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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 24 戦場の騙しあい2

『マドリード戦記』 革命賊軍編 24 戦場の騙しあい2


ザムスジル帝国軍出没。

その報を聞き、慌てるグレンドラ基地。

レイスはその情報を受け、大胆な作戦を思いつく。

飴がちらつき始める中、レイスが動き出した。



 そして、僅か15分後の午後12時55分……。


 国防軍基地グレントラの情報士官が、驚愕すべき報告を持って司令官室に飛び込んできた。

 北の国境回廊に未確認鋼鉄飛行戦艦が3隻現れたという。まだ確証はないが<サルベルク級>であるらしい。すでにマドリード国境近くにまで迫っている。同時にガエル共和国軍も臨戦態勢に移った報告も届いた。


 司令官室でその報を受けたレイス中佐は、驚かなかった。しかしこの事実は驚愕しなければならない。

完全鋼鉄飛行戦艦<サルベルク級>をガエル共和国軍は持っていない。


「本当に<サルベルク級>か? 間違いねぇーか?」

「間違いありません! 帝国製<サルベルク級>戦艦です!」


 <サルベルク級>……動力源はエルマ粒子式エンジンと飛行石を併用する飛行戦艦だが、通常の戦艦より装甲が厚く船体は大きい、全長160m級の大戦艦である。


アリアが持つ<アインストック>の純エルマ粒子エンジン搭載である<デュアル級>が現在のクリト・エ大陸での最新鋭艦だが、サイズは一回り小さい。防御力と戦艦攻撃力は<デュアル級>が上だが、積載量と地上攻撃力は運用次第では上かもしれない。大陸連邦もこの<サルベルク級>を多く運用している。先の北公とソニアの軍事衝突事件でも両軍この<サルベルク級>が使われた。一世代前の最新主力艦だ。


 その大艦が三隻となれば、それだけでも非常に驚異的な戦力だ。一隻の戦闘力は<デュアル級>が上でも、三隻ともなれば事情が変わる。対抗できるのは<アインストック>だけで<ミカ・ルル>や<グアン・クイム>などの中型戦艦では分が悪い。他のただの飛行戦艦など数にもならない。


 アリアが慌しく去って、まだそれほど時間は経っていない。アリアが置かれている現状の厳しさを改めてレイスは思い知った。


 アリア軍はクリト・エ大陸において常識外の機動兵力を持っている。だが相手がザムスジル帝国であれば別だ。わざわざ遠征してくる以上、相当の兵力を持っている可能性がある。そして戦闘意欲に関しては猛獣並みの連中だ。


「こりゃあ暢気に座っちゃいられねーな。おい、ゴードルとレズンに声かけてきな。すぐに出動だ」

「レイスさん、出動するんですか!?」

「レイス中佐って呼べ」そう言って笑うと、すぐにレイスは真顔になった。

「グレントラ<漆黒の三竜騎>の出動だ。久しぶりに大暴れできそうだぜ」

「三人だけで行かれるのですか!?」

「他はガエル軍の押さえだ。こっちが弱っているとガエル軍が増長するぜ。そっちもそっちでほっとけねぇー。だがこの状況だ、十中八九ガエル軍は動かねぇ。いや動くときは大戦況の変化がある時だ。その時はアリア様にすがれ。もう俺たちだけが踏ん張ってすむ話じゃねーからな」


 今起きている事件はただの国境荒らしではなく、国家間の大戦略に基づいている。もはや国境基地の裁量を越える。こちらもアリアの裁断が必要だ。

 レイス中佐はそう宣言すると、愛用の長剣を担ぎ司令官室を出た。

 部下たちの配備は終えている。皆優秀で多少の事があっても持ちこたえるだろう。



 ……ザムスジル帝国と喧嘩か……面白いじゃねーか……!



