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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 6 賊軍6

『マドリード戦記』 革命賊軍編 6 賊軍6


ミタスたちと合流するアリア。


そして、一人の少女が姿をあらわす。


その時、アリアは狡猾な誘拐事件な全貌を知り愕然となる。


真に控える巨大な敵の存在も……。

 <アインストック>に移乗するのはミタスだけで、ナディアは<ミカ・ルル>に残って別働部隊を率いることになっている。しかし合流場所には姿を現した。


 しかし、ミタスだけのために着陸したわけではなかった。



 ミタス、ナディアが、<アインストック>に姿を現した。一人の少女を連れて。



 出迎えたアリアは、思わず言葉を呑んだ。



 ミタスとナディアの後ろには、見知った少女の姿があった。



「クリス……クリス!!」

「…………」


 そこにいたのはマドリード王家次女、クリス=フォン=マドリードだった。


 駆け寄ろうとしたアリアは、その変わり果てた姿に言葉を失った。


 彼女はみすぼらしいボロボロの服を身に纏い、髪は無残に短く切り刻まれている。

 呆然と立ち尽くす二人の姉妹を見て、ミタスは一歩前に進み出た。殊更感情を殺して。


「ティアラ王女が攫われた。クレイドが連れ去ったのはティアラ様だ」

「……ティアラが……」


 どうしてクリスではなくティアラだったのか……それがアリアには分からない。ティアラの存在はクレイド伯他賊軍だけでなくアリア軍の中でも極秘だった。しかしクリスは違う。今年8歳になるクリスは、一年前まで故王妃クラリエスと共に王宮内に幽閉されていた。当然クレイド伯もクリスの顔は見知っている。誘拐するとすればクリスが狙われるはずではないのか?


「最初に狙われたのはクリス様。だけど、運が味方したんだ、アリア様」とナディアが語る。

 勿論、最初にクレイド軍の特殊部隊……アーマー6機、歩兵30名が最初に探したのは面が割れているクリスである。しかし村の雰囲気がこの襲撃の中、偶然幸運を生み出した。襲撃時は夕方で、クリスは王宮にはおらず村の酪農家のコルデ家に遊びに行ってちょっと早い夕食によばれていた。コルデ家は4人兄弟がいて、その真ん中の次女とクリスは歳が同じで仲が良かったのだ。こうしてまず、襲撃の最初にクリスは被害に遭う事を免れた。


 タニヤ村はアリアの隠れ里として長い。襲撃を受ける想定もその時のための避難訓練も十分やってきた。


 村人はクレイド軍特殊部隊の攻撃に対し、男たちは抵抗し、女子供は避難訓練どおり、裏山に逃げた。しかし夕食前で多くの村人が自宅にいた。そのことは村人たちにとって不幸であった。時間がずれていれば男たちは鉱山跡の秘密基地に篭もり抵抗することができたし、村人はもっと村内中に拡散して村人の制圧にはもっと時間がかかったはずだ。


 が、不幸にも皆村の中に戻っていた。そして攻撃……という名の殺戮の悲劇に見舞われた。


 大混乱の中、コルデ家はクリスにあえてボロを着せ、年恰好の近い自家の子供たちと一緒にクリスを逃がした。他の村民たちの協力もあり、クリスは何度か賊軍兵士に目撃されたが取りこぼされ、裏山に逃れる事ができた。


「クリス様が避難された後……賊軍は、すぐに方針転換をしたの。村の赤ん坊全てを攫っていった」

「……!」

「そう。一年前王妃様を救い出したとき、王妃様は妊娠していた。だから、村で生まれて間もない赤ん坊……賊は、そう検討をつけたの。タニヤで、産まれたばかりの赤ん坊はティアラ様とホーゲスト家のクレバー君だけだったから……」

「賊は二人の赤ん坊を拉致し、その後村民を捕まえて……」


 赤ん坊連れは目立つ。これまで国民を暴力で支配してきた賊軍にとって、暴力をもってして脅迫し口を割らせる事は簡単なことだ。むろん村民たちは必死にティアラを隠そうとしたし庇おうともした。現にクリスは庇いきった。だが赤ん坊のティアラはすぐに発見され、早々に賊の手中に落ちた。敵の手の中にある赤ん坊の正体を否定すれば、その赤ん坊は殺される。赤ん坊の命を助ける唯一は、その正体を報せる他ない。


 こうして襲撃者はティアラと子守の女官一人を誘拐し、その後抵抗する村人を殺戮し、村を焼き、西に去っていった。


 アリアは長嘆し両手で顔を覆った。


 ……自分のミスだ。どうしてタニヤの存在を軽視したのか……どうして決戦前、村民たちをリィズナに避難させなかったのか……!


