『マドリード戦記』 王女革命編 36 王の資格①
『マドリード戦記』 王女革命編 36 王の資格①
宿敵、宰相レミングハルト候と対峙するアリア。
激しい舌戦を繰り広げる両者。
そして全軍が見守る中、アリアは驚愕の宣言を下す!
王の資格 1
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16時00分。
アリア軍と貴族評議会軍の休戦となって30分が経過した。
指定された部隊……この場合アリアの部隊になるが、アリアがこの時率いていた部隊以外は現戦闘場所から動く事は出来ない。それぞれ直属直営の部隊だけが同行を許されている。それがクリト・エ大陸での一般的な戦時法だ。
これに一番歯痒い思いをしたのはナディアだろう。
「くそ……こんな馬鹿たちのせいで……」
ナディアは忌々しそうに周囲を取り巻く貴族評議会軍を睨む。
尚、休戦中アーマーは戦闘行為を中断している証明としてキャノピーを開け周りに姿を曝さねばならない。ナディアの周りには貴族評議会軍約150人が取り巻いているが苛立ちはそのせいではない。実はナディアはアリアと合流するまで後120mまで接近し、お互いの戦闘音が直接耳で聞き取れるまで来ていたのに後一歩及ばずアリアの直営部隊として同行することが出来なかった。
アリアに従った兵力はアーマー9機(内6機が<ナイアザン>)、歩兵約130人。幹部はアリア機に同乗しているトジーユン=ミタス少将ただ一人である。
対談場所は王宮内内庭である。
アリアたちは内庭に入った。ここは本来大勢を招く大宴やパーティーや諸国との調印式などに使われる場所で、地面は大理石が敷き詰められ、木が規則正しく両脇に並んでいる。この内庭を100mほど進めば王宮本殿があり、荘厳な白亜のバルコニーが競り出ている。
第22代マドリード国王アミル=フォン=マドリードとレミングハルト=フォン=サナル侯爵は、そのバルコニーの上にあった。バルコニーまでは4階までの高さがある。そして内庭のバルコニーの下に貴族評議軍約200人と小破した<ローゼンス>が一機ある。
アリアは当然の処置として、4機の<ナイアザン>を敵軍正面に配置し、さらに2機は内庭の両端に配置し残り3機と歩兵は戦闘体勢を取らせたまま内庭入口周辺に置いた。
アリアはミタスだけを伴い、ヒュゼイン白機に乗ったままバルコニーの30m前まで近づき、静止した。
そこでアリアは内蔵マイクを持ち、ヒュゼイン白機のコクピットの上に立った。
「会話は全て全軍に聞かせます。そちらも拡声器でお願いします。こちらの無線周波数はお知らせしたとおりです」
「用意は出来ている。確認したまえ」レミングハルトも拡声器兼無線機を握っている。
「成程、ビデオで見知ってはいるがこうして直にお会いすると、中々勇ましく、そして真に美しく成長されましたな、アリア様」
「世辞は結構。さっさと本題に入ってください」
「ではそうしようか」
レミングハルトは顔に笑みを浮かべた。
「貴族評議会としてアリア殿下に政府に対する勝手な敵対行為の中止を要請する。今すぐ兵をまとめ出て行ってもらいたい。その代わり、私マドリード国宰相レミングハルト=フォン=サナルは謹慎し貴族評議会は直属の貴族評議軍を解散させる。そしてアリア殿下を正統な王位継承第一位の立場で政府への政治参加を認める」
レミングハルトの言葉に、王城ハーツティス全体から混乱と憤りの声が上がった。この現状でそんな自分勝手な要求をする事自体アリア軍からすれば考えられない。ほとんど壊滅寸前まで追い詰められた側の要求ではない。
「完全降伏して、父アミルを当方に引き渡す。それならば貴方を今日殺すことは見送りましょう。後日正式な裁判で貴方の罪状を裁きます」
「罪状? 何のことですかな?」
「このマドリードをここまで混乱させ、荒廃させた罪です!!」
「混乱させ荒廃させた? それは全てここにいるアミル王の責任でしょう? 確かに私もマドリード宰相としてアミル王を支えきれなかった罪はある。だが勘違いするなアリア殿下!! 国を荒廃させたのはアミル王であり、そして国を戦禍に陥れたのはアリア殿下! 貴方自身ではないか!!」
「何をいうのです! 貴方や評議会がいかに悪辣かつ残忍に国土を蝕んできたか、言葉にするのもおぞましい権力の濫発をしてきたか自覚はないのですか!? 少しは悔い詫びる気持ちはないのですか!?」
「だが戦争を起こしたのは貴方だ!! アリア殿下!!!」
レミングハルトは激しく怒鳴る。
「そもそも何か考え違いをされているのではないか!? アリア殿下!! 戦争を起こし、私軍でもって都市を占領し、武力をもってリィズナを占拠した!! それを諫止しようとした貴族評議軍の兵士を殺戮した!! それだけに飽き足らずこのシーマに攻め上り王城ハーツティスに軍を仕向け破壊の限りを尽くしている! これが罪でなくて何なのだ! 国民を苦しめているのはどちらのほうか胸に手を当て問われてみよ!!」
そういうとレミングハルトは一息つき姿勢を正した。
「そんなアリア殿下の傲慢に対して、我々は大人の節度でもってこれからは政治に参加させてよい、と言っているのです。武力ではなく平和裏に国を治めることこそ政治家の正しいあり方……そこに互いに向かおうというのです。これは大きな譲歩だと思いませんか」
