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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
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マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編9

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編9


一番の目玉である戦艦展示会にいくアリアたちとヴァーム。

ここでは様々な戦艦が売りに出されていた。

アリアの興味は最新鋭戦艦である<デュアル級>だが、その値段を聞いて驚くアリア。

が、なんと相場よりかなり安い<デュアル級>を見つけたのだが……。



***




 『ムサイカ』五階の活気はすごい。


 完成飛行船を売る商会、コアを売る商会、設計図を公開し船の製作を受け持つ造船業者、そして関係パーツを売る業者など様々だ。


 さすがのアリアも飛行船は専門外だ。なので、今回はヴァームについていく事にした。


 ヴァームもここでは単なる客でしかない。とはいえぶらぶら流して見るのではなく、よく知る商会目指し歩いていく。


 ヴァームが最初に訪れたのは『オゴーレ商会』で、この『ムサイカ商会』が開くイベントの中でも大きい店で、純エルマ式戦艦も扱っている。


 商会の代表アウル=グルーゼとヴァームは何度もやり取りをしている相手で、二人は再会するとまず強い握手を交わし、二、三近況を語り合うとすぐに商談に入った。


 アウルは自分の商会スペースの応接席にヴァームたちを案内し、若い女性店員に冷たいお茶を持ってくるよう声をかけた。そしてそれが運ばれる前に『オゴーレ商会』が誇る自慢の飛行船カタログを持ってきた。ヴァームはカタログを二通要求し、内一通はアリアに手渡した。



「今回は品揃えがいいですよ。よくごらんになってください」

 と、アウル他『オゴーレ商会』の人間は応接席から離れた。


 カタログは写真付きのもので、船体や船名のほか、スペック、製作年、特徴などが見易く表記されている。


 眺めていたアリアは、カタログの中に驚きの船を見つけた。



 <スカーレッション>……<デュアル級>だ。価格は28億ギルスだから相場から考えてひどく安い。


 ヴァームはアリアが<スカーレッション>に気付いた事を知り、喉を鳴らして小さく笑った。



「欲しい? 確かに破格の値段だし、ボクも心が揺れない事もないケド」


 欲しいが、いくらなんでもこんな高額なものは買えない。しかし相場の半分ほどの値だ。


「どうしてこんなに安いのですか?」

「年式が12年前だから<デュアル級>の初期製造のテスト艦ね。今の最新<デュアル級>は第三世代でこれは第一世代、武装はついていないからこの値段なのよ」


 <デュアル級>が実戦配備されたのはほんの5年前だ。この前後大陸連邦各公国で開発と軍用化が進んだ。<アインストック>もこの時期コアを手に入れ作られている。


 <スカーレッション>はそれよりも前の開発だ。ということは軍用ではなく開発技術目的の試作艦で、性能の面では一段落ちる。


「<デュアル級>は構造上主砲を開発段階から組み込まないと後付けは難しいのよ。戦艦特化の船だもの。だから戦艦用に換装されていないと改造が大変なの。アーマーの積載量だけでいえば大型飛行石型戦艦のほうが乗るし、その条件なら<サルベルク級>のほうがいいしね」


 第一次大戦の主戦場は北のカンベルトとアリルパ。そして国境を接しているドロムとラダストームで、このカレドニア公国は前線からは遠いが、それでも大陸連邦東諸国の中心として後方拠点の中心となるだろう。ここでは戦艦の戦闘力や速度より積載量が運用する上では重要だ。だから比較的安い。これが戦艦開発を重視する西の大国ソニアだったら改良できる腕もあり、いくら型落ちでも相当値段は張るはずだ。


「でも、開発目的の試作試験艦なら<アインストック>と同じではないのですか?」

「ちょっと違うわね。<アインストック>は元から戦艦として造ったもの」


 試作試験艦の全てが旧式というわけではない。<アインストック>は第二世代艦だが性能は第三世代のものに匹敵するし、第一次大戦中フィル=アルバードの母艦として活躍した反帝軍の花形艦であるソニアの造った第一世代試験開発軍艦<ヴァルバロッサ>という特例もある。<ヴァルバロッサ>は大国ソニアが予算度外視で作っただけあって最新の<第三世代・デュアル級>のどの艦よりも性能も戦闘力も上だ。一口に試作艦といってもそれぞれ状況は異なる。



