表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
89/109

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編6

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編6



ついにアリアたちは大陸連邦科学都市ベルセリクに到着。

これまでの人生で最大の大都会に興奮するアリアとナディア。

こうして二人の留学旅行は本格的に始まる。




***



 パラ歴2336年 7月17日、午後19時25分。


 高速飛行船<ラ・グレヌス>は、カレドニア公国科学都市ベルセリク上空に到達した。


「すごい!」


 アリアもナディアも、窓の外に見える巨大都市に思わず身を乗り出した。


 人口約60万……周辺経済圏を入れれば80万を超える大都市、それがカレドニア公国科学都市ベルセリクだ。20階以上のビルが乱立し、ネオンが煌々とし、人が街に溢れている。すでに陽は暮れているが、その喧騒と賑わいはとても夜を迎えたとは思えない。


 着陸しようとしている飛行船空港も大きい。ぱっと見ただけでも20隻以上の大型飛行船が停泊し、さらに10隻以上の着陸スペースがある。さらに隣接している飛行船倉庫の数も10以上、そして無数に広がる工場群がある。


 アリアたちから見れば信じられないほど大きな科学都市だ。人口でも規模でもアルファトロスの二倍以上ある。甲状繁華街の規模はマドリード王都シーマの三倍以上あるだろう。


 これだけの都市はクリト・エにもそうないだろう。だが驚くべき事は、これほど大きな科学都市が、カレドニア公国内に5つもあり、ベルセリクは特別ではないということだ。カレドニア公国最大の科学都市はセイルベイルで、人口は100万を超える。いや、それ以上の科学都市が西のソニアにある。最大科学都市ゾルヘイムは凡そ150万の経済圏を持っていてソニア公国の中心である。これら大科学都市に比べれば、ベルセリクは中規模の科学都市なのである。


 その説明をルクレティアから聞いた二人は、大陸連邦の規模と科学の凄まじさに唖然となるばかりだ。


 アリアたちはこの街で、12日間過ごすのだ。

 今のアリアには、とても予想ができない。




***




 パラ歴2336年 7月18日 午前9時。


 アリアとナディアはやや遅い朝食を部屋で摂ると、ルクレティアに伴われヴァームの部屋を訪れた。ここでもヴァームは最上級の部屋をとっている。


 ヴァームは朝が弱いはずだが、珍しくすでに起きていて新聞を読みながら朝食を食べて過ごしていた。パンケーキにベリーソースと生クリーム、苺アイスを乗せたもので、他にヨーグルトとチーズがある。相変わらず甘党の偏食だ。


 アリアとナディアはすでに朝食を食べていたが、ヴァームに勧められテーブルに着いた。給仕はいない。代わりにルクレティアがアリアたちの分のコーヒーを淹れて持ってきた。


「よく寝れた?」

「ええ、まぁ……」とアリアは言葉を濁らせ苦笑する。


 ホテルが合わなかったのではない。ベッドも設備も豪華で最高の品質だった。そのせいではない。初めての大陸連邦にアリアはすっかり舞い上がってしまい、街を眺めながらアレコレ話が盛り上がり、寝床に入ったのは午前3時頃で、寝不足だった。もっとも表面的には二人共疲れた様子はない。二人共若いし、そこはつい三ヶ月ほど前まで革命戦の軍人なだけあり、少々の睡眠不足には慣れている。


 アリアとナディアの興奮ぶりを見て、ヴァームは楽しそうに笑っている。このアリアの活き活きとして無邪気な表情はどうだろう。年齢相当以上に明るく瞳は爛々と輝き寝不足だというのに肌も艶やかで瑞々しい。何よりその表情のどこにも苦悩やストレスがない。



 ……この天真爛漫な顔が、本当のアリア様なのね……。



 きっと、この顔を見たことがある人間は他にはいないに違いない。長い付き合いであるナディアやザールに対しても。何故ならマドリードではアリアは王女であって、そして今や女王だ。自分らしさより身分と職務が優先される。だが今ここにいるアリアに身分はない。


