表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
43/109

『マドリード戦記』 王女革命編 41 王の資格⑥

『マドリード戦記』 王女革命編 41 王の資格⑥


アリア軍、驀進する。


政庁に攻め込むナディア。

激戦を制し、瞬く間に掌握していくナディア。

その勇戦ぶりを、全軍が狂喜した。


そして貴族評議会たちが立て篭もる最上階の議会に到達した時、ナディアは驚愕の光景を目にするのだった……。


 午後16時30分となった。


 アリア軍の攻勢は尋常ではない。堰を切った鉄砲水が際限なく広がっていくかのように、王城ハーツティスは見る見る間にアリア軍の色に染まっていく。最も多く貴族評議軍兵力が残っていた内苑西方面はシュナイゼン大佐の攻勢に耐えられず壊滅したのを機に、ついに第三軍も城内中央に躍り出た。もはやまとまった抵抗勢力はなく、散った残兵程度がアリア軍から逃げるように残っているだけで連中に戦意も戦闘力もない。



 事ここに至り、シュナイゼンは残党処理をカルレント少佐に託し、自らはアリア援護のため第三軍の精鋭200人を引き連れ王宮を目指した。






 ほぼ同時刻……ナディア少将率いる強襲部隊も政庁の中に躍りこみ、激しい大貴族の私兵団を蹴散らしながら大議会室に迫っていた。


 ナディアはアリアの「壊しても構わない」という命令を一番忠実に実行した部隊長であった。ナディアが20機近いアーマーを率いていた事も理由にある。政庁攻略するに際して、ナディアは外部から徹底した集中砲撃を命じ、9階建ての政庁を僅か5分で倒壊一歩前まで破壊しつくしてしまった。ここにアミルはおらず貴族評議会の大貴族と私兵団だけしかいないと分かったのでナディアが攻撃を躊躇する理由はどこにもなかった。


 そして政庁内から抵抗がなくなると、ナディアはヒュゼイン紅機を降り、歩兵部隊250人の先頭に立って内部の制圧に乗り出した。


 白兵戦に打って出たナディアの格好は、異様かつこれ以上ないほど勇ましかった。ナディアは腰に短剣を4本も差し、さらに両手に短剣を持って計6本の短剣を身につけ、疾風の如く先陣切って突入し、政庁内で生き残っていた私兵団を圧倒的な剣術で制圧していった。短剣といっても刃渡り50cmはあるのだ。


 ナディアの後には歩兵部隊がついていたが、彼らが突き進むナディアの後に追いついたときにはもう敵兵は死体と負傷兵と敗走兵しかおらず、誰も向かってくるような勇気は残していなかった。アリア軍兵士たちはナディアの鬼神のごとき戦い方に狂喜するより恐怖すら感じた。そして改めて彼女がアリア軍の中でミタスと並ぶ白兵戦技の達人であることを今更ながら思い出し、自軍の勝利を確信した。ナディアが比類なきアーマー・パイロットであることは全軍知っているが、ここまで白兵戦の達人であることは知られていない。


 この場にいるアリア軍の兵士は突入部隊を任された精鋭たちだ。内心ナディアの地位を妬む人間がいなかったわけではない。幼馴染で天才パイロットというだけで将軍の地位は過分ではないか。だがそれらやっかみは邪推であることを全員が知った。ナディアはアリアの片腕として並び立つに十分な戦闘力と才覚を持っている。


 ミタスの戦いは巨大な戦斧槍を振るう剛技であるのに対し、ナディアの戦い方は素早く無駄がなく、それでいて洗練されている風のような剣技を使う。彼女は疾風の如く敵陣内に飛び込み、敵が反応するより早く両手に握った二刀流の短剣を奮い、敵の首や頭を的確に切り裂き屍を量産していった。彼女の通り過ぎた後には、首なしの屍がそこらじゅうに溢れた。これも、敵対する私兵団を恐怖させた。

そして存分に斬り終わると、ナディアは持っていた血で真っ赤に染まった短剣を惜しげもなく敵兵に投げつけ、新しい短剣を抜いた。ナディアが腰に差した短剣は、全て斬りすぎて血と脂に塗れ刃こぼれし使えなくなった剣の予備であった。


 むろん他の兵士たちもナディアに負けじと激しい攻撃を繰り出すものだから、ナディア隊は少数ながら凄まじい驀進を続け、瞬く間に各階を制圧していった。



「おしっ! じゃあ次いくから、ヨロシクね!」



 ナディアの命令は全てこんな感じで、敵を見つけるとその場にいた兵士たちに適当に自分についてくるよう命じ、そして制圧すると次の目標をその場で命じ制圧エリアを広げていった。ナディアは特に部下を選ぶ事はなく階級なども気にせずその場その場に立ち合わせた兵士にそれぞれ命じた。なので命じられた兵士たちは自分たちの中で部隊長をその場で選出して作戦に当たった。かなり乱暴だったがこういう制圧戦には向いていた。約250人の兵士たちは、皆全員がナディアの手足で直属部隊のような一体感があり全員がナディアの声の下、戦いを進めた。


