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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 28 相打つ敵と1

『マドリード戦記』 革命賊軍編 28 相打つ敵と1


完全包囲の中迫るザムスジル帝国軍。

クレイドはティアラを人質に退去を求める。

絶対にそれだけは許せない。アリアの中で強い決意が生まれたとき……彼女の瞳から涙が。


ついに、アリアは覚醒する。


そして、帝国軍、動く……!

相打つ敵と 1

----------------------------------------



 4月9日 午後16時00。


 マドリード+ガエル共和国国境地帯・北回廊。

 国境まで、僅か400mである。

 地上はアリア軍が完全に制圧した。


 クレイド伯所属<デオグラード>は、<ミカ・ルル>と<グアン・クイム>、機動部隊、によって完全に破壊された。そして上空は<アインストック>が居座り制空権を握った。


 が……アリア軍の動きはここで止まった。

 止まらざるを得ない。

 ティアラがクレイド伯の手中に落ちた。


 だけではない。


 ガエル共和国側国境300mの地点に、ザムスジル帝国所属<サルベルク級>が遊弋しジリジリと距離を詰めてくる。高度は100mと低く、移動高度ではなく交戦高度であった。それら正面に<アインストック>がいて牽制しているがどうなるか分からない。


 交戦こそしていないが、すでに至近距離といっていい。


「<サルベルク級>3隻か、大物だな。全軍に伝えよ。一発も国境を超えさせてはならない」


 ザールはアリアに代わり全軍に命令を下す。

 この戦域において総司令官はザールであり、地上鎮圧部隊司令官はミタスだ。アリアとナディアは前線でアーマー突撃するため作戦指揮から外れている。

 クレイドがザムスジル帝国と通じている事は予想にあったが、まさか大型戦艦が三隻も来ているとは思いもしていなかった。推定戦力は搭載アーマーが30、砲兵1200、砲数30、歩兵6000。その戦闘力は現状アリア軍を上回るかもしれない。


 マドリード側から攻撃をすれば、ザムスジル帝国は得たり顔で反撃をしてくるだろう。ザムスジル帝国軍の進出は、むしろ撃ってくれといわんばかりだ。攻撃を仕掛けたのはマドリード側、当然戦闘の責任はマドリード側に帰する。戦端を開くわけには行かない。


「<デオグラード>の始末は地上部隊に任せて<ミカ・ルル>と<グアン・クイム>は<アインストック>に合流を急げ。<アインストック>一隻では対処できまい」


 もはやザールの頭にクレイドなど存在しない。敵は、国境に居座るザムスジル帝国軍だ。


 が、まだ戦争は起きていない。ザムスジル帝国は名乗りもせず国境の外に遊弋しているだけだ。彼らから交信があったわけでもなく先制があったわけでもない。ただ、そこにいるだけだ。



(しかし帝国がどういう意図だ? クレイド伯にそんな価値があるのか?)



 ザールは後方を整理しつつ、<アインストック>のレイトン中佐には戦闘準備を命じ前面にフォース・バリアーの展開を命じた。この霧雨の中バリアーを発生させればバリアーは水に反応し青白い光を放ち視認できる。これがザールにできる精一杯の示威行動だ。


 国境を超えれば別だが、ガエル共和国領内に留まっている以上、マドリード側から交信するわけにもいかないし、その権利もない。

 その時、レイトン中佐からザールに報告が届いた。


 地上に動きがある。少しずつ人の輪が国境に向かって動いているという。

 ザールはそれを聞いたが顔色ひとつ変えない。


「地上はミタス元帥に任せてある。我々は気を取られるな」


 レイトン中佐は何か言いたげだったが、黙った。

 ある意味ザールたちは楽である。彼らは戦争だけを考えればいいのだから。


 地上は、悲痛な修羅場であった。






 地上はすでに戦闘などとっくに終わっている。

 アリア軍がほぼ完全に戦場を制した。ただ一人の男を除いて。


「まだ道が開いていませんな、アリア様」

 クレイドは楽しそうに笑いながら右手に握った銃を揺らしている。

 その先にティアラがいる。

 包囲しているアリアたちは皆アーマー機動兵だ。総数29機、ヒュゼイン白機と紅機もある。地上に降り立っているのはただ二人。アリアとミタスだけだ。そして、ミタスは気絶したガレット伯を抱いている。事実上動けるのはアリアだけだ。


