『マドリード戦記』 革命賊軍編 19 国境線3
『マドリード戦記』 革命賊軍編 19 国境線3
指揮権を得るため、軍基地司令レイス将軍と模擬戦を行う事になったアリア。
相手は背が高く、しかも大剣使い。一方アリアはドレス姿のままだ。
こうしてアリアも予想していなかった剣術の模擬戦が始まる。
だがレイスは口だけではなく、かなりの実力をもった戦士だった。
果たしてアリアは勝つことができるのか!?
国境線 2
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4月9日 午前10時00……
国防基地グレントラの室内訓練室は異様な雰囲気に包まれていた。
300㎡ほどの訓練室内にはグレントラ基地所属士官たちとアリア軍親衛隊の士官たちが集まり大きな円座を作っている。
その中央には、王族ドレス姿で模擬戦用の紙剣(紙を樹脂で固めた剣術稽古用の剣)を握り凛々しく立つアリアの姿がある。
「お待たせしたな、アリア様。ちょっと俺の紙剣は特別でね、時間がかかっちまったな」
レイス将軍が、悠々と姿を現す。手にしている紙剣はアリアが持つ短剣サイズではない。刃渡り(といっても固めた紙だが)1mはある巨大なものだ。それを見た親衛隊は一斉に抗議の声を上げた。獲物が違いすぎる、これではアリアが圧倒的に不利ではないか!
だがアリアは手を上げ親衛隊を鎮めると、紙剣を握り中央に歩み出る。
「何を使っても構わないと言ったのは私です。それに私は短剣のほうが使い慣れています」
短剣……というが、軍標準サイズのもので刃渡り60cmはある。重さも木剣ほどではないが1キロ以上ある。当たっても死ぬことはないが打撲の痕は残るし擦過傷くらいは負うだろう。
「アリア様はルール無用でどうぞ。俺は剣術のみで戦う。蹴りや拳はなしだ。これはあくまで試合ですからな。しかしドレスで試合をされる気ですか? 稽古着に着替えられては どうです?」
「結構です。着替える時間が惜しいので」
アリアのドレスは王妃用のドレスで、脱ぐのに10分、着るのに10分かかる。そんな無駄な時間は惜しい。
「戦場で白刃奮ってこられた方だ。俺も手加減はしません。ですが力量差がはっきりした時は素直に降伏していただきたい。よろしいな」
「本気できてください。私も本気を出します」
アリアは一切臆していない。その言葉には強い自信がある。
アリアは紙剣を真っ直ぐ中段に構えた。下らぬ会話で時間を無駄にしたくはない。
アリアが本気であると知ったレイスは一笑すると「では勝負は一本! 俺が負ければグレントラ基地の指揮権をアリア様に移譲いたしましょう。俺が勝てばこの基地の運用は一任させて頂く」と宣言し、大紙剣を上段に構えた。
両者、5mほど間を空け対峙した。
それを確認した審判役の基地副将軍バーモンド=フォン=クゼータが、勝負開始の合図のため手を挙げた。
10秒ほど間があった後、その手は振り下ろされた。
その瞬間、両者は紙剣を強く握ると相手目掛け跳躍した。
「ドラァァッッ!!」
いち早く間合いに入ったレイスの豪剣の横薙ぎが何の手加減もなくアリアの顔を襲った。
「っ!!?」
寸前、アリアは剣を立て一撃を弾く。
レイスは続けて上段から強烈な一撃を振り下ろした。
その一撃も、アリアは受け止め弾き返した。
「…………」
アリアは間を取ると剣を構えなおした。
レイスもまた剣を構え直す。
「さすが革命なんていうとんでもない事を思いつかれる陛下だ。よく防がれた」
「勝負ですよ。無駄口を叩いている暇はありません」
そういうと、アリアは僅かに体を沈め跳躍した。
一瞬のうちにレイスの懐に飛び込むと、今度は攻撃に打って出た。短剣の利点である鋭く速い攻撃がレイスを四方から攻め立てる。傍から見ていてもアリアの攻撃は凄まじく、速いのに一撃は軽くない。剣を振るう度に風を切りしなり音が大きく響く。けして手習いの剣術ではない実戦の剣裁きだ。その動きに、周囲の兵士たちは感嘆の声を漏らす。
……どうみても少女の動きじゃない……!!
