『マドリード戦記』 革命賊軍編 4 賊軍4
『マドリード戦記』 革命賊軍編 4 賊軍4
王女誘拐に騒然となるアリア軍
アリアは駆けつけた機動戦艦<アインストック>に搭乗し、司令部をそこに移し賊軍追跡のため本格的に活動を始める。
賊軍 3
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アリア軍……いや、マドリード軍の活動は終わらない。
午後22時を過ぎた時……首都シーマ上空に旗艦<アインストック>が現れた。最新鋭機動戦艦は事件を知り全速で首都シーマにやってきたのだ。
報告を受けたアリアは即断した。
「司令部を<アインストック>に移します!」
<アインストック>を確認したアリアは、そう宣言する。とはいえ軍のほとんどの高級士官は王城ハーツティスで引き続き軍の再編作業に取り組む。アリアはヒュゼイン白機と親衛隊のみ連れ、<アインストック>に乗艦した。
<アインストック>では、機動戦艦司令レイトン中佐が出迎えた。
「お疲れ様です、レイトンさん」
「いえ、自分は大丈夫ですアリア様。革命成就、おめでとうございます」
「ナムルサス公爵の自害を止められませんでした。レイトンさん、すみません」
「お構いなく。ナムルサス公は私の本家ですが、自業自得です。一片の後悔もありません」
レイトンは会釈を返す。それどころかナムルサス公は家族を軟禁しアリア軍へ送り込まれた嫌な因縁のほうが大きい。レイトンには恨みもなければ後悔もない。ナムルサス公爵は滅ぶして滅んだのだ。
レイトンは結果として<アインストック>を戦争にうまく生かせなかったことを謝し、その後アリアを艦橋に案内しながら報告を続けた。
「ザール閣下が連絡を求めています」
「では艦橋の無線を使います」
「いえ、条件がついておりまして……」
レイトンは、少し言い難そうな表情を浮かべた。
「何ですか?」
「アリア様は最低三時間休息されてからということになっています。それがザール閣下の厳命です」
「そんな……! そんな場合ですか!?」
「三時間は全権を預かる、との事です! ミタス部隊のことも十分連絡を取り合って調整中です。それにヒュゼインの被害についても司令部より聞き及んでおります。最低限モニターの修復だけでも三時間はかかります。モニターが直らない限りヒュゼインは何があっても出撃は許さない、それもザール閣下の厳命です。そして、この<アインストック>は私レイトンの指揮艦です。艦長としても、アリア様の勝手を許すわけには行きません!」
普段大人しいレイトンがここまで言うのだ。余程ザールに言い含められての事だろう。そしてザールでなくとも今のアリアの疲労と心労がいかに大きなものか察するに余りある。
ヒュゼイン白機の現状を持ち出されては、壊した本人のアリアは文句が言えない。幸いこの<アインストック>には移動基地としてアーマー整備士も同乗しているから修理は出来る。
アリアは苛立ちを隠せず大きな溜息をついた。
「分かりました。ザールとレイトンさんの顔を立てて3時間は休息します」
苛立ちも焦りもある。だが落ち着かなければいけないのも事実で、その事はアリアも十分分かっている。眠れるような気分ではなかったが、とにかく少し横になる事にした。
それに、現状ここに至れば三時間の間に状況が急変することは、まずない。今アリア軍に必要なのは軍の再編で、これはアリアでなくても出来る事だ。
「<アインストック>はテイル地方で<ミカ・ルル>と合流予定です。それまでの僅かな時間、お休みください」
「……はい。でも、何か変事が起きればすぐに呼んでください。これは命令ですよ」
「分かっております」
「ところで女性兵士を一人か二人寄越してほしいのですが」
そういうと、アリアは少し困った顔で身につけているドレスを摘んで見せた。「こんな背中からぐるぐる巻きに体をしめた大げさなドレス、私一人では着れません。手を貸して欲しいんです。無理なら男性用で構いません、誰か士官用の服を貸してください」
「ドレスが非常によくお似合いです、アリア様。その姿を出来るだけ多くの兵や国民に見せたいので、女性兵士を二人ばかり女官代わりに手配します」
<アインストック>は移動基地も兼ねた存在なので、通信兵や衛生兵、輜重部などの中で女性兵が使われている。
「やっぱり女王ってドレスが正装なんですかね? どう思いますか、レイトンさん」
