『マドリード戦記』 王女革命編 32 城内の戦い③
『マドリード戦記』 王女革命編 32 城内の戦い③
城内空挺場で激突するナディア機とユサイの敵機<ステンベルク>。
一級オリジナル・アーマー同士の激突。
浮遊しビームを雨のように降らす敵機に苦戦するナディア。
ついにパイロットとしてのナディアの真髄が発揮された。
城内の戦い 2
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広い王宮の庭では、二機のオリジナル・アーマーが閃光と火花を交差させながら絡み合うように攻防を繰り広げていた。
ナディアのヒュゼイン紅機と、オリジナル・アーマー<ステンベルク>の攻防であった。
周囲には300人ほどの防衛兵が取り巻いているが、両機のあまりに激しい攻防に手も足も出ずもはや観客と化していた。
「もう! ヤになるなぁー!! こいつ!」
ナディアは巧みにヒュゼイン紅機を操りながら、頭上から襲い掛かる小ビームの雨を回避していく。
低空に浮かびながらビームを放つ<ステンベルク>を目撃したナディアは、すぐに相手の恐ろしさに気がついた。新型の<ナイアザン>は<アージェンス>のほぼ倍の性能を持っているとはいえ対空武器を持っているわけではない。オリジナル・アーマーといえども所詮は量産型隊長機で、対オリジナル・アーマー戦に特化しているわけではない。ここで<ナイアザン>を失う事のほうが損失は大きいと判断し、自分に付き従う6機の<ナイアザン>と別れた。ほぼ同時にミーノスからクシャナが単独で19機の<ガノン>を相手にしていると知った。<ナイアザン>はむしろあちらに行くべきだと判断し、クシャナ援護に向かわせた。
オリジナル・アーマーとオリジナル・アーマーの戦い……それは長く繰り返されてきた、戦いの姿である。オリジナル・アーマーが将の象徴として存在していた時代……アーマーは大将の印であり、戦場を彩る華であり、その戦いは常に一騎打ちであった。無数のアーマーが出現し集団戦を始めたのはクリト・エ大陸ではアリアが最初なのだ。
しかし、だからといってアーマーの一騎打ちがなくなったわけではない。
アーマーにはアーマーで対するのが基本作戦であり、それはトリエ・アーマーが開発されてアーマーの数が劇的に増えても変わらない。いや、むしろ時代はこの後戦争の主力はアーマーにと移り変わっていく、その変換期の頃である。これからはアーマー同士のドッグファイトとアーマー集団戦の時代になっていくといったほうが正しい。
ナディアのヒュゼイン紅機と<ステンベルク>との一騎打ちは時代の先取りともいえるし、逆に古くからの伝統である大将の一騎打ちである、ともいえた。新時代的である点は、この両機を操っているパイロットが王族や大貴族当主本人ではないということだろう。ナディアはエースとはいえ生まれはアダで本来アーマーに乗れるような身分ではなく、<ステンベルク>も操っているのはアーマー操縦の腕を買われたユサイ=フォン=ストライゼという騎士候で、貴族評議会員ではない。このあたり、やはり時代は動いている。
「鬱陶しい歩兵が群がってくるよりは面白いケド、どーすんのぁアレ!」
ナディアは一度距離を取り、物陰に隠れた。
<ステンベルク>は上空20mあたりで浮かんでいる。素早さはないが常に上を取られている不利はずっとついてまわるし、見つかれば小口径のビームを激しく打ち込んでくる。 攻防は<ステンベルク>が攻め、ナディアが逃げるような形だ。遠距離砲の撃ち合いもあるが<ステンベルク>の装甲にはビーム・コーティングが施されているようで遠距離ビームは弾かれてしまった。もっともナディアのヒュゼイン紅機にはビームシールドがあり防御力では負けていない。そして機動力だけは圧倒的にヒュゼイン紅機が速い。
出力、ビームの威力、機動力、防御力……どれをとってもヒュゼイン紅機のほうが上だ。しかし砲の数は<ステンベルク>が多く近距離の制圧力はあちらが上である。
そしてナディアにとって小賢しい事だが、こうしてナディアが隠れてしまえば<ステンベルク>はナディアを無視し移動を始めてしまう事だ。<ステンベルク>がもしアリア軍の歩兵部隊に当たればビームの雨で瞬く間に全滅してしまうだろう。普通のアーマーと違って上空にあるからどれだけ歩兵が勇敢でも手も足も出ない。
「貴族のクセに頭使いやがって!!」
<ステンベルク>をアリア軍本軍に向かわせてはいけない。いや、アーマー部隊の長として、ヒュゼイン紅機を預かる栄誉をアリアの期待に応えるためあの厄介な<ステンベルク>は何としても自分が倒さなければならない。
一方<ステンベルク>のユサイも、ヒュゼイン紅機を前に軽い興奮を覚えていた。
