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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 25 戦場の騙しあい3

『マドリード戦記』 革命賊軍編 25 戦場の騙しあい3



国境線上に集うクレイド、ガレット、そしてティクス。

この場にティアラの姿もある。

狡猾なクレイドの企みが始まる。

その頃アリアは……現場を包囲していたが……。



戦場の騙しあい 2

-------------------



 4月9日 午後15時21分。



 マドリード+ガエル共和国国境地帯・北回廊



 国境まで僅か1キロ。グセール山脈の麓の広大な草原地帯に二隻の小型飛行船が停泊していた。いや、二隻だけではない。マドリード側に2キロほどのところで、まるで見張るように旧マドリード国貴族兵団所属大型戦艦<デオグラード>が遊弋している。


 二隻の飛行船は軍艦ではない。民間用高速飛行船で、一隻はガレット伯所有<スプリトーズ>、もう一隻はティクス男爵所有<タナベス>である。


 他にアーマーが8機。<アージェンス改>2機と<ガノン>6機。そして兵が100。

 小雨降りしきる大地に人が集まっている。


「<栄光のマク一族>の集合だ。さぞ我らの先祖も喜んでいるんじゃないかな? 一族がこうして力を合わせる……なんて素晴らしい事だろう」


 マクティナス伯爵家クレイド=フォン=マクティナスは、両脇に並ぶ両君を見渡し楽しそうに微笑んだ。


「力を合わせる? どこがです? 没落し国外に消え失せる両人と私を一緒にしないでいただけるかしら? 私は今でもマドリード伯爵婦人ですが、お二人は……正しくは<元>貴族の非人でしょ?」


 軽蔑の篭もった鋭い視線を送るのはマクギリス伯爵家ガレット=フォン=マクギリスである。


 この一癖も二癖もある両人に挟まれ、肩身狭く不安げに目を泳がせているのがマクレイヤ男爵家ティクス=フォン=マクレイヤである。彼がこの場でもっとも年長者であったが、もっとも爵位も立場が弱く、そしてもっとも情けない存在だった。何せ彼は臆病な裏切り者なのである。クレイド伯はマドリードの敵だが、彼は裏切りという卑しい立場にはなく、敵として超然として自らの誇りを失わなければならない事は何もない。


 <栄光のマク家>……マドリード王国設立の際巨大な功績があった三人の兄弟はそれぞれ爵位を得、それが今に続いている。いや、続いたというべきであろう。僅か三日前に新生した新生マドリードの貴族名簿に筆頭伯爵家マクティアナ家と筆頭男爵家マクレイヤ家は削除されているのだから。


 そしてここに一人……特別な人間が立ち会っている。

 生後一ヶ月、しかしこの場にいる誰よりも身分が高いのがマドリード王族姫殿下ティアラ=フォン=マドリード=パレである。彼女……いやこの赤子の姫殿下は、一緒に誘拐された侍女メルセリアの腕の中で静かに寝息を立てている。


 霧雨の中、ガレット伯とティアラを抱くメルセリアだけが傘を差し雨を凌いでいる。クレイド他男連中は傘なしだ。傘が必要ないほどの小雨でそれほど濡れない。それにティアラを別にすればこの場で最も偉いクレイド伯が傘を差さない以上他の者が傘を差すのは憚りがあるのだろう。もはや敵であるガレット伯は別である。



「さて、浅からぬ我らの関係を考えるとワインでも楽しみながら雑談でもと言いたいところだが、あいにく私も急ぎの身でね」

「逃亡のね」ガレットはニコリともせず吐き捨てる。

「そうだね、逃亡の身だ。ではさっそく用件に入っていいか? ガレット伯」

「ご覧の通り、私は我が身一つでここにきました。姫殿下を渡していただきます」

 そういうとガレットは後ろに控える女使用人を一瞥した。使用人の女は恭しく頭を下げる。ガレットは彼女に傘を渡し、両手を広げた。


「姫殿下を当家の使用人にお渡しなさい。そうすれば私は貴方に同行しましょう」

「その前に少しばかり、確認をしようか? いいかいガレット伯。ではティクス男爵、卿に聞きたい。ガレット伯の女使用人は君の見知った女かね?」


「え!? い、いや……分からない」

とうろたえるティクス。


「当然です。当家には何人の使用人がいるとお思いで? 商会の人間を入れれば200人を超えます。彼女はデスベリン、我が家の優秀なメイドの一人です。ティクスに会わせた事はないですから知らなくて当然です。何せティクスは女性にだらしのない人ですから」


