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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 15 流転、激流7

『マドリード戦記』 革命賊軍編 15 流転、激流7



アリアの命を受け北にある国防軍基地ランデブルに派遣されたシュナイゼン。

そこには国防軍を牛耳るペニトリー大将軍がいる。

命令書を見たペニトリーは驚く。

そこには、アリア流の緻密な戦略が秘められていた。



流転、激流 4

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 マドリードのほぼ最北端はガエル共和国とトメイル王国と接する国際上重要な場所である。


 そこに、マドリード国防軍の主力基地ランデブル国防軍基地がある。


 リィズナが国内治安維持用の重要拠点であるのに対し、ランデブルは国境警備軍の本拠地であった。ランデブルは25000の兵力を有し、各国境基地に散らばる国防軍を束ねるペニトリー=フォン=グレース大将軍が、このランデブルの主として君臨している。


 このランデブル基地に、アリア軍特使シュナイゼン=フォン=カラム少将が乗る戦艦<ロロ・ニア>に乗り到着したのは、4月8日午後19時23分であった。


「ほう、シュナイゼンが特使か。それは名誉なことであろう」


 報告を受けたペニトリーは相好を崩し、温かそうな笑みを浮かべ<ロロ・ニア>の着陸を認めた。そしてシュナイゼンのための豪華な歓迎会を開くよう部下に命じた。幸い食料も酒も大いに備蓄はある。


 しかしシュナイゼンはそれら応対を断り、まずペニトリーに対面を乞うた。


 シュナイゼンは真面目な性格だ。同じ国防軍軍人としてアリア軍での活躍を喜び宴会で歓待しようと思っていたペニトリーは出鼻が挫かれたような感じとなった。ペニトリーは、多少憮然としたようだ。だがそこは長く国防軍の長だった男、すぐに笑みを浮かべ直しシュナイゼンを出迎えるよう手配を行った。


「シュナイゼンらは革命戦後で気持ちも昂ぶっておろう。温かい食事と酒で迎えてやれ。ああ、アリア陛下勝利を祝うのも忘れずにな。対面はそれからでよかろう」


 アリアが勝利した報はこのランデブルにも届いていた。シュナイゼンはその報告者だとペニトリーは認識していた。シュナイゼンは元大隊長格で将軍ではない。アリアが遣わす報告者としては妥当なところだ、とペニトリーは思った。


 が、シュナイゼンのほうにそんなつもりはない。基地に入るなり、もう一度ペニトリー大将軍との面談を乞うた。それも、余人を交えず、大将軍部屋での面談である。さらにシュナイゼンはその面談を頼み込んだのではない。アリア軍少将として、命じてきたのだ。これにはさすがのペニトリーも顔色を変えた。シュナイゼンは少将の職権により命じたというが、少将という階級がそもそもなんなのか、国防軍にそれはない。




 ……革命でたまたま名を挙げた成り上がりの若造が何をいうか……。



 とペニトリーの機嫌はやや悪くなったが、そうはいってもシュナイゼンはアリアの特使である。従うしかない。


 ペニトリーはすぐに司令官室に向かった。


 司令官室に入ると、すでにシュナイゼンは着いており、ペニトリーを見て会釈を交わした。ペニトリーは笑みを浮かべそれに応じ、まず戦勝の祝辞を陳べた。シュナイベンは僅かに頷きそれを受けた後、すぐに人払いを申し出てきた。どうもシュナイゼンの態度は無愛想以上の何かが隠されているように思えた。ペニトリーは憮然と、だがそれに応じた。


「で、シュナイゼン。卿は何を急いでいるのかね?」

「用件は二つです、閣下。一つ、直ちに軍の出動を要請します。作戦、人事についてはアリア様の命令書を預かっておりますのでそれにお従いください」


 シュナイゼンの様子が予想していたより険しい事に、ペニトリーはやや態度を改め背筋を伸ばし、命令書を受け取った。そしてそれをその場で開いた。


 二通である。最初に開くよう指示された命令書は、クレイド伯の賊軍に対し全軍をもって包囲撃滅せよ、という軍事命令書だった。ここにはティアラ王女誘拐の件は書いていないから、まずペニトリーの命令の厳しさに驚いた。アリアは一息つくことなど微塵も考えていない。ペニトリーはまだ戦争が終わっていない事に驚いている。


