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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
革命賊軍編
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『マドリード戦記』 革命賊軍編 2 賊軍2

『マドリード戦記』 革命賊軍編 2 賊軍2


アリア、王の責務として首都シーマにて国民に対し演説を始めた。


首都シーマの民衆が見つめる中、即位と安全の宣言を行うアリア。


だがまだクレイド軍は残っている。


アリアは言う、『賊軍共』と!


こうして賊軍との対決の幕が上がる。

 陽が暮れ、午後19時30分。


 首都シーマ中央セントラル駅近くの大広場ロッテイム公園。


 公園中央には簡素な演台が築かれ、その周囲を無骨に彩るように30機のアーマーが並んでいる。急ごしらえだが会場は整然としていた。



 公園に集まったアリア軍は約5000人。民衆の数は約4万人である。



 そこにアリアがヒュゼイン白機に乗り現れると、会場の歓声と拍手は割れんばかりに響いた。


 アリアはヒュゼイン白機を演台に横付けすると、飛び降りた。アリアの服装は国王制式長衣にドレス、白いマントを付けている。



「私はマドリード23代国王! アリア=フォン=マドリードであるっ!!」

 アリアはマイクを掴んだ。

「この国、そしてこのシーマで悪逆の限りを尽くした貴族評議会は滅びました!! この国は完全に私が掌握します!」

 アリアの美声が、公園内だけではなく周辺まで響き渡る。


 民衆は、次のアリアの言葉を待つため沈黙した。


 アリアは堂々と集まった多くの民衆をゆっくりと見回した。


「このアリア、これまでこうして皆の前に姿を現す事はありませんでした。だから、初めて私を目にする人も多いかと思います。私がまだ年若い少女である事に驚き、そして不安を感じている人も多いでしょう。確かに私はまだ若く、経験も多いとはいえません。これから多くを勉強していく身です。ですが! けして国民皆様が落胆することがないよう誠心誠意、皆様を導く王として努力の限りを尽くさせていただきます!!」


 民衆たちは、どよめく。


 アリアは続けた。


「一つだけ、約束します! 前政権の腐敗の根源は大貴族たちの傲慢!! 無能者と国を愛さない私欲の塊が国政を壟断し、民に厳しい税を課し、何もかも奪っていきました!! 私はそんな政治はしません。私は、貴族もアダも関係のない政府を作ります!! 私は年若い少女です! ですが国政は全て私が立案し、私の責任において執行します! だから、今後このマドリードで貴族が権力を振り回し自侭に国政を玩具にするような事態は起きません!! それを約束します! 私は政府の職に対して、貴族も平民も関係のない登用を約束します!!」


 民衆たちの息を呑む音が、聞こえる。


 アリアの『貴族否定論』が、最初に国民の前に示されたのはこの時が初めてだ。


 アリアは、今はそのことについて熱弁しない。それは今成すべき事ではない。


「シーマの国民の皆さん!! この長きに渡る苦しい圧政下の生活は今日で終わりです!! 皆さんは解放されました!! そして、苦しく皆に犠牲を強いた革命戦も終わりました!! もうこのシーマに皆さんに危害を加える愚か者はいませんっ!! 突然押しかけ家財を奪う悪役人もいません!! 今夜から、皆さんは安心して眠り、安心して買い物に出かけ、安心して家族で過ごせます!! このアリアが保証します!! 国民よ! 安全と安心と平和を、このアリアが確約しますっ!!」



「おおおーっ!!」と、国民たちは立ち上がり、歓声を上げた。



 至るところで、「アリア様万歳!」「アリア陛下万歳!!」の歓声が上がる。



 もはやその歓声は、怒涛であり声による津波であった。



「皆の愛国心と腐敗政権への抵抗心と正義を求める声が、私を貴族政権打倒へと動かしました!! 私は王女だから革命したのではない!! 権力が欲しくて革命を起こしたのではない!! 私は皆の希望と苦しみを知り、皆の意志を代表し立ち上がりました!! そして、今日ついに成功しました!! 私だけの勝利ではない、国民皆の勝利です!!」