「こんな話をするための対談ですか? 興ざめです。レミングハルト侯……所詮貴方も無能な大貴族の一人でしたね。失望です」
「我々の罪を問うと仰る。しかし貴方は一度として正統な手続きをお取りになられたか?」
「正統な? どういう意味ですか」
「先に言ったとおりです。貴方はマドリード国王位継承第一位の王女である。その地位をもって政府に参加されたか? いや、貴方は逃げ隠れるばかりで評議会にも政府にも協力しなかった! 確かにアミル王は失策が続き貴族評議会諸君の行いも正しくなかったかもしれん。ならば王女として王を正道に導き、政府の一員として改革に力を尽くすのが王女としての正しい道である!! 貴方は本来為すべき王女としての責務を放棄しただけでなく私兵団を作り国内を蹂躙した!! 気に食わなければ武力で我を通すのは暴論とはいわないのか!!? それは罪ではないのか!?」
「…………」
「私の罪を問う前に自分の罪に向きあわれよ!! この一年でどれだけの国民を殺してきたか……それは評議会の害悪の比ではないではないのかアリア殿下」
アリアは黙った。
レミングハルトの言う事は屁理屈で、アリアが政府内で地道に国を正せるような状況になかった事はアリア軍だけではなく国民も十分知っている。貴族評議会は長年アリアを取殺そうとしていたし王や王妃も軟禁していた。そんな中でアリアが王女として政府内で働けるはずがない。第一今は15歳だがレミングハルトたちが政変を起こしたのは八年前で、7歳のアリアに何ができるというのだろうか。
が……アリアは、レミングハルトの主張が95%屁理屈でも5%くらいは正しいかもしれない……と思ってしまった。アリアは国内の情勢と自分が置かれた状況から武力決起しかなかった。しかしもしかしたら、武力決起ではなく政府に入り交渉していく手もあったのではないか? もっと穏便な方法もあったのではないか……。
「お互いが罪人なのだ。むろんアミル王の罪も軽くない。そこで私は分別ある大人としてアリア殿下に譲歩し、ある提案を行おう。アリア殿下は軍を退く代わりに私とアミル王は責任を取って我が領地クバレストで謹慎する。その後貴族46家が集まり新たな評議会を任命後、国内問題に対応する。こうすれば戦争などせずマドリードはよい国になれると思うがどうか?」
レミングハルトの弁舌は堂々としていて巧緻であり、そして欺瞞の塊であった。
何も知らなければそれも一つの手ではないかと思えなくもない。しかし現実はレミングハルトとアミルがクレバストに行けば、彼らはそのまま領内に留まらずバルト王国に逃亡するだろう。そうなればアリアだけの判断でバルト王国と事を荒立てる事はできない。そして新評議会をまとめる間にレミングハルトはアミルを使いバルト王国に亡命政権を作るだろう。そうなれば問題はマドリードだけでは収まらずバルト王国との衝突は必至となり、国内の疲弊は今の比ではなくなる。
しかし、あくまで理屈では、レミングハルトの提案は一応筋が通っている。
アリアのほうが、理屈としては乱暴で強引なのだ。元々マドリードの国を破壊するつもりで事を起こした。しかしそれは本来の王女としての立場の否定でもあった。その点、さすがにマドリードをここまで自在に操ってきたレミングハルトの弁は強く理論武装もしっかりとしていた。確かにアリアは王女としての責務を何一つ果たさず、いきなり革命軍を起こした。
が……アリアは英雄であった。
英雄として生まれた。
「革命戦を王女が起こすのは国政を暴力で壟断する罪、と仰るわけですね?」
「そうですアリア殿下。まず貴方にはその罪がある。私たちの罪を問う前に自分の傲慢を自覚し政府と協調すべきですな。戦争もせずに済む」
「ならば……」
アリアは決意を漲らせ顔を上げ、全軍驚愕の一言を吐いた。
「私は王女を棄てましょう!!」
「!?」
その一言は、両軍を驚愕させるに十分だった。全員が、その言葉に唖然となる。
『マドリード戦記』 王女革命編 36 王の資格① でした。
革命っぽくなってきました!
まさかのアリア様の王女返上宣言です。
アリア様が目指したのは<革命>なんです。
ここに大きな意味があるワケですが、レミングハルトがいっていたみたいに本来はちょっと違う話ですね。
アリア様は王位継承第一位で廃嫡をうけたわけではないです。なので王家の人間としての権利は消えていません。
アリア様は逃亡の生活でしたが、罪名を得ていたわけではありません。
いきなり挙兵しクロイスをおとしたのはアリア様のほうです。一度も話し合いとかしてません。
なのでレミングハルト候の言い分も、言葉としては成立します。
言葉としてはです。
実際はそんな正攻法などとることができないほど国内は荒廃し、短期軍事決起しか解決がない状況だったし、アリアが手配されていたのも事実です。
でも、一面戦争なんかしたくはなかったアリア様。
しかしやるからには勝たなければならず、勝つには軍事力による<革命>しか手段はなかったアリア様。
そこにアリア様にとっての葛藤が少しはあった。
それでの王女返上宣言なワケです。
アリア様の覚悟は、それくらい大きく、そしてそれがスラリと出るほど政治と戦略の才能!
風雲急を告げ、一気にクライマツクス!?
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




