マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編8
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編8
『ムサイカ商会』のイベントは続く。
アリアたちはヴァームに案内されアーマーの展示会に。
そこで様々なアーマーを見るアリア。
そして様々な運用を知る。
ここでアリアは一つ大きな買い物をすることになる。
***
<ガノン>のブースを回った後、二人はオリジナル・アーマーのブースに移動した。
こちらは軍用から非戦闘用、移動用など様々なオリジナル・アーマーがあり、その種類も多い。アリア軍が革命戦後半に主力とした<ナイアザン>の展示も発見できた。<ナイアザン>は先の革命戦において最終局面にアリア軍に与えられた指揮官用量産オリジナル・アーマーで、王城パーツティス攻略の重要な鍵となったアーマーだ。とはいえオリジナル・アーマーとしては安く一機20万前後だ。これは大陸連邦価格で、クリト・エの諸外国には三倍から五倍ほどの値段で売られる。
「3mの小型機から8mの大型機まで……色々ありますね」
「ホント。こんなに種類があるんだね、アーマー」
オリジナル・アーマーといっても用途は必ずしも戦闘にはない。自家独自の象徴として使う場合、戦闘力特化より奇抜性で自己アピールするための装飾道具でもある。だから自家の存在を示すため大仰で派手な装飾を施す事も多く、そのためのパーツが豊富に揃っている。これはクリト・エでも同じで、もともとオリジナル・アーマーというものはそういう特権階級者のステータスシンボルだった。これを変えたのは大陸連邦ではアーマーの大量投下を可能しアーマーの軍団ができた第一次大戦以後で、クリト・エではアリアが<ガノン>の運用で用兵戦術を一新するまでだ。
アリアたちはアーマーの種類や性能、そして値段などを確認したりして回った。これはこれで有益だった。本場のアーマーの単価を知ることが出来たし、性能と値段の比例具合も知ることができた。成程、オリジナル・アーマーは総じてクリト・エ大陸で買うより安い。
一回りすること一時間。色々見たが、一番の収穫はオリジナル・アーマー<ベレッサ>の発見だ。オリジナル・アーマー、ベレッサ級<ベレッサ>。やや小型の5.5mで、純エルマエンジンで動く。さすがに国宝機クラスには及ばないが、性能は<ナイアザン>より上で、アリア軍で<ヒュゼイン>の次に高性能なレイス大佐所有の『漆黒の三竜騎』<スレーク型>の<スレイベス>とほぼ同等の性能を持つ。いや、こちらのほうが小さく重火砲を搭載する余裕がある点から考えると戦場での戦力はやや上回るかもしれない。オリジナル・アーマーとしては中の上クラスの性能を持っている。
このベレッサ級<ベレッサ>……販売価格は50万ギルスだ。安くないが、民間で買えるアーマーとしては最上位の性能だろう。そしてクリト・エにはこの<ベレッサ級>アーマーがあるという話は聞かない。上記したとおり近い性能を持つ<スレーク型>は、レイス大佐曰く一機150万マルズだったという話だから、圧倒的にこちらのほうが安い。<スレーク型>は200年ほど前から流通する古式オリジナル・アーマーだが、この<ベレット級>はここ30年のうちに開発された新世代機で年式も新しい。
ざっと見てまわったが、この<ベレッサ級>を取り扱っているのは『サムール商会』ただ一ヵ所だけで、売り出されているのも三機だけ、掘り出し物だ。興味を持ったアリアたちが色々聞いたところ、たまたま帝軍に納品予定だったが値段が折り合わず、『サムール商会』としては中々利益にならない逸品ものを抱えるより、数が売れる次世代量産機を販売したほうが商会として見込みがいい。これは滅多にない良品だ。
この滅多にない好機に、さすがのアリアも心が動いた。
アリアの場合……マドリード軍の場合、個人のステータス用としては運用しない。特例がナディア、レイス他三竜騎だけだ。だから特別な指揮官用は不要だ。一機だけの販売なら考慮しないが、三機あればアーマー一小隊という事で特別な部隊として編成できる。すでにレイス大佐貴下の『漆黒の三竜騎』がやや特殊な存在としてあるから、これとほぼ同戦闘力を持つオリジナル・アーマー小隊があれば、計6機で戦術単位として使えるし戦闘力も大きく面白い運用ができるかもしれない。この6機は強襲用として戦術で用いれば予想以上の戦果を上げるだろう。そして今のアリアの予算からすればさして大きな買い物ではない。
『サムール商会』の担当者から詳しい仕様を聞く。武装はついていないが、それらはアルファトロスでも換装できる。
後日であれば試験操縦もできると聞きアリアは決断した。早速ながら三機購入の仮手続きをとった。この場でまず50万ギルスを払い、3日後試乗し問題がなければ本契約で残金を支払う……という事で話はまとまった。
