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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
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『マドリード戦記』 王女革命編 39 王の資格④

『マドリード戦記』 王女革命編 39 王の資格④



王宮に突入したアリアとミタス。


貴族の子女たちの避難を優先させたため、中々先に進めないアリア。

しかしレミングハルトはもう逃げられない……そう思っていたアリアだったが、ある可能性に気付き愕然となるのであった。

王の資格 2

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 もはや革命戦の形勢は決した。



 アリア軍制圧部隊は内苑部に達し、ナディアもミネルバ分隊と合流して政庁攻略を始めた。そしてアリア本隊は会談のため王宮内に進入していたのでそのまま王宮攻略を開始した。空挺場も飛行戦艦<クアロノス>はクロード中尉らが沈め、<スサノーテ>は上空の<ミカ・ルル>との砲戦によって飛行不能に陥っていた。



事実上は落城したといっていい。



 アリアに残された課題はただ二つ。アミル王の確保と、レミングハルトらの逮捕だ。



 王宮制圧のため、ついにアリアはヒュゼイン白機を降り自ら短剣を取った。万が一を考えヒュゼイン白機には<ナイアザン>が一機残り守護している。さらに貴下から2機を未だ制圧できていない空挺場の援軍に回し、残り6機のアーマー部隊と250人は王宮正面から突入させた。アリア護衛の兵力は僅か20人である。しかしこの中には一騎当千のトジーユン=ミタスが入っている。



 アリアとミタスは、アミル王とレミングハルトを探し広い王宮内を駆け巡っていた。



 レミングハルトらを見失ったのは僅か数分の事であったが、探索には予想以上の時間がかかった。というのも、王宮ということで主に貴族評議会や貴族院に属する大貴族の妻子や女使用人などが思ったより多くいて、彼女らは抵抗こそしないが突入してきた兵士を見て恐慌し大きな騒ぎを起こす。平民の兵士たちがどれほど危害は加えないと言っても聞かず、結局アリアが直接身の安全と避難指示を出さなければ落ち着いてくれなかった。



「貴族の女ってのは皆あんなに騒がしいものか?」

 5家族目を保護した時、ミタスはうんざりとした顔で入口の扉の前に寄りかかり、布切れで愛用の戦斧槍についた血を拭っていた。保護ばかりでなく遭遇戦も多く、ミタスはもう30人ばかり切り倒した。


「私に聞かないで下さい。私は貴族なんてザナドゥ家くらいしか知りません」


 アリアも妻女たちの露骨な悲鳴に嫌気がさしているようだ。


 むろんアリアも焦っているし気が急いでいる。父アミルの容態も気になるしレミングハルトの行方も気になっている。しかし今はそれどころではなく、まさか足止めのために貴族の妻女をまとめていたのではないか、と思うくらいだ。実際は保護という名目で人質にとっていたという事だろう。大貴族たちにしてもアリア軍の決起で民衆に勢いが出た今、領内にいるより王城の王宮にいるほうが安全だと思って集まっていたのだろう。そこに彼女たちにとって想像もしないような大攻城戦が起こり、ついに兵士たちが雪崩れ込んできたのだ。そのひ弱な精神が限界を超えパニックを起こすのは無理からぬ事ではある。


 こうなった時、むしろ使用人たちのほうがしっかりしていた。ほとんどの場でアリアはその場に居合わせた使用人たちに妻女たちの監視と保護を命じ処理してきた。兵士は割くには貴重だし、攻撃側で気の立っている男の兵士が貴族の妻女のヒステリーに中てられかっとなり暴力行為に出る危険だってある。温厚で強靭な理性を持つアリアですら身勝手に騒ぐ貴族妻女に苛立ちを覚えずにはいられないのだ。