 マドリードにおいて、国王がこれほど国民に近く、そして親身になって発言する王は久しくいなかった。先代アミルは貴族たちには演説をする時もあったが国民に対して演説することはなかった。マドリードが貴族中心の政治形態になって100年以上……その不満と怨嗟は国民の中で積み重なってきた。アリアはその全てを否定した。正に革命であろう。



「ですが! まだ愚かな大貴族の反乱者は残っています!! 連中は私の妹……王女殿下を誘拐し、私に妥協を迫っています!! そんな連中を私は許しません!! 私の敵というだけではない、国民の敵です!! あえて言う!! 『この賊軍共と!!』」



 『賊軍』……この瞬間、クレイド軍の名称は『賊軍』という、全く政治主張も立場も全否定された存在となった。そして一切の妥協も譲歩も存在しない事が明言された。相手は『賊軍』なのだから……。


「しかし安心して下さい!! このシーマに賊軍は存在しません!! 国民よ!! このアリアの戦争は賊軍が最後の一人になるまで剣を収めるわけにはいきませんが、それは私の責務! このシーマは完全に平和です!! 皆さんは、平和を勝ち取ったのです!!」


 アリアは叫んだ。それに民衆も呼応し、あらんかぎりの声で歓呼を返した。

 アリアは一息だけつくと、再びマイクを握った。


「アリア軍諸君!! 今、これからは皆、新生マドリード国の正規兵です!! どうぞ国民と、その生活を守ってください!! そして、この若く幼いアリアを助けてください!! 皆の力で、囚われた妹を助けるため、今一度力を貸してください!!」


 そのアリアの言葉に、兵士たちは一斉に声を上げた。


 民衆も、兵士たちも、完全にアリアに魅せられた。アリアは誰の目からみても美しく、自信と活力に漲り、そして偉大な王に映った。事実そうである。パラの歴史上、彼女を超える王は存在していないのだから。


 盛大な歓呼と歓声の中がしばらく続いた。


 アリアは満足そうに周りの民衆たちを見渡すと、小さな笑みを浮かべた。


「最後に一つ! これまで国民皆に苦渋を飲ませた僅かな罪滅ぼしです! 明日正午、このロッテイム公園で戦争避難民と貧困者への救済として、僅かばかりですが食料の配布を行います! 40万人全員は無理ですが……革命戦のため用意した兵糧を全てこの場で配布します。米一掴み、麦一掴み程度のものですが、どうか皆が餓えないよう……粗末ですが今の私に出来る限りの償いです!」


 この突然のアリアの宣言に、集まった国民は熱狂し喝采を上げた。これはアリアがこの場で思いついたことではなく当初からあった計画で、ザールとグドヴァンスの両人が一ヶ月も前から手配をし、クロイスやアルファトロス、他勢力圏内の貴族領地から提供を受けリィズナに蓄えていた。この時言わなかったがアリアはワインも用意した。これは主にクロイスで手配した。クロイス周辺はワインの産地で海外へ輸出するほど豊富にある。アリアはむろん代金を用意していたが、祝いとして無償提供してくれた酒屋も多かった。クロイスはアリアの統治下になって一年。貴族共からの無慈悲な搾取がない分、余裕があり儲けも増やしていた。むろんアリアに感謝し、アリアを祝う気分は強い。


食料配布……というより、アリア軍主催の祭りである。一時的だが、効果は絶大だし、シーマ市民を安心させるにはいい政治興行だ。


「むろん、私が賊軍を打ち砕き完全な平和を得た後、ささやかな祝典、祭事は別に行い、それは全マドリード国民に必ず恩返しはさせて頂きます! 明日の祭りはこの数日間、私の戦争に耐えてくれた、私の感謝です!」


 そういうとアリアは演台で大きく頭を下げた。


 誠実で真面目で可憐で純粋な心を持ちながら天才的な軍事と政治能力を持つ15歳の少女王……こんな王は、後にも先にもいないのではないか。民衆たちは知った。このマドリードは、完全に生まれ変わった事実を。


