表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
62/109

『マドリード戦記』 革命賊軍編 11 流転、激流3

『マドリード戦記』 革命賊軍編 11 流転、激流3



ついにガレット=フォン=マクギリス伯爵と対面するアリア。


場の雰囲気は悪い。

アリアも、普段の愛想はなく言葉は厳しい。

そんな中、猛然とアリアたちに向かってきたのはガレット伯ではなく、同席した大商人トウベだったが……。

流転、激流 2

----------------




 コルベール政庁。午後18時34分。

 大貴賓室にて、アリアはガレット伯らと対面した。


 最初の対面から、アリアはあまりいい印象をガレット伯には覚えなかった。


 通された大貴賓室は花と豪華な料理と沢山の酒が用意され、『いかにも大貴族の夕食晩餐会』という様相で、まずそれがアリアを不機嫌にさせた。今は社交の場ではなく、軍事活動中なのだ。


「私がアリア=フォン=マドリードです」

「ようこそお出でなさりました。歓迎いたします、アリア陛下」


 部屋にいたのは40代前半のやや恰幅がよく肌艶のいい男が一人。そして20代半ばと思われる身なりのいい女性が同席している。二人はアリアが入ってくると立ち上がり会釈をした。


 ザールがまず部屋の中央に歩み出て、両者の間に立った。


「アリア様。こちらがコルベール総督ガレット=フォン=マクギリス伯爵。あちらがノルベール商会当主トウベ=ノルベール殿です」


「お目にかかれて光栄です、アリア陛下」


 トウベ=ノルベールが笑みを称え優雅に会釈をする。アリアやナディアほどの光彩はないが、この場に彩るに十分な若く美しい聡明そうな小柄な婦人だ。


「ノルベール商会というと、マドリード西部屈指の商会ですね。そのご一族の方ですか?」

「トウベ殿は商会を代表する人です。どうしてもアリア陛下にお目にかかりたいというのでね」とガレットは大きな身振りで説明する。

 アリアは一瞥し、小さく頷いた。

 ガレットはアリアを席に促した。アリアは「立ち話で結構」と拒否したが、間にいるザールが「アリア様。お座り下さらないと全員立ったままで窮屈ですが」と皮肉たっぷりに進言した。


アリアは笑み一つ浮かべず厳しい顔で「では座りましょう。座る価値のある話があれば、ですが」と、皮肉とも冷徹ともとれる言葉を返した。


 用意された上座にアリアは座る。それを機にガレット伯、トウベも元の席に着席した。アリアの背後にはザールとナディアが立つ。が、アリアは振り返り、

「ナディアは座ってください。貴方はマドリード軍最高位の元帥です。ザールより階級は上、国家の重鎮です。着席し話に加わる権利があります」

「えっ……でも……」


 ナディアは戸惑う。今、この場に様々な空気が流れている。ガレット伯もトウベも、誰もナディアが着席することを想像していない。二人ともナディアの褐色の肌を見て、アダの出身だと悟っている。護衛者として控えるならばともかく王と共にアダが同席するなど彼らの常識にはない。その雰囲気はナディアも感じ取っている。むろんアリアも分かっている。だからあえてナディアを座らせるのだ。


 ナディアはいくつも言いたい事はあったが、さすがに肝も根性も据わっている。ナディアは黙って一礼すると、堂々とその席についた。


 ガレット伯の顔に一瞬だけ不満げな表情が浮かんだが、彼はすぐに頭を振り笑みを浮かべると、テーブルの上に並ぶ豪華な酒や料理を説明した。


「この地方名物料理とワインでございます。東部と違い肉や野菜は新鮮で素晴らしいですよ? 料理も抜群の出来です。丁度夕食時ですし、御遠慮なさらず楽しんでください」

「それは本件が済んでからです。ですがご好意には感謝いたします」

「で……お話を伺えますか、陛下」

 ガレット伯はワインが注がれている自分のグラスを引き寄せる。さすがに口はつけない。


 アリアの最初の一声は、皆が思っているより厳しいものだった。


「ガレット伯。まず貴方のコルベール総督の任を解きます」

「……いきなり、ですな」

「お断りしておきますが、これは卿に罪あってのことではありません。私が政権をとった以上、旧総督は全て罷免、全て中央が任命した相応しい長官に担ってもらいます。貴族であるという理由でその任を与えることはありません。これが私の基本方針です」

