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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
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マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編3

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編3



ついに出国するアリアとナディア。

二人は空路、大陸連邦科学都市ベルセリクに向かう。

途中にあるのは大陸連邦属領オクステリア。

アリアたちは初めての海外旅行に緊張するが……。





 パラ歴2336年 7月16日、早朝。



 出発の日だ。


 まだ人々が動き出さない午前5時、アルファトロスにある一流ホテルの一室。そんな早朝から、アリアとナディアは起き、それぞれ荷物の整理と確認に追われていた。別にスケジュールがなかったわけではない。初の国外旅行……しかも庶民に扮してのお忍び旅行……ということで、二人共珍しく舞い上がり、出発は9時というのに待ちきれず、早朝から目覚め、アレコレ荷物をひっくり返して確認しあったり、相談しあったりと落ち着かない。


 当然だ。大陸連邦への二週間という大旅行の前だ。いくらアリアとナディアの肝が据わっているとはいっても逸る気持ちと興奮はそう簡単になくなるものではない。いくら女王といってもクリト・エ人が大陸連邦に旅行にいくなどほとんどありえない出来事だ。


 そんな時だった。ドアがノックされたのは。



「ヴァームさん?」

 とアリアとナディアは顔を見合う。

 だがそれはない。ヴァームは朝が弱いし、アルファトロス代表としての仕事が積みあがっていて忙しい身だ。アリアたちが折角訪れたというのに、最初に簡単な挨拶と一時間ほどの軽食を共に過ごしただけで、その後はほとんど会えていない。大陸連邦行きはヴァームにとっても一大重要行事だ。


 一応警戒しつつ、ナディアがドアを開けると、そこには小柄な少女が立っていた。



「誰?」


「どうも初めまして。私はルクレティア=バレットと申します。アリア様とナディア様の世話役を代表から仰せつかりました。どうぞ宜しくお願いします」


 ペコリ、と頭を下げ挨拶をするルクレティア。年の頃は18歳くらいだろうか、経済人にも政治家にも見えない、ごく普通の少女だ。しかし着ている物は質素だが悪くなく。


 彼女は中に招き入れられると、改めて自己紹介し、旅の案内役である事を説明した。


「有り難いです。私たち、大陸連邦のことは何も知りませんから。ええっと……ルクレティアさんとお呼びしてもよろしいですか?」

「はい、構いません。では私も今この時から、お二人をアリアさん、ナディアさん、と呼ばせていただきます」

「は、はい」


 今回、アリアたちは女王でも軍司令官でもない。ただの裕福な庶民の女子留学生という設定だ。アルファトロスには貴族も存在しないから「様」ではまずかろう。


 ちなみに最初のヴァームとの打ち合わせでは、二人共庶民の偽名を用意する案もあったが、二人共あまり気乗りしなかった。偽名での活動は慣れているがボロが出る危険は大きく、それであれば実名のほうがやりやすい。二人共庶民の生活にもなれている。アリアという名前もナディアという名前も大陸連邦では珍しい名前ではないし、露顕することはないだろう。なのでアリアはアリア=パレで、ナディアはナディア=カーティスという名前のアルファトロスの学生ということで偽造身分証を作ってもらっている。


 もっとも……ナディアはともかく、アリアが偽名を使わなかったのは、心のどこかに偽名を使うという行為に後ろめたさを覚えていたからかもしれない。革命が終わり、もはや身分を隠し立てする必要はない。それに大陸連邦に対し素直な憧憬と尊敬がある。


「出発は午前9時30分、アルファトロス飛行場で大陸連邦の高速飛行船<ラ・グレヌス>に搭乗。本日18時に大陸連邦属領オクステリアに到着予定です。オクステリアで一泊後、カレドニア公国科学都市ベルセリクに向かいます。詳細、注意事項、ベルセリクでの予定などは乗船後お伝えします。アリアさんたちはオクステリアまではできるだけ人目につかないよう気をつけてください。アルファトロスの人間はアリアさんの顔を見知っている者もいますので」


 口早にそれだけを説明すると、ルクレティアは軽く頭を下げ、そして退室していった。

 その事務的な態度にナディアは多少面白くないようだったが、アリアは全然その事は気にならなかった。むしろ一国の女王を相手に毅然とした態度で、それでいて高圧さはなく優秀さを感じる。大陸連邦に派遣されるくらい優秀な少女なのだろう。と、アリアは好意的な印象を受けていた。


 ルクレティアから予定を聞いた事で、二人とも幾分か落ち着きを取り戻した。そしてそれぞれ荷物を整理し終え、出発の用意は整った。


 とはいえ……やはり上気っていたのだろう。用意を終え出発するだけとなった時……二人は朝食をどうするかという点に気付き呆然と顔を見合わせた。ホテルのレストランだと目立つ。ルームサービスを呼ぶと色々時間がかかる。そして9時30分出船ならヴァームが朝食を用意しているかもしれない。今更忙しいであろうヴァームやルクティアに連絡を取るのは気が引ける。……ということで、全クリト・エを驚愕させ震撼させた二人の英雄は、育ち盛りの食欲を黙って耐えるしかなかった。




