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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 29 相打つ敵と2

『マドリード戦記』 革命賊軍編 29 相打つ敵と2



前進するザムスジル帝国軍。

緊張がアリア軍に走る。

だがすでにアリア軍の迎撃の陣容は整っていた。

一発触発の空気の中、アリアは決意する。


クライマックス、ついに終決!



相打つ敵と 2


*  *  *



「全軍!! 臨戦態勢!! 全機集結して!!」


 ナディアが地上に展開する部隊に命令を下す。


 ナディアのヒュゼイン紅機を先頭に、27機のアーマーが動き、国境に向かって鏃型に並ぶと、全機所持するビームの銃口を三隻の<サルベルク級>に向けた。

 ナディアが親衛隊長でありながらアリアとクレイドの対峙の際降りてこなかったのは、対ザムスジル帝国軍の指揮のためだ。アリアとミタスが対クレイド、ナディアとザールが対ザムスジル帝国……と、完璧に役割分担は分けられていた。


 上空でも<アインストック>を先頭に、<ミカ・ルル><グアン・クイム>が両脇を固め集結している。


 <ミカ・ルル>の艦橋に、ザールがいる。

 ザールは無線拡声器のマイクを握っていた。


「私はマドリード軍総参謀長ザール=フォン=ザナドゥ伯爵だ。ザムスジル帝国軍に問い合わせたい。クレイド=フォン=マクティナスはマドリード貴族のはず。ザムスジル帝国となんら関わりのない人間のはずですが?」


『二度は言わぬ、その男を引き渡せ。我が帝国、一度口にした以上後には引けぬ』


「ザムスジル帝国が欲しがるような男ではないですよ? ただの小悪党ですが?」

 このザールの言葉に返事はなかった。

 ザールは一笑すると、黙って無線拡声器を置いた。






 一方ザムスジル帝国軍、派遣軍旗艦<クラップレウル>……。


 前方に展開するマドリード軍の動きを、バルタイル将軍はじっと見つめていた。

 帝国十七将の一人だ。意外と若く30代前半で知勇共に優れ戦闘だけでなく政治にも才がある。やや長い髪を一括りにし、前髪は左目が隠れるほど垂らしている。この風貌で、歳より若く見られることが多いが、バルタイルは別にオシャレのためそんな髪形をしているのではない。彼の左眼は戦傷でつぶれ大きな傷がある。それを隠しているだけだ。


「強気ですな、マドリードは」

 艦橋にいる参謀が余裕げに笑う。強がるマドリード軍を健気に思ったのだろう。

 眼前の野に展開しているマドリード軍は戦艦3隻、アーマー30ほど。後方にアーマー20、歩兵2000ほど。一方ザムスジル帝国軍は巨大戦艦3隻、40機のアーマー、5000の歩兵を有している。しかもザムスジル帝国の歩兵の練度は高く血気盛んで攻撃力が抜群に高く一人で他国二人分の働きをすると言われている。ザムスジル帝国軍が怖気づく理由はどこにもない。


「最早マドリードの出方ははっきりしている。戦端を切ってやりましょう! 我がザムスジル帝国の恐ろしさ、東の小国に思い知らせてやる!」


 部下たちはもう戦争する気満々だ。マドリード軍は完全に敵対すべく陣営を整えている。弾は飛んできていないが、好戦的なザムスジル帝国にすればこれだけで十分喧嘩を売られたと解釈するに足りる。


 が、さすがに帝国十七将と呼ばれるだけあるバルタイルの見解は違った。


「中々いい陣だ」そういうとバルタイルは一笑し、軍服のポケットから紙巻煙草を取り出すと、火をつけその味を楽しむ。

「参謀諸君。卿等はマドリード軍の意図が分かるか?」

「国境線で重陣を布き、我が帝国軍の進攻を艦砲で黙らせるのでは? まだ重陣は整っていないようです。やるなら今でしょう」

 他三人の参謀も同意見だった。それを聞きバルタイル将軍は一笑した。

「それではいつまでたっても将軍にはなれんな、お前たち。戦況はとっくに変わっている。マドリードの今見えている部隊は囮だ。マドリード軍は戦闘勃発と同時に退くぞ。そして我らをマドリード国内に引きこみ包囲殲滅するだろう」

「そんな大兵力がどこに?」

「東を見ろ。戦艦が三隻ある」


 そう……北東の空に三隻の飛行戦艦が出現していた。ついさっきまでなかったものだ。この戦艦こそ、飛ばしに飛ばして合流してきたシュナイゼン少将の国防軍であった。飛行戦艦だけが先行してようやく辿り着いたのだ。距離はまだ6キロと距離はあるが、すぐに到達するだろう。


「あれが主力だ。戦艦三隻ということは、アーマーは40機、歩兵は5000といったところだろう。だけではない。南の山地には国防軍が潜んでいるようだ」


 そう言ってバルタイルはグレール山脈を指差した。グセール山脈の中腹あたりからこの戦域を目指す三機のオリジナル・アーマーが出現した。この三機も先ほどまでは確認できなかったマドリード軍だ。