「クシャナやユニティアさんが特別過ぎたんですね」

「あの二人と比べるのは間違いだ。あの二人なら、むしろ剣を取って立ち向かってくるだろうよ」

「それはそれで困ります。向かってくれば戦わなければいけません。できれば殺したくはないですし」

「下手に殺せば悪評になるしな。それが制圧戦の難しさ、か」

「本当は第三軍到達まで待てば楽なんですけど、そこまで時間は待てない」


 この手の問題は大軍でもって冷静に当たれば対処できるしシュナイゼンの冷静な対応も期待できるのだが、まだ第三軍は内苑部の制圧にかかったばかりで時間がかかる。ナディア隊のほうはアーマーが主力で政庁の制圧部隊だから王宮には呼べない。


 もっともこの点アリアの手落ちもあった。

さすがのアリアもこういう我侭でヒステリックな荷物がたくさん出てくる事は想定していなかった。こういう場合、女性兵に担当させるといいのだが女性兵はほとんど戦闘の激しくないザール軍に配備している。


「私たちでレミングハルト侯を見つけないと」

「この状況下で奴は逃げ切る気なのか?」

「多分。逃げる算段はあるはずです。父を連れて行ったのはまだ諦めていないからだと思います」

「王城丸ごと自爆する、とかはないか?」

「それはないと思います。その危険は考慮しましたが」


 自棄っぱちとなったレミングハルト候らが自爆したり、自爆をネタに抵抗することは当初から考えられた。その動きがあるかないかは先に潜入したナディアが入念に調べたし、以後残ったクシャナとミーノスもその点留意し探らせた。少なくともアリアが知る限りそのような細工はなされなかったし、今となってはエルマ粒子の拡散は高濃度で自爆も出来ないだろう。


「逃げるとすれば戦艦に乗って逃げるしかないはずです。しかし<グアン・クイム>は動かせない……それはレミングハルト侯も知ったはずですし……」

「動かせない? 何故だ? 破壊したんじゃないのか?」

「破壊には失敗しました。ですが機動鍵はクシャナが持っているそうですから」

 その事はミーノス大尉から無線で報告を受けて知っている。いくら最新鋭戦艦といえどもエンジンに火がつかなければただの建物だ。砲戦も出来ないし飛行石を使っていないから浮かす事も出来ない。

 アリアがクシャナに課した命令は<グアン・クイム>の無力化で、方法は一任している。機動鍵を奪い無力化できたのならそれでいい。


 が、ミタスの考えは違った。


「ちょっと待ってくれ。破壊したわけではないのか? 機動鍵だけか?」

「破壊するにはかなりの砲撃が必要ですし、クシャナにはそこまで兵がありません」

「今のところ<グアン・クイム>は動いていないんだな!? 全く」

「動いていません。動かせるならばとっくに動かしていると思います」

「違う! それこそレミングハルトの策だ。ヤバイぞ、レミングハルトはそれに乗って逃げる気だ」

「クシャナが機動鍵を持っている事をレミングハルト侯は知らないはずです。それにその気なら全力をもってクシャナを襲うはずです」


「機動鍵がなくても動かせるんだ! あの最新鋭機は!!」


「ええっ!?」


 アリアは思わず大きい声を出した。そんな事初めて聞く話だ。その予想外のアリアの反応にミタスは目を覆った。てっきりアリアはこの事を知っていると思い込んでいた。


 アリアはこの場の後始末を一兵士に命じ、ミタスと共に廊下に出て歩き出した。

「本当なんですか!? 動かせるんですか!? 戦艦を」

 最新機に精通しているアリアも初めて聞く話だ。

「ヴァームがそう言っていた」

「いつです?」

「ペンドル事件の時だ。俺とナディアで聞いたんだ。『もしこの戦艦を強奪しようとしたらどうすればいい』と。当然機動鍵はない状態で出来るのかと。ヴァームは『ここだけの超極秘だけど方法はある』と言ったんだ!」



 ペンドル事件の時、アリアたちはヴァームの<ミカ・ルル>に乗り難を逃れた。アリアとヴァームが色々会話を交わした後、たまたま艦橋でヴァームとミタス、ナディアの三人は鉢合い、その時雑談で「もしこの戦艦を俺たちが強奪するにはどうしたらいいか」と聞いていたのだ。