『サムール商会』は当初年若い少女たちの客にいぶかしんだが、支払いの黒カードを見て疑惑を捨てた。黒の企業用カードは一般人では持てない特別なもので、清算時相手の身元保証先も表示される。アリアたちの身元保証はアルファトロス政府でその点も安心できる相手だ。これが経済力の怪しい大陸連邦貴族や各公国貴族であればむしろ不安がある。また、いくら不安のない裕福な貴族や企業でも、独立戦争を起こした大陸連邦西部の公国には売ってはいけない事になっている。
移送費、搭乗テストの場所のレンタル代、最終調整、『ムサイカ商会』の手数料や税金などで総額153万2000ギルスほどになる。まだ2900万マルズほどある。
とはいえ個人としてはかなり大きな買い物だ。紙幣で買えば大きな鞄三つほどになるだろう。アリアはかなり経済感覚が鋭い娘なのだが、慣れないカード決済だとどうも買い物をした実感が今ひとつ湧かず不思議そうな顔をしていた。
その後しばらく各店舗を見て回り、ヴァームと合流した。アリアはさっそく購入した<ベレッサ級>3機の話をする。ヴァームに話を通しておかなければ肝心の持って帰る方法はない。
ヴァームは<ベレッサ級>3機の持ち帰りを承諾した。ヴァーム曰く、10機以内であれば帰りの便で持ち帰れるということだ。
「でも<ベレッサ級>が三機でその値段って中々ないいい買い物ね。ボクが見つけていたらこっちが買っていたくらいよ。アリアちゃん、ホント運がいいわね」
「はい。でも予想以上に沢山のオリジナル・アーマーがあったのも驚きです。商業用なんかも豊富ですね。でも、あれも改造次第では軍用にもできそうだし……さすがに国宝級のものはないようですが」
「そりゃあないわよ、今戦時中ですもの。国宝級や準国宝級のアーマーは軍に送られるし、数だって絶対的に少ないンだから」
国宝機は世界に10機以内、準国宝機は世界で20機ほどしか存在しない……というのが目安か。実際はもっと少ない。マドリード国宝機<ヒュゼイン>は紅白2機にパーツ用予備機が2機、計4機。ソニアの国宝機<ギャム・バード>(後に<ギャム・フィン>に改良)は1機と予備機2機。ドロム公国国宝<レイスコアス>は同型が合わせて5機。帝軍司令官機<パルクード>は準国宝機で14機。ザムスジル四公専用機<ディドラ>も4機と予備機4機だ。
ヴァームのほうは、今日は顔出しと値段の交渉で今のところ購入はしていない。アリアと違って今回の渡航で一年分以上の買い物をするから数も額も大きい。ちょっとの割引でも総額にすれば大きいから、数と価格はじっくり交渉して決める。それにアルファトロスの発注となれば50機以上だから、一商店の販売数を超える。分散させて額を下げさせるか、一括大量購入で大きく値引きを狙うか……そのあたりはヴァームの商才でありアルファトロスの寄って立つところだから、さすがにアリア相手でもヴァームは語らない。ただ、今回の購入でレンタルで大型飛行船三隻用意している事は教えてもらえた。この飛行船は帰りの便とは別だ。その規模に感心すると同時にアルファトロスの経済力の強さを改めて知り驚きを隠せない。
「そりゃあ安く買えるとき買わないとね。ま、アリアちゃんは安いからって慌てて<ガノン>は買わなくていいわよ。ボクからほどほどの値段で買えるから」
「はい」
「代表はアリアさんに甘すぎます。喋りすぎです」
と……さすがに声には出さなかったが、そう言いたげなキツい眼でルクレティアが睨んでいる。それに気付き、アリアは苦笑した。
これで一旦、このフロアーでの用事は済んだ。
ヴァームが次に向かったのは五階の飛行船のフロアーだ。もちろんアリアたちもそれについていく。
***
五階は飛行船フロアーということだが、フロアーには飛行艇が置いてあるわけではない。
各々の商会が自社のブースに応接室を設け、ポスターやカタログなどを展開して客の相手をしていた。
「そりゃあそうよ。こんなフロアーに飛行艇が入るはずないじゃない」
「でも結構たくさん出店しているみたいですね」
「商売人としては、ここが一番腕の見せ所なのよ」
そもそもヴァームがここにきた最大の理由はアーマーではなく手頃の純エルマ式飛行船を買う事だ。今アルファトロスには手頃な飛行船がない。いい船が手に入れば可能であればそれに乗って帰りたいと考えているくらいだ。
とはいえアーマーと違って飛行船は高い。ごくありふれた飛行石を使用した飛行船はクリト・エでも買えるし作れる。純エルマ式飛行船も作れなくはないが、開発費用と開発期間がかかるし、一級のものはアルファトロスとロイズ、そしてザムスジル帝国くらいしか作れない。だからアリアたちが手っ取り早く入手するには買うしかない。
とはいえさすがに純エルマ粒子式エンジン搭載の飛行船や戦艦が買えるだろうか? 戦艦としては中型でもやや小型なほうである<ロロ・ニア>や<ミカ・ルル>の<グエストバール級>がアルファトロス価格で1億マルズ。やや大きい中型戦艦<グアン・クイム>の適正価格は約5億マルズ。アリアが持って来ている2900万ギルスでは到底買えない。だがそんな高額な完成した戦艦は大陸連邦人だって中々買えないだろう。しかしこのフロアーは客で賑わっている。何か工夫があるんじゃないか……とアリアは思っている。
