『マドリード戦記』 王女革命編 47 革命から王となり④
『マドリード戦記』 王女革命編 47 革命から王となり④
勝利宣言を行うアリア。
この瞬間、アリアの革命は完遂した。
解放されるアダ、奴隷。
それに感極まるナディア。
そんなアリアに二つの凶報が届く……。
革命から王となり 2
ーーーーーーーーーーーーーーーー
17時5分。
アリアが王宮6階無線室にたどり着き、王城ハーツティス全域全軍に勝利宣言が流された。
「全軍に告げる! 私はアリア=フォン=マドリード! 貴族評議会議長にして元マドリード国宰相レミングハルト=フォン=ナサル侯爵、先代マドリード国王アミル=フォン=マドリードは自らの手で生命を断ちました。そして、貴族評議会議、マドリード政府に属する大貴族たちもまた自らの非を認め自決の道を選びました。よって、このマドリードの国権の全ては第23代マドリード国国王、アリア=フォン=マドリードが今この瞬間から握ります!!」
アリアは僅かに息を吐いた。
「革命成就!! 全て決しました!! 我が軍勝利!! 我が愛すべき革命軍の諸君! 我々は勝利者となった!! 皆の勇気と尽力と正義を愛する心のおかげです! このアリア、皆がこのマドリードを救ってくれたことを永遠に胸に刻み、皆が恥じぬ王となり、この国を治めさせて頂きます!! 我々は勝ったのです!!」
その言葉が聞こえた時、アリア軍は歓喜と勝利に大歓声を上げた。1万人のアリア軍が、一斉に歓呼を上げ、長かった戦闘の疲れを忘れ、抱き合い、肩を叩き合い、拍手を送った。
「よってここに戦闘の終了を宣言します!! 残った貴族評議会軍や貴族私兵団に告げます!! もはや卿らの主君はおらず勝敗は決した!! これ以上の抵抗は無意味である。マドリード国王として命じる!! 武器を捨て投降しなさい! 投降者は正しく捕虜として遇しけして危害を加えない事をこのアリアの名において明言します!! 我が軍よ! 投降する者を害する事はこのアリアの名誉を傷つける事です! 暴力を加える事を絶対に禁じます。勇敢にして誇り高き愛すべき我が革命軍には、そんな不名誉な愚か者がいないと私は確信しています!」
この宣言によって、残っていた貴族評議軍兵士たちも完全に抵抗を止め、各地で武器を捨てた。もはや完全にアリア軍に包囲され、主君である大貴族たちが死んだ以上戦う理由など存在しない。主君である大貴族たちに殉じようというような威勢のいい輩もごく少数はいて数箇所では抵抗はあったが、ほぼ城内の戦闘はこの宣言によって終わった。
続いて、アリアは自軍向けの無線に切り替え、各戦線の整理と上級士官の招集を命じた。場所は王宮の謁見の間に指定した。
「…………」
全ての命令をいい終えたアリアは大きく息を吐いた。
アリアの顔に笑みはなかった。7年越しの念願を達成した喜びはなく、勝利を噛み締め喜ぶ様子は全くなかった。
一つは、寂しさがあったのだろう。アリアは心から望んで王になりたかったわけではなかった。だがもう後戻りは出来ないし、それは許されない。もうアリアは王なのだ。
「戦争の後始末をして……色々やることがまだあるから大変だけど……」
そう言いながらアリアが振り返った時だ。
「ナディア?」
「やったよ……ホント、すごいよアリア様ぁ……」と、喜びで泣きじゃくっているナディアがいた。
そのナディアを見たとき……初めてアリアの顔に笑みが浮かんだ。
「本当に……やりました。やっちゃったんです、私たち」
「すごいよぉ!! すごいよアリア様ぁ~!!」
ナディアはぐっと涙を拭うと、アリアに抱きつき強く抱きしめ泣いた。
ナディアは個人として勿論アリアの勝利を祝う気持ちは強い。しかしそれ以上の重みが彼女の涙にはあった。