「何を着られても、アリア様は魅力的でお美しいです」
思わずレイトンは苦笑いを零す。
アリアのドレス拒否感は、別に自分が女性であることを否定しているわけではない。ただ、王侯貴族の無駄に贅沢で華美にばかり神経を使った非実用的なドレスに価値を見出せないだけだ。別に必要であればスカートを穿いても構わない。
今は士気高揚と女王であるという事を皆に示すため、渋々この大仰なドレス姿に甘んじている。アリアは終生服装は機能性のほうを重視し、非生産的で手間のかかる煌びやかなドレスはほとんど着なかった風変わりな女王だ。宝石など煌びやかで高価なアクセサリーについては後に行われる戴冠式のとき身につけただけで終生興味を示さなかった。彼女がもっとも愛した服は、軍服だった。
「では一時間後部屋に寄越してください。一時間ほど入浴してきます」
本当は高貴な立場である女王が「入浴する」などマナーとして公言するべきではないが、今は非常時だ。言っておかなければレイトンたちのほうが困るだろう。
アリアは休憩すると決めたからには、今は一刻も早く湯船に浸かりたかった。戦闘の粉塵や汗、血やオイルの匂いが染み付いたように体に纏わりついて、正直気持ちのいい状態ではない。それに、数々の事を入浴して頭の整理してしまいたかった。
レイトンは了解し、アリアを部屋に案内した。<アインストック>は戦艦だが、貴賓室が一室あって、そこはバストイレ、寝室、職務室が付いている。そこには内線もあるから急な変事が起きても対応できる。この部屋はアリア用ということで普段から使われていない。
自軍のものであるのにアリアはこの<アインストック>にあまり乗った事がない。途中までレイトンに案内を受け、その後は一人で部屋に向かった。その後ろ姿を見ながら、レイトンは苦笑とも微笑ともいえない複雑な笑みを零した。
……本来なら女官が1ダースはついてくるものなのだが……。
王女でも女王でも、本来は身の回りの世話をするのに大勢の女官を帯同させるのが普通だろう。だがアリアには一切そういう存在はおらず、着替えも食事も身の回りの雑務も全部自分一人でやる。軍総司令官なのに副官も参謀も連れていない。命令書も作戦書も人事も全部自分でやる。精々ナディアが自分の意志で手伝うくらいのものだ。
……アリア様が女王になられたら、そういう女官も必要だろうか……?
……募集すればすごい数の子女がやってきそうな……でもアリア様は戸惑われるな……。
少し無責任な感想を、レイトンは思い浮かべた。
古来……女王でも王女でも、その手の女官を率いて過ごすものだ。むしろその女官の派閥のほうが普段接する分異様な権力を持つに至ることは多々である。しかしアリアにはそういうものが全くない。女官の必要を否定はしてないようで、ユニティアには軍事活動外ではそういうローゼス伯爵家の女官が二人ついていることをアリアは認めている。
アリア軍の中で数少ない爵位持ちのレイトンは、ふとそんな事を想像し、再び苦笑せずにはいられなかった。アリアは本当に凛々しく秀でた美貌を持ちスタイルも素晴らしい。これほど高貴さ溢れ華やかで見栄えのいい女王は古今いない……と思うのだが、アリアが女官に囲まれて過ごす姿はどうにも想像することができなかった。
『マドリード戦記』 革命賊軍編 4 賊軍4でした。
追撃戦い、ついにスタートです。
機動戦艦<アインストック>始動!
かきましたが、思えばこれまで<アインストック>は旗艦として存在し色々働いてきましたが、アリア自身が運用することはあまりなかった戦艦です。最新鋭戦艦で戦闘力は大きく機動力も他の戦艦の倍はあるんですが、強すぎて王都攻略には使えず、単独で使うには色々運用が難しい……中々難しい存在です。
ただ乗り心地は抜群です。貴賓室もあり無線装備も整ってます。何より個人用のシャワーがついているのがアリア様的にはうれしい事ですね。一般兵士用のシャワー室もむろんあります。余談で……マドリード戦記には登場しませんが後に帝国旗艦となるパーツパルという大戦艦は個人用浴室と兵士用の大浴場があるんですが……これは第二次大戦以後の大戦艦の話です。
さて、賊軍にむかって動き出したアリア軍。軍としての活躍はこれからになります。
戦争だけでなく政治も色々出てきます。新しいキャラも出てくるので楽しみにしてください。
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




