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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
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『マドリード戦記』 王女革命編 44 革命から王となり①

『マドリード戦記』 王女革命編 44 革命から王となり①



謁見の間に突入するアリア。



そこで、心中した父アミルとレミングハルト候、テスタロッサ令嬢の遺体を目撃する。


この瞬間、アリアの革命は成った。


だが、まだ残党は残っている。


アリアの戦争は、まだ終わらない。

革命から王となり 1

-------------------------






 16時48分……アリアが王宮の謁見の間に突入した時間である。



 謁見の間に飛び込んだアリアが目にしたのは、父アミル、レミングハルト侯爵親子……三人の遺体であった。



「……お父様……」



 アリアは溜息をついた。


 こうなる事は予見していた。驚きも感情の昂ぶりもなく意外なほどの冷静さで現実を受容れた。


 むしろアリアに付き従うアリア軍幹部たちの動揺のほうが大きかった。


 この場に立ち会ったアリア軍幹部は、ミタス少将、ナディア少将、シュナイゼン大佐、ミネルバ大尉の四人だ。ナディア隊とシュナイゼン隊がアリアに合流したのはほんのついさっきだ。政庁の惨状と内苑部制圧の報告はすでにアリアに終わっている。


 状況が状況だ。シュナイゼンがいち早く謁見の間を出て、中に入ろうとしていた一般兵たちを制し、一部の兵力を残し他の階の制圧を命じた。そしてミネルバを呼び、彼女に何かを命じ、それを終えると一人謁見の間に戻った。


 謁見の間には、アリアたちだけが残った。



 アリアは何も語らず、すでに生命の消えた父アミルの傍で膝を付き、自分のハンカチでアミルの顔に飛び散った血を拭っていた。



 ミタスとナディアは無言だ。二人は正規の訓練を受けた将ではなく、このような時どう振舞っていいか分からない。シュナイゼンだけが宮廷や貴族の世界を知っている。彼は遺体の処置についての対応をアリアに聞きたかったが、さすがに父の遺体を前に無言でいるアリアに声をかけるのは憚るものがあり、革命戦で親しくなったミタスの耳元でその旨を伝えた。ミタスは了承し、一人アリアの後ろに立った。



 アリアは気付かない。



 無表情だが、その心痛は想像するに余りある。彼女は誰よりも感情豊かな少女だ。王という立場のため、努めて無表情を演じている事は誰もが分かった。



 ……本来はザールの役だが……と、ミタスは内心思いさすがに気が重かった。



「これからどうする? アリア様」



 ミタスの声で、アリアは立ち上がった。表情に変わりはなかったが、どこか哀しげであった。


「全て終わりました。貴族評議会とレミングハルト宰相、そして父アミルの死を公表し、この戦争を終わらせます。もう敵はいないのだから」

「御遺体はどうします?」

「三人共、鄭重に安置します。父アミルは王の寝室に。ナサル侯爵家の二人は客間に一先ず安置するよう手配をお願いします。その処置はミタスさんにお願いしていいですか?」

「構わんが……ナサル侯爵家二人? この女性はナサル家の人間なのか?」

「確か……レミングハルト候ご息女テレサロッサさんだと思います。8年前の園遊会でお会いした記憶があります。テレサ殿まで死ぬことはなかったのに」


 アリアが王族として最後に公式園遊会に参加したのは8年前……出奔する直前に行われた時で、7歳の時だ。テレサロッサは13歳の宰相令嬢ということで園遊会の華の一人として美しく、よく目立っていたからアリアも辛うじて覚えていた。その言葉に一番驚いたのはナディアだ。ナディアはアミルの寝室で伽に出ていた女たちの顔ぶれの中にいる一人であることを知っている。しかしそれを言わずこの場は沈黙した。


「私はこれから6階の無線室で勝利宣言を流します。ついてくるのはナディアだけで十分ですから、ここの処置はミタスさん、政庁の貴族評議員たちの処置はシュナイゼンさんにお願いしていいですか? 私たちは勝ちましたけど、全てが終わったわけではないですからまだ喜ぶには早いと思います」