 そう紹介され、軽くデスベリンは頭を下げた。こんな恐ろしい場にいるというのに怯える様子はなく毅然としている。成程、ガレットの家らしい肝の据わった使用人だ。


「ではもう一つ確認と行こう。メルセリアと言ったか? 君はこの中で見知った顔はあるかね? この場にいる軍人、兵士、貴族、使用人、全てだ。知った顔はいるかい?」


 突然名指しされ驚くメルセリア。彼女はクレイド伯の意図が分からず右往左往と混乱の表情でうろたえていた。クレイド伯が重ねて言った時、メルセリアは言葉の意味だけは理解し周囲に居並ぶ人間の顔を何度も見て、やがて首を大きく何度も振った。


 彼女は故クラリエス王妃の侍女でありティアラの侍女でもある。アリア軍の中枢メンバーの顔を知る女だ。クレイドは、この中にアリア軍関係者がいないか確認させたのだ。


「じゃあメルセリア君。姫殿下をガレット伯に渡しなさい。そっとだよ?」


 そう言ったクレイド伯の言葉は優しく微笑んだ。その顔に悪魔が潜んでいるとは誰も思わないだろう。


 悪魔は、すぐにその微笑を全員に振りまく事になる。

 メルセリアがティアラをガレットに渡した直後だった。



「ご苦労様。そしてさようなら」



 そう言うとクレイドは懐から回転式拳銃を取り出し、笑みを浮かべたまま銃口をメルセリアに向けると何ら躊躇することなく引き金を引いた。


 銃声が霧雨舞う曇天に響いた。


 胸を撃ちぬかれたメルセリアは僅かに呻き声を上げたが、すぐに呼吸が止まりその場に崩れ落ちた。


 ティクスは突然の殺戮劇に悲鳴を上げた。侍女デスベリンも顔を背ける。クレイドの部下たちも騒然となった。二人……笑みを浮かべるクレイドと殊更無表情を作り冷然としているガレットだけは動じない。


「ひどい男ね。たかが侍女ごとき殺す必要があって?」

「僕なりの優しさだけど? 許されると思うかい? 守るべき殿下を守れず誘拐に加担した女だよ? 当然処刑されるだろうさ。僕はその手間を省いてあげたに過ぎない」


 殺人など何事でもないように笑いながらクレイドは拳銃を腰のベルトに突っ込んだ。その軽薄さにガレットの表情はますます厳しくなった。こんな下衆外道とは、さすがのガレットも思っていなかった。



 が……下衆外道に違いはないが、殺人狂ではない。何重にも意味のある行動だった。



(銃が撃てたという事は、エルマ粒子は充満していない。撃っても誰も飛び出してこない。ガレットも大して驚かない。という事はこの周囲にアリア軍はいない、か)



 王家の侍女が撃たれて黙っているようなアリアではない。が、周囲の気配は変わらず機影も人影も見えない。


 クレイドは満足げに微笑んだ。


「さてガレット伯。話を続けようか」








 実はアリア軍はこの場に存在した。

 というようなものではない。ほぼ包囲していた。しかも近距離にいた。


 クレイドたちがいた地点から300mほど国境に向かったところにアリアのヒュゼイン白機と<ナイアザン>3機。そこから横に100mほどいったところにナディアのヒュゼイン紅機と<ナイアザン>3機。アリアもナディアも大きな窪地の中にアーマーを入れ、その姿を隠匿の魔法で姿を隠していた。上空雲の中に<アインストック>、グセール山脈の中に<ミカ・ルル>が隠れ、さらにミタス率いる精鋭歩兵200とアーマー20機が麓の森の中で潜んでいる。そして視界にないが東方向には<グアン・クイム>が控え、シュナイゼン少将とペニトリー少将の国防軍が北方向10キロまで迫っている。ほぼアリア軍がクレイド伯たちを囲い込んでいた。


 メルセリアが撃たれた瞬間、アリア軍全員に緊張と怒気が走った。

 アリアの顔……ナディアの顔、ミタスの顔に苦悩が浮かび、全員震えた。

 が……飛び出さなかった。踏ん張った。


「包囲を崩してはいけない。今、動いてはいけない。メルセリアが殺された怒りはもっともですが、もう終わったことです。これから殺されるのではない。彼女は救えなかった。ティアラ殿下を救う事がメルセリアの願いです。いいですね」


 ザールが無線で全員に告げる。そんなことは全員言われなくても分かっている。むろんアリアも。ここで飛び出すようであれば到底クレイド伯を出し抜くことなど出来ない。


 ティアラとガレットだけの問題ではない。未確認だがザムスジル帝国が控えている。その対処もアリアはせねばいけない。全てが分かるまで動かない事がアリアの取れる最良の作戦だ。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 25 戦場の騙しあい3でした。



ということで「マドリード戦記・王女革命編」最後の見せ場……クレイド伯対立編スタートです。


ついにクライマックスです。


国境目前まで逃げきったと思いきや、実はアリアの包囲網の中……。

だが肝心のティアラはクレイドが握ったまま……。


ということで、アリア様とクレイド伯の最後の騙しあいが始まります。

果たして運命はどちらに勝利を与えるのか。

アリア様の王女時代最後の事件の幕開けです。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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