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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 23 戦場の騙しあい1

『マドリード戦記』 革命賊軍編 23 戦場の騙しあい1


クレイド伯捕捉……それに対し対応しようとするミタスとザール。

すでにアリアは先に動いている。

ミタスは後続部隊の手配を済ませ、軍を動かす。


そしてクレイド伯。

この最終段階に来て、接触してきたティクス男爵。

これがアリア軍へ知れると分かりつつ、国境もちかいということで受け入れるクレイド伯だが……。



戦場の騙しあい 1

-------------------------------



 4月9日 午後12時18分。



「ようやくクレイド伯が出てきたか。よくぞ今まで逃げおおせたものだ」

「北回廊の国境手前約20キロ。対処できるギリギリの線だ」


 ミタスとザールは、<ミカ・ルル>の艦橋で「クレイド捕捉」の報を受け取った。丁度その時ミタス軍はズトール子爵家の飛行船を拿捕し終えたところだ。動き出す事ができる。


「どうする?」とミタス。

「司令官はお前だ」とザールは笑みで返す。

「クレイド伯がやるといっても精々1500程度。アリア様の主力部隊だけでも戦力は上だ。が、あっちは想定外が起きるかもしれん」


 ミタスは艦橋の作戦デスクに移動し、周辺地図を開いた。


「<ミカ・ルル>と<グアン・クイム>はアーマー部隊を収容し南から国境線を北上しよう。残りは追いかけさせる。運がよければシュナイゼンの国防軍と三方から包囲できるだろう」


 ぼちぼちシュナイゼンとペニトリー将軍の国防軍主力がこのエリアに到着するはずだ。


「良い案だ」

 ザールは満足そうに頷き

「他の残党処理はサザランド中佐に任せればいい。機動兵は少ないが歩兵はざっと6000人いるし戦艦は6隻ある。賊軍貴族共は精々500から800、後れをとる事はない。それにグレントラ基地の国境軍が封鎖作戦を執っているようだ。それを突破することはできまい」

「後始末ばかり押し付けられてサザランドは不満だろうが、致し方ないな」


 国境国防軍がアリアに伏した、という情報も得ている。心配はいらないだろう。ザールがあえて国防軍基地グレントラと距離を取ったのは国境軍の態度を見定めるためだ。もし伏さず敵対するような動きがあればアリア軍主力を先に行かせ、その後ミタス軍が基地グレントラを押さえる……という作戦があったのだ。しかしどうやらそうはならなかったようだ。であれば当初の予定通り、ミタス軍は双頭としてクレイド伯の賊軍を挟み込むのが役目である。


 ミタスとザールは独自裁量指揮権を持っている。一々アリアの判断を仰がなくてもいい。


 司令官はミタスだ。ミタスは方針を決めるとすぐに各部隊に指示を与え、<ミカ・ルル>と<グアン・クイム>の出発を命じた。その手並み、もう立派な一軍の将である。


 その指揮ぶりを、ザールは笑みを湛え黙って見ていた。



 ……合格点だな……。



 ミタスが戦士として超一流なのは皆が認めている。先陣立つ猛将としても戦術家としても申し分ない。では戦略家としてはどうか……実はアリアが主力を二分しミタスに率いらせた真の目論見はここにあった。ミタスの戦略家としての才能を見極めるテストである。これはアリアとザール、二人だけしか知らない秘密試験だ。戦術は天性の戦士であれば皆ある程度備わっているものだし勘がいい人間もある程度結果を残す。しかし戦略家となれば政治力も必要だし師匠も必要だ。そして何より人格や性格も大きく影響する。アリアとザールの場合、導師フォルサスが師であり、二人とも深慮遠謀、先の先まで考える能力とけして猪突しない慎重な性格があり、優れた戦略家としての才能を持ち合わせている。この点、目先の戦闘に熱中するナディアは優れた戦術家であっても戦略家ではない。だが、どうやらミタスには戦略家としての才能があるようだ。