 指揮官としての仕事は終えた。アリアの話を聞く限りガエル共和国軍が動き出す可能性は大きくない。そして想定外の事案も恐らく起きない。しかしアリアのほうはそうはいかないだろう。少しでも兵力が欲しいはずだ。だがグレントラには出せる機動部隊は限られている。アーマーは6機だ。全てオリジナル・アーマーでそのうち3機を省く……レイスにとっては最大限の戦力だ。


 レイスは基地内にあるアーマー格納庫に辿り着く。

 そこではすでに二人の兵士が、レイスがやってくるのを待っていた。

 やや肌が褐色の小柄の男と、逆に雪のように肌の白い大柄の女が愛想よくレイスに敬礼する。


「仕事だ、ゴードル大尉、レズン大尉」

「なんですかい、そのタイイってのは」とニヤニヤと笑っている小柄な男はゴードル=グラッサム。

「噂には聞いた事あるよ。アレでしょ、アリア様の新軍制ってヤツ?」とレズン=スベルは物知り顔で答えた。二人共20代後半、共に平民の出だがこの国防基地グレントラでは名物といっていい存在で二人共この基地勤務のアーマー乗りだ。それもスペシャルな。

「大尉ってのは、お前たちの身分だ。今後はそう呼ばれる、覚えときな」


 実はレイスは部下たちの階級についてアリアから人事任命権も貰っていた。簡単に役職の説明を聞いた上で、佐官以下であればレイスの判断で任命していい。この処置は基地を束ねるレイスにとっても部下の歓心や忠誠を得られ司令の立場を強化できる。アリアにとっても馴染みのないグレントラ基地を整理できる、一挙両得の案だ。むろんこれだけアリアから信頼を与えられたレイスも悪い気はしない。


「派手に暴れることになるかもしれん。アリア様がおっぱじめれば、大会戦が勃発するかもしれねーからな」

「そこで私たち<漆黒の三竜騎>の出番ってワケね」とレズン大尉は不敵に笑った。

「俺たち三人で10機の戦力ですからね」とゴードル大尉。

 レイスは二人と合流しながら格納庫に向かった。

「そういうこった。俺たちの真価を発揮する時が来たぜ」とレイス中佐。

 三人が向かったアーマー格納庫には、珍しい三機の黒いオリジナル・アーマーが鎮座してあった。

 マドリード国防軍並びに貴族の多くが有している<ローゼンス>でも<アージェンス>でもない。一回り大きく、そして三機ともやや長大な白兵戦用ランスと大きな鋼鉄のシールドを搭載している。


 これがグレントラ基地のみ配備されているオリジナル・アーマー<スレイベス>だ。主にザムスジル帝国特別機動部隊用に開発された<スレーク型>を近接戦用特化に改造されたモデルでこの基地にしかないモデルで準国宝機というべき性能を有している。ヒュゼインには及ばないが<ナイアザン>より性能は上だ。軍人伯爵家として歴史あるクロトクル家がレイスより4代前、西の科学都市ロイズに発注して造らせたものでレイス秘蔵の愛機だ。そして特別信頼し、アーマー・パイロットとして卓越する技量を持つゴードルとレズンに貸与し、<漆黒の三竜騎>と称し三人でこの国境地帯の雄として暴れまわってきた。もっともガエル共和国軍の国境荒らし程度に対するにはオーバースペックで、レイスたちですらこの愛機<スレイベス>の真価は分かっていない。ついにそれを問う戦場が出現しそうだ。


「帰りは気にするな! 全速で北回廊に向かうぜ!」

「帝国の<サルベルク級>が標的かい? 強いし遠いぜ」

「だから全速だ。少々長いドライブになるが我慢しろよ」

「私、狭いコクピットに長時間嫌なんだけどね。窮屈なのよね」

 文句をいいながらレズン大尉はコクピットに飛び込んだ。レズンは大柄の女で身長178cmあり体重も70キロあるガッシリ体型だ。格闘戦ではこの基地の男子どもより強い。尚、ナディアも身長174cmと大柄だが八頭身美人で女性らしい体格を持ち体重は58キロと軽い。これは戦後だがレズンとナディアは格闘技の模擬戦を行ったところナディアが圧勝した。天才には普通の常識は通じないらしい。もっとも、レズン大尉にだって魅力がないわけではない。何せ生涯独身だったナディアと違い現在彼女はバツ1の既婚者で子供が一人いる。