「成程。アリア陛下が革命者というのはそういう意味なのですね。面白い……それが容易に叶うとお考えですか?」

「出来ないとは思っていません」

「ザナドゥ伯やフォーレス伯も、当然例外無しで……という事ですか?」

「むろんです。ただザールは伯爵という権威とは関係なく自身の才覚をもって私に仕え、成果も実績も上げています。卿とは違う」


「ガレット伯が総督としての力量に足る……と力を示せば、その地位や身分は保証される、という事ですか? アリア様」

とザールが恭しく言葉を告げる。アリアは頷き肯定する。


「私は色々問題を抱えています。賊軍、前政権の後始末、国内の改革、国内経済、国の再編と再建です。ガレット伯、卿は私の力になれますか?」

「色々難しい事を、いきなり仰る。私の力……ですか。とはいえ、私は軍人ではないですからね」

「取り急ぎ私の目下の目的は賊軍の対処です。そして治安の維持です」

「私でもこの町の治安維持は保てると自負しておりますが?」

 無意味だ、とアリアは首を傾げる。

「一時間もあれば我が軍によってコルベールは完全支配できます。その後信頼できる我が臣下に任せることも出来ます。ガレット伯に問いますが、貴方の手腕は我が軍より確実でよい対応がとれますか?」


「先程から伺っていますが……アリア陛下。陛下は、伯爵をお嫌いのようですね?」

と言ったのはトウベ婦人だった。


「はい、嫌いです」アリアは顔色変えずはっきりと言った。「それに、アダや奴隷を酷使することで一大勢力を持つノルベール商会も、好ましいとは思っていません」


 ここまではっきり全否定されるとは思っていなかっただろう。だが、それを口にするアリアはあまりに清々しく態度もハッキリしていて、むしろここまでハッキリ言われるとガレット伯も意外に反発心は起きない。


 しかし、トウベは違うようだ。彼女は微笑みを称えてはいるが瞳は鋭く光る。


「アリア陛下。社会や経済は政権とは違います。一日二日で変わるものではありません。これまでの既得権益が失われることに対する商人の世界の事をお考えになられた事はありますか?」

「勿論です。ですが不満や軋轢は緩やかな変革ほど零れやすい。手術と同じです。一新するならば一気呵成にバッサリ切ってしまうほうが出血は少なく治癒も早いものです。私は旧マドリードの貴族第一主義を完全に否定し、人民による社会と自由経済が確立できるものと信じています」


「マドリードを……第二のアルファトロスにする、という事ですか?」

「近い例をあげれば、そうです」

「アルファトロスは科学技術と高い商売力があるから成り立ちます。それを持たない農業国家のマドリードで、重要な労働力であるアダや農奴を解放すれば市民の既得権益は損なわれ、むしろ経済は後退し国土は混乱します。それも構わないというお考えですか?」

「そんな経済や国土の減退は、けして回復できないものではありません。ですが、アダや奴隷たちの、人間として本来保護されるべき権利の回復に比べれば、その価値はあります」

「ありますか?」

「ありますよ。少なくとも、今度の革命でアダたちは剣を取り自ら血を流しその権利を勝ち取りました。私は彼らに報いる義務と責任があります。しかし翻って、貴族や大商人たちはどうですか? 貴方たちのノルベール商会も、商会を維持する上で旧マドリード政府や貴族評議会に多くの献金をしていたはず。それは理不尽で横暴であったはずです。ですがその代わり貴族評議会に寄生することで自家や商会の体制の維持をしてきたはずです」


「それは否定しませんわ」


「その何倍も、アダや奴隷たちは負担してきたという事です。そのツケが回ってきたという事になりますね」


「異論があるなら、献金を寄越せ……ですかな、アリア陛下?」

 ガレット伯は一笑すると、無遠慮にワインを一口飲んだ。


「私がコルベールの町を維持した功績くらいは認めていただけるのでしょう? 私は政治家で経済人です。お力になれる点といえば金という事でしょう?」


「献金も、利己的な寄付も頂きません。金で罪が買える政府というのは、もっと醜悪です」


「お若いですね、陛下。それで国が出来ますか?」

「まだ15歳の未熟な身です。この歳ですから、世巧者であるより、理想と夢を追いたいです」


「未熟を売りにするなんて、あまり賢い女王ではないですね」

と容赦なく一笑するトウベ。

「もっと賢しい方だ……と、世間では陛下を見ていますが、買いかわれすぎですね」


「ちょっと! 少し口が過ぎない!?」とナディアが噛み付く。それをザールがやんわり制する。


「成程。で……陛下は私のクビを飛ばして……私は何をすればいいわけですかな?」

「卿の能力を、私にみせてほしい」

「ふむ」

「今話したとおり、私は夢想家です。付き合えないのならば結構、即刻街を出て自家の領地に帰り今後の処置をお待ちなさい。私の国が合わないというなら、国を出て行ってもらっても結構です。後ろめたい事もなく、また私の政権が卿に罪なしと判断すれば、それを止める事はしません。卿だけではない、他の貴族も同様です。そしてトウベ殿……貴方たち大商人も同様です。合わないと思うのであれば、出て行ってもらって構いません」