「あれは<スレーク型>オリジナル・アーマー!? 三機も!!」


 <スレーク型>のオリジナル・アーマーは主にザムスジル帝国上級指揮官用として運用されている高性能オリジナル・アーマーだ。事件を聞きつけ駆けつけたレイス中佐の<スレイベス>が辿り着いたのだ。


「ガエルの連中が言っていたマドリード国境国防軍の<漆黒の三竜騎>とやらだ。ということはすでに歩兵部隊が2000か3000が先発し山中に潜んでいると見るべきだ」


 まさかレイス中佐たちが三機だけで駆けつけたなどという事情は知らない。アーマーと歩兵はセットで考えるのは常識といえる。レイス中佐の無謀が思わぬ効果を起こした。


 この時代、まだアーマーだけの部隊など考えられない。必ず大兵力が追従する。


 戦端が開くと同時にアリア軍中央は退く。そして進軍したところを伏兵が襲い、最後はアリア軍主力が体勢を整えトドメを刺す。マドリード軍の必勝の陣といっていい。さらに場所はマドリードで戦争が長時間に及んでもマドリード側は潤沢な予備兵力があるだろうがザムスジル帝国軍に予備兵力はない。ここはガエル共和国で、連中にはあくまでクレイド引取りのためだけの進軍と言っている。ザムスジル帝国不利と連中が見たときどう動くか……。


 実際のところザムスジル帝国軍にとって不利といえる。ただし、内幕を知るバルタイルだけが分かる事でマドリード側にとってはザムスジル帝国の布陣は堅く強固なものに映っているはずだ。逃げるなら分かる。だがマドリードは一戦も辞さない強硬な態度を取っている。他の諸国にはない態度だ。


 骨がある、とバルタイルは思った。<サルベルク級>を見て領内通行をあっさり認めたガエル共和国軍とは大違いだ。



 ……虚勢半分、本気半分といったところだろうが……。



 戦争はザムスジル帝国の好むところだ。だが負ける戦いはしない。



「いい戦略家がいるようだ」


 ザールの絶妙の軍配置と虚勢に、バルタイル将軍は嬉しそうに煙草を燻らした。こういう名人手のような戦略を見ると心の底から気持ちが湧き上がり楽しくなる。どうしようもない職業軍人というべきだろう。


「では閣下、いかがなさるのですか?」

「誰も戦わぬとはいっていない。戦うのであれば、我らザムスジル帝国軍の強さと恐ろしさ、骨の髄まで思い知らせてやるだけだ。返事をまとうではないか。マドリードの女王がどう答えるか、それを見てからでも遅くはあるまい」


 バルタイル将軍は楽しそうに前方を見つめていた。ザムスジル帝国軍人にとって戦争はもはや娯楽である。






 アリアは、静かにクレイドに近づいた。


 後方にシュナイゼン少将の先遣部隊が到着した事、前方の山脈の中からどうやら友軍らしいアーマーが三機出現した事、そしてザールとナディアが包囲殲滅陣を布いている事も悟った。戦端を開いたとしても、負ける事はないだろう。

 だが、戦争になれば政治の問題となる。


 アリアは、決意した。


「ミタスさん。クレイド伯を立たせてください」

「分かった」

 ミタスは強引にクレイドを引っ張り上げると、突き放した。



「クレイド=フォン=マクティナス!! これが我が処分だ!!」


 アリアは大声で叫んだ。

 そして、渾身の力でクレイドの右頬を拳で殴った。

 すでにミタスによって半死半生になっているクレイドは横に倒れた。



「クレイド!! 爵位剥奪!! 国外に追放する!!」


「…………」


「今すぐマドリードを去れ!! その足で!! たった一人で!!」


 そういうと、アリアは身を翻すとクレイドに背を向け歩き出した。


 クレイドは立ち上がった。ミタスに殴られた後だ。いくら武人とはいえ少女であるアリアの拳なんか蚊に刺されたようなものだ。


 クレイドは変わらぬ軽薄で不敵な笑みを浮かべると、静かに国境に向かって歩き出した。


「いつか後悔させてあげるよ。今ここで僕を殺さなかったことをね」

 そういうとクレイドは一度手を挙げ軽く振った。

 その後は振り返ることなく黙って歩いていった。

 そして国境線を越えた。


 それから歩く事5分……帝国軍<クラップレウル>から一機のアーマーが降下し、クレイドを乗せ、再び<クラップレウル>に戻っていった。


 ザムスジル帝国軍は、方向を変え去っていく。


 その時だった。


 帝国艦<クラップレウル>から拡声器でバルタイル将軍の声がアリアに向け放たれた。



『マドリード国女王アリア=フォン=マドリード。女王就任と陛下の英断と度胸、その才能に感嘆と祝福を送る。願わくは、次は戦場でその才と相対する事を願う。そのときは存分にお相手しよう。それまで壮健あれ。帝国十七将バルタイル=レウ=セバス男爵』