 このアリアの顔が見られただけでも、連れてきた価値はある。



「今日からの日程だけど」

と、ヴァームはそう言ってオレンジジュースを置いた。

「何したっていいのよ? 特にアリア様たちの予定はないから」

「は……はい」

「ボクは色々用があるからずっと相手が出来ないのよね、クスン」


 ヴァームは完全公務で来ている。この一度の訪問でいくつもの大型案件を処理しなければならないから、遊ぶような時間は全くない。


「アリア様は完全自由行動なの? ルクレティアもそうなの?」とナディア。

「そのための案内人だからね。ボクがそう命じたから」

「彼女も留学生と聞きました。私に付きっきりというわけにはいかないのでは?」

「その心配はいらないわ。ルクレティアは半年はこのベルセリクに滞在予定だから。あの子の場合里帰りしたり、アーマーや艦の受け取り業務があるから残るンだけどネ」

「成程」


「とはいえ……ただ観光しにきたンじゃあアリア様も退屈ね。そうねぇ……軍資金も持って来ていることだし、武器商や飛行船商人のところに行く?」


「は、はい! そこは見ておきたいです! でも……私の所持金で買えるものなのですか?」


 こればかりはさすがのアリアも値段の予想がつかない。


 多くの貴族が持つ飛行石を動力とした飛行船は大体2万マルズから買える。これが大型船や高速船になると値が上がり、飛行石型の戦艦であれば500万マルズほどだ。飛行船も飛行石式戦艦ならアリアの所持金で買えるだろう。しかしそれらの船はクリト・エでも調達できる。


 アリアがここまで来て買うとなれば、少なくともエルマ粒子式エンジンを搭載した船だ。しかしこっちは圧倒的に値が張る。<アインストック>は3億5000万、<ロロ・ニア>などは約1億マルズ。しかしこれはヴァームが手心を加えた額で正規ルートならもっと値が張る。中型船<グアン・クイム>の場合、10億マルズだ。こっちはヴァームがレミングハルトにふっかけた値だが、法外な値でもない。


「<ガノン>はともかく……エルマ式エンジンの船やオリジナル・アーマーは前より値騰がっているのよね。戦争が始まったンだから当然だけど。それでもクリト・エだと倍以上で売れるから儲けにはなるんだけど」

「民間で取り扱う商人がいる事が驚きです」

「半官半民の商会があるの。『ムサイカ商会』ってところが取り仕切っている大きなイベント販売会があるの。品揃えはクリト・エの比じゃないわよ。会員制だけどボクと一緒なら見にいけるわ」


「行きたいです!」


「ボクの訪問予定は明日の昼だから、明日ね。ボク今日は色々忙しいから、アリア様たちは好き勝手に街を見てきたらいいわ」

「分かりました」

 アリアは頭を下げた。


 これで一つ予定が出来た。しかし、これで今日の予定は全くの未定となった。


 数秒間……どうするか悩んだアリアだったが、そこは決断力がありすぎる娘だ。


「では今日は一日、街を観光します。なにぶん初めてですから」

「いいんじゃない? 今日くらい<女王>は忘れて、ただの女の子になりなさい」

「そうします」


 ここにアリアの正体を知る人間はいない。彼女は思う存分<普通の女の子>を満喫できるだろう。


「帝軍の監視は町中にあるから。全く揉め事が起きないわけじゃないから、その点アリア様とナディアちゃんは特に気をつけてね」

「なんであたしとアリア様なの?」

「何かあっても暴力で解決しようとはしないでね。まあ、良識あるアリア様はこんな異国で大暴れはしないと思うし、ベルセリクは治安はいいし官憲もしっかりしているけど、まさかの展開があるからね」


「まさかの展開って何ですか?」


「逮捕くらいなら裏から手を回せるけど、派手に暴れて、帝軍にスカウトされたら笑うに笑えないから」



「…………」



 そういうとヴァームは一笑した。そう、アリアとナディアは何があっても負ける事はない。むしろその戦闘力を知れば、カレドニア公国や大陸連邦軍は喜んで軍にスカウトしてくるだろう。それはそれで問題だ。大陸連邦は人材登用の面でいえばクリト・エとは比べ物にならないほど柔軟で、意識も強い。何せ戦争勃発の直後の時期である。アリアもナディアも一騎当千の武人で、それは大陸連邦でも十分通用する。いや、これは過小評価だ。この二人以上の人材となると、フィル=アルバードとアーガス=パプテシロスしかいないのだから。



 言われるまでもない。アリアだって目立ってはいけないことは重々分かっている。



 が……多少甘く考えていたことを、この後アリアは身に降りかかる事件で思い知る事になる。





マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編6でした。


ということで今回からがアリア様たちの留学旅行編です。

一応民間人ですが、視察でもあるので旅行を楽しむというよりはやっぱり女王としての行動をとりますが、それでも戦争編ではみせない無邪気なアリア様がみられます。


アーマーと飛行船も最先端である大陸連邦。

その世界観をお楽しみください。


これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