***



 高速飛行船<ラ・グレヌス>がアルファトロス飛行場を離陸したのは定刻から15分遅れの9時45分であった。


 この船が飛び立った瞬間……マドリード女王アリア=フォン=マドリード=パレは、ただの庶民の少女アリア=パレとなった。歴史家として小さな感動がある。第一次世界大戦が勃発した激動と大事件が怒涛のように押し寄せたパラ歴2337年において、後に史上最高の女王と称えられるアリアが、マドリードの玉座を一時的だが空位にしたのだ。その意味を考えるとなんとも言葉が出なくなる。アリアは、やはり時代に愛されているのかもしれない。


 高速飛行船<ラ・グレヌス>は、海岸線の上を真っ直ぐ北上していた。まずマドリード領内を通過し、その後トメイル王国領内を飛び、そして海上に抜ける。赤道を超え北半球に入り、そこで北の大陸、南海列島にある大陸連邦属領オクステリアに到着する。


 アリアとナディアは相部屋だが1等室で、寝室のほか応接室とトイレ、シャワーがついている。何よりアリアたちを喜ばせたのは窓があることで、外の風景を見ることが出来た。愛するマドリードの領内を見れたことも嬉しかったが、隣国であるトメイル王国の国土を見ることができたのはアリアにとって大きなプラスだった。マドリードは比較的平地が多く農産業地帯だったが、トメイル王国に入ると比較的大きな山地が連ね、大きな川や湖が並ぶ風景に変わる。人家や町はマドリードほど多くはない。ただし国土はマドリードのざっと3倍はある大国で、トメイル王国の一部の風景でしかない。それでもアリアやナディアにとって、アルファトロス以外で初めての外国の風景だ。


 高速飛行船<ラ・グレヌス>は戦艦ではないが、<ロゼルタ級>の中型高速船の純エルマ粒子式飛行船で、速力は<アインストック>に匹敵する高速船だ。大きな帆があり季節風やジェット気流を利用して飛び、風に乗れば<アインストック>より速い。海上に出ると風に乗り一気に速度を上げ北上した。もっとも海上では風景の変化は乏しく雲の上を飛ぶのでその実感は体感できないが。これは航空路を熟知している科学都市だけが知るルートで、他の国の船はこんな高速移動はできない。


 最初は見知らぬ風景に感動していた二人だったが、さすがに一時間も見ていると飽きてきた。


「この船、<アインストック>と同じくらいの速さっていう話だけど、半日で赤道を越えられるものなの?」

「普通じゃ無理です」アリアはそう答えると窓から離れ、ソファーに腰掛けた。「それがアルファトロスが持つ航路だと思います」


 空にも路がある。上空高く上がれば季節風や航空気流があり、気流に乗れば速度以上のスピードができる反面、浮島などの障害に当たれば先に進めない。この航空路は、地上の地図より重要で他国領の航空路はどの国でも最重要機密だ。特に北の大陸との航空路を持っているのは交流のある東の科学都市国家アルファトロスと西の科学都市国家ロイズしかない。もっとも、航路は上空5000m以上にあり、エルマエンジンを搭載した機動飛行船でなければ満足に飛ぶ事は出来ない。武装や装甲などで重くて高度を飛べない軍艦はあまりこの航路は利用しない。


 しかし、それは過去の事になるだろう。アリアは純エルマ式エンジン内蔵の戦艦を4隻持っている。そしてザムスジルで最新鋭艦として運用されている<サルベルク級>もこの航路を利用できる。この航空路を使えば、戦艦が予想以上の速度で移動できることができる。広大なクリト・エ大陸であっても、僅か一日二日で国家を横断することは可能なのだ。


 まだ、この航空路は商売人しか使っていないが、やがて戦争でも使われることだろう。今後、戦争の仕方は大きく変わるに違いない。アリアも存在は知っているがそれ以上は知らない。幸か不幸かマドリードは小国で国内を移動する分には航空路を利用する機会は少なく、また航空路を生むほど国土に起伏はなく、浮島などもない。



 ……この航空路の重要性を教えてくれたのか……?