「戦争は勢いでするものだが、陛下は少し気負いすぎておられるのではないか?」

「すぐに次の命令書をご覧頂きますか」

「…………」

 言われるがまま、二通目を開いた。

 この二通目こそが、アリアの本当に伝えたい、熾烈な命令書であった。

 それを一読したペニトリーは、今度こそ本当に驚き言葉を失った。彼は一度顔を上げシュナイゼンを睨み、すぐに目線を手元の命令書に落とした。


「……シュナイゼン。卿はこの中身を知って、ここに来たのか!?」

「存じております」


 出発時には知らなかった。だが本日午後18時の段階で事態が解決していない時開封するようにと、時間期限付きの開示命令書を受け取っていた。そこにはペニトリーが見た命令書とほぼ同じ内容が書かれていた。


 内容は三点。


 命令書開示をもってマドリード国防軍は解体し、全軍アリアの正規軍に合流する事。


 そして改めてペニトリー=フォン=グレース大将軍をアリア軍少将に任命しランデブル基地全軍を指揮下に置く、と書かれている。ペニトリーはさすがに軍人の玄人だけにこの大陸連邦式の階級について知っていた。大将軍は国防軍最上位の階級だ。これが大陸連邦式階級であれば中将か大将であるはずだ。それが少将というのは、明らかに降格人事だ。いや、それだけではすまない。目の前にいる元国防軍隊長格の若い部下の一人であったシュナイゼンは、今やマドリード軍少将だ。軍の常識に倣えば、同じ少将でも先任であるシュナイゼンのほうが上官になるのだ。


 アリアがこの命令を口頭ではなく時間開示命令にしたのにはいくつもの深慮遠謀と計算からだった。まず本日18時としたのは、このの段階でアリア本隊がクレイドを捕捉できていない場合早期解決は難しいということで、大々的に国防軍を動かす事態になる。そうなったとき、国防軍を動かす司令官にはアリア軍所属で連携のとれる人間でなければ足並みが揃わない。


 もし口頭命令でこの事を聞かされていれば、万事規律と順序を好むシュナイゼンはペニトリーの上官になる事を遠慮したかもしれない。しかし約一日の捜索の結果ティアラが見つからないという状況となればシュナイゼンもそんな遠慮をしている場合ではなく、アリアの命令を実行する以外ない。



 さらに、である。



 アリアは命令書の末尾に「粉骨猛進自らの力全てを捧げよ。その働きに対しアリアは正等に報いることを約束する」と書き残されている。この言葉にも、むろん意味がある。そのことはペニトリーも分かった。



 ……アリア様は、これからの働きで功績を立てれば昇進させる、という含みがあっての少将任命か……。



 すでにシュナイゼンは革命戦の功績によって大佐から少将に一挙に昇進した。軍秩序に厳格なアリアはシュナイゼンをこれ以上簡単には上にあげない。ペニトリーは働き次第で元の大将軍格である中将、大将への昇格の機会を与えるための処置……一種のチャンスであり士気の鼓舞といえなくもない。それはペニトリーだけでなく他の国防軍人にもいえることで、他の国防軍人の階級には一切触れていないという事は、アリアは活躍次第では下級指揮官でも能力があれば高級士官に取り立てる……と言外に示したものではないか。その好例として、元隊長格から一気に将軍格となった元同僚シュナイゼンがいる、と国防軍人たちに見せ付けているのではないか。


