『マドリード戦記』 王女革命編 28 革命⑥
『マドリード戦記』 王女革命編 28 革命⑥
ついに王城ハーツティスにとりついたアリア軍。
シュナイゼン隊も革命戦に参戦、貴族軍を翻弄しアリア軍を有利に導く。
そしてついに、アリア出陣!
今回、挿絵でナディアとクシャナのラフをアップしてみました。
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4月6日も昼に差しかかろうとしている。
貴族評議軍はほとんど王城に篭もり、徹底した防戦に入っていた。
「栄光と伝統ある我らマドリード貴族が平民やアダたちに蹂躙される屈辱を受けるなど社会秩序の崩壊であり、クリト・エの歴史において最大の恥辱だ。ここで平民共に鉄槌を下し粉砕せねば諸外国から100年は笑われるだろう! 各々由緒正しき貴族の諸君。我々は伝統と歴史を背負っている! 愚かな平民軍との格の違いを見せつけろ!」
レミングハルト侯は貴族評議会を収集しそう宣言すると貴族たちに迎撃を命じた。事ここに至り、レミングハルトが直接指揮を出す状態となった。
貴族たちも必死であった。
すでに激烈といっていいアリアの弾劾宣言を聞いている。恐怖もあった。「ここで負ければ自分たちは破滅し処刑される」と信じこみ、それが彼らを死に物狂いにさせた。属する貴族軍の私兵たちも、略奪や殺人、賄賂、弾圧行為など後ろめたい行為を少なからず犯してきたことを自覚している。貴族の横暴を絶対悪として掲げているアリア軍が自分たちを受け入れるはずがない事を知っていた。そういういわば自棄っぱちによって、異常な戦意を生み出していた。
もっともレミングハルトはさすがに焚きつけるだけの扇動政治家だけではなかった。貴族の当主たちに「事ここまで至ればアリア殿下の優勢は変わらん。しかしこの一戦を征し王の身柄とシーマの無差別攻撃を盾にして停戦させ、然る後我らの身分と財産の保証を迫る。王女は国民優先を掲げているからこの提案に従わざるを得ない」という類の知恵をどうやら吹き込んでいた形跡がある。貴族評議会の貴族たちはその方針に心から納得し、レミングハルトはこれまでの惰気や厭戦気分を捨てさせた。もっともレミングハルトの心中にはそんな甘い考えなどなかったが。
こうして、予想以上の働きを王城側が示し各地で激戦が繰り広げられていた。
王城正面に展開しているアリア軍は第三軍シュナイゼン隊である。
シュナイゼン隊はその9割が元国防軍で組織されていて兵の練度も組織も強固で勇敢であった。
しかし問題点を抱いていないわけではない。
一つは一番の突破力をもつアーマーに対しての知識と練度が他のアリア軍に比べやや劣っていた。この軍は国防軍主力ということもありアリアが組み立てたアーマー用兵術を身につけていなかった。何せ結成されてまだそれほどたっておらず訓練も旧式(アリア本隊に比べてだが)であった。もう一つは国防軍であるため、護民精神が強く戦火が市街に及ぶ事をおそれ、そのため貴族軍の無意味で無茶な小部隊の突出にも対応する方針があり、一大攻勢に出ることが中々出来なかった。
そして最大の問題点は、すでに昨日から小規模戦闘を繰り返していて軍が疲労しているという事だ。この事が一番の問題だった。今のところ兵士たちは活気も戦意も高く疲労を感じさせないがカロリーの消費は確かにある。まだ緒戦で力を出し尽くす時ではない。
……ややシュナイゼンに対して辛口であったような気がするので擁護せねばならないだろう。
彼が突出しないのは、そもそも攻略戦の大戦略において第三軍は主力ではないからだ。あくまで主力部隊はアリアが直に率いる本隊である。第三軍はまずは接触部隊であり、アリア突入後は後方を守る守衛部隊だ。手持ちの兵力を損なうわけにはいかない。その上で彼の軍に課せられている役目は、防衛する敵軍のエネルギーをできるだけ発散させることだ。
今、防衛する貴族評議軍は活発に運動している。自棄っぱちで何の作戦性も統制もないが、それでも積極的に攻勢に出ている。
「ああいう感情走った攻勢は長続きしない。散々暴れさせて疲れさせたらいい」
シュナイゼンは「攻勢にでましょう」と進言してきた部下に対し冷然と答えた。