 その時アリアはなんとなくそう思った。恐らく事実だろう。





***




 そして昼になった。


 ヴァームはかなり忙しいらしい。自他共に認めるアリア大好きヴァームが昼も姿は現さず、昼食もアリアたちの相手をしたのはルクレティアで、船内にある食堂で他の乗員たちと一緒にとった。幸い誰もアリアたちの正体には気付かなかった。


 ルクレティアも忙しいらしい。食事が終わると、「これがオクステリアの資料です」とガイド本一冊を手渡し、自室に戻ってしまった。彼女はアリアのお守りとしてこの船に乗っているのではなく、年若いが正規のアルファトロス政庁の役人だ。


「あたし、あんまり詳しく知らないんだけど……オクステリアって大陸連邦の国?」


 部屋に戻り、パラパラとガイド本をめくるナディア。そんな国名はクリト・エ大陸にはない。確か、大陸連邦の9公国にはない。


 さすがにアリアは知っていた。


「自由都市国家です。確か赤道のやや北側の島国だったと思います」

「独立国なの?」

「一応。ただ、完全子な独立国ではなくて……大陸連邦政府直轄の属国で、共和国だったと思います。内政は自由が認められていますが、国防軍はなく大陸連邦軍が駐留しています。確か……他にも

そういう自治が認められた属国がいくつかあったはずです」


 大陸連邦は事実上、北の大陸の全てを支配しているが、その正式な国土は北の大陸全てではなく、凡そ82%が大陸連邦の国家だ。辺境である西のパゾ地方にある三つの都市国家、南海列島オクステリア共和国、そして東にあるロドル半島にあるマルドレイク王国などの存在する。これらの国は大陸連邦の強い影響下にあるが、一応独立国である。もっともマルドレイク王国以外は都市国家で国土といえるほど大きな領土は持っていない。


 こういう都市国家が生まれる理由は大陸連邦を建国に際し、初代帝王ヴェスナー=バトランはその時掌握している大陸連邦の国境の拡張を100年は許さないという方針を立てた。残り約20%への侵略行為を戒めたわけだ。この当時、上記の三地方は辺境にあり、小さな町があった程度で国は出来ていなかった。すでに大陸連邦は広大すぎる国土があり、その国内ですら完全に掌握していたわけではないから、まずは国内の平定に重点を置いたのだ。ヴェスナー=バトランの判断は正しい。しかし、その100年の間に三地方にも変化が起きた。


 まず、西のパゾに都市国家がいくつも生まれ、その結果パゾ地方は戦国時代に突入した。この状態は今も解決していない。次にクリト・エ大陸から海を渡った移民がロドル半島でマルドレイク王国を建国し、やや遅れて、大陸連邦、マルドレイク、クリト・エ大陸の三者の経済の仲介をすることで発展した自由都市国家オクステリアが生まれた。100年が過ぎ、大陸連邦が安定期に入ったときには、それぞれの地方は独自の文化と規模を持つに至っていた。


 とはいえ、大陸連邦からみれば、所詮は一都市、一地方でしかない。幸い、成熟期に入っていた大陸連邦は寛大で、これら空白の100年に生まれた国家たちに対して侵略行為は起こさず、長きに渡る外交交渉の結果、自由自治を認めた上で大陸連邦保護領ということで収まった。


 もっとも……その関係も近年、チルザ=バトランが帝王になって変わった。彼は「都市国家の国土はその都市に限られている」と一方的に宣言し、パゾ地方に軍を派遣している。これに驚いたのが大陸連邦の西の端にあるラルストームと西の中心公国ソニアだ。パゾに帝軍が入り込めば、独立軍は挟撃されることになる。そのため5年ほど前からラルストームとパゾ、帝軍、三者の間で紛争がいち早く起きている。やや先走った話になるが、このパゾ問題が第二次世界大戦の直接原因の一つである。


 ともあれ……南海列島オクステリア共和国がクリト・エにとって外国であることは間違いないし、広定義では大陸連邦の領内だ。それだけでも十分魅力的だが、何よりアリアにとって興味を引くのは南海列島オクステリア共和国が経済都市国家という点だ。関節貿易だけで国として成り立っているというのはどういうことだろうか? 資源が少ないという点ではマドリードも似ている。何かしら師範となる点があるのではないか。その事を考えるだけでも、アリアの気持ちは喜び、湧きあがる好奇心が心地よく幸せな気持ちに満たしてくれる。


 この気持ちは、ナディアでも完全には分かりきらない。






マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編3でした。



ということでアリア様たち出発です。

これからはアリア様とナディアがメインです。留守番のミタスやザールはあまり出番はありません。

今回は丁度大陸連邦に入るところで、軽い紹介話になっています。


ちなみに地理的には、ほぼ真っ直ぐ北上する感じです。地球でいえばオーストラリアから中国中部にいくくらいのかんじでしょうか? オクステリアが東南アジア……シンガポールを連想すると大体あたるかと思います。

本格的に入国するまでねまたいくつか話があると思います。今回は戦記というより旅行記ですから。ただ後半は重要な話や戦争に関わるエピソードなどあるので楽しんでもらえればと思います。


ということで留学旅行編はこれからです。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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