 こうして、アリアの国王最初の政治家としての責務は、成功に終わった。








 ロッテイム公園の演説を終え、アリアが王城ハーツティスに帰還したのは午後20時を少し回った頃であった。


  アリアは豪胆というべきか、それほどまでに多忙というべきか、市内、城内関係なく一人で行動している。市内や城内の移動はヒュゼイン白機で行い、王宮内は一人の護衛も連れず足で歩く。だけでなく、活動している兵士たちを見れば必ず一言声をかけていった。驚くべきことに、アリアは自軍の士官の顔と名前をほとんど知っていた。


 一人の行動はアリアの無茶といえたが、兵士たちが彼女やヒュゼイン白機を見て勝利に躍らず毅然とした態度で戦後処理に当たれた……という功能がなくもない。戦勝軍による乱暴や強奪事件、喧嘩など起きなかったのは高いモラルとアリアの存在が大きい。


 現在、王宮謁見の間がアリア軍の作戦本部となっている。


 作戦本部は、シュナイゼン大佐が中心となり管理されていた。


 アリアが帰ってくると、シュナイゼンは黙って一礼した。

 アリアはシュナイゼンの気難しい表情を見て、苦笑した。


「そう責めないで下さい。人手が足りない時ですし、随行しようにもヒュゼインには私一人しか乗れません。私が多くの護衛をつれて歩けば、逆に兵たちは不安を覚えます。私はこれまで自分の足でどこにでも行っていたのですから」

「はい。分かりました、陛下」


 シュナイゼン……でなくても、アリアの一人行動を好ましいと思う人間はいないだろう。まだ陥落して3時間ほどしか経っていないのだ。どこに不届き者がいるか分からない。その点、アリアも十分警戒しているようなので、シュナイゼンも分を弁え無理にやめろとは言わない。もっとも……ザールがいれば口喧しく手配をしただろうが。


「ミタスさんやザールから何か報告は来ていますか?」

「ミタス元帥からはまだ何も。ザール少将からは一度、『別働軍依然交戦を続ける』と報告がありました」

「ミタスさんとナディアがタニヤに着くのに後一時間はかかると思います。それまではこっちは手が出せないし、報告が本当ならミタスさんたちは確認だけして帰ってくると思います。シュナイゼンさんにはここでしばらく軍の処理をお願いしなければなりません。大変だとは思うのですが申し訳ありません」


「いえ。私だけでなくカルレントらととも協力してやっていますから」


 残った上級士官の中で最上位がシュナイゼンである。ミタスから軍権を託されたこともあり、今では彼が総参謀のような状態にあった。


 もっとも、補給やシーマに関する事案は古参士官の一人シュラゼン少佐の担当だった。彼は事務が得意である事と、ザールから綿密な戦後処理のプランを授かっていた。その作戦指示書は冊子一冊分あったというから、ザールの計画力と計算力は絶句モノであった。ザールはアリアと当初からシーマ攻略戦を組み立てた一人で、勝利の構想も被害の規模もほとんど計算していて、その後の補給や軍整理についても細かく想定し指示を出していた。シュナイゼンらはそのザールの想定と指示を元に随時対応していくといった形で、半ばザールがここにいるも同然であった。


「一ついいですか? これからの事でご相談があるのです、シュナイゼン大佐」

「何でも仰ってください」

「ミタスさんたちが戻って、王城ハーツティスの軍の整備が終われば……シュナイゼンさんには特命を御願いしたいのです。そのため、<ロロ・ニア>を至急呼び寄せているところです」

「特命……ですか?」

「<ロロ・ニア>で、北の国防軍基地ランデブルに行ってもらいたいのです」

 それを聞きシュナイゼンの表情が変わった。それはかなり重要な事だ。


 マドリード国の北の国境に接する国防軍基地ランデブルには、国防軍を掌握するペニトリー=フォン=グレース大将軍が在している。国防軍の最高司令官であり、現在国境を固める国防軍の長だ。これまでは中立を宣言しアリア軍、貴族評議会軍どちらにも加担せず国境警備に専念している。一部アリア軍への脱走が出たが、それでも現在約6万の国防軍を束ねている。ランデブル基地の兵力だけでも2万5000人を誇る。