 彼の戦略の師はアリアであった。むろん直接教えを受けたわけではなく、この一年アリアの戦略を間近で見て吸収したようだ。機動兵の運用はすっかり身につけた。


「なんだザール? 俺の顔見て何故笑う?」

「なんでもない。いい男だと思っただけだ」

「馬鹿にするな」ぷいっとミタスは顔を背けた。

「まだやる事がある。アーマー部隊の連中を休息させなきゃいけないし乗員の休息も取らせないとな。休める時に休ませる」


 本当の主力であるアリア軍はクレイド伯のみを追う。ミタス軍もクレイド伯を目標としているが、戦略的には奇兵で正面から迫る軍ではない。だからいつ戦争が起こるかは分からずそれに備えておかなければならない。アリアからの要請がいつあるかも分からない。


「では私は国防基地グレントラに連絡し情報を整理しておこう。基地司令レイス伯爵とは一面識ある」


 ガレット同様、共に伯爵家当主で顔を合わせたことがある。ザールはアリア決起まで貴族評議会の下部組織である貴族会に何食わぬ顔をして参加していたから貴族の世界では顔が広い。


 こうしてミタス軍は動き出した。<ミカ・ルル>と<グアン・クイム>の二隻が先行する。搭載するアーマーは18機、兵力2000人。皆、革命戦を潜り抜けた精鋭である。






 一方、クレイド伯……。


 ここまでクレイド伯が逃げ遂せたのは、彼がとった巧妙かつ薄情な指示……作戦のせいであった。


 クレイド伯は、軍を解散したが、その後各貴族たちに対し親切に逃走ルートを指示していた。だがクレイド伯は彼らを脱出させるつもりは一切なく、連中は巧妙に計算された、この地方一帯に撒いた撒き餌だった。


 アリア軍は三方から迫る。だが北が一番その手が迫るのが遅い。

「一塊になればアリア様に一発で捕捉されて一網打尽だ。だから個別に、僕の指示通り逃げるといいよ。その方が助かる可能性は大きいからね」

 このクレイド伯の言葉を賊軍残党たちは信じた。だがこれこそクレイド伯の狙いだ。連中が各個捕捉されていくのを見てアリア軍の進攻ルートを確認し、その都度空白エリアを算出し、何度も進路を変えながら北上した。いわば貴族残党たちはクレイド伯のためのレーダーの役割を知らずに演じていたのだ。まさに囮であり餌だ。この作戦を最初に気付いたのはガレット伯で、次いでミタスたちが知り、アリアもついに知った。


 知ったところでもう遅い。クレイド伯の<デオグラード>が国境30キロまで到達した時、クレイドにとって予想外の事件が起きた。


 逃走ルート上に、ティクス=フォン=マクレイヤ男爵の高速飛行船<タナベス>が現れ合流を申し込んできたのだ。


 これまで飄々余裕としていたクレイドの表情が、この戦争中初めて険しくなった。




「ティクス奴……」


 参謀長コマイセンはティクス男爵合流を歓迎した。ティクス男爵だけではない。なんと彼の飛行船にティアラ王女と誘拐した特殊部隊員も乗っていた。新型アーマー6機……これは元々クレイド伯のものだが……他オリジナル・アーマー2機、歩兵300……と、少ないが現状馬鹿にできない力もある。何より7500万マルズ相当の金塊や宝石類を持っていて、それら全てクレイド伯に進呈するという。ただしこのまま一緒に国外まで逃がしてくれれば……。


 元々ティアラ王女と特殊部隊の輸送はティクス男爵の手を借り手続きをしていた。まさかそこにティクス男爵本人が乗りかかってくるとは思っていなかった。


 これで自分の所在は遅かれ早かれアリア軍が察知するだろう……もう隠れて進む逃走劇は終了する。その事はクレイド伯にとって許容範囲だ。どの道最終的には一戦起きる事は覚悟している。


