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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 8 賊軍8

『マドリード戦記』 革命賊軍編 8 賊軍8


クレイド軍と対峙するザール軍。


クレイド伯の陰謀とザールの勧告によってクレイド軍が崩壊、その混乱に巻き込まれるザール軍。

しかし全てはクレイド伯の策謀だった。

それを知り焦るザール。だが為す術がない。

こうして戦争は新たな展開へとなっていく。


そして、重要な任務を帯び、シュナイゼンも王都を発つ。


 アリアとザールが卓越した政治眼を持つ戦略家である事は間違いない。しかし全ての事象を知っているわけではないし、全知全能でもない。


 クレイド伯が、自軍幹部たちを完全に洗脳してしまったことなど、知りえない。


 4月8日午前9時……ザールはアリア軍を代表してクレイド軍に改めて降伏勧告を行った。


「もはや貴族評議会は消滅した。卿らは賊軍である。よく聞くがいい賊よ。剣を捨て素直に投降するなら、賊として扱わず捕虜として正しく扱おう。そしてやむなく賊の命令に従っている兵士たちよ。降伏せよ。今降伏すれば、このザール=フォン=ザナドゥの名に誓い、寛大な処置が下るようアリア様に進言する事を約束する。今からでも武器を捨てよ」


 ザールの降伏勧告は、拡声器を使って全軍の耳に届いた。


 この宣言に、クレイド軍は激しく動揺した。


 クレイド軍に参加している兵力は現在約11000だが、そのうち半分以上が無理やり集められた民間兵たちだ。アダ、農奴の出身者も多い。まず、それらの民間兵たちが大いに動揺し、ついに内部分裂を始めた。


 ザールはその気配を察すると、自軍を密集隊形から大きく両翼を伸ばした鶴翼の陣への変更を命じ、拡声器を使い次の命令を下した。


「降伏者は攻撃せず保護せよ! もし降伏者を背から討つ暴挙を見つめたら救出せよ! 我らアリア軍は民衆の味方である」


 その言葉に、さらにクレイド軍は動揺し、ついに前線が崩れ投降者が雪崩れるように出現、ザール軍に殺到し始めた。


 ザールの絶妙の降伏勧告だった。これを機にクレイド軍の瓦解を狙ったものだ。


 この結果、1000人規模の塊で投降が始まった。


 それを制止しようとするクレイド軍の貴族軍と、ザール軍の間で戦闘が勃発し、それが全域に広がった。軍崩壊の始まりだ。


 クレイド軍の瓦解と乱戦が一気に広がり、俄に戦場が騒がしくなった。



「すげぇ効果だ。これまでの対陣が嘘のようだ」



 ザール軍旗艦<サルバドル>の艦橋で、その様子を見ていたサザランド少佐が愉快そうに笑みを浮かべた。


「元々無理やり集められた民間兵が多い。瓦解するときは一瞬だ」


 ザールは特に感動もなく眼下の戦況を見ている。



 が……。



 この動きに、ザールは心中言いようのない不吉なものを覚えていた。



 ……上手く行き過ぎる。どうしてクレイド伯は反論や迎撃をしてこない……?



 降伏勧告は三度目だ。これまで二度は効果がなかった。これまではクレイド伯が引き締めていたからだ。しかし今回は違う。すでにアリアがマドリードの女王となり、賊軍となった事も要因の一つだが、クレイド軍幹部たちの監督力が明確に変わったからだ。


 元々暴力を誇示し出来上がったクレイド軍だ。座して民間兵の離間をただ眺めているだけというのはおかしい。投降者諸共砲撃するくらいしてもいいはずだ。むしろザールはその展開を予想し、そのために砲兵の照準を敵旗艦<デオトラート>につけさせていた。敵戦艦を沈める絶好の好機となるはずであった。いわば投降者を囮にしたのだ。これはアリアには出来ない戦術だが、その点冷徹かつ残忍の誹りを受けるのはザールである。アリアが傷つかないのならばザールはどんな戦術でもとる。


 が……<デオトラート>、そして随艦しているもう一隻の飛行戦艦<ボトイヤ>からの攻撃はなく沈黙している。


 ザールの勧告は民間兵離反の契機となったが、それは同時にクレイド伯の見解を裏付けするような結果となった。こうしてクレイド伯は参加していた中級貴族たちの忠誠と協力を集める事となった。と同時に、ここで自軍内に抱える、いつ叛旗を翻すか分からない民間兵の処分と逃走のために必要な時間を得ることが出来た。


 ここはクレイド伯の作戦勝ちであった。


 自軍崩壊が半数を超えたとき……クレイド軍は俄に戦闘を停止し、<デオトラート>と<ボトイヤ>は兵を収容すると、南西に向かって逃走を始めた。



「そういう事か」

 ザールは小さく唸る。クレイド伯の意図と戦略がザールは分かったのだ。

「人格を無視すれば、クレイド伯は優秀だ」

「追わないのか、ザナドゥ伯」

 サザランド中佐が駆け寄る。


 旗艦<サルバドル>はほとんど無傷だ。アーマー部隊も一旦収容して休ませているから長躯させることも可能だ。



 しかし、ザールは首を横に振った。


 ザール軍のアーマーは全て<ガノン>。そして第一級の戦術家もパイロットもいない。7500の兵力はあるが、第二級の軍なのだ。無理な戦術はできない。



 ……せめてナディアの親衛隊がいれば話は別だったが……。



 そして、ザール軍もこの辺りが活動限界だ。激しくはないがザール軍も対陣して約3日。今は投降する民間兵を収容し処理することで手一杯だ。この上逃げる敵部隊を追撃する攻撃力も体力もなく、逆撃を受ければザール軍のほうが崩壊しかねない。