 ヴァームは言った。



「出来るか出来ないかというと出来るわ。そりゃあ鍵が奪われたり無くしたら大変でしょ? クリト・エはそこまで気にしないけど大陸連邦は真面目だもの。ちゃんとそういう対策はあるわ。ま、極秘中の極秘だから教えないけどネ」



 <ミカ・ルル>も<グアン・クイム>も大陸連邦製だ。基本設計やコンセプトは同じはずだ。当然動かす方法はあるという事になる。


 それを聞きアリアは愕然となった。


 販売したのはヴァームだ。ヴァームはアリア派だからレミングハルトたちには教えなかっただろう。しかし今の代表はヴァームではなくユイーチ=ロレンクルだ。彼はアリアの師だが、アリアに対して屈折した陰湿な愛情を持っていてアリアの試練となる事なら喜んでやる。問い合わせを受ければ恩着せがましい態度で教えるだろう。


 そう考えればレミングハルトが今まで悠長に時間を稼いでいた理由も納得できた。もし早い段階で逃げ出せば上空で<ミカ・ルル>に捕捉されるし、それをなんとか突破してバルド王国に向かったとしてもその途中で<アインストック>に捕捉される。そのためにアリアは<アインストック>を攻城戦では使わず遊撃にした。理由の一つはそこにある。もっとも一番の理由は<アインストック>は攻城戦をするには大きくビームの威力も高すぎて友軍に影響が出る危険が大きいとレイトンが進言したからだ。今では<アインストック>の事はアリアよりレイトンが詳しい。


 それはともかく……序盤、中盤では捕捉され撃墜の危険がある。しかし戦いが終盤となり、<ミカ・ルル>他機動兵器もほとんど地上戦に投入されるようになれば今度は空に空白が生まれる。現に今、上空は開いている。



 成程……先に対談して分かったが、レミングハルトはさすがに有能で他の貴族たちとは違う。あれだけ頭脳の回転が早く用意周到な男が無計画であるはずがない。



 しかし……と、アリアは王宮の廊下の窓から<グアン・クイム>を見た。距離は直線で400mはあるだろう。この王宮周りと空挺場はアリア軍の兵力は他に比べて少ないとはいえここからは距離があり隠れられる建物も少なく、そんな動きがあれば空挺場担当のクシャナ隊や上空の<ミカ・ルル>が気付くはずだ。



 もしかしたら……あくまで噂ではあるけど……。



「非常用の秘密の脱出通路のようなものがあるのかもしれません。ここは王城ハーツティス中心の王家が住む王宮です。そういうものがあるのかも。王城ハーツティスは歴史ある城ですから……生憎私は王宮ではほとんど生活しておらずその手の話は聞いた事はないですが」


 王城や要塞にある貴人を逃がすための隠し通路……その手の話は昔話などではよく聞くが現物を見たことはない。勇猛果敢攻勢第一主義のザムスジル帝国にはこの手の噂は聞かないが、諸国の王城や要塞にはよくあるという話だ。前時代的だが大陸連邦でもソニアとドロムにはこの手の隠し通路を備えた城や都市が現にあり第一次世界大戦でも使用された。



『マドリード戦記』 王女革命編 39 王の資格④でした。



ほぼ勝敗は決した今回の革命。


ここに来て突如でてきたレミングハルト候脱出の可能性。


王城とか要塞とかによくある<秘密脱出路>ですね。

アリアは王女ですが王城育ちでないので知らない……

しかし、あると考えなければレミングハルト候の行動に整合性はとれない……


この執念場で兵力の活動が限界点に近くなっての、まさかの展開です。


予想通りにいかないのが戦争ですからね。

レミングハルト候だって元々城を枕に討ち死にし華麗に最後を飾るなんて考えていないキャラです。

戦争の勝敗は決しましたが、政治の戦いはまだ終わっていません。


これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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