『マドリード戦記』 王女革命編 40 王の資格⑤
『マドリード戦記』 王女革命編 40 王の資格⑤
秘密通路の存在を確信したアリア。
すぐに対処すべく動く。
そして一方……王宮のそう遠くない場所で、父アミル王は目を覚ました。
彼は最後の幕を下ろすため、謁見の間むに向かう。
この状況だ。王城ハーツティスにもある……と考えるしかない。
でなければレミングハルトの行動に説明はつかない。
アリアはレミングハルトがただの愚かなだけの大貴族ではないと思っている。あの男は優秀だ。
「3階と6階に無線室があったはずです。部隊半分は3階無線室に向かいクシャナに<グアン・クイム>の制圧の命令を! 残り反隊は私と共にレミングハルト候を追います!」
王宮は6階建てで、アリアが突入した4階と3階、アリアの部隊が突入した1階……これらの内半分ほど制圧した。恐らくレミングハルトたちは階上に逃げたのだろう。王の執務室や寝室、王の家族が住んでいるのは6階だ。もしそういう隠し通路があるとすれば王の身近に作るだろう。
「王の居室に向かいます! ミタスさんは一緒に来て下さい!!」
「了解だ」
アリアは口頭でクシャナへの命令を告げると後ろを振り返ることなく小走りに廊下を駆ける。ミタスは3人だけ連れ残りは3階に向かわせた。
なんと皮肉で因果な話か……アリアは心中穏やかでなかった。
今向かっている場所は、8年前アリアが闇世の中、導師フォルサムと共にこっそり王アミルに別れを告げるため登った道だ。そしてアリアは去った。だが王の居住区にそんなものがあったのならばどうしてアミルはそこから脱出しなかったのか……どうしてアリアにその事を伝えなかったのか……分からない。
いや……アミルは覚悟したのだ。
アミルは選んだのだ。自分を犠牲にする事を。全ての悪意をまとめるための道具に生きるという決断を。
全て……アリアがいたからだ。
アリアを希望とするため、一人の英雄を世に出すため、アミルは犠牲になるのだ。
ヴァームも犠牲となった。
多くの兵や民も犠牲になったが、アミルとヴァームの二人はそれとはやや違う。この二人はアリアの秘密を知り、才能を知り、ならずとも良いのに高位の身分や名声まで捨て自らの意志で犠牲を選んだ。
アリアは、一瞬……ほんの一瞬だけ、自分の運命を呪った。しかし迫る現実を前に、すぐに迷いを撃ち消した。
「…………」
アミルは、そっと目を開けた。
そこは自分の寝室であった。
すぐ近くに温かい人の気配を知り、僅かに頭を向けた。
驚くほど近くに金髪の女がいて、アミルの腹部から流れる血を押さえていた。
「ここは、私の部屋か……」
「陛下。喋られては傷に響きます。お静かに」
「なんだ、私は死んでいないのか」
アミルは上半身裸であった。レミングハルトが放った銃弾は腹部を貫通していたが急所は外れていたようで痛いが苦しくはない。傷口は布で何重にも巻かれていた。
女は二十歳前後……見知った顔だ。何度か伽にきたことのある女だ。名前は知らない。
アミルは僅かに上体を起こした。
部屋にいるのはこの女だけだが、扉の前ではレミングハルトの私兵が立っているようだ。そして四方から激しい戦闘の音が聞こえる。窓の奥に見える9階建ての政庁から、煙が上がっているのが目に入った。先ほどまであれはなかったはずだ。とはいえまだ陽は高く、撃たれてからそう時間は経っていないだろう。
「私をここに連れてきてくれたのは君かね?」
「レミングハルト侯がお待ちです、陛下」
「相変わらず強引で諦めない男だ」
「陛下。お時間がありません」
「だろうな」
これだけ戦闘音が近いということはもうそこまでアリアが迫っているという事だ。王宮は広いとはいえアリア軍が制圧するにはそう時間は掛からない。
アミルは体を起こすと、近くにある絹のローブを掴んだ。
傷は痛むが、体はまだ動くようだ。
「謁見の間に連れて行ってくれないかね?」
「執務室にお連れするよう言われておりますが?」
「謁見の間だ」
アミルはそういうとゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと自分の机に向かった。そして引き出しの中から絹布で包まれた小物入れを取り出し手に持った。
「レミングハルトに伝えてくれ。この国を去る前に二人だけで一杯酌み交わそうと。私と奴とは幼馴染だ。そのくらいの時間をくれても罰は当たらぬ」
そういうとアミルは机の上に置いてある寝酒用のブランデーのボトルを手に取った。
「悪いが君……グラスを二つ、持って来てくれるかね?」
「…………」
「王として、最後のお願いだ。レミングハルトに3分だけ私のための時間を割いてくれと伝えて欲しい」
「テレサです」女は自分の名を名乗ると、恭しく頭を下げると部屋を出て行った。
それを見たアミルはブランデーのボトルを机に置くと素早くその栓を開ける。そして小箱から小さな小瓶を取り出し、中の液体全てをブランデーの中に入れ混ぜた。
これは自殺用にとナディアがアミルに託して行った毒薬だ。
気が付かれないよう小瓶をそっと机の引き出しに戻すと、満足そうにボトルを抱きしめ、ゆっくりと部屋を出て行った。
『マドリード戦記』 王女革命編 40 王の資格⑤でした。
色々出てきました!
秘密通路!
王アミルの覚悟!
アリアの焦燥!
事実上革命の成功とその後始末!
このアリア様の物語『マドリード戦記』は、アリア様が国を手にして終わりではありません。
王女革命編は、完全に国を手中にし、平和を確保するまでが第一章の物語の区切りです。
革命の最後の幕が上がります。
ということでこれからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