間違いなく一流の剣士の動きだ。アリアは伊達に戦場に立っているわけではない。
しかしレイスはその攻撃の悉くを裁き体勢は全く崩れない。懐に入られたにも関わらず長い大剣を巧みに駆使しアリアの攻撃を揺らぐ事なく防ぎきる。この男も口だけではない。
10合ほど両者は切り合った。が、どちらの体勢も変わらない。
「中々の腕ですな、アリア様。驚きましたよ」
アリアの乱打を全て防ぎきったレイスが一旦距離を取ると一笑した。
「貴方も自慢するだけはあります」
アリアも顔色かえず返礼する。あれだけ激しく打ち合ったのに、アリアは息一つ乱していない。
「この基地で俺と20合まで持ちこたえられる奴は片手分もいないんですぜ」
「ご心配なく。この勝負、貴方は私に負けるのですから」
アリア、全く動じない。いや、その声はどこか自信のようなものが滲んでいた。その自信は当然対峙しているレイスも感じている。レイスは言葉をかける代わりに不敵に一笑した。
二つ息を吐くくらいの間の後、再び二人は剣を走らせ激突した。
レイスのほうが獲物は長い。当然、レイスはロングレンジでアリアを仕留めようと剣を繰り出す。だがアリアは巧みにその剣戟を受け止めたり受け流したりして瞬く間に短剣の間合いに入り込んでしまう。そしてアリアの攻勢が始まるが、レイスは不得手であるはずの接近戦でも巧みに大剣を操り目にも止まらないアリアの連続剣戟を弾き返していく。
まるで、熊を相手に獰猛な猛犬が絡み合っているような様相だ。熊の爪は犬に届かず犬の牙は熊に届かない。
両者、一進一退で全くの五分。
周囲は両者の間に起こる凄まじい剣戟の応酬に言葉を失い、見入ってしまった。アリアの事を心配していた親衛隊は予想以上のアリアの強さに言葉を呑み、冷やかし気分だった基地兵士たちはレイスの思わぬ苦戦に驚愕している。
(言うだけある! この人、強い!!)
アリアは内心、レイスの強さに舌を巻いていた。アリアはもっと早く片付くと思っていた。予想以上にレイスの防御力は高く中々打ち崩せない。膂力では絶対に敵わないから技で勝つしかないが、隙がない。
一方、レイスのほうもアリアの力量に内心驚愕していた。
(なんだこの姫様!? 本当に15歳になったばかりの少女か!?)
レイスは10代前半から剣術にのめり込み33歳になる今でも稽古は欠かさず研鑽を怠らず腕を磨いてきた。自分ではマドリード屈指の剣術家だと自負している。いくらアリアが鍛えてきたといっても剣術歴はアリアの倍以上は確実だ。その自分が全くアリアの剣術に隙を見出せないでいる。むろん本気で戦っている。
20合ほど打ち合い、再び両者は間を取った。
さすがに二人共肩で息をしている。
「…………」
レイスは左手で額の汗を拭った。
一方……アリアは何を思ったか軽く手を上げ周りにいる兵士たちに目線を送った。
「周囲、もっと離れてください! 巻き添えになりますよ!!」
「巻き添え?」とレイス。
アリアの言葉を聞き、兵士たちは訳が分からず後退する。
それを確認したアリアは再びレイスに目を向けた。
「レイス将軍。貴方の力量は分かりました。私の力量も分かってもらえたでしょう? もうこんな馬鹿な試合やめるべきです」
「ここまでやったんだ。勝敗くらいつけねーと目覚めが悪いですぜ。それとももう限界ですかい、アリア様」
「分かりました。勝敗をつけましょう。ですが後悔しても知りませんよ」
「こっちの台詞だ。ちょっと乱暴になりますが文句はなしですぜ」
レイスはアリアの弱点を見つけていた。ドレスという服だ。アリアの剣術は敏捷性に力点を置き的確に急所を切り裂く戦闘法だ。そのためには自由な足回りが必要でつねに動き回らなければならない。が、ドレスのスカートではその能力を100%発揮できない。だけでなく、そこが欠点にもなる。これまでレイスは年長者として、男としてそこはあえて狙わないでいたがそんな綺麗事を言っていて勝てる相手ではない。
……大人げねぇーが、仕方がねぇ……!
レイスは剣を担ぐように構える。
じりじり……と間合いを詰めるレイス。半歩、半歩とにじり寄る。
レイスの間合いに入った。だがレイスは切りかからない。まだ間合いを詰めていく。
ついにアリアの間合いになった。アリアも攻撃に移らない。
もう半歩レイスの足が動いたと、アリアが動いた。
トンッ、とバックステップするとレイスの左脇腹目掛けて剣を横に払った。
だがアリアの横薙ぎがレイスを捉える事はなかった。舞い上がったアリアの体が、大きく揺れた。
「ああっ!!」
レイスの足が、アリアのスカートの縁を踏んだのだ。
……試合にスカートだなんておふざけが過ぎるぜ、アリア様……!
