供でやりくりしたので、まだこの20億は手付かずで残っている。非常に幸運な事にマドリードはこの秋豊作で、輸出と生産力は伸びる予想になっているし、アダや奴隷たちの愛国心は強く安くて良質な労働者もいる。革命などという国家にとって重大すぎる荒療治の治療を行ったのに国力が落ちず、すぐにプラスに転じるなど、様々な政治的要因があったとしても歴史的にみれば非常に珍しい。
ちなみにこの<スカーレッション>……アリアが考えていたより早くマドリード船籍に変わることになる。アリアの努力やガレットの理解からではない。激化するクリト・エの戦乱において、マドリードが手に入れざるを得ない状況になるからだ。結局クリト・エも戦争からは逃れることができない。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編10でした。
ということで21億なんて大金をあっさり使うヴァームです。
さすがに高額ですが、まぁ……本編で言っていた通りアリアに売ること前提なので痛くも痒くもありません。これで他に色々サービスしてもらえるのだからヴァームにしては問題ないわけです。別の言い方をすればこの場にアリア様を呼んだのは全てヴァームの企みです。全て計算されていたわけですね。
そしていずれアリア様が買います。
それは女王動乱編で。これが鍵になります。
ということでヴァーム氏の買い物編はこれまでです。
次はアリア様の買い物編になります。
情報はこれまででいろいろ出したので、ようやく本筋という感じです。
ということでこれからどうなるか楽しみにしていてください。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




