『マドリード戦記』 王女革命編 30 城内の戦い①
『マドリード戦記』 王女革命編 30 城内の戦い①
革命は激戦に突入。
敵将がアリア軍の対応に動き出す。
そして前日から潜入しているクシャナたちは、城内の飛行戦艦に侵入。
そこで、クシャナは信じられないものを目撃した……。
城内の戦い 1
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城内ハーツティスの混乱の極であった。
貴族たちは城内を喚き散らすだけ、高級士官たちは勝手に動きてんでバラバラな命令を出し戸惑うばかり。非戦闘員は逃げ惑うばかりで何も秩序もない。
こんな中、一人の男が登場する。
ダリウス=フォン=コクラン騎士候。
この男はレミングハルト侯の親族の一人で副官的存在であった。彼は政治的な発言もなく、目立つ存在でもなく無口で皆レミングハルトの従者の一人であると思われていた。しかし内実レミングハルトの政策を支え彼に軍事的アドバイスを色々授けた非常に優秀な男であった。そして何よりレミングハルトと一心同体といえるほど忠誠心に厚い男であった。いわばアリアにとってのザールである。彼がもし在野であればきっとアリアは欲しい人材として手を差し伸べたであろう。ただし少し歳は食っている。この時42歳であった。
ダリウスは、レミングハルトから秘中の全てを打ち明かされた。彼はそれを黙って聞いた。
その後レミングハルトは彼を貴族評議軍の防衛指揮の司令官に任じた。防衛戦が組織として運営され、アリア軍を苦しめ始めたのはこの時からである。
そして……貴族たちの前からレミングハルト侯は姿を消した。
貴族評議軍の飛行戦艦<スサノーテ>と<クアロノス>の二隻が動き出した事をアリア軍が知ったのは13時30分前のことだった。上空の<ミカ・ルル>とナディア部隊からの通報でアリアは知った。同時にナディアから敵の新型オリジナル・アーマー出現と、それに対するためナディアが向かった事も聞いた。アリアにとっても予想外の事だったが、ナディアの処置は正しく、全て彼女に任せた。
アリアはいち早く内苑部に進攻しなければならない。
アリアには一つ気がかりがあった。
クシャナからの連絡が進軍後途絶えている。それが一つ不安になっていた。
そして、クシャナは予定にない激戦の真っ只中にあった。
時間は少し遡る。
クシャナの潜入活動は多岐に渡る。
軍や貴族の動きを報せる諜報活動に加え、各所の破壊活動などがあった。正城門を爆破し破壊したのはクシャナとミーノス、二人の工作である。二人は配備された移動式荷電粒子砲砲台に細工し自爆するよう工作していたのだ。二人はアルファトロスの技師ということで軍事兵器の周りにも簡単に近づく事ができた。こうして事前に細工した場所は凡そ40にも及んだ。これだけでも潜入作戦としては成功といえる。
もう一つ……貴族評議会のメンバーたちの居場所も政庁の議会室であることを突き止めた。レミングハルトだけがどこかに姿を消したようだが……。
クシャナとミーノスの仕事としてはこれだけで十分だった。さすがに部下は10人しかいないし、これだけの人数で攻撃部隊にはなれない。当初の予定通り混乱に乗じて小型純エルマ式戦艦<グアン・クイム>を奪ってここから立ち去れるだけだ。
<グアン・クイム>はレミングハルトが逃走用に入手した船だ。その警戒は宝物庫より厳重で、見えるだけでも200人余りが周囲を守っていた。これまでクシャナたちはアルファトロスの技師として何度も出入りし顔が知られ<グアン・クイム>に出入りすることは簡単だった。現に今朝も「再調整します」と中に入っている。
正午を過ぎ、戦闘の音が近くなった。脱出の機会と見たクシャナとミーノス他10名が<グアン・クイム>に乗るべく移動したが、今回に限って兵士に止められ<グアン・クイム>に近づく事すら禁止された。
「ダリウス卿の許しのない乗船は認められません」
「戦争に巻き込まれるのは真っ平です! アルファトロスを代表して抗議させていただきます! あと一時間も作業すれば<グアン・クイム>は飛ばせますのに!」
クシャナことジャレッド=パーメは抗議したが聞き入れられない。兵士たちの態度も士気もこれまでと違い全く聞き入れられない。
クシャナは元々反乱軍の将であり、アリア軍の中でも才覚を認められている高級指揮官の一人だ。すぐに<グアン・クイム>奪取は不可能だと悟った。もっともレミングハルトが逃走を図ろうにもすぐには動かせない。船を動かす機動鍵はクシャナが持っているからだ。
「ではせめて我々を安全な場所に避難させていただきたいものです。戦闘なんて聞いていませんから!」
「すぐに王宮のほうに案内します」
兵士はそういうと、彼ら10名を連れ王宮に向かって歩き出した。
(王宮に……ということなら、抜け出して政庁にいって馬鹿貴族の一人や二人殺してしまおうかしら。いや待って……ダリウス卿とやらが指揮権を握っているなら、これを殺してしまう事が一番いいかも)
色々行動の選択肢はある。
そんな事を考えている時、クシャナの目に飛行戦艦<クアロノス>が目に入った。ここは空挺場だから、二隻の飛行戦艦は近くに停泊している。その周囲に兵の姿はあるが、<グアン・クイム>より今にも動き出そうとしているもう一隻の<スサノーテ>よりは人が少ない。
クシャナが容易ならぬ事に気付いたのは、<クアロノス>の船体にアルファトロスの旗が差してあるのを見つけたときだった。
(何故アルファトロスの旗があそこに?)