約50万人いるといわれるマドリード国内の奴隷や非人アダたちの宿願……身分の解放が、この瞬間起きたのだ。アリアは王になればそれら差別階層を全て開放し皆平民とする、と宣言し確約していた。奴隷とアダの解放は、数百年に渡る彼らの悲願であり夢であった。アダとして生まれたナディアにとって、この瞬間ほど嬉しい事はなく、この瞬間ほど多くのアダの人々の重みを感じたときはなかっただろう。アリアは全国民を背負い戦い、ナディアはいわば全アダの未来を背負い戦った。その背景と歴史の重みを考えれば、この革命は過去数百万のアダたちの願いであり歴史の終焉であり夢である。ナディアのほうがこの勝利の感慨が大きいかもしれない。
「うん。すごい。歴史が変わりました。もう、皆は自由です」
アリアはそういうと、ナディアを強く抱きしめた。
ナディアはアリアにとって特別な存在なのは全軍が知っている。だから彼女がアダであると知っていても差別する人間はアリア軍にはいなかったし、ナディアも超然としていた。しかしそれはナディアだけのことで他のアダ出身の兵士たち全てが毅然としアリア軍で平等に扱われていたかというと違う。例えば古参のミーノスが大尉という階級に甘んじていたのは、内心で自分の出身がアダであるという遠慮があり、上級士官になることを拒んでいた。他にも中級士官の中にはアダ出身者も多くいたが、皆遠慮することが多かった。しかしアリア軍の3割はそれら差別階級者であった。アリアは彼らを解放する代わりにその力を借り、革命を成した。彼らの期待に応える義務がアリアにはあるしそこから逃げるつもりはない。
そう。アリアの戦争はこれで終わりではない。
奴隷やアダを解放する。反発するのはアダや奴隷を所有し財を成している貴族や大商人たちだ。そのほとんどの貴族たちは今回の革命でアリアの敵側の陣営に属した。それらを一斉に罰する事で解放事業との釣り合いを取る。それら改革事業のほうが軍事的に勝利するよりはるかに指導力もカリスマも政治的才覚も必要だ。
アリアとナディアは、5分ほどそれぞれの感慨を胸に刻みながら抱き合った。
しかし吉報ばかりではない。
この後、二つの凶報がアリアを襲う事になる。
それも、とてつもなく大きな衝撃と共に……。
『マドリード戦記』 王女革命編 47 革命から王となり④でした。
勝利宣言編です。
これで王城制圧は完了となりました。
さらっと書いてますが、非人アダと奴隷がクリト・エ大陸で初めて解放された歴史的瞬間なんです。そう書くとかなり大きな偉業なわけですね。
奴隷解放がいかにすごいことか……これは地球の歴史と比べると分かりやすいかと思います。
もっとも、さんざん比較で書いている大陸連邦には奴隷制度はありません。農奴精度に似た精度は一部残っていますが。
クリト・エ大陸ではごく普通の普遍的な身分制度です。
それを打破したアリア様。
それがいかにすごいことかは、我々にはわかります。
まだソレに対する反動はクリト・エでは起きません。アリア様はまだ宣言しただけで施政として実行したわけではないので。でもその衝撃は後にやってきます。多分女王編の政治編で多少語ることになるかと思います。
とはいえ、アリア様の革命は王女による復権という面だけでなく、奴隷たちの反乱という側面もありました。ナディアはもちろんアリア様が好きで戦ってきたわけですが、同時に非人アダの代表としても戦ってきたわけです。まさにこの時、歴史は動いた!
このあたりの話や歴史の重みを書くとかなりのボリュームになるし、それはアリア様の栄光の歴史を描く本作とややずれるので「マドリード戦記」としてはさらっと書いています。ただ歴史的大偉業だったことはここの場でお知らせしたいと思います。
さて、革命成功しました。
しかしまだ事件が残っています。
「まさか」の大事件がこの後起きます。
その事件を終えるまでが「マドリード戦記王女革命編」です。その後「女王編」「女帝編」とつづくわけですが。
ということでこれからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