「貴族だけでなく商人まで出て行け、と仰るのですか陛下。なんと狭量、ここまでくれば暴政の極みですわ」

「私はアダと奴隷制度を廃します。その意味では国民から財産を奪います。しかしそれ以上のものは奪いません。それが享受できない者はマドリードを去ってもらって結構です」

「それで理想郷を築くわけね。ホント、大言壮語の夢想家だわ」

「貴方も大商人であれば、新しい時代に商機を見出せるはずです。アルファトロスは私に夢と未来を感じ全面協力を頂きましたよ? 少なくとも不当な税や献金がない分、収支の計算はしやすいですし希望だってあります。私がただの夢想家でしかないのであれば未来は暗いでしょう。ですが私も成長していきたいと思っています。そして、自分の理想に近づけるよう努力は怠りません。ですが、私の夢に全てが全て付き合わなくてもいいのです」


「少なくとも、ザール卿はアリア陛下の夢を夢とは思われてないのですね?」


「はい。私はアリア様の夢を夢とは笑いません。そしてアリア様によって時代は動いているという実感を持っていますよ。その形こそ、今目の前にありますから」


 ザールはそういうとナディアの肩に手を置いた。「えっ」とナディアは顔を上げる。


 それだけで、トウベ婦人は理解したのか、不敵に一笑した。



 ……いくら女王の信任があるとはいえ、アダの少女が軍のトップとなり、こんな場に顔を出すなどこれまでのマドリードでは考えられない事だ……。



 だが戸惑いがあるもナディアは堂々とこの場にいる。彼女にはアダという卑賎さは微塵もない。そしてこの彼女の態度こそが、マドリードを革命した者たちの新風であった。


「我らの時代は終わった、と仰るわけですね」とガレット伯。

「はい」アリアは力強く頷いた。


「私にできる事がありますかねぇ……」と苦笑するガレット伯。だがトウベ婦人は不敵に笑った。

「軍事や政治はともかく、経済はそんな理想では動きません。ザールがいてその事を教えていないとは見損なったものね。それに、政治や商売は正面だけを向いていない、裏の腹芸が必要不可欠です。アリア陛下はそういう暗部をご存知ないのではなくて?」


「この場で私がいうのは何ですが、そういう腹芸、陰謀の才も十分お持ちですよ、アリア陛下は」

とザールはやんわりとフォローする。しかしトウベはそれを鼻で笑った。

「どうかしら? 夢想家が現実の暗部を知った途端破滅に突き進むのは歴史の常ですわ」

「そこは賭けです。しかし私はアリア様の全才能に惚れ込んでいます。少なくとも、マドリード東部と北部はアリア様の理想を受け入れこの一年経済を保ちえました。これがマドリード全土に及んでも、十分成し得ると自負していますよ」

「貴方までそんな夢想家だとは知らなかったわ、ザール伯」

「夢がなければ、革命などしませんよ」

「マドリードの貴族は皆節穴の大風呂敷で現実を知らないようですわね」

「だから革命など起こされたわけですよ」

「夢物語、暴論ね」

「アリア様は、夢を実現するための軍事力は十二分にお持ちです」

「結局暴力ですか。世も末というのはこういう事ですわ。ザムスジル帝国を笑えません」



「…………」



 ザールとトウベとの間に繰り広げられる激しい舌戦に、他は皆圧倒され黙る。



 唐突に……アリアは顔を上げた。そうと思った瞬間、ザールのこれまでの行動と言葉が脳裏を過ぎり、疑惑はほぼ確信に変わった。



「マクギリス伯っ!!」



 アリアは突然会話を遮り叫んだ。



「何です?」



「……あ……」

 思わずナディアが声を漏らした。



 返事をしたのは、ガレットではなくトウベのほうだった。



 場から完全に会話が途絶えた。



 数十秒の沈黙の後……トウベ……いや、ガレット=フォン=マクギリス伯爵は自分たちの茶番の終了を知り、大きく溜息をついた。それを見てアリアは疑惑が正しい事を知り、ナディアもようやく事態が分かった。




『マドリード戦記』 革命賊軍編 11 流転、激流3でした。



ということで、実はガレット伯は女性です。


このガレット伯爵婦人が賊軍編で重要なキーパーソンになっていきます。

今回見てもらったとおり、ガレット伯は全くアリア様と思想が違います。そして政治と経済家としてはアリアよりキャリアがある豪腕政治家です。


しかし……アリア軍もですが、マドリードには<女傑>が多いですね。


ぶっちゃけ大陸連邦よりマドリードのほうが女性が頭角を現している気がします。まぁ、トップが女王ですしね。


ガレット伯がどういう行動をとるか、どういう風に賊軍と関わっていくか、それはこれからの展開をお楽しみ下さい。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