 貴族たちの私兵団も、ここが最終防衛線ということで作戦家はいなかったが腕自慢の剛の者が数人はいた。大斧使いで一振りで3人を切ったというバドン=フォン=ダトリアスや、大型ボウガン使いのデスメリア=クトンなど他家にも聞こえた豪傑はいたのだが、バドンはナディアと数合斬り合うも、ナディアが投げた短剣が腹に刺さり隙が出た瞬間首を切り落とされ、デスメリアはアリア軍兵士を10人射殺した時異変を知ったナディアが駆けつけ、1分ほどの攻防戦でナディアに右腕を切り落とされた。その後も奮闘したが他の兵士が投げた短剣に胸を割られ弱ったところを五人の兵士に斬りつけられ絶命した。


 この僅か20分ほどの戦いで、ナディアは一人で50人は死傷させただろう。ナディアの姿を見て敗走した兵の数はその三倍はいた。それらも結局ナディア隊の兵士に絡め取られた。戦後になって分かったが、貴族の私兵たちの中で無傷で生存した敵は3人だけだった。大激戦である。



 最上階の大議会室に辿り着いたのは、ナディアの他8人の兵士しか残っていなかった。他はまだ階下で戦って追いつけていない。


「さあ、ここから本番だね♪」


 勇ましく微笑むナディア。しかしさすがのナディアも息が荒く、胸が大きく動いていた。短剣も、ついに最後の一本まで減り、その短剣も血と脂でベタベタだった。さすがに見かねた兵士が持っていた短剣と手拭をナディアに渡した。もっとも交換した短剣も血で染まっていたが。


「アリガトー! はぁ……ちょっとバテたけど、ここが正念場だからね! あたしは前半暴れてないから皆よりは疲れは少ないよ、きっと!」


 ナディアは笑って汗を拭い、そのまま手拭を首にかけ身構えた。

 兵士二人が前に出て、大会議室の扉を開けた。


「…………」


 異様な気配に、これまで突き進んでいたナディアの足が止まった。

 扉が完全に開いた。中は暗く、声は何も聞こえない。

 ナディアは、息が整うまで様子を見た。30秒ほどは待っただろうか……しかし何の反応もなかった。



「なんか変だね?」



 ナディアは周りにいる兵士たちの顔を見合う。兵士たちも何が起きたのか分かる者はいない。


 意を決し中に入ろうとしたナディアだったが、追従していた兵士がそれを止めた。


「何か罠かもしれません! 我々が先に中に入ります!」

「えー……危険じゃん」

「我々は大丈夫です。しかしナディアさんに何かあればアリア様に叱られますから!」


 ナディアは他の高級士官がいない場所では部下たちから気軽に「ナディアさん」と呼ばれ慕われている。他意はなくナディアもそれが気楽なのでナディアのほうから気さくにそう呼ぶよう言われているからだ。もっとも彼らのナディアに対する尊敬と愛情は本物で誰も彼女をアダとは思っていないし蔑んでもいない。


「任せた。ちょっとでも変だったらすぐ呼んでね!」


 そういうとナディアは二歩ばかり下がり、すぐに8人の兵士たちが中に入っていった。

 兵士たちが悲鳴に似た声でナディアを呼んだのは、入って30秒ほど経った時だった。


「どうしたの!?」


 ナディアが大議会室に飛び込む。室内は薄暗く明かりが灯っていない。しかしナディアは夜目が利くしそこまで暗いわけではない。


 大議会室は大貴族46家が集う会議室で広く大きい。中央には貴族を代表する貴族評議会用の円卓があり、その南側に宰相席と国王席がある。


 ナディアにも、すぐに異変が分かった。


 この部屋には、動く人間は誰も存在していない。


 そして咽かえるようなアルコールの甘い匂いが部屋中に充満している。


 ナディアが部屋中央に来た時、全ての正体と全ての出来事を知った。


 部屋の中央では、貴族の正装に身を包んだ18人ばかりの遺体が無造作に転がっていた。彼らの傍らにはいくつもの酒瓶が転がり絨毯に大きな染みをいくつも作っていた。



「…………」



 ナディアは息を飲み込んだ。



「ナディアさん!! これは!?」


 兵士たちも当惑と動揺を隠しきれない。


 ナディアは一番近くに倒れている貴族……偶然だがレイトン中佐の本家であるナムルサス公爵の遺体に近寄り、その様子を確認した。そして何が起こったか全て理解した。


「死んでる」

「…………」

「多分、毒を煽って死んだ。まだ体が温かいから、死んで間もないと思う」

 そういうとナディアは短剣を鞘に収めると、大きな溜息をつきその場に座った。

 恐らく……アリアとレミングハルト候の対談の後ではないだろうか? レミングハルトがアミル王を撃ったと知り、絶望し生きる希望を失った大貴族共はこれまで浴びるように飲んでいた酒に毒を入れ、自ら命を絶ったのだろう。