「自分の行為がどれほど卑劣で愚劣か、分かっているのでしょうね! クレイド伯」


 アリアが殺気の篭もった瞳で射抜くように6m先のクレイドを睨みつけていた。これほど怒気を発するアリアを誰も見たことがない。


 いや、アリアだけではない。後ろに控えるミタス、そして周囲の親衛隊からも凄まじい殺気が放たれている。殺気だけではない、全てのアーマーの銃口はクレイドただ一人に集中している。アリアが命じれば、クレイドの肉体など幾重ものビームを受け欠片も残さず蒸発してしまうだろう。


 だが……戦況とは裏腹に、この場の空気はアリアではなくクレイドが握っていた。


 完全包囲される中、クレイドは超然とし笑っている。


「ごくシンプルな取引ですよアリア様。このまま黙って私が国境を超えるのを見逃せばいい。そうすれば余計な戦争は起きないし、国境を超えればこの赤ん坊は返してあげますよ?」

「そんな戯言を信じると思うのか? お前の事だ、そのまま連れ去るに決まっている」


 ミタスはその場に優しくガレットを寝かせ、濡れないよう上着と傘を彼女に被せると拳を握り締め構えた。愛用の戦斧槍はクレイドが真っ先に置くよう命じてきたので手元にない。だがミタスほどの膂力があれば素手でも殴り殺せる。


 クレイドにとってティアラは唯一の生命線だ。手放すはずがない。間違いなくザムスジル帝国の<サルベルク級>に収容されるまで手放さない。となれば相手はクレイドではなくザムスジル帝国だ。このクリト・エ大陸最大の帝国は軍事国家であると同時に最も野蛮な帝国で負ける事が何よりも嫌いで勝利至上主義を掲げている。仮想敵国の姫を手に入れたが最後、どんな要求を突きつけてくるか分かったものではない。領土や金で済むなら安い。ザムスジル帝国という国は、常に喧嘩……紛争や戦争を欲す。揉めて戦争を起こし侵略する。それが国是のような国だ。彼らの良心には何ら期待はできない。


 ティアラが奪われるだけでなく、その事を発端としてマドリードVSザムスジル帝国の戦争勃発という悪夢のような事態になりかねない。さらに悪いことに、両国の間にあるガエル共和国がどうやらザムスジル帝国に協力している。戦争になればマドリードは二カ国と戦争をすることになるかもしれない。いや、南の隣国バルト王国の動静も怪しい。元々レミングハルト候と結託しマドリード乗っ取りを計画していたのがバルト王国だ。アリアの台頭を喜んではいまい。バルト王国もマドリードの敵となる可能性がある。少なくとも味方ではない事は確かだ。


 アリアにはそこまでの事態が見えている。そしてクレイド伯もそこまで分かっている。

 だから、クレイドの強硬態度は変わらない。

 そしてアリアは強烈な苦悩の中にある。

 人一倍愛情の深い少女だ。ティアラは掛け替えのない、母クラリエスが命と引き換えに産んだ大切な妹だ。家族というものが疎遠だったアリアにとって何よりも大切な存在だ。

 だが今ここでクレイドを行かせれば、ザムスジル帝国との紛争は免れない。その国力は現在のマドリードを遙かに上回る上に滅多に退くという事をしない軍事帝国だ。ようやく苦難を乗り越え新生したマドリードだが、対外戦をするような余裕は全くないし、対応するならアリア軍だけでなく国防軍を総動員せねば対応できず長期戦は必至だ。只でさえ貴族評議会の暴走で疲弊しきっているマドリードは軍事も経済も国民も耐えられないだろう。ティアラの事だってただの人質ではなく政治利用するに決まっている。


 だがアリアは決断せねばならない。

 それが、王となった者の義務で、責任だ。

 色々何か方法を考えたが、結論は一つしか出てこなかった。



「…………」



 ……他に選択肢は、ない……。



 アリアは決した。断腸の思い……などという生易しいものではない。 こんな決断をせねばならない自分の運命を心の底から呪い、込み上げてくる感情を完全に押し留めることはできず、全身が震えた。



「アリア様?」



 斜め後ろでアリアを見ていたミタスは、アリアの異常な様子に気付いた。



 彼女は震えている。

 だけではなかった。泣いていた。

 大粒の涙が止め処なく流れ、頬や肩を揺らし、低く小さな声をあげ泣いていた。

 それは、正面にいるクレイドにはよく見えていた。彼は苦笑した。


「泣く事ないでしょう? 辛い立場なのは分かるけど、大したことじゃないよ。僕を行かせてくれたらいいだけなんだから」

 しかしそんなクレイドの言葉などアリアの耳には届いていなかった。


 その時だ。


 アリアの体から、じわじわと王覇が滲み出て、それが瞬く間に周囲に広がっていく。その王覇は大きく広がり、周囲を取り囲むアリア軍全員を包んだ。



(なんだ、この息苦しく心が重くなる王覇は)