元々が予備隊、第二級の兵で急造したのがザール軍だ。その練度はクレイド軍に比べたら遙かに優秀だが、アリア軍本隊と比べたら一段落ちる。ザールは自軍の能力に対し過大評価はしていない。

常勝を続けるアリア軍として、局地戦とはいえ『敗北』という事実は拙い。何より亡命を企てるクレイド伯に余計な箔を付けることになる。政治的にそれは避けなければならない。


「アーマー部隊、6機で一部隊として敵戦艦を追跡。ただし追跡、監視が主任務で戦闘はしなくていい」


 敵艦を逃がすわけには行かない。アーマー部隊を接触させ敵の関心を引きつつ監視を怠らない。生憎ザール軍で旗艦としている<サルバドル>は足が遅く追跡任務には向かない。


「所在さえはっきり掴めていればいい」

「いいのかい、それで」

「構わない。ミタスの報告では、アリア様は大包囲網を構築している。南西に進路を取ったということはバルド王国への進路ではない。それであれば、アリア様率いる本隊は十分間に合うだろう」

「くそ! あの生意気な若造を殺せるうちにさっさとやっておけばよかったぜ!!」

「言ってもしょうがない。サザランド中佐、悪いが地上で投降兵の収容と監督を頼みたい」

「分かったが、アンタはどうする?」

「私はこの地を去る。ティアラ様を見つけることが出来ればクレイド伯の茶番など無視できる。今、我々に出来る最良手はティアラ様の発見だ」

 そういうとザールは大きな溜息をついた。

「ただ、それもそう易々とは行くまい。そこがクレイド伯の生命線だからな」


 まだティアラはクレイド伯の手に落ちていない。戦略的にも時間的に考えてもありえない。どこかで拾うはずだ。


「アリア様の本隊が今日の昼にはコルデールに着く。そこでティアラ様が見つかるかどうかだ」

「コルデール?」


 ……このクバレスト地方ではなく……?


 ザールは僅かに首を振った。


「コルデールだ。アリア軍の再集結地はそこになる。コルデール、キシリア……この二都市でティアラ様が見つからなければ、最後は国境で落ち合う事になるだろう」



 ザールはそれ以上言わず、黙った。



 投降兵の収容とそれに付随する小規模戦闘の乱戦……それが<第二次クバレスト会戦>と呼ばれる戦いである。しかしこの会戦は、両軍共主要な人物は関わらない消耗戦であった。この地方での会戦が完全に収まるのは、翌々日の4月10日昼であった。


 ザールはサザランド中佐にこの会戦の始末を一任すると、<ガノン>に乗りこの戦場を後にした。随伴は、<ガノン>2機だけである。


 ザールもコルベールを目指す。


 こうして、アリア軍の主要幹部と主力は、都市コルベールに集結しつつあった。






 4月8日、午前9時。


 王城ハーツティスの空挺場に仮装戦艦<ロロ・ニア>が降り立った。


 すぐにシュナイゼン=フォン=カラム少将が搭乗し、彼だけを乗せると<ロロ・ニア>はすぐに飛び立った。


 シュナイゼンの懐の中には、アリア直筆の命令書がある。


 もう一つ、それとは別にアリアは彼にある命令を下していた。


 <ロロ・ニア>はランデブル国防軍基地に真っ直ぐ向かう。


 移動時間である半日……シュナイゼンはその間十分休息し、十分な食事を摂る事……それがアリアの命令だ。


 わざわざ命令として言うあたり、アリアの真面目さと優しさが窺い知れる。


「そういう事です、ユニティア殿。私は休息する」


 <ロロ・ニア>に乗って駆けつけたユニティア=フォン=フォーレス少佐兼伯爵令嬢に対し、シュナイゼンはそれだけ告げると、さっさと用意された船室に入ってしまった。革命戦争の話を色々聞きたかったユニティアは、完全に肩透かしをくらい、後に不満を女官に漏らした。


 シュナイゼンも二日戦争をしている。疲れはあるが、気は高ぶっているし興奮も冷めやまない。しかし休む事は厳命である。



「私に出来るだろうか?」



 シュナイゼンは一言だけ零した。


 彼の任務は重要かつ重大だ。


 相手は国防軍大将軍ペニトリー=フォン=グレース男爵。


 このマドリードの国防軍を束ねる男を味方にできるか、それとも敵となるか……それはアリアの政略と、使者となるシュナイゼン少将の手腕にかかっている。





『マドリード戦記』 革命賊軍編 8 賊軍8でした。


今回もアリア様はでませんでした。


それでもそこそこ重要な話です。


これでクレイド軍は軍としての脅威は去りましたが、ゲリラ戦へとなっていきます。これもクレイド伯の計算なので中々厄介です。思えばこれからは追う側と追われる側が逆転するわけですね。


ザールがクレイド伯の計画を知り焦っていますが手が出ません。


そして、ついにシュナイゼンが出発します。

彼の任務は国防軍の説得です。

これがどうなるのか……これからの展開に期待してください。


ちなみに次は新章、新展開となります。

そして新キャラも登場となります。これは次々回くらいかしらん。


まだアリア様の戦争は終わりません。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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