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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
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『マドリード戦記』 王女革命編 37 王の資格②

『マドリード戦記』 王女革命編 37 王の資格②



周囲を驚愕させたアリアの王位返上宣言。


だがアリアは革命を投げたわけではなかった。


むしろその逆、アリアは革命を選んだ。


そしてそのアリアの姿に魅入られた三人が、アリアに対する忠誠の声を上げるのだった

 アリアは真っ直ぐレミングハルトを見つめながら宣言した。



「この場で私はマドリード国王女の地位も、王位継承権も、23代王位も棄てます。そしてただの平民アリアとなります!!」



「なんですと!?」



「そしてただの平民として改めてマドリード国政府と現国王アミル=フォン=マドリードに対し、宣戦を布告します!! マドリードを滅ぼし、新しい国を作ります!!」



 王女が革命を起こす……というのが理屈に合わなければ、ただの個人になればいい。


「私は今ここに全てを棄てる。もし王女ではない私に従えない者は戦線からの離脱を許可します。無理強いはしません」


 全く予想もしていなかったアリアの発言に、むしろアリア軍のほうに動揺が広がった。




 その時だった。



 ヒュゼイン白機のコクピットに座っていたミタスが立ち上がると、黙ってアリアに無線機のマイクを渡すよう手を伸ばした。


 ミタスはマイクを受け取り、アリアを一瞥しレミングハルトを見た。



「俺はトジーユン=ミタス。平民の傭兵だ。アリア=フォン=マドリード王女殿下に雇われ革命軍を率いてきた。そのアリア殿下が王女の身分を棄てた以上、俺との契約はなくなった。だから俺は自由だ」


 その言葉にアリアは思わず息を呑み、逆にレミングハルトは一笑した。



 そして……その後のミタスの言葉が、歴史を急加速させた。



「そして、今ここで高らかに宣言する。俺、トジーユン=ミタスは、アリア様に永遠の忠誠を誓い、この生の続く限りアリア様に仕える事を誓う!!」

「……ミタスさん……」

「マイクをお返しします。アリア様」

「!!」

 ミタスはそういうとその場で傅きながらマイクを差し出した。


 この瞬間……ミタスは雇われ将軍ではなく、アリアの臣下となった。アリア王女ではなくアリア個人に忠誠を尽くすと言った瞬間、彼が手にしていた<白紙委任状>は消えたも同然なのだ。<白紙委任状>のことは知らなくても、アリア軍はミタスが雇われ将軍である事を知っている。そして彼がたった今、報酬を棄てアリアに無償の忠誠を誓った事は分かった。



 そう、彼は言った。これまでのように「姫さん」とは言わず「アリア様」と。

 そして、それはミタスだけではなかった。

 <ミカ・ルル>の無線と拡声器を通じて、もう一人の人間の宣言が行われた。



『あたしはナディア=カーティス! ヒュゼイン紅機パイロット。生まれはアダ!! あたしもアリア様に永遠の忠誠を誓う! 王女様とかアダの解放とかアダを代表してとか関係なく、一個人としてアリア様の命令にのみ従う!! たとえアリア様がアダに落ちる事があったとしても、永遠に死ぬまでアリア様を主人として戦い続ける!!』


 ナディアはヒュゼイン紅機の無線からの宣言だった。


 ミタスの宣言もだが、ナディアの宣言もアリア軍を興奮させた。彼女はクリト・エで最下層の人間以下の扱いを受ける階級であるアダの出身であることを高らかに宣言してみせたのだ。そんなナディアが国宝機ヒュゼイン紅機に乗っている。この差別のない世界こそアリアの望む新しい世界の姿ではないか。



 そして、もう一人宣言を行った。



『わたくしマドリード国子爵家クシャナ=フォン=レーデルと申します。このような場に突然参加することをお許し下さい。わたくしも、平民になられたアリア様に終生忠誠を誓いますわ』


「クシャナ……!」

 アリアは顔を上げた。クシャナの声は久しぶりで、元気そうな声を聞き自然とアリアの口元が緩んだ。


 クシャナはクロード中尉の<ナイアザン>から無線機を借り、喋っていた。


『アリア様、お聞きですか? 我々アリア軍は幹部から一兵士に至るまでアリア様が大好きで大好きでたまらない馬鹿の集まりですわ。だからアリア様が王位を棄てようともマドリードを棄てようとも、平民になろうとも関係ないんです。貴方は私たちの唯一無二の王なんです。貴方は私たちの夢と希望と未来を明るく導いてくれる方なのでしょ? なら私たちは全力でお仕えするだけです! 他の皆さんもそうですよね?』


 クシャナがそう問いかけたと同時に、アリア軍は一斉に歓呼の声を上げ、王城ハーツティス全域に渡って空気を振るわせた。その歓声は中央にいるアリアの元にも届いた。



『だから皆もあえて無線機に走らなくていいですよ? 無線が混線すると大変ですから』



 最後のクシャナの言葉はジョークだった。もっとも、冗談ではなく本当に無線機に駆け寄った高級幹部は何人もいた。シュナイゼン、カルレント、トドーレス……彼らもまた無線機に走ったが、クシャナの言葉を聞き足を止め、それぞれバツが悪そうに苦笑した。



 これこそ……後に<アリア教>と呼ばれる、マドリードにではなくアリア個人に対する異常に妄信的なアリア崇拝に繋がる歴史の潮流……の源泉であっただろう。ミタス、ナディア、クシャナの三人によって生まれたものといっていいかもしれない。


 レミングハルトは言うべき言葉を失った。このような展開は予定していなかった。アリアを政治論の弁舌と理屈で煙に巻き、アリアを散々困惑させなんとか自分だけをこの場から逃れさせる……それがこの対談の目的だった。アリア軍の団結を強めるためではない。



 そしてレミングハルトはこの時、初めてアリアを見誤っていた事を知った。アリアはあくまで王女という枠内で生きていて、国土回復も革命も王女としての責務の延長だと思っていた。しかし現実は逆であった。アリアは王女として復権のため革命を起こしたのではない。国民の一人として革命を志した王女だったのだ。彼女が王女であるということは本質としては関係ない。もしアリアが平民でも、やはり革命を起こしただろう。



 アリアの名を連呼する兵士たちの声はさらに大きく割れんばかりとなった。




『マドリード戦記』 王女革命編 37 王の資格②でした。



「マドリード戦記・王女革命編」のクライマックスの一つが、今回の話になりますね。


アリア様は革命を選び王女を捨てました。


それに対し、これまであくまで客将だったミタスの臣下宣言。


そして、ナディアの身分を越えた宣言。


最後にみんなの気持ちを代弁したクシャナの宣言。


こうして、アリア様は王女という立場ではなく、名実とも王になった瞬間だったといえると思います。


さて……もうじきアリア様の革命は成功するか……というと、実は違うんです。


まだ彼女が女王となるにはいくつか試練と山場が残っています。


ということで、これからもアリア様の活躍と英雄たちの活躍を楽しんでもらえればと思います。



これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。

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