 そう感じたのはミタスだけではない。ナディアも、ミネルバも、クロード大尉も、他の親衛隊の兵士たちも、思わず涙が込み上がるような強い哀しみと強い意志に戸惑っている。やがて皆はこの深い深海に身を沈められたような哀しい気持ちが、アリアの気持ちの伝播したものであると分かった。


 だが、アリアは何を哀しんでいるのか……誰も、すぐには分からなかった。

 アリアの口から、驚愕の言葉が漏れるまでは……。



「つらいのは……私と、クリスだけ……」


「アリア様?」


「つらいのは……ティアラを失ってつらいのは、私とクリスだけ。私たち姉妹が我慢すればいいこと……耐えればいいこと……マドリード国民が戦争に巻き込まれる災禍に比べれば……比べれば!」


 それはもはや言葉でなく慟哭だった。嘆いている。必死に吐き出している。呼吸が荒い。

 それが、止まった。涙も、止まった。


 次の瞬間……アリアの放つ王覇の色が変わった。青と白の極彩色が、赤の色にと変わった。だけではない。その王覇から感じるアリアの意志は、強い意志と怒りだ。


「!?」


 アリアは顔を上げた。

 その顔を見たクレイドは、思わずあらゆる言葉を飲みこみ息を忘れた。


 凄まじい表情をしていた。怒りではない。ついに理性が切れたのでもない。

 毅然とし、瞳は赤く燃え上がり真っ直ぐクレイドを睨みつけている。相手を見下し、あらゆる私情を消し去った、完全なる覇王が敵を見定める顔だ。一片の情けも後悔もなく揺るぎもない究極の超然たる姿だ。


 だけではない。どこかその表情には狂気が浮かんでいた。



「自分とクリスより……私は国民をとる」



 その言葉を聞いたミタスとクレイドは、アリアの身に何が起きたか知り愕然となった。



 アリアは切り捨てたのだ。ティアラを。誰よりも優しく愛深き女王が、愛する妹を!


 アリアはティアラを失う辛さに涙した。だが今泣く事で気持ちを切り替えた。判断が辛くて泣いていたのではない。判断し、失う代償の大きさに泣いていたのだ。そして泣く事で、自らの感情を出し切った。