体勢を完全に崩したアリアの体が前のめりに倒れる。レイスは素早く足を退け、アリアの横に回りこむと大剣を振りかぶった。
勝負は決した……かに思われた。その時アリアの瞳が光った。
「雷っ!!」
アリアは左手をレイスに向け差し出し叫んだ。
その瞬間、アリアの左手から小さな雷が生じ、レイスの体を貫いた。
「なっ!!??」
凄まじい電撃の衝撃に体を仰け反らせるレイス。
アリアは空で反転、着地すると左手を頭上にかざす。その腕には、一抱えほどある発雷の渦が発生していた。
「地雷! 走れ雷柱!!」
アリアが左手を振りかざすと、電撃は床を這い真っ直ぐレイスに向かって走った。そしてそれがレイスを直撃すると、物凄い轟音と共に電撃は弾け天井に届くほど大きな電撃の柱が上る。
直撃を受けたレイスは堪らず絶叫を上げる。
「魔法だ!!」
兵士たちがどよめき、叫ぶ。
そう、雷撃の魔法だ。それもごく初歩のもので必殺の術ではない。
アリアはすぐに跳躍すると、渾身の力でレイスの頭に一撃を与えた。
レイスは意識を失いその場に倒れた。
勝負はついた。アリアの勝ちである。
「私の勝ちです」
そういうとアリアは一礼し、審判であるバーモンド=フォン=クゼータを見た。だがバーモンドは予想外の展開に眼を丸くし状況が飲み込めていない。当然だ。魔法などそうそう見る機会はない。
魔法……シャーマンの存在はクリト・エ大陸では稀少だ。いや、クリト・エだってシャーマンはいるし、魔法兵というものもいる。しかしその数は少なく、マドリードには10人もいない。さらに魔法には詠唱と念をこめる時間が必要で、白兵戦と両立できる人間など常識ではありえない。それはシャーマン・マスターであるザールですら同様で、ザールですら戦場で簡単には魔法を使っていない。精々地形効果など戦術的に使うくらいだ。
いや、そういう魔法と白兵を両立させ戦士として運用している例はなくはない。だがクリト・エ大陸では非常に稀少なのだ。(ちなみに大陸連邦は科学も進んでいるが魔法も進んでいて魔法兵は数多くいる。フィル=アルバートやアーガス=パプテシロスは化物じみた魔法ロード兵である)
それが、事もあろうか年若い女王が、その使い手なのである。驚かないはずはない。
10秒ほど……レイスが起き上がらないのに兵士たちが気付き慌てて駆け寄った時、バーモンドもようやくアリアの勝利を宣言した。
兵士たちは声を上げ喝采を叫ぶ。親衛隊はすぐにアリアの元に駆け寄っていった。
「しかしアリア様! やりすぎです!!」とバーモンド副将軍は蒼白な顔で叫ぶ。
「大丈夫、死んでいません。雷撃の威力は中程度です。気絶したのは電撃ではなく殴った衝撃です。少し休めば意識を取り戻しますよ」
そう言うと、アリアは紙剣をその場に置いた。
「今は戦時です! レイス殿を介抱する人員を残して後は隊に戻り命令を待ちなさい!! バーモンド副将軍! 馬鹿騒ぎは終わりです」
「は……はい、陛下!」
「リベス大尉」アリアは今ここにいる親衛隊の責任者リベス=フォン=ザトラ大尉を呼んだ。
「すみません。馬鹿騒ぎのせいで汗をかきました。それにこの服ではちょっと……」そういうとアリアは自分のスカートを少し持ち上げて見せた。踏まれ無理に体勢を崩した衝撃で破れてしまっていた。絹で丹念に織られたロングドレスのスカートが戦闘に適しているはずがない。
「<アインストック>に連絡して私の着替えを。その間、私はシャワーを浴びてきます」
「は! ではレベッタ中尉がお傍でお世話を」
いくら身なりに無頓着なアリアとはいえ、破れたスカートを履き続ける事は嫌だし、確かに全身汗まみれでいい気持ちではない。戦争中なら無視するが、今は戦争より政治が重要な時だ。
リベス大尉は横に控えている親衛隊レベッタ=フルス中尉を見た。レベッタ中尉は数少ない女性親衛隊員だ。本当はシャワーも<アインストック>に戻ってはいって欲しいところだが、そんな時間はない。いや、時間がない事を基地の兵士に報せるため、あえてこの基地のシャワーを使うという事かもしれない。
アリアはいくつかの指示をリベス大尉にいくつか命令を与えると、レベッタ中尉を伴い訓練室を後にした。
『マドリード戦記』 革命賊軍編 19 国境線3でした。
連載がかなり長くなりましたが、この世界に<魔法>がある! ということを久しぶりに思い出す回でした。
アリア様はハイ・シャーマンなので当然魔法は呼吸するが如く簡単に使えるんです。
もっとも「マドリード戦記」はアリア様の個人武勇伝ではなく政治と戦略メインの戦記シリーズなのでアリア様が魔法を使う事はそれほどないし、魔法を使うよりアーマーのほうが戦闘力があるから使わなかっただけです。これはザールも同じです。
本編でも書いてますが、クリト・エ大陸は魔法使いが少ない地方で、かなり限定的です。これが北の大陸だともっと本格的な魔法戦なんか起きたりします。なのでアリア様はかなり特殊な存在です。
そしてアリア様の強さも分かる話でしたああみえてアリア様もかなり強い英雄です。
まぁ周りにいるミタスやナディアがもっと強いので目立ちませんが。そのミタスたちより強いフィルさんやアーガス君は化物ですねw マドリード戦記には出てきませんが。(蒼伝キャラなので)
ということで基地を手中に収めるまで1騒動ったアリア様。
もっともこれがいい結果に結びついていきます。
まだ少し続きます。
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