 政権はアリアが奪取し、マドリードはアリアの物となった。もはや中立宣言は意味がなくなった。

「クレイド伯の軍は賊軍です。王女誘拐の嫌疑がある以上、もはや中立は許しません」

「その使者が私、ですか?」

「はい。ペニトリー大将軍と国防軍を動かして欲しいんです。これはシュナイゼンさんにしか出来ないと思います」


 階級であれば元帥位を得たミタスとナディアがするべき大任だが、二人は貴族ではない。ペニトリー大将軍は中立の立場を取り、ある意味アリアの勝利に手助けしたといえなくもないが、逆の意味でいえば貢献もしていない。それに人柄でいえばどちらかといえば貴族主義でアリアの理想とは一線を慨する。貴族主義の大将軍は、大陸連邦式の部隊階級も知らないし、その職階にも敬意は払わないだろう。貴族階級にないミタスやナディアが行ってもあしらわれるだけだ。今や最前線となってしまったザール軍からザールを引き抜くことも出来ない。自然、元国防軍人であり貴族出身のシュナイゼンが適任ということになる。


 しかし……これまでの軍事行動と違い、政治色の強い任務だ。それがシュナイゼンを不安にさせていた。彼は有能だが、純軍人で軍務以上のことは分からない。


「大丈夫。シュナイゼン少将なら出来ますよ」

「ありがとうございます。……少将?」

「先日来の活躍見事です。貴方をマドリード国軍少将に任じます」

「それは……誠に有り難き幸せです。陛下」

「細かい事は出発前にまた打ち合わせしましょう」


 そういうとアリアは軽く頭を下げ、その場を離れていく。数秒後……シュナイゼンは思い出し、アリアに声をかけた。


「陛下。ミタス元帥がお帰りになるまで戦況が動く事はないと思います。どうか、3時間でも休息して頂けませんか?」

「休息なんて必要ありません! それどころではないです」

 アリアはやや声を荒げた。

「軍の再整備、シーマの事、即位の事、賊軍の対応、リィズナとの連携……やる事はいっぱいあります。私が休めば指示を出す人間がいなくなります! 人生の内、一度か二度あるかないかの重要な日です。今日は休めません!」


 確かにそうだろう。今日ほどアリアにとって重要な日はない。


 政権を打破し、先王を失った。そして妹たちが攫われた。休めるはずがない。


 しかし、シュナイゼンの一言でアリアは休息という事案を思い出した。


「すみません。兵士たちを交代で休息を取らせてください。第一軍から随時に」

「分かりました。カルレント、トドーレスらと相談し、兵士たちを休ませます」

「ありがとうございます」


 第一軍は二日半、第三軍は二日、第二軍と本営は一日半、戦い尽くめだ。今は戦勝気分で誤魔化されているが、疲労は間違いなく積み重なっている。さすがに活動限界だ。ちなみにアリアが命じる前にすでに休息している部隊がある。ナディア貴下の親衛隊で、ナディアは自分の職権によって親衛隊には休息を命じていた。親衛隊はナディアの独立部隊で命令系統が違い、かつ精鋭のアーマー乗りということで現状任務がない。そのためナディアは早々に4時間の休憩を与えて出て行った。


「では手配をします」

「ありがとうございます。少しの間、作戦本部をお願いします。私は無線室にいます」

「無線室、ですか?」

「はい。誰も近づけず、入れないで下さい」


 そういうとアリアは再び歩き出した。


 彼女の仕事は、まだ山のように残っている。



 相対したくい相手も……。



 アリアの人生で最も多忙な4月6日は、まだ終わらない……。




『マドリード戦記』 革命賊軍編 2 賊軍2でした。



アリア様、演説好きですね。コレは終生の特徴ですが。


ということで今回からクレイド軍は賊軍になりました。

皮肉たっぷりですね。革命が起きるまではアリアのほうが反乱軍だったわけですし。クレイド伯のほうが政権軍だったわけですし。


ということでこれからがタイトル通り「賊軍編」です。


戦争は続きますが、敵兵力としては逆転してアリア様のほうが優勢で、クレイド軍のほうが数は少ないです。戦争編であり、政治編でもあります。


わざわざ新章にしたということなので、革命編本編よりは少ないですがボリュームがあります。

この新章で新登場するキャラも出てくるのでお楽しみ下さい。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


PS・「女王編」の前に短い外伝いれる予定です。現在執筆中デス。

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