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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 13 流転、激流5

『マドリード戦記』 革命賊軍編 13 流転、激流5



総督に任じられたガレット。すぐに賊軍対応の策を打ち出していく。

その手腕は、アリアも認めるところだ。思わぬ逸材に喜ぶべきか……。


が、彼女の計算でいくと、すでにティアラはこの都市コルベールを通過した計算になる。



流転、激流 3

------------------------------



 コルベール駅。午後18時44分。


 ミタス指揮のアリア部隊がマドリード環状線鉄道を完全に制し、支配下においた。


 むろん武力制圧だ。


 アリアの正式な君命は出ているが、まだ革命が成立して一日しか立っておらず革命戦に無関係だったコルベール関係者にアリアの名前の力は強くない。説明より今は武力で威を示すほうが今は早い。


 大軍に包囲され、アーマー6機が一隊となって現れれば、憲兵たちも従うしかない。


 駅のほうも突然の事に混乱を来たしていたが、18時45分……政庁より「アリア軍に全面協力する事」という命令が届くと、一先ず駅職員もミタスに従順になった。


 ミタスは旅客の身元調査を命じると同時に、ここ24時間の情報を集め始めた。


 駅職員と都市憲兵隊、合わせて150人ほどだ。ミタスはそれらを指揮する。


「こりゃあ、ザールの見込み勝ちだな」


 整然と命令に服し的確に動く職員を見て、ミタスは改めてコルベールの都市機能の正常さを知った。他の都市では、これほどうまくは運ばない。ミタスは首都シーマのセントラル駅を制圧した経験を買われてここでの任務を与えられていたが、ミタスが出しゃばらずとも職員たちは抵抗も反抗もせず、機能的に働いている。



 ……優秀な総督というのは本当らしい……。



 このマドリードにそんな逸材が残っていたことに、ミタスは少し感心した。






「コルベール、キシリアの経済は私が統制し全面協力します。賊軍が見つかるまで」


 ガレットははっきりと明言した。これはポーズではなく、さっさと会食中に命令書を書き終え各方面への手配を済ませてしまった。キシリアへはすぐに無線で命令が伝えられる。


 会食中に……である。ガレット伯は食事と酒を楽しみながら、同時に命令書を作成し手配を終えてしまった。せっかち……といえそうだが、食事を楽しむことも忘れない。彼女は今、時間がもっとも貴重であることを十分に知っている。


 会食が始まって30分……アリアたちは軍事行動中ということもあってワインは喉を湿らす程度に抑え、後は果実ジュースやお茶だったが、カレッド伯は様々な種類のワインを休むことなく飲んでいる。もうボトル1本は空けたのではないだろうか。しかしあまり酔った様子はない。彼女は小さく細い体に似合わず美食を誇ると同時に非常に健啖家で酒豪家でもある。


「コルベールは全面的にアリア陛下を支持いたしますが、問題はキシリアです。経済のほうは私が凍結させますが、ティクス総督が問題ですね」

「キシリアのティクス総督、ですか?」

 都市キシリアはこのコルベールより西の先、マドリード西部の都市だ。マドリードでは四番目の都市で人口は18万、小さい都市ではない。総督はティクス=フォン=マクレイヤ男爵だ。

コルベールとキシリアは姉妹都市のようなもので、両都市間の提携は強い。コルベールのほうが本部である。


「私の計算ですが、王女殿下の誘拐が24時間前という事ですと……王女殿下と賊は、キシリアか、キシリア近くのどこかの駅でしょう。残念ですがこのコルベールはとっくに過ぎ去った後です」

「キシリアのティクス総督に協力を頼めますか?」

「協力の要請はしましたわ。でも、ティクス殿に関してはアリア様がお考えになられるほうがよいでしょう。ついでに言わせていただければ、私のようにお気遣いされる必要はありませんよ。ティクス=フォン=マクレイヤは私と違って貴族評議会とのつながりがありますし、恐らくクレイド伯とも繋がっていますから」

「<栄光のマク家>の繋がりですか?」とザール。

「ナニソレ? <栄光のマク家>?」と首を傾げたのはナディアだった。

 むろん、アリアは<栄光のマク家>が何か知っている。


 マドリード開闢の祖クエス=フォン=マドリード。彼女の栄光の歴史に力を添えた三兄弟の武将は爵位を賜り<栄光のマク家>と呼ばれ、マドリード貴族となった。それがマクティナス伯爵家、マクギリス伯爵家、マクレイヤ男爵家である。この三家は今尚続き、繋がりも強い。