「我らはアリア様の勝利のため動いている。我が第三軍勝利のためではない」
大いに疲れさせた後、無傷のアリア直営本隊が突撃すれば効果は絶大だ。第三軍が今、死に物狂いで王城突入に成功したとしても所詮寡兵で再度押し返されれば戦意は落ち、疲労感も手伝って再攻略は難しくなる。
シュナイゼン=フォン=カラムは功焦る事なく、大戦略を理解している名将だった。
シュナイゼンは城門前の戦いを続けさせる一方、着々と周辺区画を自軍勢力に塗り替えていった。アリアが後方を気にすることなく前のみ目指せるための布石だ。
そして、ついにアリアが動いた。
アリアは大通りにアーマーを整列させ、その後ろに歩兵部隊を布いた。
「13時、本隊も王城ハーツティスに進軍します! 同時にナディア少将率いる親衛隊が裏門より突入し、一気に制圧します」
アリアは士官たちを集めそう宣言した。幹部は各戦線に出ているからアリア本人が命令を下している。
まずアーマー部隊で一気に城門を破壊し突入。その後5機が一隊となり、砲戦とアーマーによって城内制圧を行う。恐らく貴族評議軍も10機~15機前後のアーマーを持っているはずなので、アーマーにはアーマーで対しそれを撃滅。他に固定砲台や防衛陣地の破壊を主目的とし、その後続く歩兵の制圧部隊の補助として動く……という作戦が説明された。突入後半分はまだ未攻略の南門を攻め、抑えることになっている。
アリアだけは制圧部隊に属さない。単騎城内中央の政庁攻略に向かう。厳密には単騎ではなく政庁前でナディア指揮のアーマー部隊と落ち合う予定である。主に敵中枢を攻撃するのはこのアリアとナディア部隊をもって充てる。
「城内には非戦闘員もいます。略奪、無用の殺戮、婦女への暴行は硬く禁じます! それを破る者はいかなる幹部高官であっても断罪、公開の場で処刑します。庇いだてする者も同罪です」
将であるアリアが年若い少女だ。その手の戦争犯罪が理性的にも生理的にも許されない雰囲気である事は全兵士よく分かっている。アリアもわざわざ布告しなくても兵士たちが理解していることは分かっている。いわば儀式的なものだ。しかしその後は違った。
「破壊についてはその一切の責任を問いません!」
「とは……どういう意味ですか? アリア様」と、現在アリアの参謀のような存在になっている第二軍分隊長トドーレス=フォン=ライム大尉が皆を代表して問い返した。
「王城、政庁、宝物殿、王宮の建築物……そして美術価値のあるものや伝統ある品などたくさんあるでしょう。戦闘に巻き込まれてそれらを破壊したとしても一切責任を問いません。戦闘の終結、この革命戦の終結こそ一番の目的です」
「つまり真っ平らにしてしまってもいいという事でしょうか?」
「構いません。我々に必要なのは新しい<マドリード>です。破壊してしまって構いません」
アリアにとって、あの王城に何の愛情はない。350年前ハイ・シャーマン、クエス=フォン=マドリードが築き上げた歴史と遺産はそれはそれで重要なものだろうが、国民の命に替えられるものではない。そしてアリアが完全に王位を継承した時、古きマドリードの歴史を完全に捨て去り新しい王国の道を進むことになる。アリアには不要のものだ。
むろん実際のところ完全破壊できるわけではないが、ことさらアリアがそう宣言したのは、古い因習全て一新するという決意からだった。彼女はアダや奴隷をなくし貴族制度も破壊する気でいる。時代が変わるということをはっきり明言しておきたかったに違いない。
幸い王城ハーツティスはシーマの中央にあるが敷地は広く、かつやや土地が高くなっているので大炎上したとしても火が街に燃え移るには時間がかかるから、破壊したとしても炎上にはそれほど気をつけなくてもいい。
作戦命令を全て終え、作戦に入るべくアリアがヒュゼイン白機に向かった時思いもかけない人物が待っていた。
「ミタスさん!? どうしたんですか?」
そこにいたのは第一軍司令トジーユン=ミタスである。ミタスは前線にいるはずだった。
ミタスは愛用の戦斧槍についた血を布で拭っていた。
「第一軍の指揮はカルレント少佐に任せた」
「ミタスさんはどうなされるんです?」