「ところで……一応聞くだけですが」とアリアは少し声を潜ませた。
「<デュアル級>や<サルベルク級>は手に入るんですか?」
「それは無理ね」
「さすがに無理ですか」
「戦争がなければなんとかなったかもしれないケドね」
最新鋭艦<デュアル級>、そして一世代前の巨大戦艦<サルベルク級>は、戦争勃発したばかりの大陸連邦においてもっとも重要な戦艦だ。こういった大艦は民間に行く事なく政府や軍に納品される。欲しいといっても手に入らない。
もっとも……仮にあったとしてもアリアがどうやっても支払える額ではない。
「政府に発注すれで手に入らないことはないけど……<デュアル級>は約50億ギルス。<サルベルク級>は約30億ギルスね。発注から完成まで最低2年はかかると思うわ」
それを聞いて驚くアリア。驚くのも当然だ。アリアは<デュアル級>の<アインストック>を3億5000万マルズで購入したのだ。この額だって今のマドリードが出せるギリギリ限界の額で、ほぼ一年の政府年収なのだ。それが10%にも満たないなんて思いも寄らなかった。いや、その額の大きさより、50億マルズを3億5000万マルズで売ったヴァームの考えが分からない。アリアの後見人だといっても限度がある。
その事をいうと、ヴァームは「あーアレね。大丈夫」とあっけらかんと答える。
「<アインストック>はアルファトロス産の試作実験戦艦だから。つまりアルファトロスにとって第一は自分たちの技術で<デュアル級>を作る事が目的。それが無事使えるものかどうか見るのもね。アリアちゃんがちゃんと第一線でうまく使ってくれて技術の裏打ちもできたしね。アリアちゃんたちにはテスト運用と戦闘データー収集もやってもらってそちらのほうでも売ることができたから、ま……原価は割っているけど将来的にはアルファトロスになったからいいのよ」
重ねていうが<デュアル級>は最新鋭戦艦だ。科学都市であるアルファトロスでも造ったことのない大型戦艦で、その点でいえば冒険的な試作だった。それに戦艦の最重要部分である戦艦のコアを買ったのは先代のユイーチだから、ヴァームとしてはそこまで懐がいたいわけではなかった。とはいえ、相手がアリアでなく他の国だったらもっと高額な値段がついていただろう。
「コアの購入?」
「ええ、そうよ。そういう裏道があるのよ」
さすがのアリアも初めて聞く。もっともこれは科学都市の代表クラスでなければできない裏技だ。
エルマ式戦艦を一から作れば当然高くつく。その中で戦艦のメインエンジンとフォース・フィールド発生装置、ビーム出力装置が技術の結晶で、この部分だけ買う事ができる。これらのコアは古代遺跡で発掘するしか出てこない。発掘品だから、必ずしも完全なものが出てくるとは限らない。組み上げられた完成品ではないから上手く動くかどうかわからない不安要素もある。半ば博打的な要素もあるから、このコアだけならぐっと値段は安くなる。
「つまり、ヴァームさんは<デュアル級>のコアを買って、<アインストック>を作ったわけですね」
「この方法だったら<デュアル級>は無理でも、<ドルバール級>のコアくらいはアリアちゃんでも買えるかもね」
「何? その<ドルバール級>って」とナディア。
「中型の最新鋭戦艦よ。といっても100m級だから大型に近い戦艦ね。機動力重視で装甲を厚くしてもいいし、装甲削って機動力や火力を強化してもいい。そこそこ汎用性が高くてコア自体も手に入りやすいから安くで転がっているわ。とはいえ<ドルバール級>ってまだ理想の完成戦艦は出来上がっていないから、皆暗中模索中。だから博打的要素は他の戦艦よりずっと高いけどね。ま、まだ実戦配備できていない型式で立証がないからまだ安いんだけど」
この<ドルバール級>は丁度開発中の戦艦で性能はよく、コアもよく出回っているのだが、大きさのわりに出力が大きく、<デュアル級>造船のノウハウができてようやく実用化の目処が立ったところなのだ。
アリアは頷く。
……それなら、確かに面白いかもしれない……。
そんな予感が、アリアにはあった。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編8でした。
今回は主にアーマーの説明会でした。
革命編ではえらく貴重だったアーマーが、大陸連邦では普通に売っている事、そして民間利用などしてあることが驚きですね。現代でいえば戦闘機しか運用を知らない国が農業用や旅客用の使い方を知った、みたいな感覚に近いかもしれません。これが後にアリア様の内治の参考になっていきます。
今回さらっと<ベレッサ>というアーマーを買っていますが、実はここに面白いエピソードがつきます。それは今後のお楽しみということで。
さて、戦艦が欲しいアリア様ですが、実際の戦艦は超高額。
どうするのか……というところで次回です。
次回はヴァーム氏の商売編になると思います。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