 アリアは国防軍を解体した。貴族階級もほぼ否定している。能力と結果だけをランデブルの国防軍人に求めているのだ。そしてその成果を明かせるのは、今回のティアラ王女誘拐事件とクレイド軍の壊滅しかない。革命戦が落ち着けば、アリアはその段階での功績を元に新基準で各位の階級を決めてしまう。一躍軍人としての好機を摑むのは今しかないのだ。


 ペニトリーは老練で軍だけでなく貴族評議会とも上手く渡り合ってきた政治も分かる権力欲の強い男だ。多少の人物眼もある。このアリアの命令は厳しいだけでなく功名の機会を与えている分、ペニトリーたち国防軍にも期待しているという事だ。それに応えれば、彼らにだって栄達の機会がある。革命軍に参加せず多少なりとも後ろめたさのある国防軍にとって、これはアリアの好意……国防軍に与えられた最後の挽回の機会といっていい。



 ……そう。全てはペニトリー大将軍の功名心を利用される気なのだ、アリア様は……。



 やはりこの手の人心掌握の才は、ズバ抜けているといっていいだろう。



 シュナイゼンは、今はそのアリアの意図を正確に読むことが出来た。



 そして、そこに最後の三通目の命令書である。



 これは軍事作戦命令であった。


 出撃は開封後2時間以内。25000人の内24000人を動員する。ほぼ全軍だ。4つの軍に分け、それぞれキシリアとマドリード西部の国境に向け進軍を始める。目標はクレイド軍の賊軍残党、テロリスト(これもクレイド軍の一派だが)の掃討、そして厳重な哨戒活動である。アリアは国防軍を主力としては用いず警戒軍であり包囲軍であり、最大の予備部隊でもある。国防軍を北から西に進めることで、それ以上東に逃さないというのがアリアの戦略だ。この国防軍がキシリアに到達に成功すれば、クレイド軍は西にしか退路がなくなる。


 クレイド伯は恐らく国防軍基地ランデブルに間者を放ちその動静を報告している……とアリアは読んでいる。クレイド伯の人脈と能力があればそのくらいの事は必ずしている、とアリアは計算したのだ。そしてそれは事実であった。この手の工作員を完全に排除はできない。だからアリアは逆にそれを利用し、国防軍にまでアリアの命令によって動くようになった、という事実だけ知らせてクレイド伯の北への逃走の可能性を潰した。


 一見なんでもないようなランデブルでの出来事は、全てアリアの凄まじいまでの情報戦と戦略の集大成であった。僅か一手で、アリアは様々なものを手にしていた。





 

 結局ペニトリー少将を総司令官、シュナイゼン少将が総参謀長の地位で国防軍24000は夜など構わずランデブル基地を進発した。


 シュナイゼンはペニトリーに総司令官の地位を譲ったが、アリアの命令はあくまでシュナイゼン→ペニトリーだから、結局アリアを握るシュナイゼンのほうが立場は強い。何よりこのランデブル基地の国防軍はペニトリー少将が率いていた部隊で、アリアやミタス、ザール級の人間ならともかくシュナイゼンは完璧に統率する自信はない。戦略的にはどちらでもいいことだ。


 アリアの計算では、国防軍がクレイド伯を捉える可能性は3割程度……仮にそれに引っ掛ってもトドメを刺すのはアリアの主力部隊になるはずである。




『マドリード戦記』 革命賊軍編 15 流転、激流7でした。



シュナイゼン少将とペニトリー少将の話でした。

アリア様はちょっと辛辣ですが、これも政治です。ペニトリー将軍に対して悪意があるのではなく、そういう態度でマウントを取りに来ているわけですね。ペニトリー将軍はアリア様の下で働いたことのない中立者だったので、まずは誰が上なのか示すためです。


今回アリア様は出てきません。

もちろんこの国防軍への軍事命令は後でちゃんと意味をもってきます。


そしてぼちぼち次の事件?も待っています。

そう簡単に捕まらないクレイド伯、そしてまだ知らないマドリードの人材編……というところでしょうか。

ということで、まだ戦争は終わりません。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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