「成程……でも、それにしても安いんじゃあ……」

「まぁ、そうね。ちょっと値切ってみようかしら」


「…………」


 さらっというヴァームに、アリアもナディアも言葉を失った。安いといっても28億ギルズ、マドリードの国家予算の7倍だ。しかしヴァームの口振りだとこの程度の額なら買えるということだ。


「<デュアル級>は戦艦のイメージが強いもの。アルファトロスが商用で使うにはちょっと刺激が強いのよね。買ってもいいし転売してもいいけど、こんな高級戦艦が買える国なんて中々ないから在庫になっちゃうわ。それともアリアちゃん、買う? 軍艦に換装する費用入れると……そうね、総額30億マルズでいいわ。勿論分割払いにしてあげるケド」



「か……考えておきます」



「買っちゃうの!? アリア様」

「検討です。だって……完成品の<デュアル級>なんてまず手に入りませんし」


 そうだろう。現段階でないということは今後手に入る可能性は限りなく低い。造れば大陸連邦政府が市場に出す前に買いきってしまう。謀らずも<デュアル級>の戦艦が戦争でいかに有益か、クリト・エ大陸で一番知っているのはアリアだ。一艦で10隻の戦艦、10万の兵力に匹敵する能力がある。すでにある<アインストック>と合わせて二艦ということになればマドリードの軍事力は比較にならないほど上がる。その効果がいかに大きいかは、アリアほどの政治・軍事の天才には、痛感するほどよく分かっている。


 それより問題なのは、ヴァームがこの艦を買い、商売として他国に売れば世界の均衡が崩れる事だ。今クリト・エ大陸で唯一の<デュアル級>がマドリードの<アインストック>ただ一つで、マドリードの軍事力を支える根幹だ。これを他国も手に入れたとなれば軍事バランスはまた変動する。他国に取られるくらいなら自分たちが抱え込むほうがいい。



 ……と、いうのはアリアの軍人と外交の才から出る判断で、内政家の判断からいえばとんでもない話だ。革命が終わり、国が回復と成長に向かっている大事な時に、国家予算7倍の戦艦を買うなど論外も甚だしい。



 ……これを買うなんていえばガレットがどんな顔をするやら……。



 マドリードの財布を預かり取り仕切るガレットは有能で世界情勢よく理解しているが、外交はともかく軍事は素人同然でアリアに対しても手厳しい。相場より遙かに安い点は理解してくれるだろうが、国家としてはそれより優先すべき内政問題が積みあがっている。ガレットはアリアを愛してはいても公私の別ははっきり分けるし容赦もしない娘だから、アリアの決断だといっても納得せず猛反対するに違いない。この場合常識的にはガレットのほうに分配が上がる。


「検討だけはします。まだ日時もあることですし」


 そう答えたアリアの言葉にあまり強い意志はなく、やや弱気の返事だった。


「じゃあ折角だし、アリアちゃんはボクの買い物の仕方を見ておくがいいわ。何かしら参考になるはずよ」

「はい」


 商才はヴァームのほうが優れているし、色んな相手との商売も慣れている。


 5分ほどして、『オゴーレ商会』の主がアウル=グルーゼが現われ席についた。


「実は<ロストーゼ級>の飛行船が欲しいと思って見ていたのだけど」


 <ロストーゼ級>は中型エルマ式戦艦で、<グアン・クイム>と同型だ。戦艦としても使えるし高速輸送船にも使える。また足も速く移動用にも悪くない。武装はやや少ないが装甲は厚く防御力は高い。革命時アリアがクシャナ隊に破壊を命じたものの結局破壊しきれなかったのはその高い防御力があってのことだ。


 幸いカタログには<プレーゼン>という<ロストーゼ級>が6億ギルスで売りに出ている。むろん戦艦として換装されている。


「カタログには<ロストーゼ級>のコアだけの販売はないようだけど、取り扱っていないの?」

「<ロストーゼ級>は人気の船です。コアだけでも1000万ギルスはしますよ? 完成艦でこの値段は掘り出し物ですよ」

「でも<ロストーゼ級>は積載量もせいぜいアーマー20機、フォース・フィールドは前面だけで出力も強くない。軍艦としては人気はないんじゃない?」


 <ロストーゼ級>はどちらかといえばアーマーの母船ではなく高速移動用だ。そして<ロストーゼ級>ならばアルファトロスでも製造することができる。


「『ベルーク商会』じゃあ<ロストーゼ級>のコアのフルセットを3000万ギルスで売りに出していたわよ? 6億は高いでしょ? ここで売りに出すくらいだからカレドニア政府も買わなかった在庫品ね。せいぜい3億ってところじゃない?」