 事実、マクギリス家とマクレイヤ家は強い提携関係にある。とすれば、当然マクティナス家とマクレイヤ家も繋がりがあるはずだ。


「マクギリス家とマクティナス家はつながりがないのですか?」とアリア。

「先代まではね。当代になってからは無関係よ」そう言うとガレット伯は少し軽蔑の含んだ笑みを浮かべた。

「クレイド伯の馬鹿は不届きにも私を口説いたのよ。誰があんな軽薄男! こっちから願い下げ。おかげですっかり貴族評議会から嫌われましたけどね。でもその逆縁でアリア陛下と知り合う事ができたのだから怪我の功名です」

「……成程……」

 これにはアリアも苦笑いするしかない。ガレット伯ほど有能な政治家が地方総督であったのは、むろん彼女の希望があってのことだが、そういう中央との摩擦もあってのことか。



 ちなみに彼女の話は厳密には正しくなく、少しだけややこしい。



 実は最初に淡い恋心を胸に秘め求愛したのはガレット伯のほうで、13歳の園遊会の時であった。初恋だった彼女は見事に玉砕し多感な少女ガレットの乙女心と自尊心は大きく傷ついた。彼女が激怒したのはその5年後……王城ハーツティスの貴族院晩餐会でクレイド伯は過去の事など一切忘れ、済まし顔で口説いてきたことであった。当時クレイド伯は政権中枢にいてその権力をほしいままとし、プライベートでは多くの貴族子女と浮世を流していた。特に愛があるわけではない事は彼女にも分かったし、こんな軽薄な男どもが牛耳る貴族評議会というものに未来はないと確信した。この事が決定的となって上流貴族のサロンに興味が失せ、彼女は美食と商才に目覚め、以後クレイド伯とは絶縁状態にある。


「しかしティクス=フォン=マクレイヤ男爵とクレイド伯の間にはそういう摩擦はない、ということですね」

「ティクスは小心者で金銭欲だけは豊かな36歳のブ男です。いくらクレイド伯が物好きでも興味は示さないはずですし、全く武芸もできず軍事もできません。一回りも若い小娘である私の指示なしでは自分の商売もままならない男です」


 ここ数年、両都市を事実上支配していたのはガレット伯である。ティクス男爵は名前だけの存在で、キシリアの官僚たちもガレットの息がかかっている。


 それだけにガレットの命令であれば素直に聞くだろう。ましてや、今や政権はアリアが取りクレイドは賊軍に堕ちた。そしていち早くガレットはアリアの陣営に入った。ティクスも革命が成就し政権交代が起きた今、アリアの機嫌は損ねたくないと考えるはずだ。ガレットはそこに付け込むつもりだ。



 アリアは何かいいたげであったが、ザールがアリアを眼で制した。



 ガレット伯は若いが自尊と自立心の強い娘だ。同じ貴族階級であるクシャナやユニティアのようにアリアに陶酔するような人間でもない。感情ではなく打算と自己の才能に自信を持っている冷徹な政治家である。こういう人物を配下に入れる場合、アリアがでしゃばり過ぎないほうがいい。アリアが全幅の信頼を与えれば自分の裁量で最大限の成果を上げるだろう。それを適切に評価さえすれば、彼女の忠誠は得られる。



 ……ヴァームさんとミタスさんを足して……とはそういう意味か……。



 一筋縄にはいかない性格だ。厄介というのではなく、それだけ政治に対しては狡猾で冷静な判断で行動する人間ということだ。これほどの人物が、まだマドリードにいたことにアリアは少し驚いていた。



 それに、である。



 まだマドリード国内には貴族が多く残っている。大貴族である公爵、侯爵の当主は王城ハーツティス政庁で自害し消滅したが、まだ数家伯爵家は残っているし、それ以外の子爵、男爵家はもっと残っている。


 その大半の家を、アリアは断罪することになるであろう。それを一々アリア本人が干渉し裁いていては限がないし、貴族たちの憎悪もアリアに集まることになる。その露払いをするのがザールの役目だ。


 ガレット伯がこれからティクス男爵に施す政治的圧力をアリアに多く説明しないのも、ほぼザールと同じ立場を自らに課しているためだ。「汚れ役を買って出てもアリアは正しく評価してくれる」と確信したからこそ出来ることだ。打算も功名もあっての事だが、ガレット伯はそれほどアリアに対し忠誠と信頼を得るに至っていた。理想を持たない現実家であり有能な政治家だからこそ、意を決してしまえばその転身は嫌味がなく清々しいほどだ。


