『マドリード戦記』 革命賊軍編 27 戦場の騙しあい5
『マドリード戦記』 革命賊軍編 27 戦場の騙しあい5
アリア軍、動く。
瞬く間に戦場を制圧するアリア。
アリアの登場を予期していなかったクレイド伯は完全に虚をつかれる。
だがアリアが全てを制したわけではなかった。
まさかの展開に、息を飲む……。
(逃げて!! そして伏せて!!)
ガレットの脳内に響くアリアの声。この声はガレットにしか聞こえていない。魔法の声だ。
その瞬間、ガレットはティアラを強く抱きしめ、マドリード方向に向かって走り出した。
「往生際が悪いな、ガレット伯。ちょっと見損なった」
クレイドが軽薄な笑みを浮かべ捕まえるよう部下に指示を出した、まさにその瞬間……<タナベス>は突然頂上から放たれた巨大なビームに貫かれた。
「何っ!!?」
クレイドが振り向く。
ビームは一撃ではない。次々と巨大なビームが降り注ぎ、瞬く間に<タナベス>を破壊し、そして爆発が起きる。
上空の雲の中から<アインストック>が出現した。
雲の中に潜むなどこれまでの飛行戦艦には出来ない。<アインストック>だからこそ出来た芸当だ。そして悪天候ではあったが、クレイドやガレットが長々と会話をしてくれたおかげで<アインストック>は<タナベス>を十分な時間をもって照準することができた。運用しているのはもはやこの<アインストック>を思いのまま操ることが出来るレイトン中佐だ。練度は高い。ビーム砲撃は一発も外れることなく<タナベス>と、その傍にいた<アージェンス改>1機、<ガノン>1機を破壊した。
同時に、アリア軍全軍が動いた。
アリア、ナディアの両ヒュゼインがクレイドに向かい驀進する。その後を3機ずつの<ナイアザン>計6機が続く。
だけではない。ミタスの部隊も一斉に森から飛び出てクレイドに向かって進む。ここにはナディア傘下の親衛隊8機と<ガノン>の部隊12機が潜み一時的にミタスの指揮下に入っていた。ミタスは機動力の高い親衛隊を空白地帯である北側へ回りこむよう指示し、精鋭部隊と<ガノン>部隊をセットにしてクレイドに迫る。同時に歩兵たちも駆けさせた。
そして、ザールが指揮する<ミカ・ルル>は戦闘真っ最中の戦艦<デオグラード>の横面に対し砲撃戦を仕掛けた。<デオグラード>側が驚いて慌てて<ミカ・ルル>に船首を向けた時、背後から<グアン・クイム>と機動アーマー部隊11機が襲い掛かった。完全に前後を挟まれた<デオグラード>はまともに交戦することすら出来ず、<ガノン>のビーム砲で穴だらけになっていく。
半壊した<スプリトーズ>からも<ナイアザン>が二機飛び出す。これが一番クレイドに近い。乗っているのはミネルバ少佐とクロード大尉(中尉から昇進した)で歴戦のアーマー兵だ。この二機が真っ先にクレイドたちの集団に襲い掛かる。
ミネルバ少佐とクロード大尉は二機一体となり、ガレットに近くにいった護衛兵を蹴散らし反転、呆然と立ち尽くすクレイド軍の<ガノン>を一機撃墜した。
アリア軍の圧倒的な猛攻撃だ。突然の事に誰もどうすることもできない。
「どうなっている!?」
叫びながら周囲を見渡すクレイド。陰謀の草原は一瞬にして戦場となった。しかもクレイドが体験したことのないような激戦で、こんなことは彼の計算にはない。想像にもなかった。だが彼はすぐに敵の正体を知った。
高速移動するヒュゼイン白機と紅機がクレイドの横を通り過ぎていく。通り過ぎながらアリアとナディアはそれぞれクレイド側のアーマーを撃墜してしまっている。ほとんど一瞬の出来事だった。
ヒュゼイン白・紅機を見たクレイドは、アリアに全て知られている事実を知った。
「くそっ!!」
全てがアリアの掌の中だったことをクレイドは知った。彼は不幸にも優秀すぎた。すぐにアリアにしてやられた事実を悟った。アリアは今辿り着いたのではない、完全に罠を張って待ち構えていた。兵力の差は圧倒的でクレイドがどれほど有能でも抗えるものではない。
アリアとナディアは高速移動をしながらクレイド側の兵力を蹴散らしていく。最高の国宝機であるヒュゼインを前にしてクレイドの兵士たちが適応できるはずがなく、武器を取る事もなく悲鳴を上げながら逃げ惑った。アリアは一気に畳み掛け、彼らの脳内に「降伏」という文字が浮かび上がる前に蹴散らしていった。事ここに至りアリアに一片の容赦もない。
が……そんなアリアにも僅かに計算違いがあった。
この場にいた者全てがプロではない。
ガレットはティアラを抱き、必死に駆けた。その場に伏せる事がアリアの指示であったが、戦闘においては素人で戦争など初めての経験だ。突然起こった激戦に逆上った。彼女は単純にこの場から離れ避難することが最良だと判断し走った。その行動が、高速戦闘をするアリアやナディアたちの目から一瞬彼女の姿が消えることになった。
逃げ惑う賊軍、恐慌を起こす者たち、飛行船やアーマー撃墜によって立ちこめる黒煙。
ほんの数秒だが、アリアもナディアも完全にクレイドとガレットを見失った。
そこにミタス率いる機動部隊も合流してきた。
ミタスは<ナイアザン>の背に乗ってきた。戦闘地域に入るとその背から降り、駆けた。目指すはクレイド=フォン=マクティナスだ。生殺与奪はミタスの判断に任されている。
……どこだ……!
アリア軍はこの戦場にはアーマーしかない。アーマーは破壊はできても制圧はできない。だからこの場の制圧指揮はミタスが握っている。だが高速移動できるアーマーはともかく歩兵がグセール山脈の麓の森からこの草原の真ん中に来るには時間を有する。差し当たり、今はミタス一人しかいない。
ミタスは駆ける。途中、騒ぎながら逃げるクレイドの配下とすれ違ったが無視した。
「クレイドっ!!」
ミタスは叫んだ。
その時だった。
「その声は<ランファンの英雄>だな! 待っていたよ!!」
黒煙の中から返事があり、ミタスは思わず足を止めた。
ミタスは戦斧槍を握り直すと、ゆっくりと黒煙の中を進んだ。
そして……ついにクレイドを発見した。
「貴様」
ミタスが吐き捨てるように呟く。だがそれ以上進む事はできなかった。
クレイドの足元には、殴られ倒れたガレットの姿がある。
だけではない。
クレイドの左手にはティアラが摑まれていた。そして右手には拳銃があり、その銃口は小さな赤子の頭部に突きつけられている。
「ふふふっ! 土壇場で詰めが甘いな!! さて、仕切り直しといこうじゃないか」
クレイドは軽薄な笑みを浮かべ声を上げて笑った。
形勢は逆転した。
『マドリード戦記』 革命賊軍編 27 戦場の騙しあい5でした。
思えばかなり久しい戦闘描写です。
これまでの戦闘と違い、この戦場に関してはアリア様のほうが兵力を持っていますが、勝つことよりティアラ救出が優先……そこでとったのが今回の包囲戦術で作戦は圧倒的にアリア様が上でしたが、運が今回だけは彼女に味方しなかった。
クレイド伯の手中に落ちたティアラ!
これでもうアリア軍……アリア様は手が出せない?
こうして「マドリード戦記・王女革命編・賊軍編」最大のクライマックスに突入です。
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