「それじゃあウチらの儲けになりませんよ、ヴァーム代表」と笑って取り合わないアウル。が、ここからがヴァームの交渉だ。


「今回、どの商会もコアを沢山扱っているわね。他の商会も覗いて来たけど完成品は少ない。良型艦はカレドニア政府が買っていったんでしょ? つまり今回売りに出されているのは売れ残りの在庫。ここで売れなかったら当分買い手はつかないんじゃない? 今大陸連邦政府は大型の最新艦を欲しがっているようだから、二世代前の<ロストーゼ級>はますます買い手がつかないんじゃない?」


 よく洞察している。若いながら代表に選出されただけはある。


「そういう話もありますが」

「もし3億で売ってくれるなら……あと二つくらいはコアを買ってもいいかなって思っているんだけどどうかしら? 3億プラス他のコアあわせれば4億くらいの儲けになる。その資金があれば新型の<ドルバール級>の開発費用に使える。そしたら15億ギルスくらいの儲けになるんじゃない?」


「相変わらず口がお上手ですね、ヴァーム代表」


 愛想笑いを浮かべるオウル。だがヴァームの推測はほぼ当たっているようだ。彼の笑みには余裕がない。


 大規模な内乱(第一次世界大戦という途方もない大戦争になるが)が勃発した直後だ。性能のいい艦であればカレドニア公国政府が買い取っている。カレドニア公国はソニア公国に並ぶ科学力を持つ経済大国で経済感覚も艦の目利きも鋭い。その選に漏れてここで売られるということは在庫処分の意味が強いのだ。そして、ポンと完成戦艦を買えるような金持ちはあまりいない。ヴァームは貴重なそのうちの一人なのだ。


「では5億でいかがです? 妥当な額ですよ」

「3億5000万。それなら即金ですぐ払えるけどどうかしら?」

「……3億5000万、即金ですか……」


 普通は分割払いだ。しかしヴァームは即金という。造船会社にとって一括払いは魅力だ。それだけあればすぐに新型の戦艦の造船費用に回せる。そうすれば『オゴーレ商会』としては願ってもない好機となる。


「その代わり、追加購入のほうは分割払いにしてもらえると嬉しいけど」

「わかりました。3億8000万でいかがでしょう」

「その値で買えば……他のものはもう少し値引きしてもらえる? それならボクとしては嬉しいんだけど」


 オウルは頭の中で色々計算をしてみる。大幅な値下げだが、現金で即その額が手に入るメリットは大きい。


「いいでしょう。3億8000万でお売りします」


 こうして契約は成立した。すぐに書類が用意され、お互い売買契約書を交わし、ヴァームは電子カードを使い、その場で支払った。3億8000万即金というのは、この『ムサイカ商会』開催のイベント会でも中々ない大口取引だ。


 ヴァームはこれで帰路の足を手に入れた。10日後乗って帰れるよう手続きを頼むと、オウルは快く快諾した。



 が、ヴァームの交渉はこれで終わりではない。




マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編9でした。



今回は戦艦説明編です。

本編でも以前書きましたが、戦艦は飛行石メインで空の帆船のように飛ぶものと、動力と飛行石を併用するもの、完全動力のみのものがあり、勿論完全動力の船のほうが高いです。そして完全動力船意外はクリト・エ大陸でも購入することが出来ます。

ということでアリア様の興味はやはりそこになるのですが……高い!

その裏技がコアのみ購入して自分で造船する手ですが、マドリードにぱそんな一流造船技師はいないし造船施設もない。なので買うしかないわけです。


とりあえず色々ここで人騒動あるのですが、まずはヴァーム氏の商売編ということで見てもらえればと思います。


さて、アリア様の買い物はどうなるのか?


これからも「マドリード戦記・留学旅行編」をよろしくお願いします。


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