『マドリード戦記』 王女革命編 45 革命から王となり②
『マドリード戦記』 王女革命編 45 革命から王となり②
奮戦するクシャナ。
彼女は傷ついた体を隠し、敵戦艦奪取にとりかかる。
しかし今従える部下はミーノスのみ。
二人だけの作戦がはじまった。
この方面だけは、アリア軍の影が他の戦線に比べ圧倒的に少ない。
司令官はクシャナ大佐でアーマー戦の指揮はクロード中尉を中心に行われていたが、この戦線だけはアリア軍は寡少でほとんど五分の戦況であった。アリア軍は歩兵がほとんどいないのに対し貴族評議軍は約1200人という兵力がまだ残っていた。一部は南門から後退しここに集まった兵力だ。飛び道具を持つ兵も多くアーマーも2機残っていた。
16時30分を過ぎたあたりで、アリア軍南門攻略部隊の<ガノン>4機が救援に入り、アーマーだけだがクシャナ貴下に11機のアーマーが揃った。クシャナは<ガノン>部隊と<ナイアザン>2機で一隊とし、これをクロード中尉に託し敵歩兵部隊に充て、自らは4機のアーマーを率い<グアン・クイム>撃墜に動いた。
さらにこれまで城内で活動していたミーノス大尉が直属の部下10人と途中合流した約110名、計120名がクシャナの元に増援として駆けつけた。クシャナはミーノスを見つけると、歩兵部隊のほうは敵歩兵部隊に向ける指示を出しミーノスだけを呼んだ。
「何をする気ですか? クシャナさん」
「<グアン・クイム>を奪取しましょう。折角の高機動戦艦なんですもの。アレは壊すより貰っちゃった方が得だと思いません?」
実際はこれまで手持ちのアーマー部隊で攻めさせていたのだが、予想以上に防御力があり外から完全に破壊することは困難だと分かった。奪うほうが早い。
「そりゃあそうですが……守備兵だっていますよ!?」
「<ナイアザン>隊で牽制してもらってその隙に私とミーノスさん、二人で中に入って動かしてしまえば早いですよ。機動鍵は私が持っていますし、これだけの戦闘の中です。<グアン・クイム>の艦内に敵兵はもういないと思います」
「そりゃあ……奪えるのならそれにこした事はないですが」
ミーノスはクシャナの力量はよく知っているし上官であるのでその指示に結局従った。
……もし、今の彼女が負傷し片腕だと知ればさすがのミーノスも作戦を拒否しただろう。だがクシャナは鹵獲し中破した<ガノン>のコクピット内で一見元気そうな様子なのでその事には気付かなかった。
二人は<グアン・クイム>の技師として潜入してきた。むろん運用法は熟知しているし、出入り口の数や場所もよく知っている。これまでは守備兵が多くアーマー以外では近づけていなかったが、<ナイアザン>隊が何度か攻撃しその陣形は崩れている。今急襲すれば周囲の部隊を混乱させることができるだろう。勝算は十分ある。
結局そこまで聞けばミーノスも従う以外にない。
戦闘はアリア軍のアーマーと貴族評議会軍残党との間で繰り広げられている。当然両軍ともそこに集中し他の事まで目は届かない。
その隙を突いてクシャナの<ガノン>と、その背に乗ったミーノスは<グアン・クイム>の陰に滑り込んだ。クシャナの<ガノン>が奪取したものでカラーリングが貴族評議会軍仕様であることが接近を有利にした。もうこの戦場でクシャナが<ガノン>を奪った事など多くの敵兵残党の頭にはない。
ミーノスが<グアン・クイム>の非常用扉に取り付き、それを開ける間にクシャナは<ガノン>から降りた。右手には敵歩兵から奪った短剣が握られている。
二人は想像していたより簡単に中に入ることに成功した。しかし中に入った二人は、すぐに艦の異常に気が付いた。艦はすでに稼動していてエンジンも動いている。だけでなく、人の気配もする。確か<グアン・クイム>の扉はすべて閉まっていたはずなのに。扉も機動鍵でロックしてきたはずだ。
「クシャナさんが機動鍵を持っているのに……何故!?」
「成程……そういう事ですか」クシャナは顎に手を当て頷く。「アリア様の破壊命令はこういう事でしたか。機動鍵がなくても動かせたワケですね……でも……」
「でも? 何です?」
「……動かせるなら何故今まで動かさなかったの?」