船体にはその国の旗しか差せない。逃走用でカモフラージュとして差した……というのは考えづらい。アリア軍とアルファトロスの関係が深い事はレミングハルトも知っていた。カモフラージュにはならない。
その時……クシャナは嫌な予感を覚えた。
アリアとヴァームの事は聞かされていない。が、特別な密約でアーマーや資材を色々都合してもらっていて特別関係があることは知っている。その時、アルファトロスから運ばれてきた物資にはアルファトロスの旗を差していた。
まさか、あれも……?
「<グアン・クイム>の件は了解いたしましたわ。ですが、あちらの戦艦の荷についても確認をしておきたいのですが?」
「あちらに関してもダリウス卿の許可が必要です」
「…………」
兵士はクシャナの鎌にかかった。許可が必要だということはやはりアルファトロスに関係している。いや、兵士にはそこまで考えて答えていなかったのかもしれないが、少なくともクシャナはそう受け取った。
そうと知ったクシャナの行動は早かった。
「ごめんなさい。恨みはないのですけど死んでくださいね」
兵士が「えっ?」と振り返った時、クシャナは微笑んでいた。その微笑みを湛えたまま懐から小さなナイフを抜くと一瞬のうちに兵士の喉を切り裂いていた。そしてクシャナは兵士の腰から短剣を奪い取ると、それを後ろにいるミーノスに投げて渡す。
クシャナたちはすぐに兵士の屍を物陰に隠した。
「どういうことですか、クシャナさん! 何する気です!?」
「あの戦艦を奪いましょう」
「10人しかいませんよ!? それに俺たち武装もなしです」
「んー……とりあえず私一人でやれるとこまでやってみますから、ミーノスさんたちは隠れていてくださいな」
クシャナはいつもと変わらない口調でのんびりというと、ナイフをズボンのポケットに入れ歩き出した。
こういう時、下手に殺気走ったり動揺したりすることは異変を報せる事になる。クシャナは何事もないように平静で、のんびりと戦艦<クアロノス>に向かって行った。当然すぐに見つかり止められたが、クシャナは女性らしい優しい微笑みを浮かべ「荷の最終確認のためきました。納品チェックをしてない事が後で知れると、わたくし怒られてしまいます。わたくしを助けると思ってちょっと見せていただけませんか?」と兵士たちに丁寧に頭を下げる。その温和な様子を見て兵士たちも気の毒に思ったのか害はないと思ったのか、一人の兵士が案内で、戦艦内に入っていった。
すでに臨戦態勢が整い、艦内は多くの兵士が動き回っていた。しかしあまり統制はとられておらず慌しさと焦るばかりで、臨検も厳重ではなかった。
「不慣れなもので戸惑っているところだ。何かアドバイスを頂きたい」
そういって案内されたのは右舷船底にある格納庫だった。
「え……」思わずクシャナは立ち止まった。
格納庫に並んでいたのは10機の<ガノン>だった。
クシャナは息を呑み立ち尽くした。カラーリングは薄いグレーだが、間違いなくアリア軍が採用している大陸連邦製トリエ・アーマー<ガノン>だ。武装は長爪と内蔵ビーム砲の基本装備だ。壁には<ガノン>用の大型オートボウガンや長槍が並んでいる。
(<ガノン>がここに何故!?)