 そして彼女は感情と心を完全に殺しきった。優しい女王などどこにもいない。厳格で冷徹な覇王が芽吹き、現れたのだ。アリアの中に眠っていた覇王が、今目覚めた。


 覚醒したのかもしれない。


 そのアリアの変貌と共に、彼女が放つ王覇の色はより濃く、より広範囲に広がっていく。


 アリアは静かに右手を上げた。それは全軍攻撃開始を伝える合図だ。


「馬鹿な……正気じゃないだろ? なぁアリア様」

 周囲を包む殺気と恐怖にクレイドは初めて動揺を見せた。だが最早アリアは揺るぎない。

 それは敵対するクレイドが一番理解した。目の前にいるのは少女ではなく、覇王だ。


 クレイドは見誤った。アリアの優しさを。アリアの強烈な愛国心を。自己犠牲心を。


 泣き、頭を垂れ、許しを請う……と思っていた。愛妹のためならば見得もプライドを捨てるだろう。だが現実は、自分を殺し、妹をも国のため捨てた。



「責任は私がとる。欠片一つ残すな!! 全軍照準っ! 砲門を―――」


 その時だった。異変が起きた。


 王覇にあてられたためか、それともアリアの王覇に影響を受けたのか……ティアラが突然泣き声を上げた。

 だけではなかった。ティアラからもじわりと王覇が放たれたのだ。それはアリアのものより光は強く、思わずクレイドはティアラから目を背けた。


 次の瞬間、奇跡が起きた。

 突然、炎が出現するとクレイドの上半身に襲い掛かったのだ。


「!?」


「ぐわあぁぁっ!!!」

 顔を覆う炎に堪らずクレイドはティアラを放り投げた。

 その隙を見逃さなかった。

 アリアはすぐに炎に包まれたティアラを摑むため飛び出すと、手を伸ばした。

 そしてミタスは跳躍し右拳を振り上げた。

 アリアが炎に包まれたティアラを抱きしめたのと、ミタスがクレイドを殴り倒したのはほぼ同時だった。パワーが違う。ミタスに殴られたクレイドは5mほど吹っ飛ぶ。


「ティアラ!!」


 燃えるティアラを、アリアは我が身のことなど構うことなく抱きしめた。炎がアリアの上半身を容赦なく襲い包み込んだ。それでもアリアはティアラを離さない。


「ティアラっ!!!」

 アリアは絶叫した。

 するとどうだろう。炎は一瞬にして消えた。

 魔法の炎だ。

 ティアラはまだ泣いている。アリアは不器用にティアラを強く抱きしめながらティアラの名前を何度も叫んだ。やがて、ティアラの泣き方は普通の泣き声に変わり、ティアラの王覇は消えた。アリアの王覇も消え表情にも感情が甦り、いつものアリアに戻っていた。


 アリアは親衛隊レベッタ=フルス中尉を呼ぶと、ティアラを託した。そして倒れているガレットの介抱も命じた。


 アリアは歩く。


 すでにミタスがクレイドを殴り倒し、半死半生で倒れるクレイドの胸倉を摑み上げていた。いつもの様子に戻ったアリアを見たミタスは僅かに反応した。


「終わりましたね。クレイド伯」

「……まいったね」

 クレイドは左手で顔左側半分を押さえていた。ティアラの炎が直撃した場所で、肌が無残に焼け爛れていた。それに加え何発もミタスの剛拳で殴られ、打撲や内出血がおきボロボロの顔を晒している。ミタスの膂力であればクレイド程度数秒あれば殴り殺す事はできたが、一刻を争う状況下からは脱した。生殺与奪はアリアに帰せられる。今や完全にアリアがこの場の支配者なのだ。


「裁判が貴方を待っています、クレイド元伯爵」

「なんだい、さっきの凄まじい顔はどこにいったのかな、アリア様。僕ですらぞっとするような狂気の顔をしていたのに今更裁判だなんて興ざめだねアリア様。さっさと殺せばいいでしょう? フハハハハハッ!!」

「アリア様。貴方が手を汚すことはない。これは戦争だ。クレイドは降伏しない以上、殺害も止む無しだ」

 ミタスはそういうと右の拳を握りこみ振り上げた。

 ここまでやったクレイドだ。裁判なしでこの場で殺害しても誰もこれが不当な殺人行為とは取らないであろう。そのための賊軍宣言であり、最初に非人道的な誘拐人質事件を起こしたのもクレイドだ。そしてクレイドはこの期に及んでも釈明もなければ命乞いもない。どうせ裁判をしても死罪は逃れようがない。


「この場の司令官の責任として俺が殺す。それでこの戦争は終結だ」


 ミタスは拳を振り上げた。

 やはりクレイドはこの期に及んでもその傲慢で軽薄な態度を変えることはない。死など怖れてはいないし、強者に跪くくらいなら笑顔で唾を吐く。その点、クレイドも悪人としては一級だったといえるだろう。


 その時だ。

 思いもかけない横槍が、アリア軍に向かって放たれた。

 これまで沈黙していたザムスジル帝国が、ついに声を上げたのだ。



『マドリードに告げる。クレイド=フォン=マクティナスを誅する事は我がザムスジル帝国が許さぬ。その男を解放してもらおう』



 拡声器の声が、エリア一帯に響き渡る。


 その声に、アリア……いや、全軍が国境の向こうを遊弋する三隻の<サルベルク級>戦艦を睨んだ。もはや国境まで100mを切っている。



『重ねて通告する。俺はザムスジル帝国十七将の一人バルタイル=レウ=セバスだ。そこのクレイドは我が帝国の男爵である。帝国臣民を殺傷することは許さぬ』




 アリアの革命戦、最後の幕が、ここに上がる。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 28 相打つ敵と1でした。



まさにクライマックス!


アリア様覚醒!? 


ハイ・シャーマンとして覚醒したのか、それとも覇王として覚醒したのか。

そしてティアラも新たな能力に覚醒です。


しかしザムスジル帝国もまた、ここに参戦か!?

ついに牙を剥く帝国。


様々な事が目まぐるしく変化していきます。


アリアたちはどうなるのか!? 戦争か、平和か!


ということでついに王女革命・賊軍編もクライマックスです。



これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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