「部隊を割けばタニヤに何かあると貴族評議軍に報せるようなものにあり、後方を気にせずにはいられなくなる。リィズナに置いても同様だ。王女殿下を迎えればそれ相当の兵力は残さねばならない。むしろタニヤをどうやって探り当てたか、そっちのほうが気になる」

「それはもう分かっています。情報を売った男は判明していますから」


 クレイド伯が悪いのではない。そそのかしたのは、恐らくユイーチのほうだ。だが現段階ではミタスやナディアでもユイーチの事は多く説明できない。


「お姉さま……ごめんなさい……ティアラの傍を離れて……私だけ……」

「何を言うの、クリス! 貴方一人だけでも……」そう言ったアリアは、改めてクリスの異変に気が付いた。

 ボロ服だけではない。元々肩まであったはずがザクザクに刈られ男の子のように短くなった髪……そこには、王族の証明である特別な三つ編みの房がなかった。


 アリアは、その時全てを知った。


 コルデ家はクリスを守るため、服だけでなく髪も切ったのだ。まるでアダの、男の子とも女の子とも見分けが付かない子供のように、乱雑に。この英断が、彼女を救った。


 アリアは頭を下げ、そして無言でクリスを抱きしめた。肩が震えている。泣いていた。


「ごめんなさい……女の子なのに……王女なのに……こんな髪にさせて……」

「いいんですお姉さま! お姉さま、泣かないで」クリスも瞳に大粒の涙を浮かべた。



 その時だった。



 アリアは立ち上がると同時に腰にあった短剣を抜くと、自らの髪を掴み刃を当てた。



 しかし、そのアリアの突発的な行動はミタスとナディアが十分予見していた事だった。二人は瞬く間にアリアの両脇に移動し両手を掴むと、一瞬で短剣を奪い取っていた。



「私も髪を切ります!! 女王が何ですか!! 王であるのに<女>である必要なんかないっ!! クリスたちの痛みに比べれば!!」


 アリアは感情を爆発させ叫ぶ。だがミタスとナディアは何も言わない。今何を言っても聞く耳はない。

 さすがに衝撃的なことがアリアに重なりすぎている。アリアも、疲れている。感情がすぐに昂ぶるのは仕方がない。



 ミタスとナディアがタニヤやクリスの一件を無線では報せず、進軍する戦艦をあえて停めて直に報告したのは、このアリアの感情的暴挙を止めるためだ。


 さすがのアリアも、マドリードの白兵戦士トップ1、2のミタスとナディアに捕まれては抵抗する事が出来ない。アリアは、全く動くことが出来ず、涙だけがボロボロと落ちる。


 その時だ。


 泣いていたクリスが涙をゴシゴシと拭うと、笑った。そして姉の頬を伝う涙を拭った。


「褒めてください、お姉さま。クリスは、ようやく……クリスはようやく、お姉さまの役に立てたんです」

「…………」

「クリスはお姉さまの力に、なれたんです」

「…………」

「褒めて、くれますか?」

 クリスは笑った。それを見たアリアの体から、力が抜けた。

 ミタスとナディアは、一瞬顔を見合わせ、そしてアリアを解放した。


 自由になったアリアは、そっとクリスに手を回すと、力いっぱい抱擁した。


「よくやったね。クリス」

「はい」

 二人の姉妹は、お互いの存在を噛み締めるように強く抱き合った。


 しばらく、二人は抱き合っていた。




 アリアが顔を上げたとき……もう、アリアはいつものアリアに戻っていた。


「醜態を晒しました。すみません、二人とも」と、アリアはミタスとナディアに対し深々と頭を下げた。

「ま、ここにいるのはあたしたちだけだし、アリア様も気にすることないよ」

「少し落ち着かないと駄目ですね、私」

「その自覚があるなら、寝てくれ。ナディアも、クリスもだ」

 ミタスはこの機会しかない、とばかりに進言する。ナディアもセットにしないとアリアは眠りそうにない。


 アリアは数秒何かを考えた。そして顔を上げた。


「コルデールに着くまで、私とナディアは休みます。ミタスさん、後のこと、ザールと話し合ってください。お願いします」

「了解した。そういうことだから、ナディアも寝ろよ? 君命だからな」

「分かった。でも、ティアラ様の事……大丈夫?」

「それは大丈夫。攫われたのがティアラなら、賊軍も無理な行程は組めないから時間の余裕はあると思います。こんな醜態や撹乱、他の人にみせるわけにはいきませんし」


 万が一ティアラに死なれてはクレイド伯の生命線も消える。今、もっともティアラを大事に考えているのはクレイド伯のほうだろう。