確か<ガノン>はアリア軍の他、周辺国が10機から20機購入したと聞いた。しかし貴族評議会軍にはけして売らない、とヴァームが言っていたはずだ。10機だけではない。左舷側にもう10機あり出動前であるという。計20機だ。
この20機こそ、ユイーチ=ロレンクルが勝手に販売した<ガノン>の行き先であったが、むろんクシャナはその事は知らない。クシャナもその事は引っ掛ったが、政治は専門ではない。すぐに現実面の問題に対応しなければならなかった。いくら<ガノン>とはいえ20機という戦力はアリア軍にとって脅威だ。致しかたない事だが、アリアの作戦は精巧かつ高い計算で組み上げられているため余裕はない上にこの攻略戦に限りアリアは全軍の先陣にいる。咄嗟の戦術変更に対応できる状態ではない。20機の<ガノン>は完全に計算外のはずだ。歩兵と違いアーマー戦力の差は気力や戦意で補えるものではない。
クシャナの中で、新しい作戦行動は決まった。
「ではちょっと見てみましょう。最終確認ですので、これが済めば戦闘に出て行ってもらって結構です。ああ、すみません。暗いので格納庫の扉を開けてもらえると助かります。モニターチェックもありますので」
不慣れ……というものは人の警戒心を麻痺させる。クシャナに言われて兵士はさっさと格納庫の扉を開けるため離れていった。それを確認しながらごく自然を装いながら一番近くの<ガノン>に向かって歩いていくと、「整備します」と言いながら乗り込んだ。
……<ガノン>はちょっとしか触っていないけど、大丈夫、出来る……!
クシャナは周りを注意しながら<ガノン>を起動させた。オリジナル・アーマーは起動鍵がついているものだがトリエ・アーマーにはない。周囲は戦闘前でドタバタし誰もクシャナに気が付いていない。指揮官はどこかの貴族の当主のようで偉そうに喚き散らすばかりだ。それが彼にとっての不幸だった。クシャナの第一目標は決まった。
クシャナの頼みで格納庫の扉が開かれた。貴族の指揮官が「まだ勝手に出撃するな!」と叫んでいる。まだどのアーマーも動いていない。まさに好機であった。
クシャナの乗る<ガノン>はゆっくり動き出す。周囲は右往左往するばかりで何が起きたか理解する間もなかった。クシャナは堂々と長槍とオートボウガンを掴み装備を終えると、ついに行動に移した。
突然機体を反転、ずらりと並ぶ敵<ガノン>に向かってビームのトリガーを引いた。
「なんだ!? 暴走か!?」
「反乱だ!!」
「誰が乗っている!? さっさと降りろ!」
騒ぐ敵兵士など相手にせず、外に向かって飛び出しながら、敵<ガノン>に目掛けビームを乱射する。近距離でわざわざ狙わずとにかく乱射した。敵<ガノン>全てを破壊するには時間がない。移動しながらだし<ガノン>のビームの出力では完全に破壊することはできない。しかし今はいち早く外に出るのも目的だ。でなければ閉じ込められ八つ裂きになるだけだ。
クシャナの<ガノン>は外に飛び出した。少なくとも8機にダメージを与え、2機は大破させた。今はまず戦闘より報告だ。クシャナは全速でミーノスたちの隠れている場所まで移動するとコクピットを開け身を乗り出すとミーノスを呼んだ。
「どうしたんです!? その<ガノン>」
「敵<ガノン>を強奪しました! 敵も<ガノン>を20機所有しています。ミーノスさんたちはこの事をアリア様に!!」
この事をアリアに報せるのが一番の急務だ。通信室は城内には何箇所もあり、まだ戦闘が始まっていない城内の通信室の警備は厳しくない。ミーノスたちならばすぐに制圧する事ができるだろう。アリアのヒュゼイン白機には無線がついている。
クシャナが潜入部隊の隊長だ。ミーノスはクシャナの命令を受けた。
「クシャナさんはどうするのです!?」
「私は少しでも敵<ガノン>を減らしますわ。大丈夫、無理はしませんから」
それだけ言うともうクシャナはコクピットの中に戻ると<ガノン>を発進させた。
敵<ガノン>はまだ飛行戦艦から出てきてはいない。しかし歩兵たちは突然暴れだした<ガノン>に対し混乱しながらも攻撃態勢を取り始めていた。
いくらなんでも無茶だ! とミーノスは止めようとしたが、クシャナはもう行ってしまった。
敵<ガノン>の数を減らしつつこの場に出来るだけ引き留める。それが最大の戦略効果となるだろう。
が……その結果、クシャナはもっとも激しい戦闘に突入することになった。
『マドリード戦記』 王女革命編 30 城内の戦い① でした。
ついに戦争は城内戦です。
そしてまずはクシャナの活躍となりました。
とはいえ彼女が見つけたのはアーマー20機。アリアの戦略案になかった全く予期せぬ巨大な戦力です。これをクシャナは一手に引き受ける事になるのです。
これからは革命戦最終段階となり、戦況は目まぐるしく変化していきます。
どうぞお楽しみ下さい。
これからも『マドリード戦記』を宜しくお願いします。