 彼らにしてみれば絶望する以外なかったのだろう。苛烈なアリアの最終勧告を無視した上アミル王にまで手をかけてしまった。彼らの感覚では到底許されるはずがなく、革命が成された時彼らは革命の常としてこれまでの罪を問われた結果公開処刑の場に連れられる姿を予想した。これまで家畜のように扱い、人とも思わず見下してきた民衆の前に晒され石を投げられ侮蔑と怒りと好奇の眼で見られ、その末惨めに殺されることは彼らの大貴族としてのプライドが許さず、またそんな扱いに耐えられるだけの神経は持ち合わせていなかった。彼らは自分の誇りと小心から酒と共に自殺を選んだ。そういうところだろう。


「楽な死で逃げやがって……これだから大貴族の馬鹿の傲慢は度し難いんだ。アンタらなんか外で戦ってる私兵団のボンクラの足元にも及ばない!」


 先程まで戦っていた私兵団も、権力側にいて大なり小なりそのおこぼれに与ってきた連中で褒められた連中ではないが、それでも主家のため必死に戦っているではないか。しかもまだその戦いは階下で今も続いている。彼らもまた最後の最後で大貴族たちに捨てられたのだ。自害するなら自害するで告知して死ねば、私兵団も無駄に血を流すことなくナディアの部隊の被害も出る事はなかった。


 そう思ったとき、ナディアは立ち上がった。


「皆! この事を下で戦ってる全軍に伝えて!! 早くっ!!」


 大貴族たちが全員死んだと分かれば私兵団の抵抗も終わるはずだ。両軍命を無駄にせず済む。

 ナディアの意図は8人の兵士全員が理解した。彼らはすぐに部屋から飛ぶようにして出て行く。ナディアも出て行こうと思い出口に向かおうとしたが、足が縺れその場に躓いた。

 疲労が一気に襲ってきたのだ。

「あははっ……ちょっと……疲れた、かも」

 これまでは気が張り、頭脳が疲労を感じていなかったのだが貴族たちの集団自殺を見て、これまで張り詰めていた気力を僅かに緩めてしまった。その弛緩によってこれまで積み重なってきた疲労が一気に足に来たのだ。この政庁制圧戦でも十分激しい戦闘だったが、昨日からアーマーでずっと移動し、その後激しいアーマー戦で休む間もなかった。鍛えているとはいってもナディアはまだ18歳の少女なのだ。体力が突出してあるわけではない。肉体的にも精神的疲労も限界に近い。それはナディア本人にも分かっていた。


 が……そこはナディアである。


「アリア様が……まだ頑張ってるンだもん。ここで根を上げちゃあみっともないよ」

 ナディアは感覚が鈍くなった自分の足に二発拳骨を加え活を入れると、ゆっくり立ち上がり部屋を出て行った。




 この時……アリアの革命は成就した……と言っていいだろう。


 後は、政治の問題だけが残っている。




『マドリード戦記』 王女革命編 41 王の資格⑥でした。



今回はナディア編ですね。


アーマーではなく白兵戦の指揮官、白兵戦の達人としてのナデイアの活躍でした。


本編でもあったとおり、ナディアは白兵戦も相当強いです。


アリア様より強いです。

ミタスと比べるとどうだろう……この二人、仲はいいしお互い稽古はしあう仲ですが勝敗はつけたことがありません。ちなみに今後も二人の勝敗はついていません。


多分、試合なら互角。

技術は甲乙付けがたい。

だけどもし仮に殺しあえば、最終的には不利を感じたナディアが逃げるのでミタスの勝ち。

総力戦なら体力のあるミタスがやっぱり勝つ……気がします。

軍の統帥はミタスの勝ち。

諜報戦やゲリラ戦ならナディアの勝ち。

アーマーになると勝負にならずナディアが圧倒的に勝ち……。


という感じでしょうか?

クリト・エ大陸では二人共屈指の英傑であることは変わりないと思います。


そんなナディアの大活躍の回が今回でした。


さてさて革命戦……これで政庁もアリア軍が制圧しました。

王宮も時間の問題……他も時間の問題……だけどレミングハルト候はそれらも計算している……。


ということで、革命はまだ完遂していません。まだドラマが残っています。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