 さすがにアリアも先の自分の醜態が恥ずかしくなった。しかし重ねていうが、これは致し方ないだろう。革命、クシャナの死、父親と宿敵の死、アルファトロスの政変、そして妹王女の誘拐……これだけの事が僅か一日の間に続いているのだ。常人ならとっくに精神が擦り切らして倒れているだろう。これほどの事件と重責を、15歳になったばかりの少女が全て背負っているのだ。その事自体が奇跡であり、異常な精神力と才能であった。


 アリアはクリスの手を握ると、ミタスとナディアを交互に見た。


「ザールが包囲網を作りましたが、我が軍も疲れています。ザールをもってしても途中発見することは難しいと思います。とすれば、私たちの作戦は次の段階に行きます」

「ティアラ様を有したクレイド軍との対峙か」

「亡命くらい認めてもいい……と思っていました。それでティアラが助かり戦争が終わるのなら、それも選択肢かと。でも、ちょっと事情が変わりました」

「事情?」

「亡命先が分かるまで、手が抜けません。場合によっては、とんでもない相手が隠れているかもしれないから」

「バルド王国……じゃないって事?」

「クバレスト地方に接しているのはバルド王国が一番近い。でも、この判断はレミングハルト候が賊軍と連携があっての前提でした。どうやら賊軍とレミングハルト候の関係はないようです。となれば、ある国の可能性が出てきます」


 アリアの言葉に、ミタスとナディアは顔を見合わせる。


 分からない。


 少なくともマドリードより西の諸国のどこかだろう。隣接しているのはガエル共和国だ。そしてコロクス王国も近い。


 その時だった。ナディアが「あっ」と声を発した。この時ナディアも、アリアがどの国の事を想定しているのか分かったのだ。



 隣接はしていない。しかし、クバレスト地方を僅かに北に移動しマドリード最西端に至った時、ある国ともっとも接近する。



 ザムスジル帝国。



 クリト・エ大陸の半分を有する巨大軍事帝国。そしてもっとも好戦的な軍を持っている。



「…………」


 ナディアもその国名を口に出せなかった。軽々しく口に出すには重要すぎる相手だ。

 しかしありえなくはない。少なくともアリア軍の最新機動軍を唯一恐れない相手は、ザムスジル帝国しかない。もしザムスジル帝国が相手とすれば、その戦乱はこの一戦に留まらず、終わりのない大戦乱に雪崩れ込むことになる。逆にアリアも、ザムスジル帝国の名が挙がれば、容易に賊軍の要求に負ける事は出来ない。ザムスジル帝国に屈したと周辺諸国が知れば、今後の外交政策に大きな負となりアリアとマドリードに圧し掛かる。



 ……あのユイーチが考えそうな陰謀だ……。



 それだけに、ザムスジル帝国という仮説は現実味があった。

 アリアとザールが、ほぼ8割にあたる大兵力を動員しているのは、その危惧からだ。

「今は、賊軍の対処を優先です。そのために、ナディアもご飯食べて休んでいて」

「あ……うん。分かった」


 ナディアは頷いた。もしザムスジル帝国が相手となればもっとも激しい戦闘になるのはアーマー部隊だ。その時、エースであり指揮官である肝心のナディアが疲れていては勝敗に関わる。



 こうして<アインストック>と<ミカ・ルル>は再び起動した。


 ミタスとクリスだけが<アインストック>に乗艦した。<ミカ・ルル>はコルデール到着まではナディアが指揮する。もっとも命令通りアリアとナディアはこれから仮眠に入るので、事実上<アインストック>のミタスが二艦を同時に掌握することになる。




『マドリード戦記』 革命賊軍編 6 賊軍6でした。


誘拐事件が判明しました!


ティアラが誘拐されました。

赤ん坊だから見つかりやすかったということです。でも、クレイド伯にとっても生命線、赤ん坊だから無理は出来ない……というあたり、それぞれ難しい点です。今ティアラの命を一番心配しているのはクレイド伯になるわけで。


といことでこれから誘拐犯追撃になりますが、これからはアリア軍の空白地であったマドリード西部が舞台になります。最低限の革命を考えていたアリア様にとっては処女地です。


ということで重要な人物も今後出てきます。


どうぞお楽しみ下さい。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


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