「戦場で、か。虚勢と軍国のザムスジル帝国らしい捨て台詞だな」


 ミタスは一笑した。いや、これはザムスジル帝国流の祝辞かもしれない。ただの蛮族ではない事を喜ぶべきか、いつか降りかかる苦難と憂慮するべきか。


 ミタスは振り返った。そこにはようやく自分の手に戻った愛妹を抱くアリアの姿があった。

 ミタスは何か声をかけようとしたとき……傍にヒュゼイン紅機が静かに滑り込むと、ナディアがコクピットから出て「後の事はあたしたちでやっちゃおう。今は、二人だけにしてあげよう」と静かに言った。ミタスは頷き、黙ってナディアのヒュゼイン紅機の肩にぶら下がり、その場を離れた。


 もはや戦争は終わった。軍の整理はアリアの指示がなくてもできる。






 アリアは、手の中にある柔かく温かい感触を感じながら、複雑な感情を抱いていた。

 嬉しい。ティアラが無事自分の手元に戻ったことも。ザムスジル帝国との戦争を回避できた事も。多くの兵士の命が失わずに済んだことも。


 が……アリアの関心は別にあった。



 ……ティアラは間違いなく王覇を放った……。



 以前にもあった。だがあの時はアリアと共鳴するように発されたもので、ティアラの意志があったかどうかは分からない。だが今回は間違いなくティアラの意志と力だ。



 ……だけじゃない。炎の魔法まで放った……殺気を感じて自発的に放った……。



 多くの者があの時クレイドの身を包んだ炎はアリアが放ったものだと思っている。だが違う。アリアは魔法を放っていない。いや、放ちたくとも炎の魔法をアリアには放てない。アリアの得意魔法は<光><大地><水>で、<炎>と<風>は使えないのだ。



 ……ティアラが放った……多分、殺気を感じ取って本能的に……魔法の発動媒体である魔晶極石も詠唱もなしに……。



 どんな優れたシャーマン・マスターでも、魔法を放つには魔晶極石は必須だし詠唱だって必要だ。だがティアラはそのどちらもない。それが可能なのは、ただ一つだけ。



 伝説のハイ・シャーマンだけだ。



 アリアも詠唱なし、魔晶極石なしで魔法を使える。だがそのための修行はしてきたし、使えてもごく初歩の魔法ぐらいだ。ティアラはそんな修行などしていない。しようがないではないか。まだ生後1カ月の、言葉も発することが出来ない赤ん坊に!


 ティアラは本能で魔法を使った。恐らく殺気を感じて。


 あの時殺気を放ったのはクレイドではない。ティアラを切り捨てると決断したアリアの殺気に感応したのだ。まだ言葉も喋れない、泣くしかできない赤子が……。


 だとすれば、どれほどの才能があるというのか……。


 この赤子は成長すれば、間違いなくシャーマン・マスターになる。これほど魔法の才に溢れた赤ん坊をアリアは知らない。だけではない、この子こそ本当のハイ・シャーマンではないのか?



 それが事実だとすれば……自分は何者になるのか……?


 シャーマンの才能は遺伝する。だがハイ・シャーマンは遺伝などしない。そもそも同時代に複数存在するものではない。



「貴方は、何者なの? ティアラ」

 そう呟くアリアの声のどこかに、自分でも認識していない恐怖が混じっていた。





 後に……ティアラは11歳でシャーマン・マスターとなり、長い歴史で五人といない極魔法を体得し爆炎の戦略アーマー兵器のパイロットとして活躍。そしてマドリード帝国二代目にして最後の女帝となり、新しい時代を切り開く。彼女の物語は、アリアの物語とはまた別の物語である。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 29 相打つ敵と2でした。



クライマックス終決!!!


これでアリア様の革命戦争は一応終わりました。

次はエピローグです。それで一旦革命編は終わります。

ただ今回のエピソードから分かるとおり、アリア様には次の敵が待っています。

大陸最大にして暴力を是とする軍事大国ザムスジル帝国です。

いわば今回のエピソードは、その前哨戦のようなものです。

このザムスジル帝国との覇権を争う物語が、アリア様にとって最大の山場になります。

これは後の『女王西部動乱編』で、『女王大陸覇権編』になります。

多分革命編の倍はあるので……完結まで付き合ってもらえれば嬉しいです。


そして今回もう一つ重要なのはティアラの存在です。

ティアラは正しくは姉妹作である同時代の大陸連邦を描いた『蒼の伝説』の第二次大戦から登場するキャラでマドリード戦記より後年になります。ただティアラの存在がアリア様にとって重要な人生の転換点にもなります。それも楽しみに待っていてください。


ということでついにアリア様は革命を乗り越えました!


次回はエピローグです。ちょっと長いので2回か3回に分けます。ここもかなり重要な話です。


ということでまだ続きます。

これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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