「今からはナディアの代わりだ」
すでに第一軍の戦略目的は達した。第一軍と第三軍は昨日からずっと活動していて軍としての活動限界が近く軍隊としては前線からは一旦下がるしかない。アリア本隊突入後は後詰の予備隊となる予定になっている。であれば、いっそ第三軍指揮下に入れてまとめてシュナイゼンが率いるほうが軍として統一がとれるし第一分隊長カルレント少佐は国防軍出身でシュナイゼンとも慣れている。ミタス個人がシュナイゼンの指揮を受けるのは軍隊序列無視になり問題だから、ミタスは抜けてきたのだ。
「それは構いませんが、ミタスさんがナディアの代わりというのは?」
「鈍い姫さんだな。護衛だよ、姫さん専任のな」
今度の戦いは野戦ではなく拠点制圧戦でアリアも白兵戦を行う事になるだろう。いくら腕に自信を持っているとはいえアリアを一人にさせるわけにはいかない。アリア自身は自分のことになると頓着がないので護衛など余計な兵力は計算していないだろう、とミタスはみていた。現にアリアはそういう人間は配備せず、本来その任を担う親衛隊は全てナディアの奇襲部隊につけている。第一、一般兵たちがアリアと肩を並べて戦うなど畏れ多くてできない。そういう事情もある。
「でもミタスさんはアーマーが乗れません。徒歩や馬ではアーマーには追いつけません」
「だからヒュゼインに乗せてもらう」
そういうと、ミタスはさっさとヒュゼインに向かった。
すでに一度ヒュゼインには乗った事がある。あの時はアリア、ナディアと三人入る事が出来た。今回はミタス一人だから入れるだろう。
「前と違って毛布もクッションもありませんし、移動だけでなく戦闘なんです。かなり狭いし動きも激しいですよ!?」
「もう決めた。戦斧槍で足とか切らないでくれよ姫さん」
そういうとミタスはヒュゼインによじ登ってしまった。
もう止める時間もいい説得法もない。それに確かにミタスがついていくことは護衛の面は勿論だが戦術面でも有効だ。今アリアの周りには指揮を取れる幹部はいない。突入後必要が生じればミタスを指揮官に二手に分ける事もできる。突入すれば何が起こるかはアリアにも予想がつかない。護衛としての価値より代理指揮官としての価値があるとアリアは認めた。
アリアは慣れた様子でヒュゼインのコクピットに飛び乗る。
「本当に揺れますよ。狭いですよ、ミタスさん!」
「気にするな」
言い合いしている時間はない。アリアは頷きミタスの同行を認めた。
ヒュゼインは大型オリジナル・アーマーでコクピット内は意外に広い。居住性では<ガノン>や<アージェンス>とは比べ物にならない。とはいえアリアの戦時用具を積んでいるから、大柄のミタスが入るスペースはギリギリだ。ミタスはアリアの右側側面に寝そべり、愛用の戦斧槍はアリアの左側に置いた。本当にギリギリだった。
「昨夜から徹夜だ。寝かせてもらう」
ミタスは苦笑しながら目を瞑った。どうせミタスにはやることがない。
アリアはコクピットを閉めた。すぐにモニターが点き視界が広がる。
アリアはコクピットにある無線拡声器のスイッチを入れた。
「全軍! 進攻!! 私に続け!!」
アリアはそう叫ぶ。ヒュゼインは、爆走した。
アリア軍のヒュゼインを先頭に、アーマー部隊40機が続き、その後トドーレス大尉率いる歩兵部隊3000が続いた。アリア軍、一大攻勢である。
……眠るどころか……酔いそうだ……。
ミタスは寝転びながら苦笑した。
『マドリード戦記』 王女革命編 28 革命⑥でした。
ついにアリア様自ら王城攻略戦に入ります!
ミタスも合流ということで、これからアリア様が本格参戦となりますね。
けっこうオイシイ役回りが来そうなミタスさん……
そしてアリア様は一体王城をどう攻略するのか……
兵力だけは五分です。
アーマーはアリア軍が圧倒的優勢ですが、城側は防塁があり砲台もあります。もっとも砲台の大半はエルマ粒子で使えません……。
すでにアリア様の大戦略は示された後ですから、もうあとは戦闘あるのみです!
政争と戦争入り混じる革命戦城内編の始まりです!
どうぞこれからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