「西公殿の手土産は多いほうにこした事はないのだけどね」


 西公……ザムスジル西方大公ヤグール公爵。それがクレイドが取引し連携している相手だ。もっとも直接会った事はない。ザムスジル十七将の一人バルタイル=レウ=セバスが窓口で、西公ヤグール公爵との間を取り持ったのはアルファトロスの怪人ユイーチ=ロレンクルだ。ザムスジル帝国側が皇帝の意志によるものか西公の独断によるものかはクレイドにも分からない。西公は四大公爵の一つだが一国の王ほどの権力を持っている。


 そのザムスジル帝国の西公ヤグール大公がクレイド伯に課した亡命の条件は1億マルズ相当の財と王女を誘拐し引き渡す事。この二点だ。財宝のほうはクレイド伯ほどの立場であれば簡単に用意できたし、王女誘拐案は逃走する上で人質にもなるのでクレイドは深く聞かなかったが、不審さを覚えていないわけではない。


 すでにザムスジル帝国はマドリード国境に迫っているはずだ。だがそれも現在交戦中のガエル共和国と一時停戦しクレイドを回収するだけに動いている。とはいえ大軍ではガエル共和国を刺激するから出迎えは少数精鋭となるだろう。アリアは妹殿下を取り戻すため、全兵力を率いやってくる。動員兵力はアリア軍が上だろう。戦闘になれば局地戦とはいえ必勝を国是とする軍事大国ザムスジル帝国は負けたくはないはずだ。敗北はザムスジル帝国が面子を賭けても許さない。が、現有兵力ではアリア軍が有利だ。


「成程。そういう事かな」


 漠然と……クレイド伯はユイーチとザムスジル帝国の意図が読めた気がしてきた。


 ザムスジル帝国はクレイド伯の財力が欲しいのではない。クレイド伯自身をさほど買っているわけでもないだろう。


 ザムスジル帝国は、アリアに用があるのだ。クレイド伯は所詮そのための餌なのだ。


「大人気だね、アリア様」


 クレイドはククッと喉を鳴らして笑った。その様子に参謀長コマイセンが何事かと思わず振り向いた。


 クレイドは手を振ると立ち上がった。


「仕方がないな。ティクス男爵についてくるよう言いたまえ。ちょっとでも従わなかったら即撃墜するからね」


 クレイドはそう言い放ち再び深く席に座りなおした。



 ……どうやらこのあたりでこの連中ともサヨナラになるな……。



 元々彼の亡命プランに臣下たちは含まれていない。ここまで右腕として自分に仕えてきた親戚でもあるコマイセン参謀長だって例外ではない。この連中は最後の最後で捨石にするためだけのため率いてきた。


 ティクス男爵の<タナベス>が合流してすぐ、ガレット=フォン=マクギリス伯から秘密連絡を受け取った。薄々ガレット伯の監視に気付いていたクレイドは、ここでガレットに対し苛烈な要求をぶつけた。しかしガレット伯は動じることなくクレイドの要求を受けた。即答だった事で、クレイドはすでにガレット伯がアリア陣営に完全に属した事を確信した。でなければガレットがこうも堂々と即断するはずがない。このあたりクレイドも只者ではない。秘密と言っているが、情報は全てアリアに告げられる。実際の取引相手はアリアだ。



 ……さて、どっちがうまく騙すかな? アリア様……。



 この時、午後12時40分……ガレット伯からアリアに情報が伝えられたのも丁度同時刻くらいだ。



 アリアとクレイド、両雄直接対決の時間が迫っている……。




『マドリード戦記』 革命賊軍編 23 戦場の騙しあい1でした。



今回はまだクライマックスの序章というか準備章みたいなものですね。まぁ次もなんですけど。

本格的な対決は次々回になります。

とりあえずミタスとザールの話よりクレイド伯の動きのほうがメインですね。

クレイド伯は、見つかりそうになると部下の貴族を切り捨てて逃走していたわけです。見つからないわけですね。簡単にいえば貴族や部下たちにひたすら毒見させながら逃走していたわけですが……まぁ、尋問するような時間のないこの接戦だからできる手で、その点クレイド伯は度胸もあるし能力もあるわけで……。


そして最大の悪辣な作戦はまだ残しています。対アリア様用の作戦が。


ということでついに革命戦クライマックスに入った本作です。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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