「アリア陛下。マドリード西部は東部と違う点が一つありますが、お分かりになります?」

「マドリードの食料庫、都市経済が発達している事、民間商人は諸外国と交易を行っている……ですか?」

「クロイスも商業都市ですが、クロイスの商売相手はアルファトロスとトメイル王国、そして海から得られる海産業ですね。海船と鉄道がその大動脈ですが、穀倉地帯が広がる西部では、輸送のため民間飛行船の利用も盛んです。バルド王国やガエル共和国との商売には飛行船が用いられます。ちょっと大きな豪農も輸送用の飛行船は所有していますわ。私が把握しているかぎり、この西部全土でざっと37隻ほど。我がノルベール商会が所有する船籍は12隻。残り25隻は各貴族、大商人、豪農の所有物です」


 ノルベール商会は、マクギリス伯爵家の裏の顔で西部一の大商会だ。ノルベール商会当主トウベ=ノルベールというのは、ガレット伯の商売用の別名である。


 商人だけでなく、貴族たちもそれぞれ移動用の小型飛行船を所有している。この西部は中小貴族の領地が数多く点在している地方だ。商売相手もマドリード国内だけでなくガエル共和国、コクロス王国、バルド王国など諸外国にも及んでいる。外国との取引は飛行船が必須だ。


「つまり、鉄道の次は飛行船に乗り換える……という事ですか」

「でしょうね」ガレット伯はグラスに残ったワインを飲み干すと、ハンカチで口を拭った。

「キシリアを過ぎれば、鉄道は北東路線に切り替わります。折角逃げたのにまたアリア様の勢力圏に逆戻り……そこまで馬鹿ではないでしょう」


 キシリアからは環状線とは別の南西にあるバルド王国へ続く南西鉄道線も存在する。丁度クバレスト地方の外側に当たる。恐らくクレイド伯の最初の逃走経路は全て鉄道を利用し、南西線のどこかの駅でクレイド軍と合流する事だったはずだ。むろん今でもその可能性がゼロとはいえない。しかし、アリアがコルベール、そしてキシリアに手を回せば使っている列車はすぐに断定され、どこかのポイントでアリア軍の大襲撃を受けることは明白だ。ここまで用意周到に襲撃計画を立てたクレイド伯が、こんな成功率の低い手段を取るとは思えない。


 とすれば、後は途中で下車し、飛行船に乗り換える方法しかない。


 この方法であればアリアに知られたとしても断定されるまで時間がかかるし、鉄道を押さえられたとしても使える。いくらアリアが政権を取ったとはいえ、民間飛行船の全てを掌握し支配することは容易には出来ない。



「時間が……」



 ……時間が足りない……! 



 今回ばかりはクレイド伯の作戦が一歩先んじている。相手は狡猾で悪謀家のクレイドだ。すでに尻に火がついた状況でミスをするとも思えない。クレイドはこの作戦に全能力を注ぎ構築した。後追いするアリアは現状では圧倒的に不利だ。



「ではこうしましょう陛下。今日一日頂ければ、民間商船と鉄道の乗客、積荷などさらえるだけさらってみましょう。当社の飛行船は勿論、今飛びまわっている民間船の8割は所属や航路を調べられると思います」

「キシリアには国内最大の民間空挺場があるが、そちらも大丈夫かね?」とザール。

「民間飛行船に関しては確約します。ただ今日一日はください」


 一日……というが、今日は後5時間を切っている。


「……できますか……?」

「やってみます」

 そういうとガレットは力強く頷いた。


 アリアは決断した。


「ではお任せします。私は、コルベールを発ちます」


 ティアラがコルベールを通過してしまった以上、これ以上長居をするわけにはいかない。


 ガレット伯の協力を得ることはできた。アリアとしてはこれで十分だ。


「随時連絡いたします」

「お願いします」

「ご期待に添えるよう、頑張ります」


 そうガレットは答えると、恭しく頭を下げた。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 13 流転、激流5でした。



ガレット伯編の締めくくりみたいな回でしたね。

とりあえず彼女が有能な政治家であるということ。

ティアラを連れ去った賊軍はもう通貨してしまった事。

そして<栄光のマク家>というものが存在すること。


この三点が今回わかった重要な点ですね。


ということで一歩遅れているアリア様たちはこれからどうなるのか……。

まだクレイド伯に追いつくことができません。どうするアリア様! という事で次回に続きます。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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