いいや……そう簡単な事ではないのかもしれない。少なくともアルファトロスでヴァームからこの<グアン・クイム>を引き渡された時「機動鍵はなくさないでね? 動かなくなるから」と言っていたしアリアも姉妹艦の<ロロ・ニア>も同じで機動鍵はもっとも重要なものだと言っていた。基本は、機動鍵が必要なのだ。しかしなんらかの方法を使えば機動鍵がなくても動かす事ができる。そしておそらくその事をアリアが知ったのはついさっきで急遽<グアン・クイム>を拿捕ではなく破壊命令に切り替えたのだろう。
……あくまでクシャナの推理だが、確信をしている。そしてこの重要機密を知っている人間がこの中にいるとすればよほどの重要人物のはずだ。しかし数は多くない。
「武装が必要ですね。後、外にいる部隊の援軍を呼び込みましょう」
戦艦は総鉄張りで防御力が高く一般用オリジナル・アーマーの武装で破壊するのは大変だ。だが内部からであれば破壊はしやすい。もうエルマ粒子の影響で自爆は難しい。武器は格納庫のエンジン修理器具の中に潜ませ持ち込んでいる。
「ミーノスさんは格納庫を開けて援軍を呼んできてください! 私は艦内を警戒します」
そういうとクシャナは残った右手を動かし、右の胸ポケットから機動鍵を取り出した。それを見たミーノスは、その時初めてクシャナが左手を使っていない事に気がついた。
「クシャナさん!? 左腕はどうしたんですか!?」
「大丈夫ですから早く!! 騒がずに」
人は衝撃的な事をすぐに理解するようには出来ていない。ミーノスは腕がないクシャナを見ているはずだが理解はできていなかった。ミーノスは事態が切迫している事を優先し、すぐにその場から離れた。ミーノスが走り出したのを確認し、クシャナも格納庫に向かって走った。
<グアン・クイム>は大きな戦艦ではない。そしてその機体の1/3は格納庫だし二人が入った非常用扉のある通路から近い。すぐにたどり着いた。そこで二人は別れた。ミーノスは戦艦後部のメイン扉に向かい、クシャナは格納庫左奥の自分たちが持ち込んだ機材の山に向かった。幸い誰かが手をつけた形跡はない。
クシャナは機材の山を押しのけ、シートに包まれたあるモノを取り出した。
それは、1mほどある大きな銃であった。弾装の部分が上にあり、そこがえらく大きい。
クシャナがその銃を掴んだ時、通路の奥から敵兵たちが現れたのは同時だった。敵私兵団たちはまさか敵だとは思っておらず、何か警告を叫んでいた。
クシャナは問答無用で銃を飛び出してきた兵士たちに向け、引き金を引いた。
無数の20cmほどの鋭い鉄棒が放たれ、一瞬のうちに飛び出してきた3人の私兵団を蜂の巣にして倒した。
「すごい……これがフルオート・ボウガン!」
エルマ粒子が充満すれば銃器は使えない。そこで対人用としてスプリング式やエルマ粒子式のボウガンが戦場で使われるが、クリト・エのものは単発式が多く、連発式でも装弾方法もクリップ式で5発ほど撃ち終えてから本体に押し込んで装填するものが主力だ。
「さすが大陸連邦製!」
そう、このフルオート・ボウガンはヴァームが手に入れた大陸連邦製のものだ。その発射もクリト・エでは多いスプリング式ではなくエルマ粒子式で反動はあるが威力は段違いで有効射程距離は300mにも及ぶ。装弾数は段違いで、クリト・エ大陸のものが精々5発前後であるのに対し、1弾装で40発ほど入っている。大陸連邦では早くからアーマーに比重を置き火薬式銃は廃れた代わりにこの手の非火薬式の携帯兵器が進化した。
これ一丁あれば、20人ほどの敵兵を一度に相手にすることができるだろう。ただし難点は重量5キロと両手持ち前提の兵器で今のクシャナにはしんどい兵器だ。強い反動も負傷した体に響く。
それでも今はこれしかない。
『マドリード戦記』 王女革命編 45 革命から王となり②でした。
クシャナとミーノス、二人だけの戦闘開始です。
果たして戦艦は奪取できるか、ですね。
王城における最後の戦闘域の話となります。
次回もクシャナ編ですが、衝撃の革命戦の真実が分かります!
そしてもう一つ驚きの展開が……。
もう一つの革命の見せ場になると思います。
ということで、次回もクシャナ編です。
ですが実はまだアリア様の革命編は続きます。まだ終わりません。まだちょっとだけ?続きます。
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