 そう。アリアは勝利し、この瞬間からマドリードの全権力を握った。



 だがアリアの表情に喜色は全くなく、声も表情はむしろ哀しさと虚しさが表れていた。これは父アミルを失っただけではないように見えた。


 アリアはついに国を制した。それは本願ではあったが、深層心理には違う面もあった。彼女は国さえ正しく豊かであれば革命など起こさず、静かで穏やかで素朴な生活に埋没することを望んでいた。しかし彼女は立ち上がり、国王の座を力によって奪い取った。これからアリアが進むのは絶対権力者の道であり、この半戦国時代のクリト・エの王の一人として覇道の道に乗り、戦争と政略の大きな奔流に立ち向かわなければならない。その覚悟はむろんあるが、安穏な生活がなくなる事への寂しさはあったのではないかと思われる。




 余談だが……。




 後にこの時代(パラ歴2330年~2353年頃)は<英雄割拠時代>と呼称される。



その中で特筆すべき三大英雄はフィル=アルバード、アーガス=パプテシロス、アリア=フォン=マドリードで、この三人は完全に別格だ。他にアスラ=クレナート、カリウス=レッド、チルザ=バトラン、ヴェスナー=バトランなど数多くの天才英雄が多く生まれ、彼らは皆覇道の道を突き進む英雄として歴史に大きな足跡を残すに至るのだが、元から野望を掲げた英雄はチルザ=バトランくらいのもので、他の者は個人としての野望というより時勢によって英雄になるしかないと決断した人間ばかりで、時勢がなければ皆平穏で平凡な生活と普通の幸せで十分という人間ばかりだったという点は面白い。やがて世界を席巻する<世界統一>という時勢と隠れる事が許されなかった覇者の才能が、各人に平凡な生活を許さず英雄として立つしかない人生を歩ませた。こんな時代も珍しい。以上余談。




 7割のエリアで戦闘は終了した。しかし全てが終わったわけではない。



 というのも、貴族評議会軍には司令官を務める人間がいないため兵士たちは各現場指揮官の判断に任されていた……といえば聞こえはいいが実際のところ放置されていた。そのため彼らは主が亡くなったことを知らず、ただひたすら最初に出された「アリア軍を撃滅せよ」という命令のみに従い戦い続けていた。この連中も哀れといえた。


 どうして物の分かる部隊指揮官を置かなかったのか……レミングハルトの策略という説もあればクレイドがまともな軍人を粗方連れて行ってしまったためという説、純粋に質の低下という説など色々あるが、結局全てが原因であったろう。レミングハルトは防戦しても勝つ意欲などなかったし、クレイドもシーマを去る際軍人として使えそうなほとんど連れて出て行ったし、残された兵士の質がいいはずもなかった。



 しかし飛び切り無能な軍隊は、戦闘の止め時も分からず戦闘の視野が狭すぎるため大敗している自分の姿にも気付かず、降伏することに異常な恐怖を感じていた兵士たちは、結局局地戦に没頭するだけだった。完全な包囲殲滅戦術だから逃げ場などない。これも制圧戦の一つの形だろう。せめてアリア軍の中級幹部くらいの識見を持つ指揮官が一人でもいれば戦争はもっと早く終わっていただろう。



 こんな戦いは長くは続かないし、激しさもない。




 そんな中で、僅か1割にあたる空挺場の局地戦だけは今も激しい攻防が繰り広げられていた。



『マドリード戦記』 王女革命編 44 革命から王となり① でした。



今回から新章ですね。


ついにアリア様、革命成就です。


しかし戦争はまだ終わらず、残党殲滅戦に移ります。


勝利と共に、父を亡くす悲劇に見舞われたアリア様。


まだ彼女の苦難と問題は続きます。


そう、王位は確実となりましたが、国内の戦争全てが終わったわけではないんです。


城内にはまだ残党が残っています。


そして、クレイド伯はまだ群を有しています。


まだアリア様の国内平定は済んでいません。


アリア様は多くの栄光と名誉を受ける歴史の寵児です。


同時に数多くの不幸を背負う、哀しい女王でもあります。


この革命成就まてせは、山道で例えたらまだ半ば……しかも空は晴れ先の道を見上げながら上った坂道です。ですがアリア様はこれから、雲に覆われ険しくなった山道を手探りで登っていくことになります。


彼女の険しい人生を、どうか最後まで見守ってあげてください。



これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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