彼は元々アーマー操縦が好きだという関係もあり、当然ヒュゼインがマドリードの国宝機であることを知っている。国宝機と戦えるパイロットとしての光栄もあるが、一番はレミングハルトから「ヒュゼインを撃墜すれば卿を伯爵にする」と内約を得ている。功名と出世が彼を燃え上がらせていた。レミングハルトにすればヒュゼインを倒してくれるなら爵位などいくらあげても惜しくない。さらに出撃前、ダリウスから「敵軍500で金貨一掴みをやる。存分に稼がれるがよかろう」と言われた。ユサイとしては暴れれば暴れるだけ自分の利益に繋がるのだから、今は目の色が変わっている。欲は向かう方向次第で人を有能に変える。
一方……ナディアは焦っていた。
戦いがあの<ステンベルク>だけなら気を使わないでいい。だが革命戦はまだ途中であり、ヒュゼイン紅機は一機で1000人以上の戦力があり、これから活躍しなければアリア軍として採算が取れない。何より主力として戦っているアリアを助けに行かなければならない。しかし現実問題、相手は普通のアーマーではなく国宝機だ。簡単な相手ではない。
「ビームも一発一発は大したことないンだけど、あんなに乱射してくるんじゃなぁ~」
実は二発ほど肩の装甲に食らった。ヒュゼイン紅機の装甲を焦がした程度で済んだが近距離で大口径ビームを食らえばさすがにヒュゼイン紅機でも損傷してしまう。
しかしこうして長々と交戦しているわけにもいかない。
ナディアは超一流パイロットの誇りもある。そして戦略も分かっている。
「あのプカプカ浮いているのって……多分飛行石だよね? エルマ粒子のホバーで飛ぶには高度ありすぎるし、ホバーならもっと速いし」
純エルマ粒子を使った戦艦が作られたのはここ最近の話だ。もっと小さいアーマーに使われているはずがない。だとしたら飛行船などで使われる浮遊石を胴体に組み込んで浮かんでいるのだろう。飛行戦艦のアーマー版というべきか……珍しいアーマーだが、それなら出力無視の雨のようなビーム砲門の数も10m近い大きさも納得できる。飛行石の分だけ大きいわけだ。
「……小さな飛行戦艦……か」
あれをアーマーと思うから思考が固まってしまうのではないか? 浮遊砲台だと思えば攻略しようがあるのではないか? だとすれば大きいが総出力はヒュゼインが上か?
ナディアは、すぐに決断した。
「やってやろうジャン!!」
ナディアのヒュゼイン紅機は物陰から飛び出す。それはすぐに<ステンベルク>の知るところとなった。距離は150mほどだ。すぐに<ステンベルク>は猛烈なビームをヒュゼイン紅機に向かって放つ。しかし、最高速度で移動するヒュゼインは完全に砲撃を避けきる。
「そんなスピードで! 逃げ切るつもりか!!」とユサイは叫んだ。
ヒュゼイン紅機は、大周りで<ステンベルク>の後ろに回ろうとする。そうはさせず砲撃を続けながらユサイは<ステンベルク>を反転させた。さらに反転、反転を繰り返しながら段々ヒュゼイン紅機は近づいていく。ぐるぐると、ヒュゼイン紅機はうずまきを描くように円を描きながら距離を縮めていた。
ユサイは一笑した。この程度で目を回すと思ったのか! 生憎そんな素人じゃないぞ!
<ステンベルク>はゆっくり回転しながらヒュゼイン紅機を追いかけていた。速度は段違いでヒュゼイン紅機が上で、全く追いつけなかったがユサイに焦りはなかった。この<ステンベルク>のモニターは全方位モニターで後ろに回られても見えている。こんな高速で移動しながら攻撃などできるはずがない。混乱させるのが目的だろう。ユサイは一笑すると、腹部にある大型粒子砲のトリガーに指を置いた。至近距離用のビーム砲で、火砲は斜め下を向いているためこれまで使えなかったが、円運動の末接近してきた時これを放てば高速移動するヒュゼイン紅機は避けられる筈がない。今だって運動に精一杯で攻撃する余裕などないではないか。
しかしナディアの考えは違った。
距離が50mを切った時……ユサイをさらに驚愕させる出来事が起きた。
ヒュゼイン紅機のスピードが、さらに一段上がったのだ。
「まだ速くなるのか!? なんスピードだ」
しかしそんなスピードなどこけおどしだ。パイロットのほうがこんなスピードについていけるはずがない、とユサイは思った。だが違った。ナディアは強く圧し掛かる重圧と駆け巡っていくスピードの中、しっかりと動きを制御し十分この速さに対応していた。
ついに<ステンベルク>の動きが止まった。
その瞬間、ナディアはヒュゼイン紅機のエンジンを噴かせ、跳躍した。
「なんだと!?」
「いけぇーっ!!」
これまで円運動をしていたヒュゼイン紅機が、これまでの円運動エネルギーを活かしたまま真っ直ぐ跳躍し、<ステンベルク>目掛けて一直線に飛び上がった。ヒュゼインは上空40mまで飛び上がり、今度はそのまま<ステンベルク>に向かって加速し続けた。
「馬鹿な!? ぶつける気か!!」