「俺だって我慢する。文句言うな」と身長185cmのレイスは苦笑しながらコクピットに飛び込んだ。そう、オリジナル・アーマー<スレイベス>の唯一の欠点は、短期決戦型のアーマーでコクピット内はオリジナル・アーマーにしてはやや狭く<ガノン>より若干広い程度だ。


 時間が惜しい。レイスはすぐに<スレイベス・1>を発進させた。その後を2機の<スレイベス・2>と<スレイベス・3>が続く。


 三機の<スレイベス>は、すぐに進路を西にとった。


「大将! 北回廊じゃなかったんですかい?」

「北にはグセール山脈が邪魔だ。迂回する」


 グセール山脈は北回廊のマドリード側にそびえる小さな山脈で、これがあるためクレイド伯らは大周りし時間がかかった。険しい山脈ではないので<アインストック>などの純エルマ式エンジン戦艦や帝国の<サルベルク級>ならば飛び越えられる。また小型戦艦などは山間を縫っていけるが、普通の飛行船や飛行戦艦にとっては難所だ。アーマーであれば山道をぬって進めるが時間がかかる。


 だからレイスはこの厄介な山路を進む事を選ばなかった。しかし東に回って迂回する道も選ばなかった。


 レイスが採った方法は、大胆不敵といっていい。


 レイスは問答無用でマドリード国境を超え、ガエル共和国に侵入し、ガエル領に広がる草原を一直線に駆け、そこから北回廊に辿り着くという方法を選んだ。確かに直線で一番早く、かつクレイド伯を捉えることが出来る。


 奇策といっていい。


 当然ガエル共和国軍はこの国境侵犯に気付く。騒ぐだろう。

 だが、これが進攻するザムスジル帝国軍向かっているという事であれば、下手に手を出せばザムスジル帝国、マドリード両国の問題に首を突っ込むことになるし、場合によっては三カ国入り乱れた大混乱に陥る危険が大きい。もしガエル共和国がザムスジル帝国に完全に屈したのでないのであれば、たかが三機のアーマーの進入など見て見ぬふりをするほうが後々大事にならない。


 マドリードにとってはやや問題ある行動だが、そこは功績を得ればなんとでもなる、とレイスは思っている。レイスを国防基地の司令として認めたのはアリア本人だし聡明なアリアはレイスの行動の効果も分かってくれるだろう。その点、アリアの度量にレイスは期待しているし甘えもしている。


 こうしてレイスら<漆黒の三竜騎>も進発した。


 彼らがアリアとクレイド伯の対決にどう影響するか……それは動き出したレイスも分かってはいない。だが自分たちの存在が何かしらアリアのためになるだろうという事は確信している。その点、彼は優れた戦略家でもあった。


 レイスが出発してすぐ……これまで晴れていた空に、雲が浮かび始めた。



 天候が崩れようとしている。後一時間もすれば雨が降り出しそうだ。



 こうして、アリアとクレイド伯の対決に、どうやら雨という要素が加わることになる。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 24 戦場の騙しあい2でした。


ザムスドル帝国出現と、レイス出動編です。

これがこの後のアリアVSクレイド伯の大きな一手になります。

ちなみに<サルベルク級>の飛行戦艦の説明を多くいれてましたが、この戦艦は当時最大級の軍艦ということで重要な戦艦です。アリア様が持つデュアル級<アインストック>は最新鋭艦ですが、これは世界でも10艦ほどしかない貴重なもの。そして今回の<サルベルク級>は世界レベルの主力艦です。

ということで、アリア軍、クレイド伯、そしてザムスジル帝国軍、この三者が次回、一斉に集結します。まさにクライマックス突入です。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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