咄嗟に逃げようにも身体が反応しきれない。ユサイはすぐに小ビームの引き金を引く。この<ステンベルク>には全部で10門の小ビーム砲を有し制圧乱射には向いているが精密射撃には向いていない。それでも激突しようとするヒュゼイン紅機に向け数発のビームをなんとか放つことが出来た。しかしそれも無意味であった。全てヒュゼイン紅機が正面に展開していたビームシールドによって弾かれていく。
「ビームシールドだって!?」
ユサイがそう叫んだ瞬間、ヒュゼイン紅機が激突し、<ステンベルク>は激しく揺れた。ユサイは衝撃でコクピットのモニターに頭を打ち付けられた後今度は背中を強かに打った。
玉砕……ではない。最高速度まで加速したナディアのヒュゼイン紅機によるシールド・チャージ攻撃だった。ナディアのほうにも相当衝撃はあるが、ナディア側にはビーム・バリアーがあり、かつ角度も姿勢も制御した上での激突だ。しかも弾かれたヒュゼイン紅機は空に弾き飛ばされるだけで着地さえ失敗しなければ衝撃によるダメージは最低限だが、斜め上から高速で大型のヒュゼイン紅機にぶつけられた<ステンベルク>は溜まった物ではない。その強力な衝撃で<ステンベルク>は地面に叩きつけられた。
<ステンベルク>は、強かに地面に叩きつけられ、完全に制御力を失った。
と同時に、ヒュゼイン紅機の腹部内蔵の大口径ビームが放たれ、それが<ステンベルク>のエンジンを撃ち抜いた。これがナディア機のブレーキの代わりで、激突の衝撃を打ち消す。
ユサイは衝撃で半死半生である。ぶつけられた衝撃と墜落の二重の衝撃だ。全身を強打し、なんとか意識があるだけの状態だ。
一方、弾かれて200m先までふっ飛んだヒュゼイン紅機は、空中で体勢を整え何事もなかったかのように普通に着陸すると、再び<ステンベルク>に接近した。
「くそ……くそぉぉぉっっ!!」
ユサイが絶叫した時……すでにヒュゼイン紅機は目前まで迫り、胸部の大口径ビーム粒子砲の砲門に光が漲っていた。もはや<ステンベルク>は動けない。次の瞬間、ヒュゼイン紅機の主砲の一撃が<ステンベルク>の胴体中央を捉えた。<ステンベルク>はユサイもろとも大爆発を起こし、跡形もなく消し飛んだ。
周りで見ていた……本当にみることしかできなかった貴族評議軍の防衛隊の兵士たちから悲鳴が上がり、彼らは一斉に悪魔のようなヒュゼイン紅機を恐れ王宮内へと逃げ去って行った。
「見たか馬鹿貴族共! ……ちょっと無茶したけど、さすがヒュゼイン! ダメージは軽微ね」
無茶苦茶な戦い方だったが、ヒュゼイン紅機はさすが国宝機だけあってビームシールドの出力がやや不安定になった以外故障はしていなかった。もし<ガノン>で同じ事をすれば空中で木っ端微塵になっていただろう。
敵機撃墜の余韻に浸っている時ではない。戦争はまだこれからが本番だ。
ナディアは無線で上空の<ミカ・ルル>に連絡を取り、敵オリジナル・アーマーを撃墜した事を報告した。情報はどの戦線も上空の<ミカ・ルル>に集約させることが決まっている。追って<ミカ・ルル>から『ナディア機はアリア様と合流されたし』と連絡があった。
「飛行戦艦は任せていいって事か……OKOK! じゃあ、そっちは任せたよん」
ナディアは後ろに見える<スサノーテ>を一瞥し、すぐに正面を向くと王宮内苑に向かってヒュゼイン紅機を発進させた。今<スサノーテ>の周りに味方はおらず飛行戦艦の攻撃力が発揮されるような状況にないから放置しておくということか……ナディアには全体の戦況は分からないから、ここは素直に従った。
すでにアリアの本隊は内苑正門付近まで来ている。当然ここには貴族評議会軍の最後の抵抗勢力が集まっているだろう。アリアは正面から、ナディアは単騎内苑部を突っ切り内と外、両方から挟撃し正門勢力を撃滅する……それが当初の作戦案だ。
ヒュゼイン紅機が突っ切るルートは事前の潜入時しっかり確認して分かっている。
そう時間がかからず、アリア本隊と合流できるはずだ。そしてその時こそ、革命戦の仕上げと言うべき戦いが起きるであろう。
ナディアのヒュゼイン紅機は、所々集まり防戦している敵陣を突破しながら、内部から正門を目指し突き進んだ。
こうして王城パーツティスの中枢に最初に突入したのはナディアのヒュゼイン紅機である。
『マドリード戦記』 王女革命編 32 城内の戦い③でした。
今回は完全にナディアの独壇場でした。
実は「マドリード戦記」の王女革命編で、一級オリジナル・アーマー同士の一騎打ちは今回が最初で実は最後だったりします。これまでよく登場している<アージェンス>や<ナイアザン>は二級になります。一級というのはそれだけ数が少なく、戦闘力も大きい存在です。
戦闘より戦術、戦術より戦略……それが「マドリード戦記」の醍醐味です。
ということで革命戦闘はまだこれから!
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




